Fashionインタビュー・対談

【対談】HATRA×Synflux、効率化の先にあるクリエイティブは「新たな人間像の創造」 AIが変えるファッションデザインの未来

左)川崎和也、右)長見佳祐 Image by FASHIONSNAP.COM
左)川崎和也、右)長見佳祐
Image by: FASHIONSNAP.COM

 テクノロジーとの関係が密接になってきたファッション業界。中でもコーディネート提案やトレンド予測、ロジスティクスなど活用の場が広がっているのがAI(人工知能)だ。膨大なデータを分析・処理できるAIを活用することで効率最適化が進むが、ファッションのクリエイティブ面にはどんな影響を与えるのか?AI(人工知能)とアルゴリズムを活用した「アルゴリズミック・クチュール(Algorithmic Couture)」を用いてパーカを作り上げた「シンフラックス(Synflux)」の川崎和也と「ハトラ(HATRA)」の長見佳祐が、デジタルツールの可能性を探りながらファッションの本質を議論する。

川崎和也(Kazuya Kawasaki)
スペキュラティヴ・ファッションデザイナー/デザインリサーチャー/Synflux主宰
1991年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクスデザインプログラム修士課程修了(デザイン)、現在同後期博士課程。バイオマテリアルの可能性を模索する「Biological Tailor-Made」、機械学習のアルゴリズムとの共創を目指す「Algorithmic Couture」など、ファッションが持つ未来志向・思索的な創造性を探求する実践を行う。主な受賞に、H&M財団グローバルチェンジアワード特別賞、文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出、Dezeen Award Design Longlist、STARTS PRIZE、Wired Creative Hack Award、YouFab Global Creative Awardなど。オランダ・ダッチデザインウィーク/南アフリカ・デザインインダバ招待作家。Forbes 30 Under 30 Japan 選出。監修・編著書に「SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて」(ビー・エヌ・エヌ新社、2019)がある。
Synflux オフィシャルサイト

長見佳祐(Keisuke Nagami)
HATRAデザイナー
1987年広島生まれ。2006年に渡仏、クチュール技術・立体裁断を学ぶ。2010年にHATRAを設立。「部屋」のような居心地を外に持ち出せる、ポータブルな空間としての衣服を提案する。現在では3Dクロスシミュレーションソフト「CLO」の応用を通し、新しい身体表現の在り方を模索している。主な出展に「Future Beauty -日本ファッションの未来性-」「JAPANORAMA」など。2018年度 JFLF AWARD受賞、2019年度 Tokyo新人ファッションデザイナー大賞選出。
HATRA オフィシャルサイト

ファッションデザインにおける研究開発を行う「シンフラックス」とは?

ーお二人は何がきっかけで知り合ったんですか?

川崎:僕は慶應義塾大学SFCの水野大二郎研究室出身なのですが、そのつながりで長見さんと知り合いました。当初は直接お話したことはなかったのですが、僕が取り組んでいたデジタルやバイオの実践についてディスカッションさせて頂いて以来、プロジェクトを協働しています。長見さんは本当にオープンな人で、これまでのファッションではあり得ないような発想もフラットに議論に付き合ってくださると同時に、衣服制作の知見についてもしっかりアドバイスを頂いたりと、共同作業はとても楽しいです。

長見:個人的にはファッションビジネス学会がきっかけかなと思っています。「WIRED」前編集長の若林恵さんをゲストにお迎えしてトークセッションなどをやっていたんですが、そこで出会った水野先生だったりゼミ生とコミュニケーションをとる中で、川崎くんとはいつかは会うだろうなという予感があって。急接近が1年前という感じですね。

ー出会った時にはAI(人工知能)とアルゴリズムを活用して廃棄物ゼロの新しいパターンメーキングを提供する技術「アルゴリズミック・クチュール」の開発に着手していました。

川崎:そうですね。今もまだ完成とは言えず、日々開発中です。現状は原型となるβ版がちょうど出来上がったという段階でしょうか。長見さんとお会いしたのは、のちに受賞することになるH&Mファンデーション(H&M Foundation)主催の「第4回グローバル・チェンジ・アワード(Grobal Change Award)」に向けて制作を始めたくらいのタイミングだったと思います。

ーシンフラックスのチーム結成は2019年ですね。

川崎:メンバーの5人のほとんどは、水野大二郎研究室で学業を共にしていました。ファッションブランドなどではあまりみられませんが、専門性もそれぞれ異なっています。僕と佐野虎太郎はファッションが専門なのですが、ライゾマティクス(Rhizomatiks)出身の清水快はエンジニア、藤平祐輔は建築家、浅田史音はデザインリサーチャーです。活動全体は、僕が「ラボドリブン・ファッション」と呼んでいる枠組みで展開しています。IT企業や技術革新に関心があるアパレル・ファッション企業とのR&Dやデザイン受注を、アルゴリズミック・クチュールを始めとした自分たちのプロジェクトで得た知見を最大限に生かして展開します。最近では、大手商社の豊島と共同でプラスチック再生素材とアルゴリズミック・クチュールを組み合わせたプロダクトを開発しました。こうした経験も、結果的に自分たちのサービスであるアルゴリズミック・クチュールのアップデートにフィードバックするんです。このように、商品だけではなく自社サービスと他社との共同プロジェクトがパラレルに共進化するようなファッションの取り組みを、アトリエやメゾンと対比して「ラボ」と呼んでいます。

長見:僕がアルゴリズミック・クチュールを最初に見たのはプロトタイプなんですが、正直なところ面白そうだけどだいぶ粗いなと感じてしまって(笑)。

川崎:詰めきれてなかったですよね(笑)。

長見:おこがましいんですけど、プロトタイプを拝見して僕が入る意味があるのかもと思っちゃったんですよ。それでH&Mのグローバル・チェンジ・アワードに向けてスエードなど素材の手配をお手伝いしました。長期的に何かやろうという話ははじめにお会いしたときからしていて、この段階ではコラボというより技術的や生産背景の面でお手伝いをしました。そこから徐々に共同制作が本格的に始まったという感じです。

AIが持つ可能性

ーその後プロジェクト「AUBIK」で、アルゴリズミック・クチュールを用いたパーカを共同開発。現在スイス・バーゼルの美術館で展示されています。

川崎:アルゴリズミック・クチュールとハトラのメインプロダクトの一つであるパーカを融合したプロトタイプver.1です。技術として2つポイントがあります。1つ目は型紙です。パターンメイキング時に出てしまう布の廃棄を最小限にするため、機械学習のアルゴリズムを応用しています。型紙製作の過程における、2Dと3Dの往来によって、約15%から20%の生地のロスが出てしまうという問題があります。その問題を解決するために、直線裁ちからインスピレーションを得たパターンを自動的に生成するアルゴリズムを作りました。2つ目が柄です。約200万枚の動物の画像を機械学習し、架空の動物柄を生成し、パーカにプリントしています。これは問題解決を目指したというよりはある種、遊びのようにプログラムをいじっていた際に生まれたアイデアです。柄は実在する動物に見えなくないような気もするし、グリッチやエラーが入っているような気もする。そういう意味では、「キメラ」のグラフィックパターンと呼べるかもしれません。

ー動物の目のように見える箇所もありますね。

川崎:おそらく目だと思います。生成された200万枚という人知を超える画像はとても全て確認できる量ではないのですが、「これは目っぽいね」といったように、多様な解釈が可能な柄が生まれたというのは面白いと思っています。

長見:デザインの視点で見ると切り替えがすごく多くて、僕らが普段着ている服と比べると過剰ですよね。もちろんサステナブルで快適な服の造形というのがゴールですが、僕は人の想像力を超えたAIのようなデジタルツールとのコミュニケーションから服を作ることに興味があったんです。今回はプロトタイプであるがゆえの不完全さ、過剰さを引き受け、ハトラなりの解釈をもって服に仕立てました。不完全さ、過剰さをポジティブに感性みたいなものとして見立て扱うことで、なにか新しい発見ができないだろうかというのがハトラ側からのアプローチです。

ーなるほど。型紙には直線が沢山ありますが、通常のものと同様ここで裁断するということですよね?

川崎:そうです。

長見:このプロトタイプにおいては、人がハサミで裁断をしているんですけど、将来的にはカッティングも自動で、縫製も自動で、というのが望ましいですよね。

川崎:データフロー全体を包括的にデザインすることが必要になるので、製造現場とのすり合わせが鍵になるような気がしますが、最終的にはそれが目標です。

ー裁断、切り替えが増えるとミシン糸の量が増えると思います。それは結果としてサステナブルなのか、そういう議論もありそうですが。

川崎:そこは課題の一つです。ロス削減の問題は全てをいっぺんに解決することは非常に難しいため、僕らは布帛の廃棄という個別の問題にフォーカスして開発を進めてます。全体の最適解にたどり着くまでにはまだ時間がかかるのは確かですが、プロセス全体において廃棄が出来るだけ少なくなるように技術の更新を続けていきます。

長見:実はパターンの最終結果はこんなに分割されていなかったんですよ。あえて分割を途中段階まで戻してもらって、システムの癖やどういう構造で成り立っているのかを視覚的にハッキリさせようと僕が提案してこういう形になりました。

AI活用で必要になるファッションの"本質"

ー服としてみたときのパーカのクオリティもキチンと担保されていますね。

長見:このプロジェクトは縫製工場フクルさんの協力があって実現したのものです。代表の木島さんは「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME des GARÇONS JUNYA WATANABE MAN)」でパタンナーをされていて、フクルでは将来的にマスカスタマイゼーションのサービスを構想されていると伺っていたためこういう無茶振りにも対応して頂けて(笑)。縫製仕様から提案を頂いたりと、まさにエンジニアリングの部分で多大なご協力を賜りました。試行錯誤を繰り返したので完成したのは展覧会開催のギリギリにはなりましたけど、本当に感動的な仕上がりになったと思います。パーカの右半分がハトラ、左半分がアルゴリズミッククチュールで作ったパターンからなり、ある種異様な造形をしていますが、一方でディティールや仕様についてはリアリティのある現代服らしさを引用しています。

ー元となるパターンはハトラが製作した?

長見:そうですね、うちが起こした3Dポリゴンモデルをベースにしています。

ーアルゴリズミック・クチュールを使って一から服を作ることは可能なんですか?

川崎:意匠設計を含め、デザインを全て人工知能に代替させるという方向性のことでしょうか。僕たちは現状その目的のもと開発を進めているわけではありません。というのも、個人的にファッションデザイン全体を構成する世界観の構築を人工知能に代替させるといったような、極端な立場はあまり支持していないところがあるからなんです。むしろ、AIに過信するのでもなく、他方恐れすぎるのでもなく、アルゴリズムと「共創」するための新たなデザインツールが求められていると思います。とはいえ機械学習の領域を概観すると、ルック画像ベースで需要予測のためのデザインイメージを生成するという諸研究は最近結構散見されるのは確かです。

中国でAIがデザインした服がデザインコンテストで2位になったというニュースもありました。

川崎:他にも「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」がデザインを全てデジタル化しようとする過程の中で、パーソンズ美術大学の学生とコラボレーションして、これまでのトミー・ヒルフィガーのコレクションの写真を学習結果をデザインの参考にするといったようなプロジェクトもありました。あるいは「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデザインアーカイブをAIに学習させて"機械によるバレンシアガコレクション"として作品を発表したロビー・バラット(Robbie Barrat)も注目を集めていますね。

長見:ロビーは「アクネ ストゥディオズ(Acne Studios)」とも今シーズン協業していましたね。

ー新しいデザインを追求したいという点は共感できるところですか?

長見:世界的に見ても、機械学習から新しいデザインを生み出したいという欲望は少数派ですよね。この動画作品「TUNER|調律体」はittanというAIアーティストの方と制作したんですが、本当に色々と気づきを与えてくれました。動画形式でずっと揺れているイメージを提案してくれるというのは、静止画に比べてデザイナーとして飲み込みやすいというか、それは実際作品になって初めて気づいたことで。単一の解を僕は創造的に受け入れられないのだなという。

川崎:これは作品として面白いですね。

長見:そうなんですよ。背景を取り込んだところが結果として良かった。服だけ切り抜いた学習結果もテストしましたが、断然こっちの方が面白い。異なる構図、異なるライティングがぐちゃぐちゃに混ざりあっていて。この作品を見て、服を見るってそういうことだよなと改めて思うことができました。

川崎:個人的にファッション領域におけるAI応用で不満なことがあるとすれば、あえて端的に言うと、服の画像ばかりを学習していることなんです。確かにビックデータを前提として特定の条件の衣服イメージをとにかく大量に生み出したいとすれば、それは合理的な開発方針であるとは思います。ただそれらの方針はファッションがもつポジティブな文化的特性とはかなりかけ離れているため、デザイナーがインスピレーションを得るようなことは無いような気がするのです。ファッションにおいてデザインの源泉になるのは、日常やストリートの風景だったり、自然や宇宙などの抽象的なイメージだったりしますよね。服のデータを大量に学習すれば、創造的な服のデザインが出力されるだろう、と言うのは単純すぎると思うのです。もっと、「解釈の余白」があるような生成データがパラメトリックに生み出されると面白いと思います。あるいは、AIを合理性のもとで利用するのではなく、「誤用」を前提として過剰に使い倒す方向性も楽しそうかなと。架空の動物柄も、そういった方針のもとに生まれたプロジェクトなんです。

長見:僕もそう思います。基本的に服は人一人が着るだけでは成り立たないもので、人と人の間に漂う関係性が大事。何かと何かが関与して生まれるファッションというものを捉えるためには、服の画像のみ学習しても不十分なんじゃないかと思います。

ーファッションという言葉はかなり曖昧ですが、定義付けるなら関係性だと。

長見:はい。

川崎:ファッションを関係性と理解するのはデザイナーならではの解釈です。工学による技術革新が過度に期待されるような現代においてこそ、テクノロジーとファッションの関係性を創造的に切り結ぶ取り組みを、共感していただけるデザイナーや企業とどんどんやっていきたいです。

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