「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクターのグレン・マーティンス
「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクターのグレン・マーティンス
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Fashion

【インタビュー】グレン・マーティンスが進めるディーゼル改革、2つのサステナビリティとは?

 「ディーゼル(DIESEL)」は東京でファッションショーを6月9日に開催し、新クリエイティブ・ディレクターのグレン・マーティンス(Glenn Martens)による新たなヴィジョンを見せつけた。2月にミラノで発表したマーティンスによる初のショーとなった2022-23年秋冬コレクションに、日本限定のレッド・ピースを6体を追加。ブランドの強みであるデニムを、得意の捻りをきかせたクリエイションにのせて、水原希子やkemioら日本の強力なKOL(キーオピニオンリーダー)をモデルに起用。フレッシュでエネルギッシュに新しいブランド像を発信した。

「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクターのグレン・マーティンス Image by FASHIONSNAP
「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクターのグレン・マーティンス
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【グレン・マーティンス】
ベルギー・ブルージュ生まれ、アントワープ王立芸術アカデミー出身。在学中からブルーノ・ピータース(Bruno Pieters)に師事し、H&M傘下の「ウィークデイ(WEEKDAY)」や「ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)」のコレクション製作に携わる。「ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)」などで経験を積んだ後、自身の名を関したブランドを設立した。デビューから3シーズンが経った2013年に「Y/PROJECT」創業者のヨハン・セルファティが死去し、後任としてクリエイティブ・ディレクターに就任。17年にLVMHプライズにノミネートされ、同年ANDAMファッションアワードを受賞。20年に「ディーゼル(DIESEL)」のクリエイティブ・ディレクターに就任。

 現在マーティンスはデザインのみならず、ディーゼルのサステナビリティへの取り組み、広告などを含むコミュニケーションなどにも携わり、ブランドの改革を行っている。中でも、従業員や顧客、さらには地域社会に影響を与える社会的持続性(ソーシャルサステナビリティ)を意識して強化しているという。ディーゼルと、「ワイ・プロジェクト(Y/PROJECT)」のクリエイティブ・ディレクターも手掛ける彼が今、考えていることを尋ねてみた。

DIESEL 2022年秋冬

DIESEL 2022AW Collection
東京で行われた2022-23年秋冬ショー

これからのディーゼルの指針を示すショー

久しぶりの来日ですね。今回東京を訪れた印象はいかがですか?

 2019年にワイ・プロジェクトのイベントで来て以来3年ぶり、3度目です。東京は生き生きとしていて楽しい街。多くの人がさまざまな関心を持ち、新しいことがいつも起こっているので、居るだけでワクワクしますね。今回はあまり時間がなく、多くの場所に訪れることができないのが残念ですが、少し歩いて見たところ、コロナ禍から街の活気が戻りつつあるように感じました。

2022-23年秋冬コレクションはマーティンスさんによるディーゼルでの初のショーでした。どのような思いで取り組まれたのでしょうか?

 私にとっても、チームにとっても重要な瞬間でした。ディーゼルが何者なのか、これからどのような未来に進むのか、指針を示すショーだったからです。大きな会場で行うことで、「一人一人がディーゼルのストーリーの一部である」という思いを伝えたかったのですが、コロナの影響で日本のお客さまが渡航できず、お見せできなかったのが残念でした。なので、今回の日本のショーでも広い会場で人型の巨大なバルーン(インフレータブルキャラクター)を用意して、ミラノのショーを再現しました。

ショー会場の様子 Image by FASHIONSNAP
ショー会場の様子 Image by FASHIONSNAP

東京のショーでは、レッドカラーの限定コレクションも加えていましたね。

 ロゴに使用されるブランドを象徴する色です。最初に手掛けた2022年春夏コレクションからキーカラーとして使用しています。また日本の国旗の色でもありますから、ぴったりで、シンプルで伝わりやすいと思いました。

水原希子 Image by DIESEL
水原希子 Image by DIESEL

環境面と社会的な2つのサステナビリティ

ディーゼルに加わって2年が経ちました。デザインはどのように取り組んでいるのでしょうか?

 ディーゼルは40年以上続いていて、世界中に店舗を構える巨大なグローバルブランドです。アーカイヴを見て、なぜここまでの成功を収められたのか、ブランドにとって重要な要素を日々研究しています。現在のディーゼルには3本の柱があり、一つ目は主軸のデニム、2つ目は実用性のユーティリティ、そして最後はポップで、音楽アーティストたちが着用するような華やかな衣装のこと。この3つの枠組みに合わせてデザインしています。

今後ディーゼルが向かう方向性とは?

 クリエイティブ・ディレクターに就任したときに、役員全員と話しながら、明確なマニフェストを作りました。それは、ファッションの未来はどうなるのか?グローバルブランドの未来はどうなるのか?ということです。ディーゼルが大きなグローバルブランドだからこそ、多くの人々、広く異なる市場に語りかけられ、大きな影響力をもたらすことができますが、同時に責任も伴います。ブランドを通して良いインパクトを与えられるように、環境面でのサステナビリティと、社会的なサステナビリティの2つにしっかり取り組む必要があると考えています。

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環境と社会的な2つのサステナビリティがあるんですね。まずは環境面では、サステナビリティに配慮したデニムの新ライン「ディーゼル ライブラリー(DIESEL LIBRARY)」を立ち上げました。

 ファッションの環境汚染に対して何ができるか考えたときに、消防士である私の兄を思い浮かべました。彼はずっとディーゼルのデニムをはいていますが、ファッションに特別関心がある訳ではありません。そういった人たちにも分かるような変化をもたらしたいと思いました。ライブラリーは、デニムコレクションをまとめたもので、売上の40%を構成する重要な部分です。素材は、オーガニック繊維やリサイクル繊維など、認証の取れた環境に配慮したものを使用し、水や化学薬品の使用量を大幅に削減した加工方法を取り入れています。デニムの裏には、サステナビリティに関する説明を印字してあり、着用者がそれに気がついたときに読んでもらえたら嬉しいですね。つい最近、Tシャツやセーター、ジャージーを含む新しい「エッセンシャル ジャージー」のコレクションを発売しました。全てオーガニックコットンを使用し、サステナブル認証も取得しており、毎シーズンより良い製品を発信できるようにアップデートを繰り返しています。ファッションを楽しんでいたら、たまたま環境に良かったという、気付きに繋がっていくといいですよね。こういう発信をするブランドやデザイナーがどんどん増えていくといいなと考えています。

では、社会的なサステナビリティとは?

 長く同じ企業に勤めていると、自分たちのやっていることに飽きてきたり、新鮮に見えなったりすることもあります。私が外部から入ることによって、視点が切り替わり、チーム全体が「私たちは楽しむことが大事なんだ」と感じられるようにしたいと思いました。深刻になりすぎず、ユーモアを持つことはとても大切。 それはディーゼルが常に大事にしてきたことですから、メッセージを従業員や顧客にも届くようにしたいと考えていますね。多様性の表現は、インスタグラムや広告を通して発信することで、社会に確実に伝えることができ、受け入れのプロセスの一助になればと願っているんです。ただ東京に住む皆さんと、パリに住む私のように環境や政治体制は大きく異なるので、同じでは通用しない。そこは発信内容を考えながら、努力していかなければならないところですね。

パンデミックでファッション業界は変化したのか…?

—ちょうどコロナウイルス感染症のパンデミックの始まった2020年にディーゼルのクリエイティブ・ディレクターに就任されました。コロナの影響は何かありましたか?

 ロックダウンが始まった頃は3ヶ月間パリのアパートに閉じこもり、仕事に集中できました。その時に「本当にラグジュアリーファッションの道に進みたいのか?」と自答したんです。芸術性の高いラグジュアリーは素晴らしいものですが、これを一生続けていたら、満足できないだろうとも考えました。なぜなら、社会の一部の人しか対象にできないからです。でも、ディーゼルには世界中のすべての人と話す力があり、大きな変化を起こすことができる。そういう思いから、環境問題に対する考えを反映できたと思いますね。

パンデミックによって、ファッション業界は変わったと思いますか?

 実際のところは、あまり変化していないと思います。またパンデミック中には、多くのデザイナーがZoomを介してディスカッションを重ね、ファッション業界の課題を考えました。マニュフェストにも署名をして、コレクションの発表時期をスローダウンしてファッション・ウィークの年間の開催数を減らすことや、セールの開催時期について検討するようなことも話していたんですが……。スケジュールは元通り。結局はビジネスを進めなくてはならないですからね。しかし、ディーゼルでは50%の商品をサステナブルに転換できたことは誇らしく思っています。

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ディーゼルとワイ・プロジェクトの差別化はどのようにしていますか?

 規模感は異なりますが、どちらもウィットに富んでいて、派手でデニムを強みにしているなど、同じ価値観を持っているという共通点があります。決定的な違いは発信先、お客さまが異なるところですね。ディーゼルはより多くの人に届けるための実用性が必要になるので、コアになるのはよりシンプルなデザイン。ワイ・プロジェクトでは毎シーズン、新しい洋服の構造を考えながら、実験的なパターン作りを行っています。

パリとミラノの2拠点生活

2つのブランドを手がけていてとても忙しそうです。どのような生活を送っているのですか?

 毎週パリとミラノを行き来しています。月曜日から水曜日はミラノで、木曜日から日曜日はパリ。移動は飛行機ですが、フライトは1時間、ドアトゥドアで約4時間なので割と近いと感じています。チームの中でも自宅からアトリエまで、電車に20〜30分ほど乗り、45分くらいかけて通勤している人も多いですから、飛行機で1時間過ごすのも構わないかなと思いますね。幸い、私はパリの北駅の近くに住んでいるので、空港からも20分ほどと近く。あまり苦に感じることはないですね。ただここ最近は5週間で5つのコレクションを 作らなければならなかったので、とても目まぐるしい生活ではありましたが……(笑)。デザイナーとしては、幸せなことだと感じています。

今後やってみたいこと、目標はありますか?

 もうすでに目の前にたくさんの仕事があるので、それをこなしていくことですね(笑)。ディーゼルの改革を進めてブランドを成長させていくこと、ワイ・プロジェクトも同様です。日々、大好きな業界で働くことができていることに感謝していますね。とても楽しんでいます。

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コーチェラ2022年に出演したアーティストが着用していた衣装

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大杉真心(Mami Osugi)
ファッション リポーター

文化女子大学(現文化学園大学)とニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学び、ファッションブランドやセレクトショップで販売職を経験。「WWD JAPAN」で記者として、海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当する。2019年にフェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家取材を行う。21年8月に独立し、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。22年4月に文化学園大学の非常勤講師に就任。

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