

近年、日本のファッションブランドが海外でますます存在感を高めている。「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」や「オーラリー(AURALEE)」はすっかりパリでの発表が定着し、「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」の日本人3人目となる「LVMHプライズ」グランプリ受賞も記憶に新しい。歴史的な円安による海外から見たお値打ち感も一因だが、デザインや品質が純粋に評価されているという印象だ。では、今注目すべき次なるスター候補は誰なのか。今回は、バイヤーやスタイリスト、ジャーナリスト、アワード審査員を務める先輩デザイナーらファッション業界人52人にアンケートを実施。1位ブランドは5票を獲得、次いで9ブランドが2、3票を獲得、合計で39ブランドが挙がる横並びの大混戦となり、次世代の層の厚さを感じさせる結果となった。数年後には入手困難になっているかもしれない、今知りたい“青田買い”ブランドを一挙紹介する。
※対象ブランドは、設立5年以内で日本国内を拠点に活動していることを条件とする。
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目次
大混戦のアンケートで最多票を集めた「オムナ」



Image by: HOMMENA
本アンケートで最多の得票数となったのは、2024年デビューのメンズブランド「オムナ(HOMMENA)」。「ボッター(BOTTER)」や「ニナ リッチ(NINA RICCI)」で経験を積んだ加藤大地が手掛け、性別の境を軽やかに行き来するジェンダーフルイドな服作りが特徴だ。スカートや肌見せのごく自然な提案、パステルカラーやサテンなどのフェミニンな要素をアンドロジナスに取り入れるバランス感覚は、次世代と呼ぶに相応しい。従来の日本ブランドには見られない、色気とポップさを併せ持つ新たな男性像を評価する声が集まった。
- Ashley Ogawa Clarke(ジャーナリスト)
テーラリングに柔らかな官能性を吹き込む加藤大地氏のメンズウェアへのアプローチは、常に驚くほど完成度が高いと感じる。 - 岡部駿佑(エディター)
パリでオートクチュールを学んでおり、構築的なシルエットが得意。ポップでスイートで、クィアで、ちょっとストリートでかなりアーティ。こんなメンズウェアは日本でほかにない。シグネチャーのスタイルが確立されたら、ファンが急増するポテンシャルがある。 - 田中庸介(iii3 オーナー・バイヤー)
ワークやテーラリングをベースに、立体的なパターンと繊細なドレープで、男性のエレガンスの新たなあり方を生み出している。男性性と女性性の境界にある美しさの表現が巧み。 - 徳永啓太(ジャーナリスト)
クチュール仕込みのパターンワークとアイデアで、制約が多いメンズウェアに遊び心のある歪さを取り入れつつ、着心地も考慮されている。無骨なかっこよさだけでは取りこぼされてしまう、男性性の可能性を上品に広げてくれる。 - tatsuya yamaguchi(エディター 、『tomorrowsyesterday』主宰)
服に作り手の存在が透けて見えることが稀にあるが、オムナはまさにその例。色や素材、クレイジーなパターン、意図的な歪みのデザインに加藤さんの嗜好がにじむ。既存の型を活かしながら、服によって固定化されたジェンダーを問い直す。その姿勢は柔和なパンクであり、どこかロマンチックにも映る。
複数票を集めた注目の9ブランド
2、3票を獲得した9ブランドを、アルファベット順に紹介。
Ans Dotsloevner



Image by: Ans Dotsloevner
デザイナー 百瀬華乃が2021年に立ち上げた「アンス・ドッツローヴナー(Ans Dotsloevner)」。「ザ・フォーアイド(THE FOUR-EYED)」や「ヴィジットフォー(VISITFOR)」といったトレンドをけん引する気鋭ショップが早くから取り扱っており、世界的スタイリスト ロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)がお気に入りブランドに挙げたことも。バラのビスチェに代表されるロマンティックなモチーフと、体のラインを活かすフェティッシュなスタイルが持ち味だ。
- 早川すみれ(スタイリスト)
デザイナーの世界観や女性像が魅力的。モデル経験もある若いデザイナーは発想が刺激的ながら、引き算のバランスにも優れていて、既存のジャンルにカテゴライズできない独自性がある。
BIFURCATUM



Image by: BIFURCATUM
2026年春夏シーズンに本格デビューしたウィメンズブランド「ビフルカツム(BIFURCATUM)」。デザイナーの河村奈央子は、エスモードジャポン在学中に東京都主催「Next Fashion Designer of Tokyo」で大賞に輝き、卒業後は「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」でパタンナーとして勤務した経験を持つ。スポーツウェアの機能性をモードなフォルムとファッションの高揚感に昇華するデザインが特徴。パラアスリートらをモデルとしたフォトプロジェクト「ミーツ・ザ・フォルム(MEETS the FORM)」にも注目だ。
- 玉利亜紀子(『装苑』編集長)
素材とフォルム、機能美を追求する美学と、確かなパターン技術には大きな可能性を感じる。「MEETS the FORM」プロジェクトも、身体と向き合う河村さんの姿勢の表れ。機能性ウェアの無機質さを排し、大胆で華やか、何よりも「着てみたい」と思わせる魅力がある。 - 山地保(ファッションビジネスコーディネーター)
スポーツやアウトドアを想起させる素材や色使いが特徴だが、機能と造形を高度に両立させるモダンな感性は、これまでにないものを感じる。特にファスナーを起点に生地を分岐させるアイデアがユニーク。
FRACTION



Image by: FRACTION
「フラクション(FRACTION)」は、デザイナー 中野皓が2024年に設立。中野は、「リック・オウエンス(Rick Owens)」など複数のブランドに勤務し、リテールや撮影、アートディレクションから、靴のデザイン・製作まで幅広い経験を積んだ。副資材の選定まで丁寧に作り込まれたテーラードアイテムと、靴作りの経験を活かしたレザーウェアがアイコン。パンクロックをはじめとするアンダーグラウンドなカルチャーの影響を、アーティザナルな服作りに落とし込んだダークな世界観が人気を集めている。
- 小山逸生(Amanojak. バイヤー)
一言で言うなら、シャープネス。フルキャンバスの極上テーラードと、妥協のないレザーウェア。品質はもちろんのこと、若手とは思えない確立された美意識も素晴らしい。クリエーションとクラフトマンシップがあまりに骨太。 - 砂押貴久(STEKKEY CEO、クリエイティブディレクター)
コスパやサステナビリティなどが評価軸になりがちな時代にあって、「服そのものに熱狂する楽しさ」を思い出させてくれる。若手としては高単価ながら、有力ショップで完売を繰り返しており、ビジネスとしての確かな未来が見える。LVMHプライズなどで世界的な評価を得る日も遠くないはず。 - 大田由香梨(ライフスタイリスト)
確立された個性、カリスマ性、品質、顧客の熱狂、バイヤーの支持、どれを取っても信頼に足る。シンプルでありながら、こだわりのディテールに品性を感じる。最近スタートしたウィメンズにも期待。
Jun.y



Image by: Jun.y
「ジュンワイ(Jun.y)」は、1995年東京生まれのデザイナー 山本淳が2023年に始動。文化服装学院卒業後、世界的デザイナーズブランドでの勤務を経て独立した。デビューコレクションが「装苑」で紹介され、「VOGUE JAPAN」によるジョン・ガリアーノ(John Galliano)との座談会企画にも参加。2025年8月に日本ファッション・ウィーク推進機構による支援プログラム「JFW NEXT BRAND AWARD 2026」で特別賞を受賞するなど、業界各所から注目を集めている。
- 菊田琢也(昭和女子大学環境デザイン学科 准教授)
効率化の時代において、山本さんは時間を短縮するのではなく、積み重ねる。気が遠くなる手仕事の反復から、静謐な服の形が立ち上がるさまは、祈りにも似ている。その人にしか作れない、費やした時間が伝わるもの作りこそが今後は価値を持つだろう。 - 渡辺三津子(ファッションジャーナリスト・コンサルタント)
手の創造性を信じ「手遊び」を追求することで、まだ見ぬ造形に挑戦する姿勢が素晴らしい。例えば靴のような服以外のデザインなどでも、すべてを「身体がまとう美しさ」の発見に繋げていく。その才能に期待したい。
KAKAN



Image by: KAKAN
「カカン(KAKAN)」は2024年設立。デザイナーの工藤花観はセントラル・セント・マーチンズでジュエリーデザインなどを学んだ後、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」「シャネル(CHANEL)」のビューティラインなどで経験を積んだ。糸から手紡ぎしたハンドニットのドレスなどが注目を集め、2025年に「TOKYO FASHION AWARD」を受賞。ほっこりと愛らしいという既存のイメージには収まらない、ニットの地平を広げるようなテクスチャーとフォルムが持ち味だ。
- 板垣佳代(『ファッション通信』シニアディレクター)
水彩画のデッサンから生まれる色彩のグラデーションや、手紡ぎ糸の不均一な表情を芸術性へと昇華する表現力は圧巻。視覚的な美しさが際立つが、羊毛という素材を深く理解した軽く丈夫な作りで、品質を担保するデザイナーの緻密な思考が伝わる。20代で子育てとブランド運営を両立する姿にも、尊敬の一言。 - 平松有吾(平松融合研究所代表、渋谷パルコ アソシエイツプロデューサー)
体験や思想に繋がるコンセプトと、それをコレクションに反映する表現力、スタイリングを含むファッション性の高さは、触りたい・着てみたいという好奇心をかき立てる。服作りもデジタル活用が叫ばれるなか、手仕事の可能性を広げる取り組みに期待。 - 塚本香(ファッションジャーナリスト)
ハンドニットシリーズは、これからのファッションのあり方を感じる。工業製品にはない不規則さや曖昧さ、毛糸ならではの温かみを持ちながら、決して素朴さや懐古趣味には収斂せず、現代的な造形へと昇華している。野生味と洗練、儚さと強さという相反する感覚が共存しており、理屈を超えて感情に訴えかける魅力がある。
mukcyen



「ムッシャン(mukcyen)」は、文化服装学院を卒業後、 世界的デザイナーズブランドの企画部で4年間経験を積んだデザイナー 木村由佳が2023年に設立。代名詞である「セカンドスキン」シリーズなどでボディコンシャスなスタイルを確立し、2025年には「TOKYO FASHION AWARD」を受賞した。木村は個人のインスタグラムで約18万人のフォロワーを持ち、インフルエンサーとしての影響力も注目を集めている。
- 柴田麻衣子(「RESTIR」クリエイティブディレクター)
学生時代からAIなどを駆使するインフルエンサーでもある彼女は、まさに次世代のデザイナー。ライトに聞こえる経歴とは裏腹に、ストイックでダークな世界観が持ち味で、素材の体への影響や着心地も熟慮されたコレクションを作る。詩的でエモーショナル、東京において稀有な存在。 - 萩原輝美(ファッションディレクター/ジャーナリスト)
安定したバックグラウンドがありながら、媚びずにオリジナリティを追求するコレクションには今後も期待。ベースになるテーラリングはフォルムの完成度が高く、ニットの柔らかさでコントラストを添えるブランディングに時代性を感じる。
OHROHEE



「オロヒー(OHROHEE)」は、多摩美術大学を卒業したデザイナー パク・ソンヒが2025年に設立。1990年代の日本の前衛的ファッションブランドに影響を受けたパクは、大学卒業後に複数のデザイナーズブランドで企画デザイナーとして経験を積み、東京を拠点に独立した。現代ファッションの基礎である西洋の服飾文化に根差しながら、ルーツである韓国と日本の文化や技術を取り入れた作風が特徴だ。
- 長尾悦美(クリエイティブディレクター)
韓国の文化や芸術から着想を得たコレクションは、美しいテーラリングとリアルなテキスタイルの中にわずかにエッジが効いており、日常的に着やすい。マスキュリンすぎず、平凡すぎず、洗練された女性らしいスタイルが魅力で、プライスのバランスも良い。 - 澤之井頌子(ファッションビジネスディレクター)
オリジナリティ、美的感覚、品質、すべてが高水準。韓国の歴史や文化を日本の生産背景と掛け合わせ、現代的に表現する点に惹かれる。テキスタイルデザインを専攻した経験を活かし、生地から開発するコレクションには独自性がある。女性の感覚に響く繊細なディテールも魅力。
QUIITO



「キイト(QUIITO)」は、2024年秋冬シーズンにデビュー。デザイナーの香村茉友は、多摩美術大学を卒業後「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」で企画を担当し、フリーのデザイナーを経て自身のブランドを立ち上げた。デニムやミリタリーウェアなどの古着を素材に、ユニークなフォルムを生み出すリメイクアイテムが人気を集めている。
- 根岸由香里(ロンハーマン ウィメンズディレクター)
従来の古着リメイクの概念を、感性で飛び越えてくるセンスに注目。原料や資源を大切にするサステナブルな姿勢だけでなく、デザインのパワー自体がお客さまに響いている印象。 - 宮田理江(ジャーナリスト、ファッションディレクター)
古着のアップサイクルは珍しくないが、キイトはそれを根本的にデザインし直す造形力が魅力。自身のドローイングを手描きで取り入れるなど、独自の感性と手仕事へのこだわりも光る。モード感と品のよさを両立させるバランス感覚が絶妙。
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