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【インタビュー】多ブランド展開から真逆のピボットへ D2Cブランド「gray」1本勝負で狙う26歳 恩地祥博

BRH 恩地祥博社長 Image by FASHIONSNAP
BRH 恩地祥博社長
Image by: FASHIONSNAP

 1万円でピアスやリング、ネックレスのコーディネートができるD2Cブランド「グレイ(gray)」。インスタグラムで人気を集め、デビューから1年半で月商5000万円を達成した。グレイを手掛けるのはブランドを複数運営していたBRHだが、「ミューラル(MURRAL)」など傘下ブランドを分社し、グレイに注力するという。「日本のLVMHを作る」というヴィジョンを掲げ多ブランド展開をとっていたが、ブランド1本化という真逆の戦略の狙いは。26歳の社長 恩地祥博氏が語る。

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■gray
2020年1⽉にデビューしたD2Cアクセサリーブランド。国内の工場と提携し、メイドインジャパンのアイテムを販売している。1万円以下という手に取りやすい価格帯とセット販売が特長。インスタグラムのフォロワーは13.5万⼈(2021年7⽉時点)を突破しデビュー以来9万個以上の販売実績で、⽉商は5000万円超に達した。昨年実施したポップアップイベントは5都市で3000⼈以上が来場。
公式インスタグラム

■恩地祥博(おんち よしひろ)
1994年⽣まれ。学生時代にTheRealReal JapanやFarfetch JapanにPRインターンとして参加。その後ニューヨークへ1年間留学し、ファッション⼯科⼤学(Fashion Institute of Technology)」でブランドマネジメントを学ぶ。同時期にニューヨークにベースを置くデジタルエージェンシー George Root Ltd.で稲⽊ジョージ⽒のアシスタントを担当し、ラグジュアリーブランドのPRコミュニケーションを経験。⼤学4年時にBRHの当時の代表からSkype1本で社⻑に任命され、代表取締役社⻑に就任した。

ブランドを分社化したのはネガティブな理由ではない

昨年7月に取材した際は複数ブランドを傘下に収める事業計画を発表しましたが、わずか1年で「ブランド1本化」という真逆の方針を決めた背景は?

 僕らの会社は「日本のLVMHを作る」というヴィジョンから始まっています。以前、お話しさせていただいた時はまさに「数撃って当たったものをどんどん進めていく」というかたちで複数のブランドを作る方針を立てていましたが、それぞれターゲット層や価格帯が違えば、戦略も異なってくる。誰もが簡単にブランドを作れる時代になり競合も増えている中で、新しいブランドを作って全部成功させるのは、ベンチャーで資金が少ない僕らの立場からすると難しいことだと感じました。ブランドを作っては当たらなかったものをすぐ止める戦略はブランドファーストではないし、会社として伝えていきたいメッセージとも相違が出てくる。ポートフォリオを広げるのではなく、既存のブランドを伸ばすことに注力しようとこの1年で考えてグレイに1本化することを決めました。

―グレイはプチプラながら⽉商5000万円超と、好調に推移していますね。

 グレイはもともと成長性を維持しながら利益を出すことを目的に立ち上げました。商品の価格は基本1万円以下と他のアクセサリーブランドと比べると安価ですが「高見え(=実際よりも高い価格に見えること)」するのが強みで、顧客層はF1層の女性が中心です。デザイナーズブランドは供給量をセーブすることでブランド価値を高めていく側面がありますが、グレイは供給をセーブすることがほとんどありませんし、D2Cなので利益率も高く、軌道に乗り始めています。

―今後は好調のグレイに資源を集中していく。

 最近「グレイで見たことあるな」と感じるD2Cのアクセサリーブランドが増えているなかで、力半分で事業をやっているとこれ以上伸びないですし、ブランドを1本化してリソースを集中することが会社の成長に繋がると判断しました。

―人気ブランドのミューラルを分社することに抵抗はなかったのでしょうか。

 僕個人としては、ミューラルは社長に就任した時から一緒にやっているブランドなので、今後の成長を見届けることができない虚しさみたいなものはありましたが、譲渡先はBRHの会長が立ち上げた新会社なので、全く知らない会社に売却したわけではなく、運営するメンバーも変わりません。

 グレイの1本化で「他のブランドは好調じゃなかったのか?」と聞かれることがありますが、全ブランドでデジタル化が進んで売上が伸びていますから安心していただいて大丈夫です。あくまでもブランドファーストの観点でポジティブな判断で分社化をしたので、決してネガティブな理由ではないことは強調しておきたいです。

■傘下ブランドのその後(6月末時点)
・ミューラル(MURRAL):BRH会長の新設会社に譲渡
・アンボアハンデン(ANVORHANDEN):今年3月に終了
・ディーティーティーケー(D.TT.K):活動休止中(再開時期未定)
カルペディエム(Carpe diem):BRH会長の新設会社に譲渡

MURRAL 2021年秋冬

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MURRAL 2021年秋冬コレクション

―ブランドの1本化のデメリットもあります。

 たしかにD2C事業をやっている会社で複数のブランドを作る方向性をとっているところは多いですが、「バルクオム(BULK HOMME)」を運営するバルクオムは1ブランドのみで圧倒的なスピード感で駆け上がっていますよね。バルクオムのような事例を見ていくと1本化の方が会社の価値がブレないと感じますし、一つのブランドを本当に強く作り上げることができた時に「ユニクロ(UNIQLO)」や「ジーユー(GU)」のようにカテゴリーを拡大するという可能性も出てくるので、まずはグレイをより強固なブランドにすることを目指します。

―勝算は?

 ファインジュエリーのような高価なものは頻繁には買えないので売り上げを継続的に伸ばすには限界がありますが、月に1個買える価格帯なら洋服を見るようにアクセサリーを買ってもらえる。この価格帯のアクセサリーブランドはこれまでになかったので良いポジションが取れていますし、その手応えを感じています。加えて、グレイはインスタグラムのみの情報発信でこの規模まで拡大できた。まだ歩き始めたばかりなので、成長の余地は十分にあると考えています。

―グレイの強みとは?

 大きく2つあります。1つはセット売りです。僕らの顧客層は、自分でアイテムを選んでスタイリングするというよりは、「おしゃれはしたいけど、どうやったらいいのかわからない」という方が多くいます。そういう方に対して、リングを3つセットにしたり、パールのネックレスとピアスを組み合わせるなど"パッケージ売り"することで「アイテム1つを買うより得で、かつお洒落になれる」と楽しんでいただけていることが他のブランドとの差別化につながっている部分ですし、お客さんにもうまく刺さっているんじゃないかなと思います。

シルバー925のネックレスが3本1セットになった「LOTTIE」(税込1万2000円) Image by gray
シルバー925のネックレスが3本1セットになった「LOTTIE」(税込1万2000円) Image by gray
1本ずつでの利用も可能 Image by gray
1本ずつでの利用も可能 Image by gray

 もう一つは、友達同士のギフト需要です。実際にギフトセットがかなり高い頻度で買われています。女友達へのギフトって、大体1万円くらいでお洒落で映えるアイテムが選ばれるじゃないですか。そこにプロダクトがうまくハマっているなと感じています。

―グレイでどのような将来像を描いていますか?

 アクセサリー業界の「ザラ(ZARA)」やユニクロのような存在になりたいですね。売り上げとしては、今後3年で年商20億円を目指します。

―「3年で年商20億円」を達成するためにはオンラインからオフラインへの販路拡大も施策となりえますが、その計画はありますか?

 今のところ販路を拡大するつもりは1ミリもないですし、卸も絶対にやらないと決めています。僕らがそれをやってしまうと「自社サイトでしか買えない」という強みがなくなりますし、たかだか年商5〜6億円規模でその決断をするというのは自社ECを伸ばすことへの妥協でしかない。将来的には自社ECで蓄積したデータを使ったビジネスになってくるはずなので、まずは自社ECの強化を進めます。

―価格戦略の考え方は?

 売り上げをとるために価格帯を引き上げるブランドもいるかと思いますが、僕らはむしろ今よりも価格を下げたいと思っているところです。現在、1万円以下の商品が15%ほどありますが、今後は全部1万円以下で出していきます。ブランドと価格のイメージがちゃんと結びついてないと、お客さんはついてきてくれないと思うんですよね。ザラやユニクロのように、「グレイに行ったら必ず1万円以下で買える」という戦略は徹底していきます。

―現在のブランドの課題について教えて下さい。

 より多くの方に知っていただくために情報発信のチャンネルを増やすことが喫緊の課題です。あとはリピーターがいま25%ほどいますが、比率を上げていくための施策にまだ着手できていないので、しっかり投資をして体制を整えていきます。

新時代のファストファッション企業に

―社長に就任して5期目を迎えました。これまでを振り返ってみてどうですか?

 常に正しい選択ができたというのは実感としてありますね。今回も「日本のLVMHを作る」という当初のヴィジョンと真逆をいく方向に転換しましたが、前進しているからこそ決断できたことだと捉えています。

取材日は「カルティエ」の時計を着用 Image by FASHIONSNAP
取材日は「カルティエ」の時計を着用 Image by FASHIONSNAP

―これからBRHとしてどんな企業を目指しますか?

 「新時代のファストファッション」を体現する企業でありたいと考えています。

―「新時代のファストファッション企業」とは具体的に?

 ファストファッションは社会や環境に関する問題が絡んで印象があまり良くないものになってしまいましたが、低価格で商品を提供することで「誰もがファッションを楽しめるようになった」というポジティブな側面もあります。僕らはアクセサリーブランドとして独自の経済圏を作りながらソーシャルグッドな施策にも取り組む「新時代のファストファッション企業」を体現していきたいと考えています。

 ソーシャルグッドに関する施策としては「在庫ゼロ・廃棄ゼロ」を目指します。ジュエリーのいいところは、シルバーやゴールドが溶かして再利用できる素材であること。それをうまく活用して、例えばグレイを買ってくれたお客さんが他のデザインのものが欲しくなった時にリサイクルして作るなど、循環型のブランドにできると思うんです。Bコーポレーション(B Corporation)認証の取得に向けても動いています。

※Bコーポレーション:従業員や消費者、地域社会、環境に配慮した事業活動を行っている会社に与えられる認証制度

海外ではD2C企業が続々とIPOに向けて動いていますが、IPOには興味はありますか?

 はい。数年以内のIPOを視野に入れています。

―IPOは経営の自由度が低くなる可能性もありますが。

 割と資本主義的な考え方になってしまいますが、ビジネスをやるからには圧倒的な規模を目指したいし、イノベーションも起こしたい。そこを欲張って色々やるためには資金が必要になってきますし、社会的責任を求められるところで評価されたいという思いもあります。新しい時代のファストファッションを目指すからには、(ファーストリテイリング社長の)柳井さんがBRHのことを認識して「あの会社を買いたい」と言っていただけるところまでいきたいです(笑)。

―アパレル業界ではTOKYO BASEの谷正人CEOが31歳で最年少上場を果たしています。記録を塗り替えたいという思いもある?

 そんなに意識していませんが、僕が現在26歳なので、最年少上場更新を狙えないわけではないんですよね。結果として更新することができたら嬉しいです。

Image by FASHIONSNAP
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(聞き手:伊藤真帆)

TOKYO BASE 谷正人代表

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