ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「Career Naked」。今回登場いただくのは、SHIBUYA109 lab.所長の長田 麻衣氏。再開発が進む渋谷で、若者の文化やSHIBUYA109の価値はどう変わっていくのか。Z世代の世界観やSHIBUYA109マーケティングの醍醐味について、自身のキャリア形成とともに語っていただいた。
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長田 麻衣さん/SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部 SHIBUYA109 lab.所長
1991年、東京生まれ。学習院女子大学を卒業後、総合マーケティング会社にて、主に化粧品・食品・玩具メーカーの商品開発・ブランディング・ターゲット設定のための調査やPRサポートを担当。2017年、株式会社SHIBUYA109エンタテイメントへ転職し、SHIBUYA109のマーケティング担当となる。現在、SHIBUYA109 lab.の所長として、毎月200人のaround20(15歳〜24歳の男女)と接する日々を過ごしている。
堀 弘人さん/H-7HOUSE合同会社 CEO・ブランドコンサルタント
1979年 埼玉県生まれ。米系広告代理店でキャリアをスタートし、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど数々の外資系ブランドにてマーケティングディレクターを含む要職を歴任したのち、楽天の国際部門にて戦略プロジェクトリーダーとして活躍。20年以上に及ぶ自身のブランドビジネス経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。NESTBOWLをはじめとして様々な企業、政府系機関、ベンチャーなどのブランド戦略構築に幅広く参画している。
日本文化を学び、魅了された学生時代
― 現在、学生と触れ合う機会が多いSHIBUYA109 lab.の所長をされていますが、長田さん自身はどのような学生時代を過ごしていたのでしょうか。
通っていた女子高では、部活が楽しくて没頭していました。軽音楽部でベースを弾いていたんですよ。80年代、90年代のバンドをコピーしていましたね。休日は渋谷に服を買いに行くのが楽しかったです。もともと、皆が楽しんでいることをくまなく知ることが好きなんです。東京生まれなので、渋谷は身近で庭みたいな存在でした。中でもSHIBUYA109(以下、109)は、皆が好きなものが全部集まっていて、皆が熱中しているトレンドの中心だった記憶があります。
─ その後、進学された学習院女子大学では、マーケティングを専攻されていたのですか。
いいえ。日本の流行を海外へ発信することに興味があって、国際文化交流学部に進みました。日本人の精神論や民俗学の授業や、書道や茶道、十二単の着付けなどの実技もある学部です。この学部を通じて、日本の文化は細部にまで気遣いが行き届いていることが素晴らしいと感じました。例えば、十二単の着付けだと、前と後に着付けをする人がいるんですよ。外から見たら絶対見えないような結び方にまでこだわりがあって。そういうところがとても好きですね。
― なるほど。そこから、どのようなきっかけでマーケティングの会社に就職されたのでしょうか。
2020東京オリンピックも控えていましたし、日本の文化や魅力を発信するなら広告代理店がいいかなと思っていましたが、就活はあまりうまくいきませんでした。そんな時に、たまたまベンチャーのマーケティング会社の人と話す機会があり、「広告代理店みたいな仕事ですよ」ということだったので、入社してみよう、と。ですから、この会社に入社するまで調査やマーケティングについての知識はまったくありませんでした。(笑)入社して3年間は、お客様の課題を聞いて、それに適した調査を提案し、一緒に取り組んでいく営業の仕事をしていました。
マーケティングへの興味から109へ転職。SHIBUYA109 lab.の設立へ
― それから現在の株式会社SHIBUYA109エンタテイメントに行かれたんですね。転職のきっかけは? また、会社の概要について教えてください。
企業と調査の仕事をしていくうちに、自分も事業会社でマーケティングをやってみたくなり、ちょうどタイミング良く2017年4月に設立された株式会社SHIBUYA109エンタテイメントで、マーケティング部門を立ち上げる求人を見つけました。昔、私自身もお世話になった109が今どうなっているんだろうと興味がわいたのが転職のきっかけです
現在、SHIBUYA109渋谷店とMAGNET by SHIBUYA109(マグネットバイシブヤ109)という2施設の運営に加え、大阪市阿倍野区と鹿児島市にある施設を運営しています。それから109ブランドを生かした事業を展開しており、エンタテイメントポップアップ店舗の運営や「“未だ”世に出ていないブランドを“今”発信していく」をコンセプトとしたIMADA MARKET(イマダ マーケット)事業や食のインキュベーション事業のイマダ キッチンなどがあり、その中のひとつにSHIBUYA109 lab.があります。
― SHIBUYA109 lab.は、社内ではどのような位置づけなのでしょうか。
SHIBUYA109 lab.には、109のマーケティングと外部企業から依頼を受けるマーケティングコンサルティングという2つの顔があります。2017年に転職した際は、109のマーケティングをやるつもりで、マーケティングコンサルは考えていなかったんです。でも、当時の社長に「得た知識やデータを外に売っていきたい」と言われて。前職はまさにそういった仕事だったので、「こんなサービスで」「価格はこのくらいで」と自分で枠組みを作って、SHIBUYA109 lab.という名前も決めた上で、「私、所長やってもいいですか?」と。(笑)社長から「いいよ」って言われて、まさかこんな感じで進むとは私も含め誰も思っていませんでした。
若者と同じ目線になることを大事にする
― そんな経緯があったのですね。SHIBUYA109 lab.が、渋谷の若者をリサーチ対象にしたマーケティングコンテンツを活用する意義や目的についてもお聞かせください。
109が若者にとって魅力的な施設となり、皆が楽しく毎日を過ごせる世界を作っていく、というのがSHIBUYA109 lab.の方針です。これは、企業理念の「Making You SHINE! -新しい世代の“今”を輝かせ、夢や願いを叶える-」に則っているものです。中でも、若者と同じ目線になることを大事にしていて、研究対象として客観的に見るより、同じ目線で彼らの感覚とか価値観をとらえて一緒に話しながら考えるよう心掛けています。
― この年代は、たった5歳の差で好きな音楽やアーティストが大きく変わりますから、常にアップデートできる環境は素晴らしいです。ところで、クライアントに対する事業展開において、現在はどのようなニーズが多いのでしょうか。
「Z世代」がバズワードになっていることもあって、彼らがどのように生まれた世代で、生まれた時から身近にあるSNSをどのように活用しているのか理解したいというニーズは多いですね。
クライアントの「誤解」で、Z世代との間に大きなギャップを生じさせている部分もたくさんあります。例えば、若者がSNSを使う理由は、「有名になりたい」「インフルエンサーになりたい」からだろうという誤解ですね。実は、有名になりたいと思っている子ってそんなにいないんです。彼らは、自分ひとりが飛び抜けたいのではなく、周りの子とコミュニケーションを取るためにSNSに投稿しています。
また、Z世代は社会課題に関心が高く、SDGsやサステナブルを押し出せば商品を買うはず、という誤解もあります。でも、そんなことはありません。(笑)実際、彼らが社会課題に興味を持っていても、サステナブルを意識した商品は価格が高くて手が届かない。それよりも「かわいい」を優先しますね。「かわいい」と思って手に取ったらサステナブルだったというほうが受け入れられやすい。この「かわいい」は、彼らが好きな世界観によって定義がかなり細分化されていて、物体そのものよりも雰囲気やテイスト、空間の世界観のような部分に「かわいい」を見い出しているようです。だから、「大人」対「若者」にならないように同じ目線から背中を押してあげる空気感を作っていく提案をしていますね。
― Z世代の若者は「有名になりたい」「お金持ちになりたい」というより、すごく堅実志向で安定を求めて生きている子たちが多い印象もあります。
はい。それに真面目だし、周りの目をとても気にします。例えば、SDGsに関心があっても、自分の考えを伝えて周りがどう思うか気にしたり、間違うリスクを心配したりします。失敗しないように慎重になっていますね。
たとえば高校1年生の子から「マーケティングの仕事に就くには、どの大学を選んでどの仕事を選べばいいですか?」とキャリアの相談を受けたことがあります。私なんて、その頃は部活は何部に入ろうかしか考えてなかった。(笑)ですが、彼らは失敗しないためにかなり準備している印象です。そのためか、躊躇したりスイッチが入るタイミングが遅かったりするんですよ。
もうひとつの特徴は、コミュニケーションのスキルがとても高い点ですね。対話はもちろん、写真や動画からかなりの情報を読み取ります。ずっとSNSを介して、やりとりしてきたからこそのスキルだと思いますが、写真の加工を見るだけで、その人が自分と同年代か少し上か分かるそうです。(笑) 反対に、電話や長文のコミュニケーションはプレッシャーを感じて苦手らしく、LINEですら返信はすぐに来ません。
― とても興味深いです。次に、「渋谷」というエリアについてのお話を伺います。この30〜40年、渋谷は情報やブームの発信拠点で、109はその象徴とも言えます。世界にも影響を及ぼしてきた渋谷発の文化やファッショントレンドの形成において、109はどのような役割を担ってきたとお考えでしょうか。
渋谷は、若者もいて、ビジネスマンもいて、文化村のほうにはセレブなシニア世代がいて。少し前だと外国人も多く、新しい文化と古い文化と混ざり合いながら共存する懐の深さがある街ですね。その中で、道玄坂から109のエリアは、常にその時代の最先端が集まっている日本の中心のような場所で、だからこそ多くの若者が集まる場所になっています。また、東京近郊や地方の子たちは109に強い憧れを持ち、気合いを入れて行く場所、というイメージがあるようです。
今大きく変化する渋谷。でも109は変わらず若者を見続ける
― 現在、渋谷は再開発で大きく変わりつつあります。109も何か変わっていこうとしているのでしょうか。それとも、変わらないままでしょうか。
それは、圧倒的に後者ですね。少子化によって若者の数が減っているから、もっと上の世代を狙って収益をあげたほうがよい、という見方もあるようですが、私たちはいつの時代も若者を見てきましたし、15才から24才の「around20」の人たちと一緒に109を作っていくと決めています。
― 最後に、ご自身のキャリア形成については、先ほどのお話でそれほど深く考えず出合ったものを形にしてきたということでしたが、NESTBOWLの読者に今後の転職やキャリアアップについて何かアドバイスはありますか。
キャリアを見るとそれぞれが点で見えますが、ひとつ常に意識していることがあって、5年先までの自分のなりたいイメージを毎年更新しているんですよ。思い描いた通りになることはそんなにありませんが、人生の中で自分がどうありたいかというのを解像度高くイメージすることは大事だと思っています。
あとは、自分を客観視するために思ったことを文章に残しています。悩みも書きますね。ノートの片側に自分の悩みを書いて、反対側に別の人の視点で「それな」とか「どうなんだろうね」とか対話しながら反応を書いていきます。「それ、向いてないよ」って書くこともあります。(笑)一旦書き出してみて他人だったらどう思うかを書くことで思考を整理していくんです。向いていないことを頑張ってやるより、向いていることに振り切って自分が楽しいと思うことや得意だと思うことをやるように意識しています。私自身そうすることで、次のキャリアの糸口が見えてくる気がしています。
― ありがとうございます。
長田さんに終始一貫しているのは、「若者と同じ目線に立つ」ことを第一に今後もマーケティングをしていくという姿勢。これこそが、時代を超えて街並みが変わっても、109が若者にとっての憧れの場所でありつづける真価を形成しているのかもしれません。
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撮影:Takuma Funaba
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