


企業経営者が語った2026年度の戦略について取り上げてみたい。大手アパレルメーカーのそれはこぞって若年層向けブランドを拡充するというものだった。成長する都市型、SCやECなどのチャネル開拓が引き続き欠かせないという判断のようだ。従来、主な販路としてきた百貨店の経営環境が厳しさを増し、そこに縋っているだけでは先が見えてしまう。というか、大手アパレルメーカーの凋落はバブル崩壊後も百貨店との取引を継続するために、減価率を下げたことで品質が劣化し顧客離れを起こしたことが元凶にある。まあ、ファストファッションの隆盛を見れば、若年層は質よりトレンド重視と言えなくもない。だが、若年層シフトは抜本的な解決手段になるのだろうか。
振り返ると、大手アパレルは百貨店市場の縮小による売上げ不振から、店舗閉鎖やブランドの廃止、希望退職車の募集といったリストラ策を断行してきた。ワールドは2020年8月、約200人の希望退職者を募集するなど人員削減を実施した。21年には複数のブランド事業を終了し、約450店舗の撤退を決定。その後はB2C事業と並行して、他社への経営ノウハウ提供や生産支援を行うプラットフォーム事業(B2B)を強化し、収益源の多角化を図っている。25年11月には、ジーンズカジュアル専門店のライトオンを完全子会社化して再建に着手したが、若年層へのアプローチがスムーズに進むかどうかは予断を許さない。高齢化した顧客層から新たな客層にシフトするにも、ブランドや商品開発、販路の整備がようやく緒についたばかりで、先行きの不透明さが懸念される。
イトキンは2016年2月、投資会社インテグラルの傘下となり、社長の辻村章夫はじめ創業家は経営不振の責任をとって退任。副社長だった前田和久が社長に就任し、インテグラル側からも会長と取締役2人が送り込まれた。表立ってワールドのような大規模なリストラ策は見られないが、希望退職の募集や契約更新の終了などが行われたことは想像に難くない。売上げ不振の店舗を閉鎖したり、派遣を含めて人員が整理されてはいると思うが、レディスを中心にメンズ、キッズの製造販売は継続されている。さらに24年春には高品質で高感度なEAUVIRE (オーヴィル)をデビューさせた。専門店系アパレルという本来の立ち位置を見直し、作り込んだ服を市場に投入していく。これも戦略の一つと言える。その意味で、EAUVIREはジャケット・ワンピース10万~15万円台、ニット・カットソー8万円台。高価格帯の商品をいかに売っていくかが同社再生のカギを握る。
三陽商会はバーバリーのライセンス契約終了が経営に大きな打撃となり、2016年、18年、21年と希望退職者の募集といった大規模なリストラを余儀なくされた。駅ビルやSC、ECに活路を見出そうとしたが、競争相手が乱立で勝機は見出せない。マッキントッシュロンドンは本家本物に良さを知る層の引き剥がしを含め、顧客開拓ができていないし、クレストブリッジはバーバリーの穴を埋めるには商品力、ブランドともに余りある。他の商品はレベルがグローバルSPA程度なのに、ブランドで仕掛ければ売れると履き違えているように見える。同社が得意とする高品質なベターゾーン、コンテンポラリーなテイストは、古参ブランドばかりになって売場が陳腐化しているので、新たなブランドの登場が待ち望まれている。やはり国内生産と百貨店の売場をダイレクトに繋ぐ上質な単品ブランドを展開し、コーディネートパーツとして空白のマーケットを埋めた方が勝算があるのではないか。

大手アパレルが凋落したのはアパレルの国際分業が進んで、中国などの新興国に生産委託が進んだこと。その結果、商品を自社で開発する体制が萎んで付加価値のある商品を生み出しにくくなったこと。規制緩和による定期借家契約が導入され、郊外SCの開発に伴って店舗投資がローコスト、付加価値の低下、効率の悪さに陥ってしまい、それまでの収益構造を完全に壊してしまったこと。新興国の市場拡大に合わせてファストファッションが台頭し、それに合わせて各社が低価格戦略を打ち出すがあまり消耗線に巻き込まれてしまったこと。円安インフレが拡大する中、付加価値のある商品開発が進まず、デジタル整備にも出遅れて、販売効率が低下やコスト高の直撃を受けて収益構造が行き詰まってしまったこと、がある。
これらの主要因を見極め、各社が単に販売不振を長引く不況とデフレにせいにし、人員削減やブランド廃止のみに終始していたのでは、売上げ回復などおぼつかない。従来の販売拠点だった百貨店に展望が開けない中、都市型SCなどでも展開を視野に入れ、それらがターゲットにする若年層向けのブランド開発を試みようとしているが、競合乱立、レッドオーシャンの中で果たして勝算はあるのだろうか。
若年層を開拓するブランドをM&Aで傘下にいれる

大手アパレルはこれまでにも若年層を開拓する上で、自社ECやファッション専門サイトを通じたデジタルの活用、OMO(オンラインとオフラインの融合)ストアを新たに開設して顧客にリアルな購買体験をしてもらう、インフルエンサーやアイドルをアンバサダーに起用しSNS戦略による価値観の共有を生み出すなど、様々な接点を創り出そうとしてきた。ただ、肝心な商品作りが後回しになっていては、若年層にはなかなか響かない。そこでついに若年層向けブランドの拡充と都市型SCや主要都市での店舗展開の段階に来たということだ。他にもコラべレーションやポップアップストアの出店、イベントの企画などがあるが、ここではまず肝心な商品をどう手当するかについて考えてみたい。
レディスキャリアのマンションアパレル時代、会社の社長がいつも口酸っぱく言っていたことがある。商品を開発するセオリーだ。1.マーチャンダイジングを設計する。2.それにそってデザインする。3.デザインに合った素材を調達する。4.パターンには手を抜かない。5.生産仕様を決める。ついつい、企画やデザインに主眼を置けば売れる商品が作れると思いがちだが、決してそんな簡単なことではない。中小零細のマンションアパレルであっても、ここまできめ細かく考えてものづくりを行うんだと、思い知らされた。大手アパレルになると、どうだろう。これらに加え、仕上げや物流の段階での加工など価値の付加、在庫の配分、直営店におけるVMD構築までが加わるのではないか。
商品開発では、いくつもの条件を重ねて売れるものが生み出せるのだが、それをもやったからといって必ず売れるとは限らない。大手アパレルとしては中高年層の市場が萎んでいるから、若年層狙いに切り替えるのは手段としてはあり得る。さらに既存のプレーヤーはデザインやテイストという勢いで市場を開拓しているに過ぎないと判断すれば、大手アパレルのノウハウを加味することでより強固なブランドに仕立てられるとも考えるだろう。ただ、若年層をターゲットにするなら、企画デザインに当たるスタッフも同世代の方が共感が得られる可能性は高い。そう考えると、大手アパレルがゼロから企画チームを立ち上げるより、若年層向けのD2C(Direct to Consumer/自社のECサイトやSNSを通じて消費者に直接商品を販売する)ブランドをM&Aで傘下に収めた方が得策だと考えてもおかしくない。
D2Cブランド側も、ネット販路で顧客の反応が確実に上がったにしても、さらなる展開を考えるには莫大な資金を必要とする。クラウドファウンディングなどで集めるにしても、それだけではおぼつかない。自社ブランドのレベルと客層拡大の可能性を認めてもらい、投資をしてくれる企業があれば、是非とも縋りたいという気持ちはあるだろう。とすれば、大手アパレルが「コレは」と思うブランドとマッチングできれば、その後の展開もスムーズに進み、互いがウィンウィンの関係になれる可能性も出てくる。D2Cブランドをアパレル版のスタートアップ企業とみなして出資を行ったり、M&Aで傘下入りさせたりする事業モデル。ゼロからブランドを企画開発するより、手っ取り早いということだ。

海外には、成功事例がある。フランスのSézane(セザンヌ)は、DNVB(Digital Native Vertical Brand)の代表格。オンライン販売を軸に成長し、現在はパリを中心に実店舗も展開している。高品質で手の届きやすい価格帯のアイテムで、毎月特定の日にオンラインで新しいコレクションを発売する手法が顧客の期待感を高め成功に貢献している。 Rouje(ルージュ) は人気ブロガーのジャンヌ・ダマスが立ち上げたブランド。彼女の世界観を反映したパリジェンヌらしいヴィンテージシックなスタイルが特徴だ。こちらもSNSを駆使したマーケティングで急速にファンを獲得し、スタートアップから人気ブランドへと成長した。 その他にも多くのベンチャー企業が存在し、政府主導のフレンチテックなどエコシステムが全体の発展を後押ししている。フランスではサステナビリティやテクノロジー(Fashion Tech)といった分野での新しい動きが活発だ。
米国はどうか。Bonobos (ボノボス) はメンズのD2Cブランドとしてスタートした。フィット感に優れたパンツを中心に人気を博し、オンライン販売だけでなく、試着専門の実店舗Guideshopを導入するなど、独自の販売戦略を展開。現在はディスカウントストアのウォルマートに買収され、その傘下で事業を拡大している。徹底的な透明性を掲げる Everlane (エバーレーン)は、 製品の原材料費や製造コスト、輸送費、適正な利益率などを公開し、消費者の信頼を獲得。現在も資金調達を重ね、現在も成長を続ける有力なブランドになっている。 SKIMS (スキムス) は、ソーシャライト(社交界の著名人)でモデルのキム・カーダシアンが共同設立したシェイプウェア。ボディポジティブや多様なサイズ展開を重視し、SNSを活用したマーケティングでブランド力をあげた。2022年1月時点で企業評価額が32億ドル(約4200億円)を超えるなど、非常に短期間で巨大企業へと成長している。

日本のD2Cアパレルもデジタル技術を活用した事業モデルやSDGs、多様性など明確なブランド哲学を打ち出すことで、大手アパレルとは異なるアプローチで成功を収める可能性は高い。ただ、そこまでに達するには資金調達や専門人材が不可欠になる。大手アパレルが若年層向けのブランド開発を模索するなら、こうしたスタートアップやベンチャー系のアパレルと提携するの一つに手だと考える。D2Cの多くはマーチャンダイジングやデザイン、パターンメイキング、素材調達や生産仕様まではできても、仕上げ加工、在庫配分やフォロー、店間移動、VMDまでのノウハウは持ち合わせてないから、大手アパレルが投資をすることでこれらに長けた人材を送り込むことはできるはずだ。ただ、大手アパレルに必要なのは、D2Cに対し金は出しても商品開発で口は出さないこと。ある意味、投資家に近いスタンスの方がいい。
商品開発への過度な介入を避け、デザイナーが自由に事業を推進できるようサポートする程度の距離感を保つ。得てして日本の大手企業は金は出すが、口も出すところも少なくない。でも、そうなると、若手のスタッフが萎縮してしまい、能力を発揮できなくなる。大手アパレルはスタートアップ企業や若年層向けブランドに投資し、その成長を加速させることで将来的な成長による株式売却益やIPOといったリターンを狙えばいいのだ。もちろん、ブランドを見極める目が必要だし、投資回収が困難になるリスクもあるが、アパレルビジネスには資金提供と被資金提供だけの関係ではなく、成功を信じて伴走するパートナーシップも重要な役割を果たす。そんな時代に入ったということである。
※当コラムは2010年ごろからGoo Blogにて執筆をスタートしました。ですが、25年11月18日でサイトのサービスが終了し、Amebaへの引越しを致しました。過去14年にわたる月別アーカイブは、2011年から併載していますlivedoorブログ(http://blog.livedoor.jp/monpagris-hakata/)でご覧いただけます。
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