自分も日本中の人たちも、世界中の人たちも、みんな暗闇の中でもがいている。それは約40年にわたってモードの最前線に立ち続ける川久保玲とて同じだ。彼女が今シーズン掲げた主題は「DARKROOM(暗い部屋)」。「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」2021-22年秋冬コレクションは、コロナ禍に希望を灯す一筋の光となるのだろうか?
(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
暗闇の会場にモデルが現れた気配がした。暗くてよく見えない。モデルはランウェイの中央まで歩みを進め、立ち止まったらやおら、スポットライトに照らされた。背中しか見えないけれど、白のスーツ(パンツはショートパンツ)の上に、PVCで覆われた黒のコートを羽織っている。
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4人目のモデルは、私の目の前で立ち止まった。1人目と同じように白のスーツを着ていて、ショートパンツの下に「COMME des GARCONS」と書かれたストッキングを穿いている。足元は5cmほどのヒールパンプス。デコラティブなヘッドピースは、アメフトのヘッドギアのようにも見えるけど、何をモチーフにしているのか判別できない。
白のスーツが5ルック続いた後は、一転して黒ベースのルックに切り替わる。まるでオセロのように。シャネルツイードのチェックのジャケットには、いささか不釣り合いなアメフトのユニフォームのようなパンツを合わせている。足元はナイキの90年代のバスケットシューズの名作「フォームポジット(FOAMPOSITE)」をベースにしたスニーカー。黒と白の2色があり、ぐるぐる巻く渦のようなモチーフが横のフォームの部分に描かれている。
中盤に入ると、鬼の顔のようなモチーフが描かれたワンピースを着たモデルが登場する。その上には、横幅10cmほどに切り取られたコートのようなジレを羽織っている。そしてモヒカンのようなヘッドピースが照らされるのを見て、それが何なのかようやく気がついた。正体は裏返しにされたヒールパンプスだった。
黒地に緑や黄色の花のモチーフのシャツを挟んで、アフリカの人形やインディアンを連想させるモチーフのジャカードニットが登場する。前出のワンピースやこのニットの絵柄は、アメリカのコンテンポラリーアーティスト、ウィリー・コール(WILLIE COLE)の手によるもの。昨今はアートのキャンバスでしかないクリエイションが散見されるが、この共演はちゃんと互いを引き立て合っていて、黒と白を基調とする世界観に完璧に溶け込んでいる。
終盤のメインはインサイドアウトのコートとジャケット。たっぷりしたシルエットのコートは、後ろの首の部分を大きく摘んでいて、裏地と表地が一体となったフロントよりも強い主張を感じる。カラーパレットは、緑と黄の花柄と千鳥格子を除けば、白と黒で統一。柄はウィリー・コールの作品の他、大小のグレンチェックが目立つ。
ラストは全身黒のモデルたちが、暗闇の中を闊歩する。スポットライトで照らされるわずかな時間を目を凝らすようにして見た約10分のランウェイ。川久保はプレスリリースでこのように説明している。
クリエイションは、視覚のみならず、六つの感覚すべてが重要な働きをする、暗闇の中にこそ立ち上がるのではないでしょうか。
私たちは今、闇に包まれたこの世界で、新しいものを見つけ出さなければなりません。
しかし、例えば、暗室の中で像を結ぶ写真のように、創造や発展、進歩も暗闇の中から生まれることができるのです。
私たちは皆、暗闇の中でもがきつつも、前に進まなければならない。それぞれが置かれている立場で、より良い世の中を作るために前に進まなければならない。それはクリエイターや指導者だけに課された使命ではなく、地球人すべてに課された使命なのである。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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