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エルメスのメンズ部門を率いたヴェロニク・ニシャニアンが考える「よい服」について 特別インタビュー

ヴェロニク・ニシャニアン

ヴェロニク・ニシャニアン パリと東京、2つのショーのフィナーレ

ヴェロニク・ニシャニアン

ヴェロニク・ニシャニアン パリと東京、2つのショーのフィナーレ

ヴェロニク・ニシャニアン

ヴェロニク・ニシャニアン パリと東京、2つのショーのフィナーレ

 パリで迎えたラストコレクションのフィナーレ。高い天井から降りてきた数々のスクリーンに、ヴェロニク・ニシャニアン(Véronique Nichanian)が37年間にわたって「エルメス(HERMÈS)」メンズ部門を率いてきた軌跡が映し出された。総立ちの拍手と歓声に包まれながら歩いたその時を、ヴェロニクは「私の人生において感動的な瞬間でした」と振り返る。

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 1988年、エルメス創業家5代目のジャン=ルイ・デュマから託されたのは「自由」。上質でタイムレスな“メンズ・ユニバース”を作り上げ、エルメスのプレタポルテの存在を押し上げてきた功績は大きい。そんなヴェロニクが、尽きない情熱とともに追い求めてきた“よい服”とは何か。退任前の最後のショーの舞台として自ら選んだという東京で、インタビューを通して創造の源泉を辿り、そして次世代を担うクリエイターらにエールを送る。

HERMÈS 2026年秋冬メンズ

パリで開催したランウェイショー

HERMÈS 2026年秋冬コレクション

2026 AUTUMN WINTERファッションショー

⎯⎯パリで1月に開催したラストコレクションのショーを、どんな思いで迎えましたか。

 あの日のために、チームの皆が「LAST DANCE」と書かれたバッジを作ってくれたんです。それを胸に付けて、踊りたい気持ちでした。ですので寂しさなどはありませんでしたね。ただ、フィナーレで過去の映像が流れる演出については、実はリハーサルの時に見ていたんですが、もし知らずに目にしたらどうなっていたことでしょう(笑)。会場の皆さんが立ち上がって拍手を送ってくれて、まるで自分がポップスターになったかのようでした。とても嬉しい瞬間で、心に残っています。

Image by: ©Zoe Joubert

⎯⎯エルメスで74シーズンものメンズコレクションを発表してきました。37年間をどのように振り返りますか。

 本当にあっという間でしたが、大きな喜びに満ちていました。創造の自由を与えていただきましたから。クリエイションは私の情熱そのものですし、常に熱意のあるチームとともにありました。エルメスのスタイル、エルメス・メンのアイデンティティ、そして自分のスタイルを築くことができたのは、とても嬉しいことです。

⎯⎯1988年の就任時にジャン=ルイ・デュマ氏から与えられた「自由」とは?

 彼は私に、メンズ部門という一つの企業を与えてくださったようなもの。その時の私は34歳でしたので、若い女性にアーティスティック・ディレクターを任せるということは、当時としては例外で、大きな決断だったのではないかと想像します。でも実際には性別や年齢ではなく、問われるのは能力や才能、プロフェッショナルかどうかですよね。そういった意味でとても感謝していますし、私にとって大きな挑戦だったとも感じています。

Image by: ©Villa Eugenie

エルメス創業家の6代目 アクセル・デュマCEO

Image by: ©Zoe Joubert

⎯⎯その挑戦を通じて、今に至るまでどんな軌跡がありましたか。

 やはりチームの存在は大きく、長い年月の中で、若い世代から年長の世代までさまざまな視点で話し合い、意見を交わしてきました。そういった積み重ねで作り上げてきたコレクションは、私にとって一冊の本のようなもの。前のシーズンの続きを、新たに書いていくという感覚がありました。

⎯⎯ラストシーズンの2026年秋冬コレクションには、10型のアーカイヴデザインが取り入れられていました。

 私はポジティブな人間ですし、普段から過去を振り返らないんですよ。ですので今回のコレクションも、決して回顧的なものではありません。アーカイヴを取り入れたのは、エルメスのスタイルが「今日のため」であり、また「長く続くため」のものだと示したかったからです。ワードローブとして生活の中に馴染み、時を経ても色褪せない。修理をしながら着続けられて、みなさんの人生の一部となっていく服なのです。

⎯⎯その中で象徴的なスタイルは?

 1991年秋冬に発表したアーカイヴを基にしたカーフスキンのジャンプスーツですね。ベースとなったアイテムは、私がよく提案してきたジャンプスーツの中でも、象徴的な一着かと思います。2000年秋冬のブルゾンは裏地にもラムレザーを用いていて暖かく、内側にシルクスクリーンで絵柄を施しました。過去に発表したものでありながら、今も新しく実用的なスタイルになっているかと思います。

©Filippo Fior (courtesy of HERMÈS)

⎯⎯ふんだんに用いられていたレザーのバリエーションも印象的でした。

 触っていただければわかると思いますが、いずれも最高のレザーです。レザーとカシミヤを編み合わせたニットは熟練の技術によるもので、裏側まで美しく仕上がっています。私が好きなテニス・ストライプを、シアリングで表現したデザインも。ショーの終盤で発表したのは夜のスタイルで、クロコダイルのスーツなどはフィナーレにふさわしいですよね。37年にわたって携わってきた私の仕事の、いくつもの道筋を凝縮したコレクションになっているかと思います。

©Filippo Fior (courtesy of HERMÈS)

⎯⎯ヴェロニクさんが考える“よい服”とは、どういったものなのでしょうか。

 まずは質の高い素材ですね。そのうえで服作りは“構築”なので、芯地など内側の構造から全体のバランスまで、プロポーションが重要です。そして色。そのすべてによって、美しい服が完成します。ひとつ言えるのは、「価格」は恣意的に付けられているのではないということ。丁寧な工程の積み重ね、人の手による技術、それらの足し算が価値を生み出します。服は消費するものではなく、長く大切にすべきもの。だからこそ、エルメスは幅広い世代に響いているのだと思います。物語を宿し、人生に寄り添う“オブジェ”。私はずっと、そういう服が好きなんです。

2026年秋冬メンズコレクション in パリ

Image by: ©Villa Eugenie

⎯⎯ヴェロニクさん自身のワードローブでずっと着続けている、お気に入りの一着はありますか?

 たくさんありますよ。まず挙げるなら、カーフレザーのブルゾンでしょうか。レザーはとてもセンシュアルであり、洗練とスポーティの両方を兼ね備えています。それから、メンズのニットなども。日常的に着やすく快適で、旅にも向いている服が多いですね。

⎯⎯本を書くように作り続けてきたコレクションを、なぜここで終わりにするのでしょうか。

 アーティスティック・ディレクターを退任するのは、私自身の決断です。責任ある立場から退き、自分の夢を実現する時間を持ちたいという思いもありました。その夢のひとつが、日本に住むことなんですよ。

⎯⎯東京では過去にも、エルメスのメンズコレクションのショーを何度か開いていますね。

 私自身、本当に日本が好きで、日本の技術と伝統、そのすべてに敬意を抱いています。なので退任に際して最後のショーの話が挙がった時に、「どこでやりたいか」と聞かれて、私はすぐに「日本」と答えました。つながりを大切に考え、パリの後に東京でラストショーを開くことが決まったのです。私が体験してきたすべてへの感謝を伝えたいと思っています。

⎯⎯ラストショーが終わったら、日本に住むことができそうですか?

 そうしたいのですが、残念ながら今回は数日でパリに戻ります。しばらくの間はメゾンで仕事を続けますから。改めてこれまでの年月を誇りに思い、そしてエルメスとつながり続けられるのは、とても幸せですね。

東京ショーに出演したパーソナリティらとともに

Image by: ©Yasutomo Ebisu

⎯⎯最後に、次世代を担う若いクリエイターに向けて、ヴェロニクさんからメッセージをお願いします。

 大切なのは情熱を持つこと。自分の信念に従うこと。目先の流行や周りに影響されず、真のアイデンティティを持つこと。それらが違いを生むはずです。性別も若さも問わず、自分の視点、自分の個性を守り、提示してください。たくさん働く必要はありますが、この仕事は努力すればするするほど、形になって現れます。夢を実現するのは人生で大切なこと。皆さんにも、そう生きる勇気を持ってほしいと願っています。

2026年秋冬メンズコレクション in 東京

Image by: FASHIONSNAP

ヴェロニク・ニシャニアン 東京にて「銀座メゾンエルメス」を背に

ヴェロニク・ニシャニアン 東京にて「銀座メゾンエルメス」を背に

Image by: ©Yasutomo Ebisu

最終更新日:

FASHIONSNAP ファッションディレクター

小湊千恵美

Chiemi Kominato

山梨県出身。文化服装学院卒業後、アパレルデザイン会社で企画、生産、デザイナーのアシスタントを経験。出産を経て、育児中にウェブデザインを学びFASHIONSNAPに参加。レコオーランドの社員1人目となる。編集記者、編集長を経て、2018年よりラグジュアリー領域/海外コレクションを統括するファッションディレクターに就任。年間60日以上が出張で海外を飛び回る日々だが、気力と体力には自信あり。

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