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リュウノスケオカザキが魅せる立体の造形美、いま改めて考える身体と服のつながり

「RYUNOSUKEOKAZAKI」2022年春夏コレクション

「RYUNOSUKEOKAZAKI」2022年春夏コレクション

Image by: FASHIONSNAP.COM(Ippei Saito)

「RYUNOSUKEOKAZAKI」2022年春夏コレクション

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リュウノスケオカザキが魅せる立体の造形美、いま改めて考える身体と服のつながり

「RYUNOSUKEOKAZAKI」2022年春夏コレクション

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ライター / コーディネーター
倉田佳子

 人知を越える自然の偉大さ、身動きが取れない中で自己と向き合う時間、目まぐるしく変化する現実に目を背けずに立ち止まって考える覚悟、可視化されていない世界への想像、フィジカルもオンラインも現実となってしまったいま再定義される「虚構」などなど。

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 もし時間が不可逆的に一方向へと流れているものだとすれば、これまで未来に想いを馳せていた私たちは、同じ距離の矢印を過去の記憶へ向け、それらの複雑な感情や思考を頼りに過去をひもとくことで「現在」に輪郭をもたせていくのだろう。そうでなければ、混乱する「現在」に気が落ち着かないといったほうが正しいだろうか。

 そんなことを感じ取り始めたのは、20A/W ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が発表したコレクション「タイムクラッシュ(時間の衝突)」によって壮大なスケールで演出されたショーから。「もしもファッションを育んできた数え切れない時代のすべてが、現在のこの場所に集結したら?そしてこの瞬間に、ファッションの純粋な喜びを表現した舞台で、歴史が現代の自由と対峙したら?」というコンセプトのもと、あらゆる国の1400年代から1950年にわたる衣装をまとった総勢200名のコーラスがランウェイを見守り、過去・現在のすべての年代がひとつの空間で交差した。

 今年に入ってから、ますます国内でも展示から書籍に渡りさまざまな表現で過去の記憶に向き合う姿勢は強まってきたが、そうして過去と自己に向き合う時間が深まれば深まるほど、わたしたちは自分たちのルーツを確かめたくなってくる。

 一体、現在私たちが考える哲学のもとはどこにあるのか?なぜそれを信じたくなるのか?現実さえもあやふやになるいま、「信じられるもの」とは果たしてなんのか?

 東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻の卒業展示で「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」の作品を初めてみたときに感じた感触だった。

 とはいえ、会場では実際 彼だけではなく、隣接するスペースで展示をしていた写真家・遠藤文香の作品やほか専攻の展示作品からも過去と自己への対峙の末行き着くルーツを感じ取れ、思わず一緒に展示を回っていた友人に「人間、最後はルーツを信じたくなるのかな」とぽろりと言葉を残した記憶がある。

「RYUNOSUKEOKAZAKI」2022年春夏コレクション
「RYUNOSUKEOKAZAKI」2022年春夏コレクション
「RYUNOSUKEOKAZAKI」2022年春夏コレクション

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RYUNOSUKEOKAZAKI 2022年春夏

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RYUNOSUKEOKAZAKI 2022年春夏コレクション

2022 SPRING SUMMERファッションショー

 いずれの作品においても表れていたのが、わたしたちのルーツから現在まで脈々と流れている「アニミズム」の思想。人間至上主義ではなく、あらゆる自然や動物に魂や造形を見いだし、その想像力はさまざまな神話や装飾、オブジェクト、生き物を生み出してきた。

 その考え方は、日本にいれば当たり前のことだが、人間至上主義の思想が強い西洋や欧米では、今までと違って自然の偉大さと驚異を同時に感じることで、いま一度関心が向けられている。サステナブル、スローライフ、ガーデニングなど日常にまでその思想は影響しているのは話題だ。

 それにファッションでは、ヨーロッパで特異的なポジションを誇る「イリス ヴァン ヘルペン(Iris Van Herpen)」の存在も無視できない。そのような大きな潮流のなかで、岡﨑のルーツへのピュアなまなざしは光り輝き、ショー発表前からすでにアジア圏の雑誌には頻繁に取り上げられていたのである。

 だから、ここでは縄文や祈りに対して特別にスポットライトを当てるつもりはない。

 では、大きな潮流を前提として岡﨑龍之介、もしくは近年同じく国外からも注目が集まる八木華やルーツを探り表現するデザイナーは、なぜ新しい風としてわたしたちの目をハッと覚ましてくれるのか?

 もっと意地悪な言い方をすれば、これだけ多くのデザインが出てきた中で、これからわたしたちは何に感動を覚えるのか?覚えたいのか?

 (これは単なる偶然だと思うけれど)岡﨑も八木も元々平面のデザインやペインティングからキャリアをスタートしている点が、身体に対する新たな視点になっている。

 これまで制作してきた岡﨑の作品に関しては、正直まだクチュールとしての素材の扱い方には伸び代がまだまだあるように感じる。かといって、少し重ねて見え隠れする「クレイグ・グリーン(Craig Green)」の手つきとは違うのは、身体のフォルムへのアプローチだ。          

 実はクレイグ・グリーンも同じくもともとは、ファッションデザイナーではなくアートを専攻しようとしていた。とあるインタビューでは「ファッションじゃなかったら、陶芸家を目指してたよ」と語ってる言葉から、すでに彼の手癖が読み解けるだろう。

 陶芸のろくろを回すときの回転軸をもとに、こちら側が造形をきめていくようなプロセス。かためて焼いた後に自立するようなフォルムの立ち方。そのような陶芸のプロセスを体現するかのように、彼が服でつくりあげる造形美は、まるで展示台に設置したときのように自立し固定された瞬間に迫力を増す。

 一方で岡﨑は、デザイン専攻だがファッションデザインにおいては、デザイン画を描かずに手を動かしていく。うねうねと縄文土器のような曲線が身体から逸脱しながらも、手足の動きをなぞるようなストロークを描く造形美が、クレイグ・グリーンの固定された造形美とは違うもののように感じた。モデルが歩くことで跳ねるそれらの曲線美は、まるでデジタル上でいかようにも痕跡(平面レイヤー)が重ねられるデザインのプロセスにも似ているし、平面のレイヤーをアニメーションのように動かすことで躍動感に溢れる。

 八木も同じく、もともとグラフィックデザインから立体作品へ、そして服へとキャリアを進めてきた。彼女の場合は、以前TOKIONでインタビュー際に語っていた「今後もさまざまなルーツを持った素材を使って、服の上でコラージュしていくつくり方を続けていきます」という言葉のとおり、一見真正面から見ると大胆なフォルムに見えても、はり合わせているひとつずつのピースにデザインや想いを込めている。ズームアップしてそれらのピースひとつずつを見る繊細さと、つなぎ合わされた鱗のようなピースが身体の曲線に呼応して、残像を残しながら表情を変える。

 そのような彼らの身体のフォルムを固定することなく、平面のつなぎ合わせだからこそ生まれる隙間 = 余白に、新しい造形美へのヒントが隠されているような気がするのだ。

 それは2010年代のSNS普及後に過剰までに加工した画像から生まれたBALENCIAGAのジャケットやBOTTEGA VENETAのシューズ、そして自撮りにより上半身を撮る行為から生まれたロゴTシャツや大きめのサングラスなどとも違う平面から立体への造形美でもある。

 それらの平面画像の中でもインパクトを持つ服は、自らの身体を重力関係なく誇張したり加工するような造形美に繋がり、そのありえないデザインが現実世界で平面から立体へと浮き彫りになった瞬間にハッと驚きを感じさせてくれていた。

 しかし、そこからこの数年で自然の雄大さを改めて感じ、自らの身体や自己に向き合ったわたしたちは、原点に立ち戻り、平面でもインパクトがありつつも、やはり身体と服の間にうまれる可能性を確かめたいのだろう。

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