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【インタビュー】支持を広げる「Y/PROJECT」の"折衷主義" 原点はグレン・マーティンスの故郷にあり

グレン・マーティンス
グレン・マーティンス
Image by: FASHIONSNAP.COM

 9月、パリの歴史ある橋の下で行われた「ワイ・プロジェクト(Y/PROJECT)」の2020年春夏コレクションショー。洞窟のような会場内の熱気は、観客の期待を感じさせた。創業デザイナーが逝去し、後任として若手デザイナーのグレン・マーティンス(Glenn Martens)が引き継いでから約6年。取り扱い店舗を16倍に広げ、アコーディオンバッグといった新鮮なデザインが先端層を惹きつけている。コアなファンを掴み成長を続けている理由を探るべく、2回目の来日を果たしたグレンにインタビュー。故郷であるベルギー・ブルージュのおとぎ話に出てくるような街並みから、オリジナリティの根源が見えてきた。

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【グレン・マーティンス】
ベルギー・ブルージュ生まれ、アントワープ王立芸術アカデミー出身。在学中からブルーノ・ピータース(Bruno Pieters)に師事し、H&M傘下の「ウィークデイ(WEEKDAY)」や「ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)」のコレクション製作に携わる。「ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)」などで経験を積んだ後、自身の名を関したブランドを設立した。デビューから3シーズンが経った2013年に「Y/PROJECT」創業者のヨハン・セルファティが死去し、後任としてクリエイティブ・ディレクターに就任。2017年にLVMHプライズにノミネートされ、同年ANDAMファッションアワードを受賞。今年1月にはPitti Imagine Uomoにて第95回デザイナーに選出された。「Y/PROJECT」は国内では「アデライデ」や「ドーバーストリートマーケットギンザ」「ザ・フォーアイド」「阪急うめだ」などで取り扱いがある。 

歴史、建築、ベルギー......注目デザイナーのルーツ

― 9月にパリで「Y/PROJECT」2020年春夏コレクションを見ましたが、ショー会場はアレクサンドル3世橋の下でしたね。普段あの場所はクラブなんだとか。

 会場には無事に入れましたか?たくさんの人が来てくれたんですが、会場外は混雑して大変だったみたいで。あのクラブは数ヶ月前にオープンした場所なんです。まだ遊びにはいけていないんですが(笑)。

― ショーは観客の期待というか、熱気を感じました。日本を訪れるのは2回目とのことですね。どんなことをして過ごしていますか?

 初めて来日したのは4〜5年前の休暇ですね。東京や京都を観光したり、登山をしたり、楽しかった思い出です。今回の滞在は仕事をかねているので、できるだけ多くの取り扱い店舗を巡って、お店の雰囲気やどんなブランドと並んでいるのかを、自分の目で確かめられたらと思っています。

― 東京の印象は?

 様々なキャラクターの人が集まる多様性に富んだ街だと感じました。昨日は「Y/PROJECT」を着ている人を一人だけ見かけたんですよ。ジャケットを着ていたんですが、「ドーバー ストリート マーケット」のすぐ外だったので買ったばかりだったのかな?アジアは個性を反映した服装や、前衛的なスタイルの人も多いですね。それに対してパリはもっと街が灰色で、着飾り方も似通っているので。

― 現在はパリが拠点ですが、出身はベルギー・ブルージュだとか。

 はい。とても古風な家庭に生まれて、学校ではラテンを勉強して、大学では法律か歴史を勉強するつもりで育ちました。問題児では全くなかったし、おおらかで物分りの良い、人によってはつまらないと感じる子どもだったかもしれませんね。親の目を隠れてこっそりお酒を飲んだりしたことはありますが(笑)。成績も良かったし、真面目なタイプだったんですよ。

最新コレクションはベル・エポック期やテューダー朝にインスパイアされていましたが、グレンさんは歴史通とのこと。

 子どもの頃から歴史好きでしたね。ブルージュのような街で育つと、自然とそうなるんです(笑)。目に映るのは歴史しかありませんから。歴史って、すごく長いおとぎ話のようなもの。王様や女王が出てきて、結婚してお城に住んだり、戦争や殺し合ったり。親が子どもにどう伝えるかで、長いディズニー映画のようにもなる。僕の父はそれがとても上手だったんです。だから僕は、ディズニーのように歴史の勉強を楽しんで育ちました。

― ブルージュは訪れたことがあります。鐘楼や大聖堂といった歴史的建造物が残る旧市街や、街中には運河が流れていて、絵本の中のような景色が広がっていますね。

 全部が可愛いでしょう?おとぎ話のような景色が日常だから、子どもの頃は世界中がブルージュと同じくらい可愛いものだと思っていました。なので、17歳で初めてブルージュを離れてロンドンに行った時には、すごくショックでした。色々な物が入り混じっていてコンクリートだらけで「なんてひどい街だ」って(笑)。ブルージュは全部がユニフォームのように同じで、完璧だったから。

― ファッションを学んだのもベルギー、アントワープでした。

 ベルギーは歴史ある建造物がたくさん残る美しい魅力を持っている一方で、工業国でもあります。工場がたくさんあるし、雨も多くて可愛くない一面がある。だからこそ、予想外なところに美しさを見出す術が身に付く。ベルギー出身のデザイナーは、そこが共通点なんじゃないかな。一つのものを普通とは異なる視点から見て、予想を裏切るような答えを見つけることに長けているんです。

― 「Y/PROJECT」といえば、様々な要素や時代性がミックスしていますが、ベルギーというルーツはクリエイションに影響を与えていますか?

 「二面性」は私の仕事においてとても重要な概念で、それはブルージュにルーツがあると思っています。ブルージュはクラシカルな街並みが観光客に人気で、毎日何百人も訪れるんですね。だから街にはネオンライトもあるし、チープな土産物屋もある。重みがあってゴシックで"完璧な美しさ"を持つ一方で、そういったマスツーリズムの激しさも持っている街なんです。「Y/PROJECT」のコレクションでは、エレガントなシルエットのクチュールピースもあれば、ナイロンでできたカクテルドレスといった美しさのスタンダードから逸脱した服もある。正反対にあるようなものを同じランウェイに登場させています。

「Y/PROJECT」2020年春夏コレクション(Image by: Y/PROJECT)

― 「折衷主義」と表現されることも多いですね。

 「Y/PROJECT」では、自分の中に宿る「折衷主義」をセレブレートしています。私も今は取材を受けているデザイナーですが、オフィスに戻れば上司であり、休みの日にはハイキングやキャンピングをしていたり、ベルリンのクラブに浸ってるときもある。ひと一人のなかにも様々なパーソナリティーがあって、服はその個性を延長させるものだと捉えています。なので着る人に「自分はどんな人なのか?」「今日はどんな気分?」と問いかけたいし、ブランドの影に隠れるのではなく、着る人が自分をより理解してパーソナリティーを延長させるツールとして使ってほしいと思っているんです。

 最近は大きなロゴをデザインするブランドも多いですが、それを着てしまうとその人はもう自分自身ではなく、ブランドが提案する世界観の住人になってしまいます。「Y/PROJECT」は着る人の個性を映し出す服作りをしたいので、それらとは真逆にあると思いますね。

― そういった多様性や二面性は、どのように服に落とし込んでいますか?

 多くのアイテムは、様々な着方ができる工夫が施されています。ショーでは私が考えた着方を見せていますが、それが正解というわけではありません。着る人に自分のモノにしてほしいし、人が持つ多様性を後押しするような服作りをと常に考えています。なのでショーでは、多様性を反映するように52ルック全て違うモデルを起用しました。

 また折衷主義がコンセプトの一つなので、ショーではクチュールピースからデニム、テーラリングまで様々なジャンルの服で構成しています。以前、サラ・ムーア(Sarah Mower、Vogue Runwayのチーフクリティック)に言われて印象に残っているんですが、「Y/PROJECTの良いところは、折衷主義が故に様々なジャンルを飛び回れることだ」と。多様性に富んだコレクションを発表してきたからこそ、例えばもし私がデニムに飽きたとしたら、デニムはやめてテーラリングに集中することだって可能なんです。

 パリがフランス人によって作られた街ではないように、「Y/PROJECT」も異なる国からやってきた25人が一緒に働いて作っています。2019年の今存在する多様性はとても美しいものだと思っていて、それはコレクションでも見せるように意識していますね。

― 2019年秋冬キャンペーンは、セルフィーと写真家が撮影したポートレートを融合したユニークなヴィジュアルでしたね。SNSで見つけたブランドのファンをモデルに起用したんだとか。

 多様性について考えていくうちに、よりグローバルなキャスティングが良いなと思ってSNSで探しました。日本に住んでいる女の子も1人入っています。彼らがどんな職業なのかなどは全く知らなかったんですが、パリに来てもらって新作コレクションを着て撮影をして。自前の「Y/PROJECT」のアイテムを着たセルフィーと、写真家に撮影されたポートレートを並べたことによって、一人の人が持つ二面性を表すことができたと思います。

― コレクション製作のプロセスは?

 「構築的なツイスト」を見つけることから始まります。"捻り方"のアイデア自体は街を歩いている時にふいに思いつくことも多くて。例えば、ポップアップジャケットのような捻りのきいたディテールが思い浮かんだら、スタジオに持ち帰ってチームで発展させて、様々なプロダクトグループに応用してみる。「トレンチコートにのせたら面白いんじゃない?」「いや、サテンスカートの方が意外性があるかも」とか意見を言い合いながら、最適な組み合わせを見つけ出すんです。「Y/PROJECT」では、ただ可愛いからという理由だけでドレスを作ることはない。コンセプトや生地の面白い使い方だったり、可愛い以上の意味や理由が必要なんです。

― 建築的なアイデアも「Y/PROJECT」の特徴です。グレンさんはアントワープ王立芸術アカデミーの入学前にインテリアデザインを勉強していたそうですね。

 なのでアントワープに入学した当初は、服や身体が何なのか全く理解していませんでした。入学して1年目に作っていた服は、硬くて建物みたいな見た目だったんですよ(笑)。

― 当時憧れていたファッションデザイナーはいますか?

 アントワープアカデミーに入学した頃は、ファッションについての知識が全然なくて、知っていたデザイナーは「ミュグレー(MUGLER)」と「アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)」くらいでした。90年代で、彼らは色々な雑誌にフィーチャーされていたので。だから、彼らが作るクチュールピースのような、日常からはかけ離れた「夢を売る」側面からファッションを知っていきました。

― 「Y/PROJECT」のショーでも、非日常的なクチュールピースが登場しますよね。

 コレクションで発表する52ルックのうち、3分の2はレディ・トゥ・ウェアですが、残りの3分の1は「夢を見せる」ために作っています。中には直感で美しいと思われないようなピースもあると思いますが、見る人に「これは何だ?」と考えてみたり、新しい視点を持とうとしてみてほしいんです。そういう意味で、ファッションは単なるクリエイティブな表現にとどまらず、社会的・心理的なカテゴリーでも広げられるものになると思っています。

 

「Y/PROJECT」を支えるチームの力

― クリエイティブ・ディレクターに就任してから、ブランドはどのように成長していますか?

 毎シーズン10〜20%ほどの伸び率で、安定して成長しています。私がブランドに来た当初は、取扱店舗数がグローバルで10店、従業員は5人だったのですが、それから約6年で160店、25人になりました。外部からの資金は入れず、本当に自分たちでやってきたので、とても誇らしいです。それだけ頑張ったってことですから。

― 成長の要因をどのように見ていますか?

 一時的なハイプを追いかけることではなく、ブランドコンセプトやアイデンティティをしっかりと発展させることに注力したので、安定した成長を得ることができたのだと思います。急激に伸びたわけではなかったので、ブランドのファンにも「Y/PROJECT」のアイデンティティについて理解してもらっていて、ロゴではなくデザインを買ってもらってるという自負があります。CEOと話すと「さらに早い成長を」と求められるんですが(笑)、私は今の自分で状況を把握できる規模感が良いと思っています。

― 各国のシェアについて教えて下さい。

 昨年まではアメリカがトップでしたが、今はアジアの方が大きいですね。中国は買い付けの開始自体は遅かったんですが、最近は勢いがすごい。あとアジアでは、韓国も大きいです。

―パリに住んで約10年になるそうですが、今はパリのファッション業界にとってどのような時代でしょうか?

 とてもエキサイティングだと思います。10年前とは街自体が大きく変わりました。悲しいことですが、襲撃事件が起こったことによって「自分の人生を楽しまなきゃ」とみんなが目が覚めたような感じがします。今はアンダーグラウンドのシーンも面白いしアート施設も続々とオープンしている。他の都市のように多様性のある街になってきたと感じますね。

― グレンさんにとって服を作るモチベーションは?

 人との関わりの部分が大きいです。オフィスでチームで働くことが大好きだし、会社でつまらないと思ったことがないので、それはとても幸運なことだと思います。尊敬する25人のチームと働くことができて、コレクション作りも楽しい。作ってるコレクションも、ジョークがきいたものばかりで楽しいですし。ファッション業界は、楽しくなきゃ意味がないと思います。陰口を言うような人もいる世界ですが、だからこそ良いチームを作ることができて、安心できる場所があるのは私にとって大きいことなんです。

― 仲の良いデザイナーはいますか?

 「パコ ラバンヌ(paco rabanne)」のジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)はとても親しい友人です。あとは「OTTOLINGER」のデザイナー、「コペルニ(COPERNI)」の2人も。(コペルニの)彼らはパーティー好きなので、2人の家でホームパーティーをしたり。

― では、毎シーズンのコレクションを見るのが楽しみなデザイナーは?

 ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)と、ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)。彼らの作り出す世界観の好き嫌いではなくて、コレクションに反映される、彼らが持つインテグリティやパーソナリティを尊敬しているからです。今は皆インスタグラムを見る習慣があるし、画面上でイメージを消費したり、そのツールを乱用しているデザイナーも多いと感じています。例えば、30ユーロで作ったスウェットにロゴをプリントして800ユーロで売ったりするケースもありますが、それはデザイナーとしてすべきことじゃない。メリット以上に、長期的に見るとファッション業界全体にダメージを与えると思うから。そういったデザイナーと対極にいるのが、クラフツマンシップに敬意を表したクリエイティブを作り続けるジョナサンやニコラだと思うんです。

― 歴史と建築の他に、グレンさんの趣味や興味は?

 2013年にブランドを引き継いでから駆け抜けてきて、今がやっと初めて周りの人に様々な業務を委任することができるようになって、クーリングオフしている段階なんです。これまでは本当に24時間、毎日働いているようなものでした。だから少し余裕ができてきた今、趣味をなくしてしまったことに気がついたんです。

 だから今は、趣味を探しているところかな(笑)。最近パリにアパートメントを購入したので、しばらくはインテリアデザインに集中しそうです。

― 創業者からブランドを引き継いで約6年。イメージが刷新されビジネスも好調とのことですが、グレンさんと「Y/PROJECT」の次のチャレンジは?

 今年からはプロダクトのカテゴリーを充実させることに注力しています。例えばシューズ。これまでも靴は作っていましたがショー用が多かったので、レンジを広げようとしています。バッグも同様ですね。あと今、まだ詳細は言えないのですが4つほどコラボを進めていて、年明け頃から情報が公開できるはずなので楽しみにしていてください。

 でも、本当のチャレンジは、ブランドと一緒に成長して、一緒に年をとっていくこと。そして、スタッフを満足させること。25人雇っているので、彼らの幸せを保つ責任があると思います。みんながストレスを感じることなく、会社の一員だと感じてもらうことが一番大きなチャレンジかもしれません。こんなことは、自分のブランドをやっていた頃は思いもしませんでしたね。

 

(聞き手:谷桃子)

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