Yusho Kobayashi 2020年春夏コレクション
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Kaijiro Masuda

"メタボセクシャル"の衣食日記(7-1)ーー20代と40代

増田海治郎

ファッションジャーナリスト

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Yusho Kobayashi 2020年春夏コレクション
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僕たちはみんな歳をとる。何兆円もっている大富豪も、普通のサラリーマンも、社会に出ていない学生も、等しく歳をとる。もしかしたら僕たちが生きている間に不老不死の薬ができたりするのかもしれないけど、できなければ今20歳の学生は20年後に40歳になる。不平等だらけの世の中で、これだけは珍しく平等だ。

自分がアラフィフに近づきつつある40代ということを差し引いても、40代というのはファッションデザイナーにとって鬼門だと思っている。20代は時流をつかめて当たり前。30代もどうにか乗り越えられる。でも、40を超えたとたん、これまでの感性だけでは勝負できなくなる。自分の持ち味だけでは、同世代は振り向かせられても、20代を振り向かせるのは難しくなる。40代で20代を魅了する服を作るには、これまでの価値観を更新し続ける必要がある、と思うのだ。パリという地で、もがき続けている同世代のトップランナーの姿を見るたびに、そのことを痛感し、彼らの戦い続ける姿勢に共感し、こうべをたれる。

DISCOVERED 2020年春夏コレクション ©︎FASHIONSNAP.COM

ディスカバードの木村多津也と吉田早苗は、ともに1977年生まれ。今年で42歳。2001年にブランドを立ち上げたから、もうじき20周年だ。東京での最初のショーの、囲み取材での木村のイキった姿を今も覚えている。殺気だっていて、噛みつかれそうだった。今の木村は随分まるくなったけれど、それでも40代のデザイナーとしてはトップクラスに"ユース感"を持ち続けている人だと思う。青春の匂いと言えばいいだろうか。

この3〜4年のディスカバードは、大人と子供の間でユラユラしていた。20代を取るのか、40代を取るのか、どっちつかずのように見えた。記憶ちがいだったらすまんが、木村から「大人にも着てほしいんです」みたいな言葉を聞いたことがあったような気がする。

2年ぶりのプレゼンテーションは、LISACHRIS(リサクリス)の弾けるような演奏で幕を開けた。思わず知ったかぶりしたくなったけど、初見だ。超カッコいいし、なんかエロい。服はちゃんと進化していた。現代美術作家、政田武史とのコラボレーション(セッション)が、ディスカバードの服に新しい魅力を加えている。ウールとナイロンを組み合わせたインサイドアウトのジャケットは、どこかカラー(阿部さんの)っぽい気もするけれど、ヤバいくらいカッコいい。アートのキャンバスのような白シャツも素敵だ。聞けば、木村と政田は中学の同級生で、一緒にバンドを組んでいた仲。その延長線上というか、厨二病感というか、ずっと好きなことをやり続けているかんじが、本当に微笑ましく羨ましかった。

あと、アメリカの哲学者、ラルフ・ワルド・エマーソンの格言から引用した「孤独なハイキング、気になるクツずれ、ジャングル色のアスレチック」というプレスリリースに書かれた言葉は、深く胸に突き刺さった。自分に例えるなら「孤独なライティング、気になる腹回り、たそがれ色のロマンティック」だろうか。ディスカバードは、迫りくる老いと戦いつつ、前に進み続けている。なんか元気もらったよ。

Yusho Kobayashiのプレゼンテーションで楽曲を披露した羊文学の塩塚モエカ ©︎FASHIONSNAP.COM

話を20代に変える。情報に貪欲なのは変わらないけれど、僕も歳をとったので、どうしても若い世代の情報が入りにくくなってきている。オフスケジュールでセントラル・セント・マーチンズ出身の小林裕翔の「Yusho Kobayashi(ユウショウコバヤシ)」のプレゼンテーションがあると聞いたのは、15:30からのtiit tokyo(ティート トウキョウ)のショーの始まる前。インスタでチェックしたら、良さそうなので見てみることにした。i-Dのヤマグチ君、教えてくれてありがとー! 持つべきは若き友だ。

会場は青山のスタジオの1室という小さなスペース。背景には本人が描いたヘタウマな絵が飾ってあって、いくつかの服が無造作に掛けられたり、床に置かれたりしている。音は羊文学の塩塚モエカ。今いちど知ったかぶりしたくなったけど、初見だ。ギンガムチェックのガーリーなワンピースを着たモエカは、衆人環視のなか、淡々とセッティングを進め、時にい・ろ・は・すをグビッと飲み干したりする。昨今の若者は緊張とかしないのだろうか?あまりの自然体っぷりにニュージェネレーションの台頭を感じた。

Yusho Kobayashi 2020年春夏コレクション ©︎FASHIONSNAP.COM

モエカの美しすぎる声が木霊するやいなや、ショーは幕を開けた。モデルは黒髪の普通の女子2人。トゥの部分に刺繍が施されたナイキのエア リフトを履いたり、服をキャンバスに見立てたような絵柄のワンピースを着たりして、2人は新しい服に着替えてはポーズをとる。

テーマは「new blue」。小林が5年間ヨーロッパに住んで訪れた数々のビーチ、アンリ・マティス(Henri Matisse)やピエール・ボナール(Pierre Bonnard)、ポール・セザンヌ(Paul Cezanne)といったヨーロッパの画家たちの色使いにインスパイアされたという。手作業を駆使したコレクションは、荒々しくも繊細で瑞々しい。そして生命力にあふれている。ハンガーにかかっている時はさして魅力的に見えなくても、人が着ると生命を帯びたように魅力が際立つ。テイストは違うけれど、同じく手作業を駆使する「BODE(ボーディ)」の6月のコレクションを思い出した。

40代でしか作れない服があるように、20代でしか作れない服がある。小林はファッションデザイナーとして、これからどういう風に歩んでいくのだろう。壁にぶつかったとき、どういう風に乗り越えていくのだろう。その歩みをずっと見ていきたいと思った。

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増田海治郎

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