Fey-Fey Yufei Liu
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Image by: FASHIONSNAP

Yoshiko Kurata

新進気鋭デザイナーが投げかける、現実社会へのメッセージ

倉田佳子

ライター / コーディネーター

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 パンデミック、人種差別、気候変動、そして戦争。どれも今に始まったことではなく、過去から続く社会問題であるからこそ、いまがアップデートできる最後の時ではないかと強く思ってしまう。SNSの影響もあり、めまぐるしく飛び交う情報を没入的に摂取できる混沌とした世の中で、ファッションの力とは一体なんなのか、問い直される緊張感が走っているのではないだろうか。

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 ウクライナ出身のOlya Kuryshchukが設立したメディア「1granary」は、3月初めにファッション業界に向けてロシア軍によるウクライナ侵攻に対してのオープンレターを公開。「1granary」は、セントラル・セント・マーチンズ出身のAya NoëlとOlya Kuryshchuが2013年に立ち上げたメディアで、若手デザイナーの紹介に積極的なだけではなく、ファッション業界の教育に対しての鋭い示唆を与えてきた。これからファッションデザイナーや業界を目指すZ世代のファンを多く抱えるメディアだからこそ、オープンレターに載せていた言葉は前向きで力強いものだった。

 「ファッションは力を持っています。ファッションは1兆ドル規模の産業であり、文化的、経済的、そして政治的にも巨大な影響力を持っています。危機の時代には、その力を否定し、余計なもの、軽薄なもの、ナンセンスなもの、偽善者、必要ないものと呼ぶのは簡単なことです。しかし、私たちのサプライチェーンは世界中の国々を結び、私たちのメディアは世界中の多くのフォロワーに届き、私たちが共有するクリエイティブという言語は世界共通です。私たちは、才能、スキル、ネットワーク、そしてコネクションにあふれた業界です。これらのツールは、それが大規模なものであれ、親密なものであれ、常に周囲の人々の生活を向上させることができます。今日、あなたがどこにいようとも、背中を向けないで、目を閉じないでください。」

― 引用元:https://1granary.com/designers-3/the-establishment/fashion-unites-against-war-an-open-letter-and-its-signatories/

 アジア拠点の国際的なファッションコンペティション「big design award」にノミネートした若きデザイナーたちも、ファッションを通して現実社会へとメッセージを投げかけていた。

ビッグデザインアワード 2021

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 ファッションデザイナーやファッション産業の課題解決を目指す次世代のデザイナーを発掘、支援することを目的に2019年に誕生した「big design award」。2021年度は世界28ヶ国からファイナリスト13組を選出するものの、パンデミックの影響で最終審査会をキャンセルしたことから、今回は特別に「Essential Designers of big 2021」をファイナリスト全員に授与。その中から、一部ファイナリストの作品を紹介するべく、楽天ファッションウィーク中の3月17日にショーが開催された。

 まずは、キティちゃんのように見えるバルーンドレスが印象的だった中国出身のデザイナーFey-Fey Yufei Liu。RCA卒業コレクションとして昨年夏に発表した同コレクションは、フォトグラファーHana Moonによるロンドン地下鉄やストリートでのルック写真ですでに話題を呼んでいた。一見、かわいらしさを感じるモチーフや奇妙なシルエットだが、実はそこにはユーモアに富んだ鋭い視点が込められている。

 「このコレクションテーマは、社会一般的にかけられている女性の服装への圧力に対しての反発をあらわしています。現代の女性はさまざまな場面で『ふさわしい』服を着ることが期待されているのです。そういった理想像に、疲れてしまって。『きちんとした真面目な』服装をすることで、人は私に優しくしてくれる。でも、同時に私はなんだか小さくなった気がするんです。私は常に不真面目なことを真面目にやっていたいと思っています。他人からより多くのスペースを奪い、自分自身と『自分』を小さくしていたものに無礼であることで、いま『彼女』の存在が重要になってくるのです」。

 過去のインタビューでは、彼女の出身地である中国でいまコンサバティブなスタイルが流行っている(求められている)こともコレクションのコンセプトに影響を与えていると話していた。それは言い換えれば、メジャーマーケットを知りながら、そこに相反する自身のブランドの立ち位置も確立していこうとする覚悟も持っているということ。自国を離れて活動するからこそ見えるアジアへのステレオタイプなイメージを更新したいという気持ちがその覚悟の原動力となっている。

 「長い間、アジアはファッションの支配的な言説の中で盲点となっており、エキゾチックなテーマとして静かに空想されたり、欧米のブランドの工場地帯の役割を担ってきました。しかし近年、中華圏や東南アジアの多くの現代文化プロデューサー、デザイナー、アーティストがその役割を変え、『声高に』語り始め、世界から注目され、評価され始めています。私は、この潮流がさらに発展することを期待しています」。

 同じく現代社会を生きる女性としての体験や心境を伝えるのは、RCA卒業のイスラエル出身のデザイナーNoga Karpel。六本木ヒルズに展示されているクモの彫刻作品「ママン」で有名なアーティスト、ルイーズ・ブルジョワからインスピレーションを得ているコレクションだという。

 「ブルジョワの女性らしさの表現方法は、私の女性としての経験や芸術的な哲学と共鳴しています。私はファッションを芸術的な表現の手段として使っていて、ファッションこそこの世界に生きる女性としての経験を伝える素晴らしいツールだと思っています。制作のプロセスは、とてもテラピューティック(セラピー治療のようなもの)です。視覚的な選択とシンボルの背後にある文脈と意味を理解するために、精神分析に取り組んでいます」。

 ルイーズ・ブルジョワも、同じく自身の幼少期の体験から女性の声を代弁するメッセージなどをただ単に悲観的ではなく、人々に安心感やゆるやかな連帯感を与える表現として作品を通して伝えてきた。

 ルイーズの作品「Give or Take」からインスパイアされたという、550本ものミニチュアの手の彫刻が鎖のようにつながってできているドレスは、3Dプリンティングによるもの。「他の多くの現代的な現象とは対照的に、ファッションにおいては、クチュール、ハンドクラフト、ヒューマンタッチに対する評価が再び高まっているように感じます」と話すとおり、女性の身体をかたどったレザーコルセット、股の部分が見えるボリューミーなスカートなどクチュールのような手作業と、現代的な技術が組み合わさることで、過去から続く女性の声を現代へと繋げた。

 「コルセットの細部にわたる特徴や、腹部の形状に注目したシルエットを採用し、快適でサポート力のある補助するようなコルセットを作ることを目指したのです」と語るのは、韓国出身のデザイナーGyouree Kim

 抑制的で不健康なものとして捉えられてきたコルセットを、デザインだけではなく、もちろん環境面も考慮したアイデアで現代社会へと更新している。

 「私のデザインにおいて重要な要素は、美的感覚、持続可能性、そしてクラフトマンシップです。私は、人間がより自然に近づくために影響を与えられるような作品を作ることを目指しています。環境に対する共感、関心、配慮が、人間と環境を調和的に結びつける衣服のデザインに対する私の信念を築き上げました」。

 「バイオ・コルセトリー」と自身のコルセットを呼ぶ背景には、廃棄になる古着のアップサイクルに加えて、実験的に再生可能な素材を使っていく試みも含まれている。

 「よりよい世界、よりよい未来をつくるために、私たちはファッションや自分らしさを追求しながら、自然を安全に、ヘルシーにする方法を考えなければなりません。既存の素材、デッドストックの生地や使わなくなったものなどの廃棄物を利用することが重要です。また、サステナブルな素材を研究するにあたって、自分自身が何をしているかを知って、得た知識を他の人と情報を共有することも大切です。例えば、"My Favorite Enemies "では、衣服が完全に分解され、短時間で自然に溶解するバイオマテリアルを試すことにしました。古着、古布、古材をいつも買い集めていて、そこでの出会った人々やコミュニティも励ましていきたいと思っています」。

 「トッズ(TOD’S)」とCSMの協業によるイタリアのクラフトマンシップを次世代へ引き継ぐプロジェクト「TOD’S ACADEMY」にも2020年にノミネートされたLucile Guilmard

 今回のコレクション「SHEER GOOD FORTUNE, Cheers, J’ai de la Fortune」を「A tale without a tail (終わりのない物語)」と説明するように、1枚の型紙から6種類の服へと展開するパターンメイキングを発表した。

 「再生可能で自給自足」「創造性の鍵がその先の空間につながること」とポエティックなコレクションノートに記されたキーワードたちは、様々な日常的な素材―古布やサランラップなどーを金箔貼り、ガラス吹き、かぎ針編み、下駄、シーラーの5名の職人と協業する創造によってかたちとなった。クラフトマンシップを大切にする彼女は、いつか日本を訪れる際は伝統工芸や文化と出会い、それらを外部の視点から文化盗用するのではなく、今あるもので一緒に新たな発見を生み出していきたいと語った。

 自分の出身地を「地球」と表記するデザイナーSAKIAは、多文化な家系に生まれ育ったことがブランドのコンセプトに大きな影響を与えていると話す。

 「移動の自由や帰属意識といった社会的な課題が私のデザインの原動力になるんです。私にとって、ファッションとアクティビズムは密接な関係にあります。人々は偏見をなくして考えを受け入れていくために、ファッションは重要な役割を担っていると思うんです」。

 「Dis-Armed」と題したコレクションは、直訳すれば「武装解除した」という意味になるが、SAKIAはメンズウェアの視点で軍服をアップサイクルすることで、もともとユニフォームが象徴する画一的なイメージにとらわれずに解きほぐそうとしている。

 「デザイナーの使命は、常識にとらわれずに考えること」というポリシーを持った彼女だからこそ、自身の個人史的な体験をもとに社会に充満する既存の価値観をデザインの力で打ち壊し、新たな帰属意識を生み出そうとしているのだ。

 「現実であれ想像であれ、社会的な隔たりや『逃亡者』を見つけなければいけないという根強い価値観に不快感を覚えます。その代わりに、場所や外見に関係なく、抽象的な概念である『ディスプレースメント(置き換え)』が私たちの具体的な故郷になるべきだと信じています。そのコンセプトのもと、わたしは芸術性とデザイン活動を通じて、代替的で永続的な哲学をつくりだしています。多文化な家系に生まれた私は、グローバル化した現代人を体現しているように感じています。ブランドを通して、どこにいても世界の誰であろうと、自分自身を見つけることができるようなコンセプトを多くの人と共有したいと思っています」。

 ファッションやクリエイションには、社会へ直接的な効力がないにしても、彼らの言葉の通りゆたかな未来を想像して前進するためのメッセージを投げかけられることはできる。そしてそこから新たな対話が生まれることで、この先も個人個人が考え想像して行動することの大切さを忘れないでいられるのではないだろうか。

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東京大学大学院情報学環教授 池上高志

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