SHUSHU/TONG 20年春夏コレクション
Image by: SHUSHU/TONG

Yoshiko Kurata

「異様な循環スピードにどこまでクオリティの成長速度がついていけるのか」上海ファッションシーンの"いま"を考える

Yoshiko Kurata

ファッションジャーナリスト/コーディネーター

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SHUSHU/TONG 20年春夏コレクション
Image by: SHUSHU/TONG
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 9月中旬に上海へ訪れた際、フォトグラファー・Eponine HuangとSHUSHU/TONGのデザイナー・Tongと一緒に、とある百貨店でランチをすることになった。その百貨店の前を今までも通り過ぎていたが都心部から少し離れていることもあり、特に目立った印象もなくこの急速に変化する上海の荒波をどのようにこなして行くのだろうと感じていた。案の定、そのぼんやりとした心配は、今年9月に閉店というかたちで現実のものになった。しかし、ランチに訪れた際に一切そんな閉店前の寂れた様子はなく、現地の友人と後日話したところ、なんと中国政府がその一帯を「ファッション地区」として盛り上げたいという急なお達しにより、その百貨店も閉店からのリニューアルオープンを同月に迎えることとなったという。なんとも日本では考えられないその偉大なる鶴の一声、一体今後の上海のファッションシーンをどのように揺るがしていくのだろうか。まだその殺風景な一帯を見つめながら、TongがLABELHOODのオーナー・Tashaとひっきりなしに電話している様子も何かの予兆に感じる程、上海の変化のスピードは半年置きに開催されるファッションウィーク以上の速度で循環している。

 今回のLABELHOODは、プラットフォームとしての役割は以前と変わらず一貫しているものの、参加ブランドに大きな変化が見受けられた。そして19A/WシーズンでのインタビューでTashaが宣言していたファッションに興味のある若年層を「留学」という形以外でも花を咲かせるチャンスを既にこの半年間で構築し始めていた。

急速に巡る世代交代

 まだ創設して3年しか経っていないプラットフォーム「LABELHOOD」には、創設時と同時期にブランドを立ち上げた中堅ファッションブランドが会期中のトリを飾ることが基本となっている。これまで輩出してきたAngel ChenYiran TianSAMUEL Guì YANGSIRLOINSTAFF ONLY8ON8PRONOUNCESHUSHU/TONGなどは、2014年〜2017年にブランドを始めた、いわば中国での中堅ブランドに位置するジェネレーションだ。彼らの活躍は、近年国内だけではなく海外へも波及しつつある。例えば、今年6月にはPitti Uomoにて「GUEST IN CHINA」というプロジェクト名のもと、10組のブランドのファッションショーと今や世界から注目を集める若手フォトグラファーであるLeslie Zhangの写真展を開催。同年秋には、ついにAngel ChenがH&Mとのカプセルコレクションコラボレーションを果たし、20S/SシーズンではミラノファッションウィークにてYiran TianとSHUSHU/TONGがファッションショーを行った。ちなみに、Pitti Uomoとミラノファッションウィークでのファッションショー開催は、どちらもアリババグループが開設したショッピングモールサイト・T MALLがメインスポンサーとなっている。

 そのように今年立て続けに、LABELHOODとともに成長してきたファッションブランドたちの海外でのプロモーションが増える一方で、20S/SシーズンのLABELHOODのショースケジュールには見慣れない名前のブランドたちが多く並んだ。唯一その世代で今回ショーを行ったのは、motoguo、STAFF ONLY、FENG CHEN WANGとSHUSHU/TONGのみ。他のブランドは、彼らよりもさらに若く、ここ1〜2年でブランドを立ち上げた若手ブランドも参加した。

 がらっと参加ブランドを一新したLABELHOODの初日を盛り上げたのは、アントワープ王立芸術アカデミー卒業生の「WINDOWSEN」。2019年に正式にブランドとしてスタートしたものの、既に在学中に19S/S ニューヨークファッションウィークのVFILES枠でショーを行い、Lady GagaやRita oraなど海外セレブリティからも注目を集める若手の一人だ。ネット閲覧規制が厳しい中国では、LGBTQやファッション雑誌でのヌードフォト掲載もオープンではない。そんな社会的環境の中で、彼のコレクションはまるでドラァグクイーンの衣装と現代のストリートカルチャーをミックスしたような中国における新しいユニセックスの世界観を打ち出した。会場ではモデルインスタレーションとともに過去コレクションの服の展示を行い、その病的かつサイバーなインスタレーションは、近年中国の発展スピードをより加速させているデジタルネイティブ世代が集まる遊び場であり心身の拠り所 ― ネットを原体験とする世界観 ― の空気感とも重ね合わせられるように感じた。

 同じく若手ブランドとしてショーを行った「YUEQI QI」。"若手"と言えども、留学後すぐに自らのブランドを立ち上げる従来の中国のファッションブランドとは異なり、豊富なキャリアを積んでいる。2018年にセントラル・セント・マーチンズのニットウェア科を卒業後、パリでCHANELの刺繍デザイナーとして携わり、DIOR、BALENCIAGA、GIVENCHYのテキスタイルデザインを手掛けた。今回のショーでは、中国の四大民間逸話「梁山伯と祝英台」をテーマに、その彼女のキャリアの特徴を表すかのように手織りのガラスビーズネックレスや中国のフォークロアパターンをインスピレーションにしたテキスタイルデザインを発表。上海の八百屋に積まれているフルーツや伝統的な陶器などのインスタレーションにより、会場一体をノスタルジックな雰囲気へと誘う。

 ウィメンズウェアのブランドが多く登場する中、2015年にファーストコレクションを発表したメンズウェアブランド「STAFF ONLY」。今年夏に発表されたオニツカタイガー70周年記念のスペシャルコラボレーションにも選ばれ、いわばLABELHOODの中では中堅ブランドとして独自のポップでユニークなスタイルを確立している。インスタレーションでは、「TO REPLACE A MINUTE SILENCE WITH A MINUTE'S APPLAUSE」というコレクションテーマの通り、ふたりのパフォーマーが鳴らすクラップと歌声をBGMに、ある家を創造したインテリアの中で異なる"ユニフォーム" を着たモデルが忙しなく動き回る。リードを繋いだロボット掃除機をまるでペットのように散歩する男性、ゴルフクラブのように物干し竿をスウィングする男性、トイレットペーパーを片手に涙のように垂れている銀色のタッセルカーテンを拭おうとする男性などウィットに富んだ日常生活との掛け合わせの裏には、現代社会に未だに残るステレオタイプ的な男性像を打ち壊そうとするパンクな姿勢が潜んでいる。

 今年10周年を迎えた「motoguo」。過去には東京ファッションウィークにも参加し、マレーシア出身ではあるもののLABELHOOD創設当時からショーを開催している。10周年を記念したショーでは、ファーストコレクションのテーマ「A Little Odd(ちょっと変)」がブランドの年数とともに「EVEN ODDER(さらに変)」に成長した様子を描くように、会場に溢れるシャボン玉を潜り抜けて"最強の変人たち"がランウェイに登場した。巨大化したどんぐりや指輪のネックリング、花束になっているネクタイ、真顔でウォーキングする双子、陽気に観客に挨拶する鳥籠のようなフォルムのドレスを着たドレッドヘアの男性モデルなど気ままに暮らすODDERたちは、最後自らを生み出してくれた母であるmotoguoに感謝するようにケーキを持って盛大なフィナーレを迎えた。

 2019A/Wに東京でもファッションショーを行なった「SHUSHU/TONG」。ショー会場前は警備員だけでは収拾が付かないほどの人だかりと熱気に包まれ、今回LABELHOODのトリを飾った。19A/Wでもキーになった"狂気的な赤色"は、今回おとぎ話「赤い靴」と1948年の映画「赤い靴」のストーリーに憑依し、呪われた"赤色の靴"により肩紐が落ちるまで踊り続けたようなドレス、パニエのドレス、体を締め付けているようなタイトコルセットなどが登場。そして毎シーズン「YVMIN」とコラボレーションしているジュエリーは美しくも逃れられない呪いを表す仮面のように顔を覆う。コレクションのアイコンでもある靴は、イタリアのシューズブランド・Malone Souliersとのコラボレーション。デザイナー自身好んで着ているコム デ ギャルソンという存在は、時に彼らの服作りにも影響し過ぎていたような気がしていたが、今回のコレクションで漸くその可愛らしさの裏側にある狂気を武器にSHUSHU/TONGらしいスタイルを確立したように感じた。

若い才能との融合

 以前、Tashaに「中国のファッションデザイナーの一つの条件として、お金持ちという印象を持っている?」と尋ねられたことがある程、暗黙の了解として中国でファッション業界に携わるには狭き門をくぐる必要がある。もちろんファッション業界に限った話ではなく、生活レベルでも中国の社会制度内の格差は確かに感じる瞬間はあるが、Tashaは半年前に「ここのがっこう」の教育精神に感動し、新しい道をつくりたいと野望を語っていた。それから半年 ― 今年夏に新しいコミュニティ「LABELHOOD YOUTOPIA」を立ち上げている。

LABELHOOD YUTOPIA

 高校生〜大学生に向けた「LABELHOOD YOUTOPIA」主催の第一回イベントでは、ファッションブランド・ZUCZUGFFIXXED STUDIOSのデザイナー、合同展示会・Ontimeshow主催者などをゲストに迎え、学生たちがファッション業界を目指すにあたり質問できるようパネルディスカッションを行う他、学生によるファッションショーなども発表した。コミュニティの活動にあたってのアドバイザーには、The Business of FashionのエディトリアルディレクターやXander Zhou、デザイナーなどが並ぶ。日本でも学生の持つ影響力は時に、フォロワーの数に値段をつけることで価値化される場合もあるが、中国では日本以上にSNS「weibo」や「RED」での波及力が侮れない。そんなパワーを持った彼らが格差や街を超えて、既存の留学で学ぶ教育システム以上の純粋なファッションのクリエイションを味わったら、どんな上海のファッションの未来像があるだろうか?現状、ファッションブランドを立ち上げるには「留学後、すぐに国内外でショールームやショーを発表する」もしくは「留学にいけない代わりに独学で服を作り、安価でもTAOBAOで売る」という格差による両極端な方法しかない。そんな社会的問題を飛び越えて、LABELHOODは新たな才能を国内で生み出そうとしている。

 これは中国に限って言えることでもないが、才能に溢れた若い芽を開花させる時は、その当事者も開花させようと成長剤を与える側も未知数な部分は往々にしてある。数々の若手ブランドを輩出してきたロンドンファッションウィーク中に開催される「FAHSION EAST」もショーデビューした後に無事自立してブランドを継続できるケースもあれば、途中で離脱してしまうブランドも中にはいる。毎シーズン新しいものを見つけようと躍起になるファッションにおいて、若い才能によるフレッシュな風が巻き起こることは当たり前であり、そのブランドの継続性や飛躍は当事者か周辺どちらに責任が加担されることでもない。変化が起きるときは、決まって賛否両論がはっきりと分かれるものの、この上海ファッションウィークの異様な循環スピードにどこまでクオリティの成長速度がついていけるのだろうか。いつだって既存のルールに対して、自ら新しいレールを引いてきた彼らの第二章が始まった。

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