片石貴展 代表取締役CEO
Image by: FASHIONSNAP
「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を運営するZOZOが、国内最大級の古着コミュニティ「古着女子」で知られるyutoriを買収してから1年。ECやD2C業界から注目を集めた資本提携で、両社の関係性はどのように変化したのか? 買収後の取り組みについて、yutori代表取締役CEOの片石貴展の自宅で取材を敢行。リラックスした空間で若者らしい一面を垣間見せながら、Z世代からの視点で変化の激しいアパレル業界の展望を語った。
■片石貴展
2018年4月にyutoriを創業。国内最大級の古着コミュニティ「古着女子」で知名度を上げ、現在は「ナインティナインティ(9090)」をはじめとするD2Cブランド事業を中心に、バーチャルインフルエンサー事務所「VIM」などを手掛ける。2020年7月末にZOZOの傘下に入ることを発表した。
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1年で変わったこと、変わらないこと
―まずはZOZOと資本提携に至った経緯を教えてください。
きっかけとしてはZOZOからお声がけをいただきました。当時、僕らはシリーズAラウンドの資金調達に向けて動いていた時で、「どうせなら一緒にやろうよ」と言ってくれて。
―ZOZOとは以前からつながりがあったのでしょうか?
そうですね。役員の方とyutori創業当初から仲が良くて。資金調達で動いていた時も最初にその方に相談しました。
―信頼関係があったからこそ提携に至ったんですね。そもそも資金調達の目的はなんだったのでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響によるリスクに備えたというのが一番大きいです。日本では昨年3月頃から感染拡大が本格的に始まりましたが、1月にタクシーの運転手が感染したという報道を見て「これはヤバい」と思ってすぐ行動に移しました。コロナ禍はオンラインでの購買行動がメインになっていったので、結果としてはビジネスへの大きなマイナス影響はなかったんですけどね。とはいえ、先手で動いたことで、世間が慌ただしい時に着地できている状況を作ることができたというのは良かったかなと思います。
―ZOZO側の資本提携の狙いは?
ゾゾタウンのメインの顧客層の平均年齢が30代なので、Z世代やミレニアル世代とコネクトしてノウハウとかを取り込みたいというのが大きいと思います。
―ZOZOは51%の株式を取得しました。
少額の出資というよりは半分をしっかり持っていただくことで、血縁関係ではないですけど、強いつながりを作れると考えました。
―社内の反応はいかがでしたか?
どちらかというと「安心」と思ってもらえたようです。もともとオンラインのD2Cはマイノリティだったから、成果は出ていてもやっていることが正しいのか、生き残っていけるのかという漠然とした不安はありました。そこをZOZOが認めてくれたことで「自分たちがやってきたことは正しかった」と自信がついたと思います。
―この1年でZOZOと取り組んだ内容は?
一番大きな取り組みでは「ネンネ(nemne)」というブランドをゾゾタウンに出店しました。
Image by: nemne
■ネンネ
古着女子がプロデュースするウィメンズブランド。韓国と古着のテイストをミックスしたガーリーなカジュアルアイテムをオリジナルとセレクトの2軸で展開し、税込3995円以下という価格設定も強みの一つとなっている。8月末時点のインスタグラムのフォロワー数は約17万人。
―企画はどちらが主導したのでしょうか?
僕らからZOZOに提案しました。もともと別のコンセプトで同名のセレクトショップを自社ECで展開していたのですが、「トレンド寄りのブランドをやりたい」と社内から声が上がっていたのでオリジナルブランドとして一新しました。“GUで服を買っているようなファッション初心者の子たち”が想定ターゲットですが、このマーケットのボリュームは大きいと思うし、コーディネートのティップスやノウハウのようなコンテンツにも発展させることができて数字も担保できるので、「古着女子」という僕らが運営しているメディアとのシナジーが見込めると判断しました。ZOZOの傘下に入ったことを機に「ナインティナインティ(9090)」をゾゾタウンに一時期出店していたのですが、中途半端にやるよりはゾゾタウンのマーケットを狙って、ちゃんとウケるものを出そうと決めたという背景もあります。
―ナインティナインティは期間限定出店。継続しなかったということは手応えを感じなかった?
人気ランキングの上位にも入ったので、相性が良くなかったわけではないです。ただ、「流行っているものをいいプライスで早く買える」というゾゾタウンと、ナインティナインティのようなストリートブランドは視点が違うと感じていて。ストリートってどちらかというとトレンドを発信していく側じゃないですか。だからアイテムもゾゾタウンで流行っているものとあまり被らないし、無理にそこを目掛けて商品を作っていくようになってしまうとブランドが変な方向性になってしまう。なのでナインティナインティは直販でコンセプトを追求して、その代わりにネンネで「ゾゾタウンにハマるもの」を作りました。
―ネンネはブランド単体で初月3000万円以上売り上げています。
月によって変動はありますが、夏物も月商約3000万円をキープしています。
―他の取り組みは?
あとは僕らの知見をZOZOにシェアするくらいですかね。初年度ということもあり、基本的にどちらかというと信頼の方を取りにいきました。
―「信頼」というのは具体的に?
新興ブランドや企業は、その存在を取り上げてくれる方がいて、初めて認められる。だから傘下に入ってすぐに新しいことをやりすぎると「今までと違うじゃん」とネガティブに見られてしまうと思ったんです。
―yutoriが提供した知見はZOZOのどの部分に活かされているのでしょうか?
僕らの意見をダイレクトに反映するという取り組みではネンネがありますが、それ以外に関しては、間接的に何か活かしていただいている部分があるのかもしれません。あくまでも僕らは興味関心や投資していることについて伝えているのみで、それをどう解釈するかはZOZO次第なので。
―ZOZOの傘下に入ってからどんなメリットがありましたか?
人材採用では応募してくれる層がこれまでと大きく変わりました。僕らは業績を公表していないこともあって「若くて楽しそう」「自分たちの好きなことをやれる」という“サークル的”なイメージが先行してしまっていた部分があったのですが、ZOZOの傘下企業になったことで業界経験者が興味を持ってくれるようになったのが一つデカかった。あとは、工場やメーカーが「こいつらワンチャンあるんじゃない?」と注目してくれるようになったことですね。
―ビジネスの可能性を評価された、ということでしょうか。
そうですね。今まで提携したことがない工場とも協業ができるようになりましたし。ネンネに関しても、自分たちとしてヘルシーな原価率をキープした上であの価格帯をオリジナルで実現できているのは、工場の理解と協力があってこそ。同じようなD2Cブランドは基本的に仕入れですからね。
―では資本提携によるメリットはとても大きかったんですね。
想定以上かもしれないですね。商品のコストパフォーマンスが売り上げにもダイレクトに繋がるところがあるので、純粋によかったなと思います。
―傘下に入ると、親会社が事業をコントロールして自由度が低下することもありますが。
ZOZOに関してはそれが全くないんですよ、ぶっちゃけ。かなり独立性の高い感じでやらせてもらっています。オフィスもそのままだし。ポジティブなことしかないですね。
お気に入りのセックス・ピストルズのヴィンテージTシャツをインテリアに。「価格は10万円ほど。ベルベルジンで購入しました」と片石代表。 Image by: FASHIONSNAP
メディア運営からD2Cブランド企業に
―ネンネは社内スタッフの提案から生まれたブランドとのことですが、組織運営はボトムアップ型なんですね。
そうですね。いま8ブランドありますが、そのうち僕が見ているのは2ブランドのみ。主力のナインティナインティに関しては会議に一度も出たことがない(笑)。しかも、めちゃめちゃ分業にしてるんですよ。一人ひとりが自分のミッションを持って動いているから自然とボトムアップな空気になっているんだと思います。
―経営者としてはブランド運営につい口出ししたくなりませんか?
「創業者の能力に組織が依存する」ってビジネスとしてはありがちじゃないですか。そうなると創業者の能力以上にスケールアップしないという壁にぶち当たる。だから、できるだけみんなで楽しく考えて、事業を伸ばしていく。それをやらないと会社は大きくならないと思います。
―業績も順調に成長しています。
ようやく最近月商1億円を超えました。今年(2022年3月期)の目標は前期の3倍、20億円規模の着地を目指しています。
―収益の要はD2C事業だと思いますが、「古着女子」の事業計画は?
古着女子はインスタグラムの更新を続けていますが、正直何もマネタイズしていないです。先祖の墓参り、みたいな......(笑)。最初の頃はメディア運営で得たファンをD2Cブランドに誘導していくような戦略も考えていたんですけどね。全部のブランドにメディアからの初期のブーストが効くわけじゃないし、今は他ブランドとのコラボの方がお客さんが買ってくれるので。
―古着女子から派生した「古着男子」については? いま覗いたらインスタグラムの全投稿が消えていましたが......。
はい、ほぼないです(笑)。今年10月にゾゾタウン向けにメンズのブランドを出すので、そのブランドアカウントに切り変えます。
―そうだったんですね。新ブランドはどんなコンセプトで展開する予定ですか?
「古着ミックス」のテイストはネンネと同様です。割とアメカジかな。そこにストリートとかミリタリーも入ってくる感じで。
―古着女子は創業当初から運営してきましたが、今はグロースの役割を終えているということですか?
そうですね。ただ、そのものの価値がなくなったわけではなく、相対的にD2C事業の優先順位が高くなったということです。
―セレクトショップも展開していました。
これも今年に入ってから撤退しています。でも去年の段階で売上の8割程度がオリジナルだったので、いよいよオリジナルに注力していくという意味合いの方が強いですね。
―セレクトは手応えがなかったということですか?
短期的には売上が良くなるんですけどね。セレクトは「同じものを仕入れて誰が一番その商品をよく見せられたか」というマーケティングのハックの差別化でしかないじゃないですか。オリジナルは最初から商品数をたくさん増やせないので大変ですが、長期的に見たらセレクトよりもオリジナルで勝負した方が会社にとって強みになるし、昨年の1年でそう強く実感しましたね。
―顧客層はZ世代がメイン。ここまでの売り上げを伸ばせた要因は?
スピードが大事かなと思っています。例えば、コムドットのゆうた君をモデルに起用させてもらったのが昨年6月頃だったんですが、当時6万程度だったフォロワーが今は100万以上いるんですよ。人・ブランド問わず「若い子たちにめちゃめちゃ人気だけどまだマスは知らない」という部分にみんなが目をつける前にやる、というのを意識しています。
あとは商品を作っているスタッフが購買層とドンピシャの世代なので、リアルなものを提供できているという自負はあります。ファッションって昔も今もリアルなものが支持されるので。
―上場を目指していますが、その理由は?
うーん、なんかカッコいいかなって。アパレルブランドを展開する企業だとTOKYO BASE以降のIPOがないですよね。その理由は、おそらくセンスに依存するファッションの事業はマーケットから評価されにくく、IPOのメリットがないからだと思うんですが、IPOを目指す会社が少ないということは、それを実現できたら競争優位になる。IPOで資金調達して規模をもっと大きくできたら、今よりもっと楽しい会社になると思います。今後は僕らのテイストを強化していけるような、オンラインをメインに展開しているブランドをどんどん仲間に入れていきたいと考えていて、今年度は1つブランドを買う予定です。
―IPOは「ZOZOからの独立」という可能性も?
これについては回答を控えますが、IPOに関してはZOZOは応援してくれています。
―2023年までにIPO達成を掲げています。
これは今も変わらず、僕が30歳を迎える年である2023年度末までを目標にしています。現時点で致命的に遅れるようなところはないと思いますが、あくまでも目安でしかないので、上場後も耐えられる経営基盤ができた時に達成したいですね。
―D2Cブランドを買収していくとのことですが、目指す企業像は?
「アジア」と「ストリート」を軸にブランドを傘下に入れていきたいと考えていて、最初は韓国などのブランドをライセンスで取得することから始めていくと思います。もちろん、自分たちが作った服をアジアでも着てもらいたい。下半期からは海外進出に向けて進めていく計画で、海外初として中国でのブランドコラボの展開が決まっています。
部屋の中にはアートのほか、ジブリ関連の本やDVDも。 Image by FASHIONSNAP
―ZOZOの専業ブランドは今後も立ち上げていく?
そうですね。ゾゾタウンではトレンドをフォローして、出店ブランドの中でも優位性を作っていくのが狙いとしてあります。これは企業的な体力や競争力がないとできないことです。初速の数値的にも伸びているし、今それができるのにやらないともったいないかなと。
―最後に、Z世代の経営者から見て、令和時代のアパレル業界が今後どうなっていくと思いますか?
大手のブランドは「流行りものを安く提供できて、それが色々なところで買える」のが強みですが、それはもう“時代じゃない”と思うんですよね。マス向けのブランドは中国が勝つ時代ですから。これからは1ブランドのみで100億円の売上を出す企業よりも、年商10〜20億円規模のブランドを10個運営できる企業が残っていく。要はそれだけ人の趣味が分散されていると思っています。
―小規模ブランドで生きていける条件は?
抽象的に言ってしまうと、カッコいい服を今っぽいマーケティングで訴求できるブランド。「ここにしかない」オリジナリティーを提供できる会社が生き残っていけると思います。
アパレルに参入する企業は多いけど、結局他の業種にも参入していて、本気でやっているところって少ないじゃないですか。その中でも僕らは服しかやっていない。カッコいい服を素晴らしいコストパフォーマンスでいいマーケティングをしている、というこの3つが揃っている会社ってなかなかないので、そこを極めていきたいですね。だから大手や競合の存在はぶっちゃけあまり心配していない。仲間に入れたいブランドも売上規模よりもカッコいいものを作っていることを重視したいです。
(聞き手:伊藤真帆)
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