
ディオール 2026年春夏オートクチュールコレクション
Image by: Dior

ディオール 2026年春夏オートクチュールコレクション
Image by: Dior
フィンセント・ファン・ゴッホの「ひまわり」やクロード・モネの「睡蓮」が物語るように、花の造形美は古くから芸術家たちの創造の源泉だった。この美の探求は、パリを代表するクチュールメゾン、「ディオール(Dior)」にも深く息づいている。創設者ムッシュ ディオールが愛した庭園の花々、ジョン・ガリアーノやラフ・シモンズといった歴代のデザイナーが紡いできた美意識。その種を継承する新クリエイティブ ディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が今、新たな花を咲かせた。
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ジョナサンが初めて手掛けた2026年春夏オートクチュールコレクションが体現したのは、自然と芸術の驚異を凝縮した「ヴンダーカンマー(驚異の部屋)」。人の手がどこまで自然の美に迫れるのか。儚い花の命を永遠に留めるかのように、その魅力を作品に宿した。
「私が今まで見た中で最も美しい花」
舞台となったのは、パリのロダン美術館の敷地に建てられた特設会場。天井一面にシクラメンが植えられ、天地反転の世界に誘われる。シクラメンは、ジョナサンが昨年10月にディオールのウィメンズコレクションを発表する前、尊敬する人物の一人で「私のヒーロー」と称するジョン・ガリアーノから贈られたもの。「私が今まで見た中で最も美しい花だった」と回想する黒のシルクリボンで結ばれた花々が、今回の着想源になったという。それを再現した花束が、今回のショーの招待状として招待客に届けられた。
本物と見紛うシルクの花々
「クチュールは、現在の検証とその再構築を通じて、新しいかたちで捉え直すためのレンズです」と語るジョナサン。熟練のクチュリエによる人工物と自然のままのフォルムが共存し、数千年の時を超えて形成された隕石や化石から18世紀の貴重な織物、革新的なマテリアルまで、進化と変容により新たな命を吹き込んだ。




コレクション全体を貫いていたモチーフは花。天然の美しさをクチュールで表現するという、詩的で繊細なアプローチが見てとれた。花そのもののフォルムを模したドレスをはじめ、アクセサリーや装飾として用いられたシルクの花々は、生花と見紛うほど緻密に再現されている。






「シクラメン」と名付けられたミニドレスは、歴代のデザイナーが再解釈してきた1949年春夏コレクションの「ミス ディオール」ドレスを彷彿とさせ、シルクの花びらを隙間なく刺繍。歩くたびにスカート部分が弾んでポジティブな華やかさを演出した。


マグダレン・オドゥンドの陶磁器と杉本博司の写真
もうひとつの特徴は、有機的なシルエットだ。ショーの序盤に登場したシルクジョーゼットのドレスは、先に発表されたプレタポルテコレクションのミニドレスを進化させたデザインで、卓越したカッティングと縫製技術の結晶。彫刻家マグダレン・オドゥンドによる擬人化された陶磁器の構造的なフォルムと、流れるようなドレープが身体の曲線や動きを際立たせる。ファーストルックはその名をとり「MAGDALENE」と名付けられた。そして同じフォルムのセカンドルック「CYCLADIQUE」は、コレクションのティーザーとして杉本博司による写真作品にも用いられていた。



風合い豊かな糸を手織りしたネップツイード、鳥籠のようなボリュームのネット、温かみのあるハンドニットなど、革新的な構造とサヴォアフェールがクチュールの言語を拡張。多様なテクスチャーとボタニカルな装飾が調和し、オーガニックな魅力を湛えている。






隕石や化石までもジュエリーに
バッグやシューズにも物語が宿る。アイコニックな「レディ ディオール」は陶器のようなフォルムで再解釈され、アーカイヴのクッション、小動物やてんとう虫といった愛らしいモチーフも。






ロザルバ・カッリエーラやジョン・スマートといった芸術家が描いた、18世紀のオーバル型ミニチュア芸術作品が、パールフレームのブローチに。シルクと真鍮で模った蘭の花のイヤージュエリー、そして時間の痕跡を刻む隕石の破片や化石にも輝きを与え、装飾として用いている。「クチュールを身にまとうことは、それを収集し、そしてそれを作り出した精神を、共感をもって引き継ぐこと」と話す、ジョナサンの頭の中の「驚異の部屋」が具現化した。






ジョン・ガリアーノがショーに出席
ショーのドラマティックなハイライトは、会場に訪れたジョン・ガリアーノの姿だった。ジョナサンから贈られた花束を手に、招待客の一人としてアナ・ウィンター(Anna Wintour)とともに入場し、穏やかな表情でフロントローに着席。2011年の事件によりディオールを去ることになったジョンがこの場に立ち会ったことは、クリエイティブなバトンが受け継がれ、メゾンに新たな時代が到来したことを意味するだろう。ジョナサンの過去への深い敬意と未来への探求、森羅万象を包摂する視座が、歴史的メゾンの真髄を浮き彫りにした。
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