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24歳バイヤー三品颯樹と値札のないジュエリー店 「平置きでもカッコいい」を求めて

 ヴィンテージジュエリーショップ「ディッシーズヴィンテージ(Dishy's Vintage)」をご存知だろうか。24歳のオーナー 三品颯樹がヨーロッパ中を旅して集めた、各国の風土や歴史を映す風変わりなシルバージュエリーが、耳の早い服好きの間で密かに注目を集めている。「イケてる」という意味のスラングを店名に掲げる通り、ジュエリーに関する膨大な知識を蓄えながらも、セレクトの基準は一にも二にも「カッコいい」こと。評価が確立された有名ブランドには目もくれず、自身の目利きのみを頼りに未知の珍品を求め続け、店頭にはあえて値札をつけずに商品を並べる。「『エルメスを売っている店』ではなく、三品颯樹の店でありたい」。そう語る同氏に、人気古着店「ヨウラン(YAURAN)」で開催されたポップアップストアの店頭で話を聞いた。

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「給料をほぼ全ベット」22歳でスタートしたバイヤー生活

──キャリアのスタートはイギリスと聞きました。イギリスでバイイングを始めたきっかけは?

 イギリスの大学院への留学を目指したものの、円安の影響で学費を工面できずに頓挫してしまい。もともと服が大好きで学生時代は古着屋でアルバイトをしていたので、ワーキングホリデーを利用して本場のイギリス服を見て回ろうと決めました。そして、ロンドンでアパレル販売の仕事をしながら、日本の古着屋のバイイングを手伝うようになりました。

──では、最初は服の買い付けを?

 はい。ただロンドンは古着が高くて、日本できちんと商売になるような品を集めることは難しかった。そんな中で、比較的手頃だったのがシルバージュエリー。手伝いで見繕ったものが服よりも評判が良かったりして、個人としても買い付けるようになりました。最初はポケットマネーで9点。友人たちが買ってくれた売り上げ金でさらに仕入れ、販売の仕事で稼ぎが安定してからはその給料も買い付けにほぼ全ベットして、どんどんのめり込んでいきました。

──何が三品さんを突き動かしたんでしょうか?

 古着好きの方には共感していただけると思うのですが、古着屋でジュエリーのラインナップまで面白いお店はすごく少ない。自分が消費者として感じていた「欲しいジュエリーがない」「ヴィンテージが高すぎる」といったような不満が原動力になりました。世界には素敵なヴィンテージが山ほど眠っているのに、知らせずにいるのはもったいないと。服とジュエリーの買い付けを十分な質と量で並行することは難しい。ならば、専業でしかできない熱量と手間をかけて、歴史に埋もれてしまいそうな優れたデザインを掘り起こそうと決めたんです。

──服とジュエリーの買い付けはどう違いますか?

 そもそも、古着とジュエリー・小物が買える場所って、重なっているようで実は重なっていなくて。それに、バイイングの勘所もかなり違う。服の場合は店のテイストに合うかなど、大きな物差しで選んでも問題が起きづらいですが、ジュエリーの場合はサイズ選びなどがよりシビアなので、もっとミクロなバイイングをしないといけません。当然、ものを見極める上で必要な知見も異なります。

──具体的にどういったところでジュエリーを探しているんですか?

 イギリスとフランス、北欧一帯を中心にヨーロッパ中を回っています。現在はワーキングホリデーの期限が切れて帰国しているのですが、帰国前の1ヶ月は、先ほどの国々に加えてオランダやベルギー、ドイツ、イタリアなど10ヶ国ほどで買い付けを行いました。田舎も都会も満遍なく見て回りましたね。付き合いのあるディーラーはもちろん、アンティークマーケットやオークション、リサイクルショップみたいなところまで行くので、本当にキリが無くて。ジュエリーの匂いがするところは徹底的に見ます。無い時は本当に一つも無かったりするので、一ヶ所でドカンと定期的に買えるわけではない。どれもが旅の中で出会った一期一会の品です。

ドイツで買い付けたというブレスレット。ヴィンテージの世界であまり語られない地域にも光を当てるのがディッシーズ流。

求めるのは「平置きでもカッコいい」デザイン

──地域ごとにデザインの特色がありますか?

 歴史や文化の違い、地理的な特性が色濃く反映されていると感じます。例えば銀山が多い北欧では、戦前はカトラリーやお皿、花瓶といった銀製品を作る工房がたくさんあった。そして、大量生産が加速し銀製品の需要が減っていく中で、ジュエリー産業が盛んになったという流れがあります。また、女性の社会進出が早かったので、女性が自己表現のために自分でジュエリーを買うという文化がある。北欧のモダンで彫刻的なデザインは、ジュエリーをファッションとして楽しむ土壌が支えたものと感じます。また、家具などを含めたデザインの大きな潮流の影響もあるでしょう。

 一方で、シグネットリングやウォッチチェーンなど、男性の装身具から始まったイギリスやフランスのデザインはより無骨です。線が太くてがっしりとしたフォルムが多く、凝った彫金が入っていたりとクラシックな印象。デンマークは花や葉、スウェーデンは水や岩など、自然をモチーフにした有機的な線が特徴の北欧とは対照的です。他にも、イタリアはより華やかな足し算のデザイン。ラインが繊細で、面が輝くような処理をされていることが多いです。

──服におけるタグ同様、ジュエリーでは刻印も出自を知る手掛かりですよね。

 最初は何も知識がなくて、分からないことはインターネットで検索して調べていました。英語の情報をフランス語に翻訳して調べて、見つけた資料をまた英語に戻して、という地道な作業です。買い付けを続ける中で、親しくなったディーラーから教えてもらったり、訪れた国で大きな図書館に行って昔の本を調べたりもして。国・年代ごとの刻印やジュエリー製造のルール、デザインの特徴など、見聞きした情報はすべてデータベースに蓄積しています。その甲斐もあって、買い付けのスピードは創業当初よりも格段に速くなりましたね。

──知見が蓄積された今でも、最後まで出どころが分からないものもあるんですか?

 もちろんありますし、そういうものこそロマンがあって好きです。オタク気質なので、つい解明するための努力はしてしまうんですけどね。でも、謎には想像できる余白があって心惹かれますし、ヴィンテージだと思って買ったものが実は新品だったとか、知らない方が幸せなこともあるじゃないですか(笑)。そういう意味でも、情報はあくまでオマケだと思っています。大切なのは、そのデザインを純粋に愛せるかどうか。古いものでも新しいものでも、どこで造られたものであっても、「カッコいい」と思えるものであればいいんです。

──具体的に何を基準に買い付けの判断をしていますか?

 最初はただ「自分がつけたいと思うか」でしたが、数を集めていくうちに体系化されてきて基準が明確になってきました。大前提として、どんなテイストであれ「平置きでもカッコいい」デザインであることは必須です。ジュエリーは外したときに机に置かれたり、目に見えるところで保管されることが多い。身に付けていない時も目を引くユニークな形や質感であること、手に取って装着する瞬間に高揚感を覚えるようなパワーがあることを大事にしています。次に、「ものとしての作りの良さ」です。具体的な例を挙げれば、留め具がしっかり噛み、全体のデザインに馴染むように作られているか、丁寧にロウ付けされているか、重量感があるかなどを見ています。特に留め具の作りは重視していて、付け外しする時の所作や感触の心地良さも重要です。古い時代のものは機構自体が複雑なものも多く、現代の簡略化されたもの作りでは再現できない要素の一つだと思います。

1960〜70年代のデンマーク製と推測されるブレスレット。花びらのようなパーツは銀板をプレスし、1枚ずつ折り畳んでおり、手の込んだデザインと言える。差し込み式の留め具や落下防止のチェーンなど、丁寧なもの作りが光る。

三品が特に気に入っていると語った3アイテム

──作りの良さについてですが、三品さんが提案するジュエリーはどれも付け心地がいいように感じます。

 自分で試着した上で、特に吟味している部分ですね。磨きの仕上げは肌当たりに影響しますし、重心のバランスがよく考慮されているものは自然と肌に沿って重さを感じにくいです。あとは、特にブレスレットはサイズをかなり注意深く選んでいます。日本人の手首の大きさに合わせて、きつすぎず緩すぎないものを厳選していて。付けやすいサイズのものが揃っているということも、そう感じていただける要因の一つかもしれません。ジュエリーは服よりも着用頻度が多いですから、毎日使っていて心地よい作りであることは重要ですね。

正解を求める時代に、値札のないジュエリーを

──ディッシーズヴィンテージに揃うジュエリーは、デザイン・作りともに優れたものであるというのは確かですが、一般的には無名なメーカーがほとんどです。「エルメス(HERMÈS)」「カルティエ(Cartier)」「ティファニー(Tiffany & Co.)」など、ヴィンテージ市場で評価が確立されているブランドを意図的に避けているようにも見えます。

 僕が買い付ける必要はないと思ってしまうんです。すでに価値が定まっているもの、例えば「シェーヌダンクル」は極論を言えば質屋でも売れるものですから。それはキュレーションというよりも転売に近い。儲けを最大化することが目的ではないので、楽しくないことはやりたくないんです。有名なブランドのものでも、変わったものや見過ごされているものを仕入れることはあります。ただ、そこを積極的に探しに行くようになると、僕が本当に集めたいヘンテコでカッコいい珍品を掘る余裕がなくなってしまう。それに、この店はブランドのネームバリューではなく、僕自身の審美眼で商売をしたい。「エルメスを売っている店」ではなく、三品颯樹の店でありたいんです。

──「いかに珍しい年代のエルメスを集めるか」を競い合うような市場の流れの中で、その姿勢を貫くのは簡単なことではないように思います。

 お客さまに現実的な価格でジュエリーを楽しんでほしいという気持ちで続けていますが、個人の小さなビジネスだからこそ可能だという側面も多分にあるでしょうね。ただせっかく自由があるのだから、徹底的にパーソナルでエゴが詰まったものを選ぶようにしています。そして、お客さまにもそうであってほしい。ファッションに限らず、物事に正解を求める傾向はどんどん強まっていて、誰もが「誰かが示した正解」に倣いがちです。もっと自分の直感を大切にしてほしいんです。ジュエリーで言えば、ブランドや価格といった記号を可能な限り排して、身に付けた時の高揚感やデザインの美しさだけで選んでもらいたい。だから、僕は有名なブランド品を探すことはしないし、実は店頭では商品に値札をつけないんですよ。

──言われてみれば、価格はいつも商品を手に取った後に直接伺っています。

 美術館や博物館の展示物に、値札は付かないですよね。他人が決めた値打ちに邪魔されず、自分の中にある美しさへの直感のみに従って、フラットに作品と向き合える。買い物もそうであってほしいので、値札をあえて付けずに並べます。「買えない価格だから手に取らない」となればお客さまの好奇心を妨げてしまうし、数字が先入観となって目を濁らせることもある。「美しいと感じて手にとったものが、結果的にその価格だった」という買い物が理想なんです。それから、商品はショーケースなどには入れず、手に取りやすいように雑多に並べるのもこだわりです。僕がマーケットで買い付けをする時の、宝探しのようなワクワク感を味わって欲しくて。冒険心を持ってジュエリーを楽しめる人たちが、この店を通じて少しでも増えたら嬉しいなと思っています。

──最後に、今後の展望について教えてください。

 今はより多くのお客さまや仲間に出会って、僕の取り組みを知ってもらう段階。セレクトの姿勢に共感できるショップでポップアップストアを出店しながら、オンラインストアを強化していきます。帰国してしまったので今まで通りのペースでの買い付けは難しいですが、ヨーロッパを4週間くらい回る旅を年3回ほどのペースで続けていきたいです。ゆくゆくは、いつでもジュエリーを手に取ってもらえる実店舗を構えたいと思います。

最終更新日:

■ディッシーズヴィンテージ:インスタグラム

佐久友基

FASHIONSNAP 編集記者

神奈川県出身。慶應義塾大学法学部を卒業後、製薬会社に入社し着道楽を謳歌するも、次第に"買うだけ"では満足できなくなりビスポークテーラー「SHEETS」に弟子入り。4年間の修行の末「縫うより書く方が向いている」という話になり、レコオーランドに入社。シズニでワンドアなK-POPファン。伊勢丹新宿店で好きなお菓子はイーズのアマゾンカカオシュー。

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