
左から大平かりん氏、平松有吾氏、源馬大輔氏
Image by: FASHIONSNAP
【トークショーレポート】渋谷パルコはなぜ「面白い」のか? 再生を支えた発想と突破力
平松有吾、源馬大輔、大平かりんが登壇

左から大平かりん氏、平松有吾氏、源馬大輔氏
Image by: FASHIONSNAP
2019年のリニューアル以降、商業施設の枠を超えてカルチャーを発信し続ける渋谷パルコ。2026年2月期のテナント取扱高は前期比15.8%増の約509億円となり、2期連続で過去最高額を更新。リニューアル前の2016年2月期の取扱高からは、3倍以上になっている。こうした復活の舞台裏を描いたのが、リニューアルを担った中心人物の1人、平松有吾 前渋谷パルコ店長による著書「渋谷パルコの復活 なぜ危機から再生できたのか?」(光文社)だ。4月15日、同書の刊行を記念したトークイベントがNONLECTURE books/artsで開催された。
ADVERTISING
登壇者は平松氏に加え、ブランドのディレクションやコンサルティングを通じてグローバルな視点からファッションやカルチャーのシーンを見てきた源馬大輔氏、FASHIONSNAPのベストバイ企画にも度々登場しているIT会社員兼ファッションエディターの大平かりん氏。MCは同書の編集を手掛けた前田亮介氏が務めた。それぞれの立場から見た「渋谷パルコ」、そして「東京のファッション」の未来とは。盛況で立ち見も出たイベントの模様を、ダイジェスト形式でレポートする。
登壇者のプロフィール
1977年生まれ、横浜市出身。立命館大学卒。2004年にパルコ入社し、渋谷パルコで東コレブランドや路面系ショップなどの誘致を手掛ける。2024年3月から2026年2月まで同店の店長を務めた後、独立。現在は平松融合研究所の代表として、商業施設の再生やプランニングに携わる。
1975年生まれ。1996年に渡英し、1997年にロンドンのBROWNS社へ入社、バイヤーとしてキャリアを積む。2002年の帰国後、「FAMILY」を立ち上げ、WR/Familyのエグゼクティブディレクターに就任。2007年に独立し、源馬大輔事務所を設立した。現在はマーケティングから商品開発、内装に至るまで幅広くディレクションを手掛けている。
東京生まれ。雑誌「GINZA」や「ginzamag.com」「BRUTUS.web」の編集部を経て、現在はIT会社員兼ファッションエディターとして活動。クリエイター支援に加え、ファッション、エンターテイメントなどさまざまな業界との協業プログラムの企画・実施に携わる。
目次
登壇者はそれぞれ渋谷と深い関わりを持っている。大平氏は渋谷区渋谷生まれ・育ちで、2000年頃から渋谷パルコに通ってきた。平松氏は1990年代前半の学生時代から渋谷に親しみ、当時「ミッドウエスト トウキョウ(MIDWEST TOKYO)」での買い物に憧れを抱いていたという。さらに源馬氏は、建て替え前の渋谷パルコでリーシングを担当していた駆け出し時代の平松氏と出会い、その後のキャリアにも影響を与えた人物。3人がそれぞれの視点で、渋谷パルコの変遷、そして2000年代から2020年代にかけての渋谷および東京のファッションカルチャーシーンの変化を語った。
“街を館に持ち込む” 渋谷パルコが実現した異種混在の空間
2019年、約3年間のリニューアル期間を経てついにベールを脱いだ新生・渋谷パルコ。当時多くの商業施設が渋谷に誕生する中で、その姿は源馬氏と大平氏の目にどのように映ったのだろうか。
源馬氏は、当時リニューアルに向けたコンセプト策定を行っていた平松氏と交わした会話を回想し、「『街を切り取りたい』という話をしました。例えば、ブランドのお店の隣にその服を扱えるクリーニング店があるような、機能が混在する状態です。熊本の街を歩いたときに感じた面白さを、そのまま商業施設に持ち込めたらと思ったのがきっかけでした」と振り返る。この「街をそのまま館の中に持ち込む」という源馬氏のアイデアに対して平松氏は、当初は「むちゃな提案だと思った」が、「よく考えたら面白い」と感じたのだという。その結果として実現したのが、現在の渋谷パルコを象徴する「商店街のような」異種混在のテナントリーシングだった。「ラグジュアリーとサブカルチャー、飲食と音楽といった要素が同一空間に共存する設計とし、お客さまの動線をあえてコントロールしすぎないことで、街のような偶発性を生み出すことを目指しました」と平松氏。

大平氏はメディアの視点から、現在の渋谷パルコを「日本のソフトを翻訳している場所」と表現。リニューアル時の衝撃について、「ゲーム、音楽、ファッション、食といった要素が一体となり、2020年代の日本の魅力を凝縮していた」と語り、「こんな場所は見たことがなかった」と振り返った。また、建て替え期間中に工事の仮囲いに掲出された「AKIRA」のアートワークにも言及し、「あれを見たときに、新しい挑戦をする意思を強く感じた」と語った。これに対し平松氏は、「実はあのアートワークは、飲み屋での会話から始まった企画。長いリニューアル期間に、街に何かを還元する必要があるという思いが出発点でした。役所への説明と説得を重ね、ようやく形になったプロジェクトです」と実現に至った経緯を明かした。
さらに話題は、渋谷パルコのビジネス構造へと及ぶ。平松氏は「街のような多様性を館内に持ち込むために、賃料の幅を意図的に広げた」と説明。高収益を担う区画と、発信力を重視する区画を明確に分けることで、「いろんな人が集まる余白」を生み出したという。この構想のヒントになったのは、意外にも「渋谷の街そのもの」だった。「渋谷って坂が多いですよね。坂の途中って、どうしても家賃が安くなる。一方で明治通りのような大通りに面した物件はすごく高い。そうやって高い場所と低い場所が混在しているから、街としておもしろくなっているんじゃないかと思ったんです。その感覚を、そのまま館の中で表現しました」と平松氏。こうしてラグジュアリーブランドから、実験的なショップまでが共存する多層的な空間が生まれたという。
この“種々雑多”な構成について、源馬氏も強く共感を示す。「ファッションの中でも、ビジネスモデルごとに利益構造が大きく異なります。例えばヴィンテージを扱う店と自社で商品を企画・生産するブランドとでは、ビジネスの前提が違う。それを同じ館内で成立させているのは、かなり大変なことだと思うしすごいと思います」と評価。また、「地下のレストラン街にレコードショップが入っているじゃないですか。食べ物の匂いを感じながらレコードを選べるって、すごくいい体験だと思うんです」と語り、「昔、宇田川町の『シスコ』や『マンハッタン』でレコードを買って、そのままうどん屋の『やしま』に行くみたいな流れがあって、それ自体がカルチャーになっていた。渋谷はそういうことが成立する街だし、それを館の中で再現しているのが面白い」と続けた。
また、大平氏は「渋谷といえばディグ(掘る)文化」と指摘し、パルコ館内に位置するヴィンテージショップ「VCM」など従来の商業施設には馴染みのない存在が、来館者に発見の体験を提供している点に注目した。これに対し平松氏は、パルコ新入社員の多くが「古着フロアを作りたい」と提案したエピソードを紹介し、「リアルな感覚を取り入れた結果として現在の構成に至った」と語った。

社内を動かす突破力と、渋谷パルコを象徴するあの“一手”
こうした型破りな企画を実現するためには、社内での説得や調整が欠かせない。平松氏も、渋谷パルコでの企画実行は決して容易ではなかったと振り返る。
成功のコツを問われると、「環境として恵まれている側面は大きい。パルコにはもともと、新しいことや既存の枠を越える挑戦に価値を見出す人材が多い」と前置きしつつ、「重視していたのは、挑戦の“結果”をいかに具体的に伝えるか。実行したときにどんな景色が見えるのかのリアリティをどれだけ解像度高く共有できるかが重要だった」と回答。さらに相手によって伝え方を変えることも徹底していたといい、「外資ラグジュアリーブランドの経営者と国内オーナー企業のトップでは、響く言葉は異なる。その違いを理解することが大切」とヒントを送った。

話題は2019年のリニューアルにおける"印象的な一手”へと移る。源馬氏は、「『ヒューマンメイド(HUMAN MADE)』を1階に配置したことは大きかった」と指摘し、さらに日本酒バーを併設するという大胆な構成に当初は驚いたと振り返る。これを受けて平松氏は、キーパーソンはクリエイターのNIGO®氏であり、その存在があったからこそ成立した企画だったとしつつ、「もう一段おもしろさを加えたい」という意図から、日本酒バーの導入を強く提案し続け、実現にこぎつけたと明かした。
東京ファッションの現在地と、渋谷パルコが担う役割
続いてのトピックは、渋谷パルコの欠かせない要素である「東京ファッション」。司会の前田氏がその役割について問いかけると、平松氏は世界的に見ても、東京のファッションはきわめてユニークだとし、「階級的な背景が強くない社会でありながら、服を通じて自分の気分を高めたり、好きな映画やアートを表現したりする文化が根付いている」と指摘する。その空気感を最も体現しているのが日本のデザイナーたちであり、彼らの服は単なるプロダクトではなく、日本のファッションシーンそのものの表現でもあるという認識だ。だからこそ平松氏は、そうした才能がより広く海外へと届くための“きっかけ”を渋谷パルコが担いたいと語り、次世代ブランドの可能性に期待を寄せた。
これに対して源馬氏は、東京ブランドの本質を「クリエイティブがビジネスに勝っていること」と表現する。その自由さこそが魅力でありながら、同時にスケールの障壁にもなりうると指摘し、「優れたクリエイターの隣に優れたビジネスパーソンがいることで、初めて大きな発展が生まれる」と語る。象徴的な存在として名前が挙がるデザイナーの背後にも、実際には複数の優秀な人材がいてビジネスを支えている現実があるとしつつ、東京の“未完成さ”が持つ魅力を肯定しながらも、「あえて完成させてみること」の重要性にも言及した。

渋谷パルコの復活~なぜ危機から再生できたのか?~ (光文社新書)
著: 平松 有吾
メーカー: 光文社
発売日: 2026/02/18
一方、大平氏は消費者とメディアの視点から、日本のファッションの豊かさに着目。世界的にラグジュアリーやデザイナーズブランドの価格が高騰する中で、日本のブランドは比較的手に取りやすい価格帯を保ちながら、高いクリエイティビティともの作りの質を両立している点を強みとして挙げる。続いて多くのブランドが少人数体制で運営されている現状にも触れ、「1人や2人での運営にも関わらず、世界的な評価を得てしまうこと自体が日本らしい面白さでもある」と指摘する。さらにファッションという言葉の多義性に触れながら、それが単なる商品ではなく、デザイナーや職人、バイヤー、編集者、そして着る人それぞれの視点や感性が重なり合って成立する“文化”であることを強調した。
トークの終盤に渋谷パルコの未来像についても話が及ぶと、平松氏は場所や業態を超えて「パルコらしさ」が広がっていく未来を見据えていると回答。単なる商業施設ではなく、世界中の都市とフラットにつながりながらカルチャーを発信する“パブリックな存在”へと拡張していく構想を示した。

Q&Aセッション
イベント終盤には、来場者とのQ&Aセッションも実施した。ここでは、その一部を抜粋して紹介する。
Q. 渋谷パルコでは売り上げなどの現実と、面白さややりがいなどのバランスをどう取っていますか?
平松:常にバランスは意識していますが、トレンドは必ず移り変わるものだと考えています。今うまくいっている領域だけでなく、次の芽を育てる取り組みも同時に行うことが重要です。その際に大切なのは、単なる自己満足ではなく、「次につながるかどうか」という視点で判断できているかどうかだと思います。
Q. 最近「これはすごい」と感じた出来事は?
大平:AIを活用して、世界中のファッションやデザインの情報を毎日まとめてもらっていますが、知らなかった情報に出会える機会が増えたのが新鮮です。一方で、AIの回答の精度を高めるにはこちら側の工夫も必要で、その試行錯誤も含めて楽しんでいます。
源馬:久しぶりに藤原ヒロシさんと上海の「ナイキ(Nike)」のイベントに参加した際、ヒロシさんがインタビューで語っていた内容が20年前とまったく同じで、強い衝撃を受けました。根本の考え方は変わらないまま、アウトプットだけを時代に合わせて更新し続けている。その一貫性と柔軟さに刺激を受け、帰りの飛行機では自分自身の取り組みを見つめ直していました。
平松:最近、子どもが世田谷区のプレイパークで行われている「子ども商店街」というイベントに夢中になっていて。木を拾って店を作り、商品も自分たちで作って売るんですが、とにかく「作ること」そのものに熱中しているんです。売上よりも過程に価値を見出す姿を見て、商売においてもそれだけではない価値があると改めて感じました。まだ自分の中でどう活かすかは整理できていませんが、印象に残っています。
Q. 新しいものを紹介する際の考え方や予測の方法は?
平松:一つの領域だけを見ていると、見えないものは多いと思っています。例えばここ数年は、世界情勢を含めて「これまででは起きなかったようなこと」が次々と起きている。その流れの延長で、新しい価値観や動きも生まれてくるはずです。だからこそ、次に何が流行るかといった個別の予測よりも、いま人々が何に関心を持っているのかを多角的に捉えることを意識しています。特別なことをしているわけではなく、日常の中で起きている出来事や、そのとき自分が感じたことを大切にしている感覚に近いですね。
大平:面白いものや新しいものは、実はすでに身近に存在していることが多いと思っています。その上で、編集やものづくりに関わる中で培ってきた「見せ方」や「伝え方」が重要だと感じています。どうすれば興味を持ってもらえるか、かっこいいと思ってもらえるかを考えながら、ヴィジュアル表現を工夫したり、過去の文脈を紐解いて今の形に再構築したりと、伝え方を磨くことを意識しています。そうした積み重ねが、説教臭さを避けることにもつながっているのかもしれません。
また、今は発信すれば必ず何らかのフィードバックが返ってくる時代です。その反応が背中を押してくれることもあれば、考えさせられることもある。いずれにせよ、誰にも届かない状態で発信するよりも、受け手とのコミュニケーションを楽しみながらものづくりを続けていくことが大切だと考えています。

最終更新日:
ADVERTISING
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

ワークマンが手持ちの服を“空調ウェア化”できるハンディファンを発売















