
アーティストの津田道子が手掛けた「銀座メゾンエルメス」のウィンドウディスプレイ
Image by: © Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon

アーティストの津田道子が手掛けた「銀座メゾンエルメス」のウィンドウディスプレイ
Image by: © Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon
「エルメス(HERMÈS)」が、旗艦店「銀座メゾンエルメス」を舞台にメゾンの世界をより深く伝えるプログラム「ランタンエルメス」を今年もスタートした。3回目となる今年は、エルメスがメゾンの表現の場として大切にしてきた「ウィンドウディスプレイ」にフォーカス。アーティストの津田道子が手掛けた秋のウィンドウディスプレイを11月24日まで展開しているほか、関連イベントやコンテンツを展開する。今回のディスプレイは、商品やオブジェの単なる展示にとどまらず、ウィンドウを覗き込む通行人の姿をカメラで捉え、時間差でモニターに映し出すというユニークな仕掛けが特徴。街ゆく人々を知らず知らずのうちに作品の「一部」として巻き込んでいく。
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同プログラムの一環として、9月18日には銀座メゾンエルメス10階の「ル・ステュディオ」で、津田とアートプロデューサー・ライターの住吉智恵によるトークセッションを開催。テーマの解釈や制作の背景、見どころについて語った。

トークセッションの様子
Image by: Nathalie Cantacuzino
ランタンエルメスは、2024年に始動。今年は、銀座メゾンエルメスの外壁に連なる大小18のウィンドウを舞台に、アーティストの津田がエルメスと今年の年間テーマ「冒険の呼び声(L'appel du large)」を紐解き表現した、物語性のあるディスプレイを展開している。エルメスでは、店舗のウィンドウを「街にひらかれた劇場」と位置付け、年4回ほど、その年のテーマや季節に合わせたディスプレイを国内外のアーティストやデザイナーが手掛けてきた。その歴史は、1920年代のパリ・フォーブル~サントノレ通りの店舗で、手袋の陳列に工夫を凝らしたディスプレイを行ったことに遡る。
今回ディスプレイを手掛けた津田は、インスタレーション、映像、パフォーマンスなどの多様な形態で、鑑賞者の視線と動作によって不可視の存在を示唆する作品を制作。Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024を受賞したほか、2025年には銀座メゾンエルメスの「ル・フォーラム」でのグループ展「スペクトラム スペクトラム」に参加した注目のアーティストだ。
気づけば自分もその中に、「冒険の呼び声」を体感する2つの大窓
津田が手掛けた秋のウィンドウディスプレイのタイトルは、「Looking Beyond- その向こう側へ」。「冒険は、遠くへ行くことではなく、『向こう側を見てみたい』と希求することから始まる」と捉えた津田は、2つの大ウィンドウに「冒険の呼び声」が訪れる瞬間を表現した。
正面右のウィンドウは、柵の隙間から「向こう側を覗き込む」仕掛けになっており、背面に設置されたLEDビジョンには、津田が昨夏訪れた与那国島で撮影した、海と空を背景に野生の馬たちや人が歩く風景が映し出されている。



Image by: © Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon
一方で左のウィンドウには、誰かが生活する「日常の部屋」を表現。旅先から持ち帰られたものや、まだ見ぬ世界を想像させるものが並ぶ中、奥のモニターには、右のウィンドウを覗き込む通行人の姿が、数十秒の時間差で映し出される仕組みとなっている。右のウィンドウで遠くの異世界を覗き込んでいた人々は、左のウィンドウへと歩みを進めたとき、モニターの中に「少し前の自分自身の姿」を発見し、自分がすでに冒険の一部となっていることに気づく、という体験を生み出している。

Image by: © Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon

Image by: © Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon
建物の側面に連なる16の小窓のディスプレイは、「キネティック」「あちらとこちら」「与那国」という3つのカテゴリーで構成。見る位置によって像が重なり、向こう側とこちら側が入れ替わるような仕掛けが施されており、スカーフのカレが波や船に、ブレスレットやリングが水中の気泡へと姿を変えるなど、エルメスのオブジェたちが別の存在や役割に見立てられている。







Image by: © Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon
津田道子が語る、身体性と偶然から生まれた「冒険」の舞台裏
津田と住吉によるトークセッションでは、この緻密に設計されたウィンドウディスプレイの制作背景を紐解いた。
◆偶然の出会いが作品に、「冒険の呼び声」とリンクした与那国島での体験
対談の序盤、住吉は津田の過去作に言及。実際の自身の家族や猫を被写体にした、“コントロールできない身体”の動きを捉えた映像作品や、家族(父と母、子)の属性を入れ替えることの気持ち悪さを表現した実験的な作品などを紹介した。
また住吉は、津田自身がコロナ禍を機にランニングを始め、トライアスロン大会への出場や、昨年のメゾンエルメスでの展覧会会期中にはランニングワークショップを開催するなど、アーティストには珍しいアスリート的な身体感覚や視点を持つことに着目した。津田は「ランニングを始めると、自分の身体の状態などを内観することができるようになった。スポーツや身体はすごく『現実』で、そこが『身体性』をテーマとする作品とも通じている」と語った。

(左から)津田道子、住吉智恵
Image by: Nathalie Cantacuzino
今回のウィンドウのインスピレーション源となったのも、趣味のダイビングで訪れた与那国島での体験だ。「何が撮れるか分からないけれど行ってみよう」とカメラを携え、島をランニングや車で巡っていた際、道を塞ぐ野生の馬の群れと遭遇。地元民が車で道を開けながら進んでいく様子に圧倒され、道の真ん中に急遽カメラを置いて撮影を試みたという。「なぜ行くか分からないけれど何かあるかもと思ってカメラを持って行き出合った」というこの時の記憶が、エルメスの今年の年間テーマ「冒険の呼び声」を聞いた瞬間に結びついたことを明かした。

トークセッションの様子
Image by: Nathalie Cantacuzino
◆街ゆく人を巻き込む、二重三重の「罠」のような仕掛け
津田の作品の特徴である「鑑賞者の視線を巻き込む仕掛け」は、今回も健在だ。左右のウィンドウを連動させ、右のウィンドウを覗き込む通行人の姿を数十秒のディレイ(時間差)で左のモニターに映し出すというアプローチは、2025年に同メゾンのル・フォーラムで開催された展覧会での手法を発展させたものでもある。
住吉が「横から見ると手品の種明かしが見えるようで、しめしめと思って見ていると、その姿が撮られている。二重三重の裏のかき合いで、油断していると死角を狙われているような感覚」と表現すると、津田は「罠を仕掛けてほくそ笑んでいるわけではないのですが、ゲームは楽しんでいます」と笑顔を見せた。


「銀座の通りでは、人々は周りを見ることに意識が向かっていますが、不意に自分が見られる対象になる。単純にカメラで撮って数秒後に見るだけのことですが、信じられないくらい『これが自分なのか』と感じるはず。自分の知らない姿を発見するきっかけを作れたら」と、その仕掛けに込めた意図を語った。
◆エルメスのオブジェが主役に、16の小窓で表現した物語
一つひとつに世界観が表現された16の小窓のディスプレイについて、津田は「電源が取れない」という制約を逆手に取り、電気を使わずに動きを想起させるアナログな「キネティック」の仕掛けを施したと語る。
また今回は、エルメスの商品からインスピレーションを受け、「オブジェに役を与える」という新たなアプローチにも挑戦したという。「馬が飛び出しているように見せたり、ダイビングの時の気泡をリングやブレスレットに見立てるなど、いろいろな見立てをしました。いつもならもっと物理計算をして作りそうなところを、今回は商品を主役にしようと思いながら、自分との力関係をいろいろと変えてみました」と、従来の緻密な制作手法や作風をあえて「少し手放す」ことを楽しみながら制作した裏側を明かした。






Image by: © Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon
メゾンが街を照らす夜に特別な体験を——「ランタンイブニング」開催
銀座メゾンエルメスでは、10月と11月に津田が手掛けたウィンドウを巡るツアー「ランタンイブニング」を開催。メゾンに灯が点り「マジックランタン」のように街を照らす夜の時間帯に実施される同イベントでは、18のウィンドウディスプレイを歩いて巡りながら紹介するほか、参加者だけの特別な体験として、津田が監修したサロンにも入ることができる。イベントへの参加は無料で、特設ページから事前予約を受け付けている。

最終更新日:
■エルメス ウィンドウツアー「ランタンイブニング」
10月開催日:2026年10月14日(水)、22日(木)、23日(金)、29日(木)、30日(金)
11月開催日:2026年11月4日(水)、5日(木)、13日(金)、18日(水)、19日(木)、20日(金)
※事前予約制。11月枠は10月17日(土)10:00予約開始。
時間:各日2回(19:45〜/20:45〜)※所要時間約30分、各回完全入れ替え制。
場所:銀座メゾンエルメス
所在地:東京都中央区銀座5‐4‐1
参加費:無料
予約ページ
■ランタンエルメス:特設サイト
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