リュウノスケオカザキ 2022年春夏コレクション
リュウノスケオカザキ 2022年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

Mugita Shunichi

モードノオト 2021.09.02

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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リュウノスケオカザキ 2022年春夏コレクション Image by FASHIONSNAP(Ippei Saito)
リュウノスケオカザキ 2022年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

 途轍もなかった。それは、人間の身体のカタチを必要としない(日常に於いて着ることを度外視したような)造形的なフォルムだが、男女のモデルが纏い、歩行することによってそのカタチは、必然的な、どうにも抑えることの出来ない躍動感を伴い原始的な律動が威風あたりを払い、その場の空気を震わせ、会場をどよめかせた。視覚が、恰も聴覚と直結させられたかのように、悠然と撓み、幽玄に震えるドレスの波動的な跳躍がもたらす律動が、こちらの心の奥底でジンジンと共鳴し、魂を激しく揺す振るのだ。何故だか神妙になり、何故だか嬉しくなり、何故だか暖かかい気持ちになり...恍惚状態と云うかカタルシスを得たと云うか...その得体の知れない情感がジンワリと身体に沁み渡った。不思議なことに私はそこで、ファッションショーではなく異教徒の踊りを見ていた。

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 この異端の創作は、底の浅い古着のリメークやコロナ禍に応じた俄な仕立ての自然志向のショーに慣らされ鈍ったこちらの皮膚感覚を一気に覚醒させてくれ、心の奥底に澱んでいたオリを綺麗に洗い流してくれた。私はショー終了後の楽屋に飛び込んだ。この湧き上がる感情を作り手本人に伝えたかった。それに彼と会話をしてみたかった。岡﨑龍之祐は「祈り」「左右対称」「縄文土器」「自然界の循環」と云うキーワードを挙げてくれ、その時点で私の予想は確信に変わった。と云うか、不遜に聞こえるかも知れないが、彼の言葉を聞く前に実は知っていた(身体がわかると云う感覚だろうか)。「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」のドレスは、服に似せたオブジェクトなのか。そんなことは瑣末なことである。少なくとも私にとっては。作り手の特異な創作行為に完璧に呑み込まれたのだから。取材の俎上にのせる所謂ファッションデザイナーとは、岡崎は現時点ではその質は確かに異なる。寧ろ、未だファッションの部外者に近いかも知れない。だがしかし、気力や勢いを削がれて閉塞状態にある今だからこそ、彼の創作はファッションに於ける真摯な行為と云うことが出来るし、私はその行為に与したいのである。

 旧石器時代以後の縄文時代。大陸、朝鮮の影響を受けて農耕石器や金属器が生まれる弥生時代の前の、洗練された弥生土器にはない縄文土器を生み出したその時代の只管に土着な風土、風習に、岡﨑は大いに触発されている。プリーツやドレープと云った服作りの基本となる技巧的な手法(正統的な服作り)を一切使わずに(この点が重要で、異端の創作と形容した所以である)、もっと稚拙で素朴な、それでいて尤も根源的な造形手段(たとえば、骨組みとビニールで出来た巨大な洋凧のようなドレス。勿論、生地はビニールではない)、即ち、作り手自らの手を動かす行為でカタチは成形されている。それは、往時のサンドラ・バックランドが棒針(編み棒)だけで度肝を抜くほどの紡毛ニットの立体ドレスを造形した手法に似ている。「僕はデザイン画を描きません」と岡﨑は云っているが、彼女(サンドラ)もそうだった。ウネウネとした造形線、鳥居(神社の参道入り口にある)を思わせる、完璧なまでのシンメトリーな造形線、縄文土器の持つ原始的な力強さ、曲線と直線が織り成す神秘的なカタチ、奇っ怪な縄目紋様と凸凹の土器の表面に見られる当時の人間の叡智とグロテスクな審美眼、土偶に見られる占術的で宗教的(いずれも自然崇拝と云う意味で)な意匠等々。リブニットや伸縮素材にボーンテープを縫い込みハリのある面や鋭角な線を描き、芯を入れたニットのテンションを活かして曲線を作り、無数のパーツを幾重にも繋ぐことで、「自然を内包し、自然に擬態し、自然に還っていく循環」を具現する限りなく放胆なカタチを造形している。その実、恣意的なカタチは随分と外に向けて開かれていて風通しがいい。決してテクニシャンとは云えない作者の手は、醜と美を、原始的な織物の飛白のように一つの模様として織り上げ(或いは、縄文土器のボコボコの表面のように)、その斑紋は我々の無意識の記憶を覚醒させる明快なサインとなっている。

 今回の岡﨑のドレスが偶さかにオートクチュール的なフォルムに映ってはいても、クチュール的な過程や景色を端より念頭に置いた創作ではない。それとは真逆な、服飾史に於ける異端な手法を以て、恰もオートクチュール的なフォルムを模写している。フォルムは岡﨑の特異な美的感覚と好尚によって篩に掛けられ、模写される対象に彼の野性的な感覚が加わり一層大胆な表現に磨きが掛かる。こうした、思わず超自然的な力の存在を信じてしまうほどに神秘的で美しい詩情は、武骨なユーモア(クチュールの模写)とか、魑魅魍魎の猥雑さと境界を接し、審判を下す者であると同時に、紛れもなく作り手の共犯者でもあるのだ。(文責/麥田俊一)

RYUNOSUKEOKAZAKI 2022年春夏

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