

第一印象の多くは、言葉よりも先に「見た目」で伝わる。特に仕事の現場では、清潔感や整った外見が信頼感に直結する。なかでも客室乗務員(以下、CA)は、清潔感・エレガントさが求められる職業の代表格のひとつで、常に人前に立ち会社のブランドを体現する存在だ。女性中心のイメージが強いが、男性CAも同様の好印象を支えている。男性乗務員としてキャリアを重ね、現在は日本航空(以下、JAL)客室教育訓練部 リードキャビンアテンダントである安野純矢氏に、社会人として求められる身だしなみの考え方や、男性がまず取り入れやすい身なりの整え方を聞いた。ビジネスマンとして"デキる人"という印象づくりについて⎯⎯。
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身だしなみはブランドを体現するもの
⎯⎯CAにとって、身だしなみはどのような位置付けですか?
ブランドを体現するものだと考えています。飲食サービスも行う私たちの職種ではとくに、清潔感も重視されます。
新人訓練でも身だしなみは重要なテーマのひとつで、暗い機内でも顔がはっきり見えるメイクや、どの年代のお客さまにも好印象をあたえる外見づくりを学びます。誰に対しても安心感を持っていただける身だしなみが必要と考えているからです。これはCAに限らず、どの職種にも言えることだと思います。個々の姿が、所属する会社のブランドイメージに直結する可能性がある、ということは常に意識できるといいですよね。
⎯⎯JALの新人訓練では、身だしなみにおいてどのような指導がされていますか?
研修施設にあるメイクアップルームで身だしなみについて学ぶ課目があります。身だしなみにおける社内規定をもとに、インストラクターがメイクやヘアセットの作法を伝授し、新人の皆さんにその場で実践してもらう時間です。男女共通の内容であるため、男性の場合はどうなのか、といったアドバイスを私に求められることもあります。そういったときには髪型やメイクアップについてコメントしますが、ここ最近はCAにおける身だしなみの規定も多様化してきています。

JAL訓練施設 メイクアップルーム
⎯⎯多様化が進む中でブランドイメージを体現し続けることは難しいのでは?
そうですね。もちろん人それぞれの良さや個性をできる限り仕事に生かせるよう尊重していきますが、ここで意識すべきなのが、おしゃれと身だしなみの違いなのかもしれません。
身だしなみは「仕事のスイッチ」
⎯⎯安野さんはおしゃれと身だしなみの違いをどう捉えていますか?
よく言われるのは、「おしゃれは自分のため、身だしなみは相手のため」という言葉ですが、私もこれに賛成です。自由な髪型や着こなしでいたい気持ちはわかりますが、いち社会人として、とくにサービスのプロとして人前に立つ以上、きちんと整えることが大切です。

⎯⎯身だしなみを整えることで、周囲の反応が変わると感じたことはありますか?
ございます。仲間から褒めてもらうこともありますし、何よりお客さまからの信頼と安心感につながります。例えば、一流のホテルやレストランで働くスタッフたちは時代が変わっても、清潔感のある身だしなみをしていますよね。それに、仕事のスイッチにも影響すると思います。勤務中はこのスイッチをキープするためにも、切に触れて鏡をチェックし、ポイントごとに身だしなみを確認しています。食事のあとに歯磨きをするなど、見えない部分のケアも周囲への配慮として大切ですね。
男性の身だしなみは、「髪型」と「スキンケア」
⎯⎯では具体的に、男性が身だしなみを整える際は、どこから始めたら良いでしょうか?
まずは髪型とスキンケアだと思っています。ヘアセットはほとんどの男性が実践していると思いますが、私が新人の皆さんに伝えているのは、スキンケアも大切な身だしなみだということ。メイクまでしなくても、土台を整えるだけでかなり印象が変わります。当社では新人訓練を通して美容意識が高まっていく男性社員も多いようです。
安野さん実践
ビジネスマンのヘアセット


「まずはドライヤーで形を整えながら乾かします。それからヘアアイロンで、頭の形にフィットするように丸みを帯びたスタイルに整える、毛先を少し内側に丸め込んでいくイメージですね。男性は髪が短い人が多いので、使用するヘアアイロンも、プレートが細いものをおすすめします。
ベースができたら、ハードタイプのヘアワックスをもみ込んで、コームで毛流れを整えながらスプレーで固定します。私たちの身だしなみでは、"櫛跡を残すこと(毛流れを整えること)"を大事にしています。
大体でき上がったら、前後・左右を鏡でチェックしながら仕上げのドライヤー(弱風)をあてます。細かく跳ねている部分があるので、スプレーで押さえて完成です。髪が伸びてしまうとこのセットが難しくなるので、1カ月半を目処に美容室へ通っています」

「ヘアセットで使っているアイテムです。ヘアアイロンは海外対応のもので、渡航先に宿泊する際にも使えるものを選んでいます。スプレーは機内に持ち込める大きさに制限があるので、外出時はミニサイズを携帯しています」
⎯⎯スキンケアはどんなものを使っていますか?
毛穴ケア用の拭き取り美容液を使ってから化粧水を塗り、それから保湿アイテムでフタをします。化粧水だけだと逆に乾燥することもあるので、美容液やクリームを一緒に使うと仕上がりがだいぶ違いますね。

「自宅で使っているラインナップです。周りに美容感度の高い社員が多いので、常に情報交換をしながらアイテムを選んでいます。最近はスキンケアに加えて、ヘアケア(中央、グレーのボトル)も使い始めました」
⎯⎯かなり本格的なアイテムですね。こまめに身だしなみを整えるとのことでしたが、持ち運び用のアイテムもあるのでしょうか?
昔から美容に関心があったのでこのようなラインナップになっていますが、保湿や鎮静など、本来の目的が達成できれば、始めやすいところからで良いと思います。持ち運び用のセットも用意していて、内容は、ヘアスプレー(機内持ち込み可能サイズ)、ハンドクリーム、化粧水、スティック状美容液、そして制服のホコリを取るためのクリーナーです。乾燥対策を重点的に考えたラインナップになっています。携帯用はあくまで自宅でのケアを補填するためのもの。家でのケアに加え、出かけてから夜までの間にひと手間加えるだけで、肌の状態がかなり違うと感じました。

「仕事中に使うことを考えて、基本的には無香料のものを選ぶようにしていますが、休憩時のリフレッシュ用に香りつきのハンドセラム等を持ち合わせています」
⎯⎯メイクもされますか?
メイクをする男性社員もいますが、私は基本的にしません。ただ、どうしても肌荒れがひどいときのために、少しだけ持ち歩いています。コンシーラー、眉毛マスカラとアイブロウですね。表情が暗く感じる日などに少し足すと印象が違います。メイクアップをしない男性は多いと思いますが、このくらいのミニマルメイクであれば始めやすいので、挑戦してみてもいいかもしれません。

初めから完璧である必要はない
⎯⎯身だしなみに迷っている社会人男性へ、アドバイスをお願いします。
初めからすべてを完璧に整えなくても良いと思います。スキンケアでも髪型でも、"まずはここから"というポイントをひとつ持つだけで、意識はガラッと変わるはずです。そうしてひとつ習慣ができると、自然とほかの部分にも目がいくようになって、一つひとつの要素が整っていきます。周囲からの印象も変わり、自ずと立ち振る舞いも変わってくるのではないでしょうか。身だしなみは相手のためにするものと言いましたが、結果、自分のパフォーマンス向上につながる可能性も秘めているんです。

◾️安野純矢
2017年入社。JAL 客室教育訓練部 リードキャビンアテンダントとして訓練環境の整備や契約案件、問い合わせ対応などを担当する。
⎯⎯CAを目指したきっかけを教えてください。
自分が関わることでお客さまの時間がより豊かになるような仕事がしたいと思っていました。最初はグランドスタッフとして働いていましたが、より長い時間お客さまと向き合える仕事をしたいと考え、CAを志しました。私が入社した2017年は、当社で久しぶりに男性CAが入社した年でもあり、これも挑戦の後押しになりました。
⎯⎯現在は通常のフライトも担当していますか?
はい、訓練部としての業務がメインなので頻度は少ないですが、フライトも担当しています。CAは資格維持のために半年に1度はフライトをする必要がありますが、私は訓練部での業務スケジュールを調整し、現場の感覚を忘れないために、3カ月に1回ほどフライトに出ています。
⎯⎯フライト中はどのくらいの時間、乗客と接していますか?
飛行時間により変動しますが、長いと羽田-ニューヨーク間のフライトで約12時間。長い時間をともにすることで、お客さまとより近い距離で関われることがCAの魅力だと感じています。
⎯⎯フライトに不安や緊張を抱く乗客にはどのように接していますか?
まずはお客さまに寄り添い、具体的にどういったことに対してご不安や緊張を感じられるのか伺います。その上で私たちができることをご提案しております。同時に、このようなお客さまの情報も同乗CA間で共有し、何かあればすぐに対応できるよう努めておりますし、チームで話し合うことで、よりよい対応策が見つかることも多いため、そのお客さまにとって何がベストなのかを全員で考え、行動に移すよう心がけております。
⎯⎯フライト中、寝ている乗客へのサービスはどのようにしていますか?
サービス中にお休みになられていたお客さまについては、同乗CAとその旨情報共有しておき、お客さまがお目覚めになられたタイミングですぐにお声掛けできるようにしております。
⎯⎯サービスのプロとして、乗客に良い時間を過ごしてもらうために心がけていることはありますか?
プロとして100の引き出しを準備しますが、実際にお出しするのは最良の"1"だけでいい、あとの99をあえて引くことで生まれる絶妙な距離感こそが、お客さまのくつろぎを深めると考えています。
これを私は"引き算のサービス"と呼んでいます。千利休の「利休七則」にあるように、大切なのは型通りであること以上に、相手を深く洞察すること。何もしないことが最善のとき、その選択をするにはプロとしての勇気が必要です。
また、身だしなみを完璧に整えるのも、自分を誇示するためではありません。空間の一部として自然に溶け込み、お客さまに一切の違和感を与えないため。自分を無に近づける引き算こそが、究極のおもてなしへの第一歩だと思っています。
photography cooperation :JAPAN AIRLINES, photography :Hikaru Nagumo
最終更新日:
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