malamute 2019年春夏コレクション
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Hiroshi Ashida

【ゆるふわ東コレ日記6-2】──価値の話(その2)

蘆田裕史

京都精華大学ファッションコース講師 / 批評家

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 昨日に引き続き、「価値」の話をもう少しだけ。

ショーの後のデザイナーへのインタビュー(囲み取材)では、しばしば「テーマ」に関する質問がなされます。たとえば、
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Q:「今シーズンのコレクションのテーマは何ですか」
A:「映画監督のデレク・ジャーマンの作品『ブルー』と美術家のイヴ・クラインのIKB(インターナショナル・クライン・ブルー)にインスピレーションを得て、彼らの感じた青をファッションで表現したいと思い...」
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のような感じです。

 もちろん、デザイナーが制作する際にインスピレーション源というものは必要でしょう。ゼロからものを作り出すなんてことは容易にできるはずもないのですから、日頃から見て触れているものからさまざまな要素を引き出してもの作りを行うのは自然なことです。そのため、どのようにそれが作られたのかを明らかにするためには、テーマやインスピレーション源に触れることも重要なのかもしれません。しかし、それはあくまで制作のプロセスの話であって、作品そのものの価値の話ではありません。「今回のコレクションのテーマがデレク・ジャーマンだからこの服を買いたい!」と思う人はほとんどいないはずです(ゼロではないでしょうが)。

 以前にもこの日記で書いたように──そして昨日の話とも通じることですが──、デザインはデザイナーの自己表現ではなく、あくまでユーザーのためにあるべきものです。それゆえ、ユーザーの視点に立てば、そこでどのような価値が提供されているのかを考える方がより重要なのではないでしょうか。たとえばAppleのCEOが新しいiPhoneのプレゼンテーションを行うときに、その制作プロセスを詳細に話すことはしませんよね。そうではなく、そのiPhoneで何ができるのか、それを使うとどんないいことがあるのか、といったことが説明されるはずです。個人的には、ファッションデザイナー(あるいはブランド)にも、できるだけ価値を言語化してほしいと思っています。
ただ、誤解されないように念押ししたいのですが、テーマの存在を否定するわけではまったくありませんし、直接的な価値以外の要素が不要だと言っているわけでもありません。むしろ、ファッションショーというイベントで世界観を伝えるためにはそれも必要です。これまでの日記でも空間の重要性を主張してきましたが、空間以外にも世界観の提示をすることは色々とできることがあるのだと思います。今回の東コレでは、malamuteのショーで配られた一枚の紙に、劇作家の藤田貴大のテキストが載せられていました。

 ショーが始まるのを観客が待つあいだ、空間を見せるのではなく、テキストを読ませ、頭のなかにイメージを浮かび上がらせる。そうやって世界観を作り出していくことも、おそらくは可能なのでしょう。

【批評家蘆田裕史のゆるふわ東コレ日記】
【ゆるふわ東コレ日記6-1】──ルールと価値
【ゆるふわ東コレ日記6-3】──ファッションショーの再演性

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