CINOH 20年春夏コレクション
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Kaijiro Masuda

"メタボセクシャル"の衣食日記(7-4)ーー東京ファッションアワード組もろもろ

増田海治郎

ファッションジャーナリスト

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CINOH 20年春夏コレクション
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楽天が冠スポンサーになってから初めてのファッションウィークの最終日、6回目となる東京ファッションアワードの授賞式が行われた。受賞したのは、「リコール(Re:quaL≡)」の土居哲也、「ミーンズワイル(meanswhile)」の藤崎尚大、「ユウキ ハシモト(YUKI HASHIMOTO)」の橋本祐樹、「イン(IHNN)」の印致聖(イン チソン)、「シュープ(SHOOP)」の大木葉平とミリアン・サンス(Miriam Sanz)、「フミエタナカ(FUMIE TANAKA)」(ザ・ダラスが2020年春夏シーズンに改名)の田中文江の計6ブランド。これまで以上にバラエティに富んだ顔ぶれで、1月のピッティ・ウオモとパリでの展示、3月の東京でのショーが今から楽しみでならない。

今回の本題は、5回目の受賞者の面々である。かれらは良く言うと優等生で、悪く言うとちょっと地味だ。各々いい服を作っているけれど、3回目の受賞者のダブレット(doublet)や4回目のチルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)ような強烈な個性は持っていないし、チノ(CHINO)を除けば、日本で潤沢な売り上げがあるわけでもない。でも皆、秘めたると情熱と芯みたいなものを持っていて、流行に左右されない強さがある。2回のピッティ・イマージネ・ウオモ、パリでの展示を経て、現状では海外販路を大幅に広げたブランドはないけれど、僕はそのことをそれほど悲観していない。5回生たちは、陸上に例えるなら瞬発力が必要な短距離ランナーではなく、持久力に優れた長距離ランナーが多いと思っているからだ。

ノブユキ マツイは、この中ではもっとも個性的でアクの強いデザイナーだ。ピッティで最初に今シーズンの服を見たとき、残念ながら「前シーズンより後退している」と思った。「水鏡」にインスパイアされたコレクションは、たしかに個性的ではあるけれど、ハンガー面(ハンガーに掛かっている時の見え方)がよろしくない。「今シーズンはMDを意識しました」と聞いて、ひっくり返りそうになった。

Nobuyuki Matsui 20年春夏コレクション Image by: FASHIONSANP.COM(Ippei Saito)
Nobuyuki Matsui 20年春夏コレクション Image by: FASHIONSANP.COM(Ippei Saito)

>>Nobuyuki Matsui:2020年春夏コレクション

なので、さして期待せずショーに臨んだのだが、わずか12体のコレクションは、6月のフィレンツェよりはるかに魅力的に見えた。天井から吊り下げた、アーティストの高臣大介による"つららの第一段階"のようなアートピースは、テーマを完璧なまでに表現している。後で聞いたら、この作品がコレクションの出発点なのだとか。イタリアの地ではやや強引に見えた水の流れを連想させる流動的なカットが、同じものとは思えないほど自然に見えた。この人の、自身の洋服を魅力的に見せるプレゼンテーション能力は、本当に天才的だと思う。

課題はいつまで手作りを続けるのかということと、量産体制の確立だろう。ヌスミグイ(nusumigui)のようにアトリエ兼ショップで直接ユーザーに販売していくのもいいし、テーラードの部分を強めて新世代の仕立て屋を構えるのもいい。ただ、せっかくこういう場に出てきたわけだから、個人的には量産できる体制を確立してほしいとも思う。MDとかは今の段階では考えなくていい。とにかく作りたいものをとことん突き詰めてほしい。そうすれば、世界中の"変態たち"(←褒めている)がきっと振り向いてくれるはずだから。

RAINMAKER 20年春夏コレクション Image by: FASHIONSANP.COM(Koji Hirano)
RAINMAKER 20年春夏コレクション Image by: FASHIONSANP.COM(Koji Hirano)

レインメーカーは、2回目にしてショーでの見せ方を掴んできたようだ。60年代の東映ヤクザ映画とイタリアのマフィア映画がミックスしたような、上品なアンダーグラウンドな雰囲気が心地よかった。京都のウミット・ベナンみたいだったよ。白眉はベルテッドジャケットとコートのコーディネート。インナーに使ったり、コートを無造作にウエストで絞ったり、無個性になりがちな上着に動きをつけるのが上手い。彼らのシグネーチャーになってきている、と言っていいだろう。HIKEあたりと比べるとまだまだだけれど、クオリティ感もだいぶ上がってきた。

京都の伝統工芸とのコラボレーションと、和洋折衷のアイテムの提案は、京都ベースならではの強みだと思う。それらをいかして、2人にはいつか「クラシコ・キョウト」を確立してほしい。海外は1社(韓国)のみ決まったが、手応えがないわけではないので、しばらくは軸をブラさずに自分たちのテイストを貫く方針だという。ここ数年のメンズ市場は、「ツカミはOK!」的なファーストインパクトに優れる服が売れる傾向にあったが、ウィメンズが急速にシンプルかつミニマルな方向に振れているから、メンズにもその流れが波及する可能性は大いにある。じぶんたちを信じる道をこのまま歩み続けてほしい。

CINOH 20年春夏コレクション
CINOH 20年春夏コレクション

チノは東京には珍しいクリーンでエレガントなコレクション。ロング&リーンにアレンジしたシャネルスーツ、4枚の正方形のスカーフをつなぎ合わせたシャツ、パールの14ボタンのダブルブレストのネイビーブレザーなどで、リアルとモードの中間のフレンチシックを上手に表現している。これは「ゴキブリホイホイ」ならぬ「大手セレクトショップホイホイ」だと膝を打った!

ただ、欧米に憧れ続けた(部分が多分に残っている)日本のセレクトショップは魅了できても、このままでは欧米では通用しないだろう。展示会で見せるには最高の服でも、ショーで見せるには何かが足りない。その何かを探し続けてほしいし、ビジネス的に安定している今は自己投資する絶好のタイミングだ。感性の階段をもう一段あがってほしい。

ちょっと長くなったので、ポテチとシャンパンで休憩。記者仲間たちとファッションウィークの打ち上げで向かったのは、宮益坂のヘイメル ミヤマス。根セロリのレムナードも、増田なみにぶくぶく太った生牡蠣も、アンガス牛のグリルも美味しかったけれど、一等賞は単品のポム・ド・フリット(仏語でポテトフライ)。もしかしたら白いご飯より好きかもしれない、私のソウルフードであり、私のメタボの主要因だ。ラードで2度上げしたカリカリほくほくの此奴は、口に入れた瞬間、悶え死ぬほど美味い!全員一致でおかわりしちゃいました。

胃がもたれてきたところで、次は4回生の時間。

リメイクが世界的に流行している。日本では77サーカ(77Circa)やオールドパーク(OLD PARK)らが代表格で、アメリカのグレッグ・ローレンに至っては、もはやリメイクのアート作品のようだ。そんな強者たちの中で、リメイクをモードの舞台に引き上げた第一人者は、志鎌英明のチルドレン オブ ザ ディスコーダンスだと断言する。

Children of the discordance 20年春夏コレクション Image by: FASHIONSANP.COM(Koji Hirano)
Children of the discordance 20年春夏コレクション Image by: FASHIONSANP.COM(Koji Hirano)

>>Children of the discordance:2020年春夏コレクション

世界中のセレブリティ、ラッパーを魅了しているリメイク・バンダナ・シリーズは、ますます凄みを増している。裏からボンディングして生地をキルティングした後に裂け目を入れたジャケットやパンツは、大げさではなくオートクチュールの領域。さらっと羽織れそうなカーディガンや中東風のコートも素敵だった。今シーズンこそは、フレンチのバンダナを持ち込んで、じぶんだけのオリジナルを作ってもらいたいな。

バンダナの次を担う存在のスカーフ・シリーズも、完成度が高まってきた。トレンドがエレガンス寄りにシフトしても、スカーフならバッチリはまる。このあたりは、元バイヤーならではの視点だろう。ファーストルックで見せたアメリカのジャガードパイルのアイテムは、量産できるまでに2年をかけて古布を集めたという。課題は"新品の強度"だと口を酸っぱくして言ってきたが、その題目もクリアしつつあるようだ。くすんだトリコロールのショールカラーのコートとパンツのセットアップは、バイヤーからも高い評価を受けたという。

ショーの見せ方も、板に付いてきた。ストリート感を残しつつも、全体のショーの雰囲気は完全にコレクションブランドのそれ。このままパリの舞台に持っていっても十分通用するだろうし、NYならセンセーションを巻き起こす可能性もある。数十年前にアメリカで1ドルで売られていた単なる四角い布に新たな生命を与え、1500倍の価格でアメリカ人に売る。これを痛快と言わずして何と言おうか。編集大国ニッポンのこれからの生きるべき道筋を、かれは示しているのだ。

bodysong. 20年春夏コレクション Image by: FASHIONSNAP.COM(Koji Hirano)
bodysong. 20年春夏コレクション Image by: FASHIONSNAP.COM(Koji Hirano)

今シーズンの東コレでもっともポジティブに感じたのは、ファッションと音楽の距離が近くなってきていることだ。90年代のアンダーカバーやナンバーナインのように、2つの関係が急速に深まっている。ボディソング(bodysong.)は、その急先鋒だ。アイドルから最先端の音楽まで、このブランドのカルチャーとの結びつきは本当に強い。

今回のコラボ相手は、昨年デビューするやいなや話題沸騰中のバンド「ずっと真夜中でいいのに。」。といっても聞こえてきたのは、「MCAね」の耳障りのいい声ではなく、このバンドのイメージにはない破壊的なノイズ。このショーのために、オリジナルで楽曲を制作してもらったのだという。

服のオリジナリティは相変わらず高い。後ろ身頃をナイロンで切り替えたジーンズ、袖が取り外せるフィッシングジャケット、デッドストックの作業着を解体再構築したバッグなど、このブランドならではの表現が心地よい。デサントとの意外すぎるコラボも良かった。VOGUE RUNWAYにも掲載されたから、今後はますます世界での注目が高まっていくことだろう。ただ、前回(ichikoro)と同様に、音に食われてしまった部分もあったので、もう少しショーじたいの強度と完成度を上げる必要性を感じた。

TAAKK 20年春夏コレクション Image by: TAAKK
TAAKK 20年春夏コレクション Image by: TAAKK

ラストは「FASHION PRIZE OF TOKYO」の第3回受賞デザイナーに選ばれた「ターク(TAAKK)」について言及したい。イッセイミヤケ出身の森川拓野は、東京ファッションアワードの受賞をキッカケに世界への扉を開いた。同時期に受賞したダブレットの井野将之とは、評価の面でも売り上げでも大きく水を開けられていたが、ここにきて急速にその差が縮まってきているように感じる。今回の受賞も、有力候補として以前から噂が上がっていたから、必然だったと言えるだろう。

タークはプライズの副賞として、2020-21年秋冬(2021年1月)と2021年春夏シーズン(2021年6月)にパリでランウェイ形式でコレクションを発表するチャンスを得た。現時点では未確定だが、ダブレットも1月のパリのランウェイに参戦する可能性が高い。2人はブランド設立当初は、一緒に展示会を開催していた盟友でありライバルだ。パリというモードの最高峰の場所で、2人の"ポジティブな対決"が見られる日を今から心待ちにしている。

最後にもうひとつ、東京ファッションアワードの主催者(東京都と繊維ファッション産学協議会)の方々に注文を。これまで30組のデザイナーを輩出し、ダブレットやチルドレン オブ ザ ディスコーダンスなどの成功例も出てきているのだから、そろそろウィメンズ版を立ち上げてもいい頃なのではないだろうか。東京はメンズの方が人材が豊富なのは間違いないが、ウィメンズをウィメンズのファッションウィーク時に見せられる場を作るべきで、現状では少し不公平感がある。メンズを少し減らして3〜5ブランド(1月と6月)、ウィメンズを3〜5ブランド(2月と9月)にすれば、より長期的なインキュベーション機能を持ったアワードに成長するのではないだろうか。鉄は熱いうちに打てということで、ぜひ次回には実現させてほしい。

PS
ヘイメル ミヤマスはデザートも最高です!

■ファッションウィークの最新情報:特設サイト

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