
【アーリーエイジングケア特集】近年、海外のビューティ市場でも「アンチエイジング」に代わる新たなキーワードとして、「ロンジェビティ(健康寿命、長寿)」が存在感を高めている。従来のエイジングケアがシワやたるみなど加齢による変化への対処だったのに対し、ロンジェビティは老化そのもののプロセスにアプローチし、エイジングを“遅らせ”、健康的な状態を長く維持することを目指す。
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その背景にあるのは、若年層のウェルネス意識の向上や、コロナ以降に強まったスキンケアブーム。若いうちからエイジングを“予防”しておきたいというニーズが高まり、ロンジェビティを意識した製品開発やビューティとウェルネスの融合など、市場を大きく動かしている。
中国では以前から、「25歳になったらエイジングケアを始める」という考えは珍しくないそうだが、実際に20代からエイジングケアを謳うスキンケアを使用したり、アイクリームを愛用していたりする。日本では40〜50代に人気のエイジングケアラインが、中国では20〜30代がボリュームゾーンということも珍しくない。競争社会が顕著な中国では、美容を自己投資と考える風潮もあり、若くからエイジングケアをすることでエイジングを“予防”するニーズがあった。
しかし近年、この風潮はグローバルマーケットにも広がりつつある。米国ではコロナをきっかけに大きなスキンケアブームが到来。これまでメイクアップが強かった市場だが、コロナをきっかけに、体の健康を意識する延長線上で肌もケアするニーズが高まった。さらに若年層でK-POPの普及が相まってK Beautyが市場に進出し、スキンケアの中で10製品もライン使いする “10 step skincare routine”や“水光肌”を目指す “glass skin skincare routine”などが流行った。このスキンケアブームは一過性で終わることなく今でも続いており、美容大手各社の決算でもスキンケアブランドの業績が好調だ。
小学生がセフォラに殺到?
この流れで大きな問題になったのが、“セフォラキッズ”だ。コロナを経てスキンケア意識が高まり、SNSでもスキンケアを紹介する動画が一気に増えた。特に若年層に人気のTikTokでは、スキンケア動画を “Skintok”と呼ぶほど、大きなブームになっている。それらを見た小学生や中学生などが、セフォラでスキンケア製品を求めるようになった。問題なのがインフルエンサーが取り上げたレチノールやピーリング製品など、小中学生には肌に刺激を与えうる製品までも欲しがるようになったことだ。中でも小学生やティーン世代に「ドランク エレファント(DRUNK ELEPHANT)」がSNSでバズったが、親からのクレームや批判が集中し、声明文を出すまでに事態は発展した。
”セフォラキッズ”に言及したキャンペーン”please enjoy responsibly(責任をもってお使いください)”。子どもではなく、適齢の大人に使ってほしいというメッセージを込めている
こういったことを受け、アルファ(2010年頃から2024年頃生まれ)~Z世代層向けに作られたスキンケアブランドが台頭しており、中でも「バブル(BUBBLE)」や「バイオマ(BYOMA)」が人気を集めている。若年層にアピールするカラフルなパッケージと「保湿」「ニキビ」など若年層特有の肌悩みに特化したアイテムを展開。ニールセンIQによる調査では、2023年の米国におけるスキンケア市場の伸長のうち、約50%はアルファ世代から来ているという結果も。多くのビューティブランドにとって、スキンケア需要の若年化でターゲット層が広がり、大きな商機のひとつともいえるだろう。
新学期をコンセプトにした「バブル」のSNS動画
製品開発でもロンジェビティを意識
若い層で人気のバイオマもロンジェビティにアプローチ
すでに出てしまったエイジングサインをケアするのではなく、さらにこれからでてくるであろうエイジングケアを先に“予防”しておきたいというニーズは、若年層だけでなくあらゆる層にも広まっている。そこで登場するのが冒頭の“ロンジェビティ”という概念だ。直訳すると「長く生きる」「長寿」という意味だが、ビューティ・ウェルネスの文脈だと「肌の健康寿命を延ばす」「健康的に年齢を重ねる」という意味で使われることが多い。さらにここから派生して、すでに表面化したエイジングサインではなく、老化のプロセスそのものにアプローチしたり、研究したりするブランドが増えている。
「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」は、スキンロンジェビティ(長寿美肌)をうたっており、細胞の長寿を促すサーチュイン遺伝子にフォーカス。栄養科学や皮膚科学の先生だけでなくウェルネスのエキスパートなどを集めたロンジェビティコレクティブ(長寿研究者のスペシャリスト)を結成しているほか、世界皮膚科学会でも研究結果を発表している。「ランコム(LANCOME)」は2025年にロンジェビティを冠した新ライン「アプソリュ M.D.」を発表し、日本でも9月5日に発売した。老化のメカニズムに着目し、35歳未満の若年層、35-55歳のミドル層、56歳以上のアッパー層向けと、老化の各ステージにおける製品を展開している。

「エスティ ローダー」のロンジェビティコレクティブ。公式サイトから
「タッチャ(TATCHA)」は日本の長寿地域(沖縄)のロンジェビティの考え方から着想を得て、肌のレジリエンス(回復力)にフォーカスしたスキンケアとウェルネスの概念を融合した美容液「ロンジェビティセラム」を発売している。ロレアル(L'OREAL)傘下のダーマコスメブランド「ヴィシー(VICHY)」もDNA修復や細胞老化などの老化の根本原因に着目した製品を揃える。さらに、これらの製品やロンジェビティの考え方を消費者に伝えるべく、今年の2月にパリでポップアップ「ヴィシー ロンジェビティ クリニック」を開催した。そこでは美容だけでなく栄養学やヘアサイエンス、肌分析、ウェルネスなど幅広い分野におけるロンジェビティサイエンスの研究結果を一般消費者にもわかりやすく披露した。

「タッチャ ロンジェビティ コレクション」
「ヴィシー」のポップアップ「ロンジェビティクリニック」の様子
また、スキンケアは化粧水や美容液だけでなく、エイジングを予防するという意味で日やけ止めなどのサンケアカテゴリーも急伸している。ユーロモニターの調査によると、2024年におけるグローバルサンケアマーケットはグローバルスキンケアカテゴリー全体の伸長率の約3倍拡大している。日やけした褐色肌が一種の美容の価値観になっている欧米においても、日差しが強い日やレジャーなどのオケージョンのときだけに日やけ止めを塗るのではなく、日ごろから日やけ止めを塗る習慣が根付きはじめている。
ウェルネス市場は10年前から2倍以上に
なお、このロンジェビティの波はビューティだけにとどまらない。コロナを経て健康意識が高まっている中で、ウェルネス市場全体が大きく拡大している。グローバルウェルネスインスティチュートの調べによると、世界のウェルネス市場は2023年から2024年にかけて7.9%成長し、2024年は過去最高となる6.8兆ドル(約1020兆円)に達した。この市場規模は2013年に比較して2倍以上に拡大している。かつてウェルネスはヨガや瞑想、サプリメント、スムージーなどがメインだったのに対して、今はテクノロジーの台頭もあり、アップルウォッチやオーラリングなどのヘルスアプリ・デバイスも一般家庭の中でも普及した。日々の歩数や心拍数、消費カロリー、睡眠時間、ストレスなどを計測するのが当たり前になりつつあり、これらの管理によって老化のスピードを緩める狙いだ。
さらにウェアラブルデバイスだけでなく、たとえば「ハッチ(HATCH)」という目覚まし時計もSNSで話題で、メディテーションコンテンツが聴けたり、自然光を模した光で自然な目覚めを促したり、毎日の睡眠ルーティンを作ったりするなど、睡眠の質を上げるデバイスとして人気を博している。公式インスタグラムでは子供の睡眠の質をあげるためのコンテンツだけを集めたサブアカウントを運用しており、幼い頃からのウェルネスを提唱している。さらにロレアルがケリング(KERING)のビューティ事業を3月に取得した際、単なるビューティのライセンスだけでなく、ウェルネス分野における長期的なパートナーシップと発表したのも記憶に新しい。

「ハッチ」の子供の睡眠の質の向上を指南するインスタグラムのサブアカウントより
このように睡眠、運動、栄養、ストレス管理までを含めて肌を考える消費者が増え、美容ブランドも健康全体を提案する方向へシフトしている。かつての「どう若く見えるか」から「どう健康的に年齢を重ねるか」への価値観の変化が大きく市場を動かし、今後はビューティとウェルネスの垣根を超えた“長寿美容”を謳う製品が増えていくだろう。
最終更新日:
エディター・ライター
幼少期をアメリカ・ニュージャージー州およびマサチューセッツ州で過ごし、13年間在住。2015年にINFASパブリケーションズに入社し、「WWD JAPAN」でファッション・ビューティ双方の記事を執筆。2021年に副編集長に就任、同年に退社。エディター・ライター・翻訳者。
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