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“ダサい人がいなくてつまらない” 三原康裕、久保嘉男、木島隆幸が語る令和ファッションシーン

50周年MIDWEST 座談会

 セレクトショップ「ミッドウエスト(MIDWEST)」が、2026年で創業50周年を迎える。名古屋の1号店から始まった同店は、インポートブランドから国内の気鋭デザイナーズブランドまで幅広く揃え、現在は東京、大阪とあわせて日本国内に計3店舗を展開。ブランドセレクトにおける「軽く始めない、そして始めたら決してやめない」という信念のもと、数多くのブランドの成長を後押ししてきた。「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)」「ヨシオクボ(yoshiokubo)」「キジマ タカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」など、日本を代表するブランドに育っていった例も少なくない。

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 今回、ミッドウエストの半世紀の節目にあたり、三原康裕、久保嘉男、木島隆幸という3人のデザイナーが集結。2023年に大澤勝会長からショップの舵取りを引き継いだ2代目 大澤武徳社長を交えての座談会が実現した。話はミッドウエストで取り扱いが始まった当時の思い出から、セレクトショップの意義、令和のファッションシーンまで広がった。

(左から)久保嘉男、三原康裕、木島隆幸、ミッドウエスト大澤武徳社長

ポール・スミス本人が名古屋まで商談に ミッドウエストの50年

⎯⎯デザイナーの皆さんにお聞きします。ミッドウエストとはいつ頃から取引があるんですか?

三原康裕(以下、三原):始まりはもう30年近く前のことになりますね。僕は靴作りからデザイナーの世界に足を踏み入れたんですが、駆け出しの頃から「自分の作ったものを本当にいいお店に置いてもらいたい」という思いが強くて。真っ先に頭に浮かんだのが、名古屋のミッドウエストだったんです。当時は本当にカッコいいアイテムを揃えている「ちゃんとしたセレクトショップ」が日本全国探しても4〜5店くらいしかありませんでした。

 SNSどころかインターネットもないようなアナログな時代です。なんとかしてここに置いてもらいたいと、「写ルンです」で自分が作った靴の写真を撮って、熱い思いをしたためた手紙に同封して送ったんです。でも、もちろんそんな手紙だけでバイヤーが来てくれるわけもなくて。何度も何度も電話してようやくアポイントを取り付け、取引が決まりました。

MIDWEST大澤武徳社長(以下、大澤):三原さんとのお付き合いは、本当に長いですよ。当時僕は社長ではなくバイヤーでしたね。

三原:お兄ちゃん(大澤武徳社長)は展示会では一言も話さないからドキドキするんです。でも一歩お店の外に出て、食べ物屋さんとかに行くと、普通にしゃべってくれる。展示会場の中と外で、完全に別人ですね。

大澤:展示会場では、どうやってMDを組み立てるかということに全集中力を使っているので、普段の姿とはどうやら違うみたいです。いつも感想も言わずに帰るので、デザイナーさんやブランドさんからは怖いと言われますね(笑)。

久保嘉男(以下、久保):僕は15年くらいお付き合いさせてもらってます。取り扱いが始まる前、東京のミッドウエスト(MIDWEST TOKYO)を何回か見に行ったんですけど、正月とか死ぬほど人が来てるんですよ。三原さんの服とかもバーッと売れていて「ええ店やな」と。どうしても置いてもらいたくて、2年くらいアタックを続けてやっと買ってもらえることになりました。そこからずっと良くしていただいていて、思い出は尽きません。武徳さん(大澤社長)、僕の葬式には来てくださいね。

大澤:いやいや、久保ちゃんの方が歳下でしょ(笑)。

木島隆幸(以下、木島):この中では僕が一番取り扱っていただいたのが最近だと思います。それでも「キジマ タカユキ」にブランド名が変更になる前からのお付き合いなので、13年以上にはなりますね。三原さんも話してましたが初めて展示会場でお会いしたらめちゃめちゃ怖くて。長らく目を見てお話することができませんでした(笑)。

三原:当時お兄ちゃんは目が吊り上がってたからね。でも、「ダーク ビッケンバーグ(DIRK BIKKEMBERGS)」の靴を1シーズンで800足(8トントラック1台分)売ったって話もあるし、本当に伝説のショップですよ。

久保:ポール・スミス(Paul Smith)本人が来日した際にスーツケースを引いて名古屋まで「買ってくれ」と尋ねてきたらしいですね。あと、ロンドンで開催された「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」の最初の展示会も生で見ているんですよ。

⎯⎯事実なんですか?

大澤:全て事実です。「ポール・スミス(Paul Smith)」については国内で取り扱いを始めたのはうちが一番最初ですね。

ブランドを育てるということ

⎯⎯ミッドウエストはインポートから気鋭のデザイナーズブランドまでフラットな視点で買い付けている印象です。ブランドの選定基準を教えてください。

大澤:まず大前提として、他社さんで既に売れている、いわゆる“売れ筋”のブランドを後追いでやるということはしないと昔から決めています。多く人がまだ知らないブランドを育て、一緒に盛り上げていきたい、というのが基本的なスタンスです。あとは、リブランディングが必要なブランドさんと一緒に新しいことに取り組むケースもありますね。

三原:悲しいことに、バイヤーさんの中には、すでに売れているブランドしか探さないという人もかなり多いんですよ。売れているブランドを大量に仕入れて、どんどん消費していく利益重視のビジネスモデルですね。そういったお店からはブランドへの愛情は感じられません。ミッドウエストは客観的に見てかなり売るお店の一つではありますが、ブランドが良いときも悪いときも、なんとか工夫して買ってくれるんです。こういうお店があるからこそ僕らは安心してクリエイションに集中できるので、本当に感謝しています。

大澤:「売れなくなったからやめた」というのは我々の歴史で一度もありません。軽く始めない、そして始めたら決してやめない。ブランドを選ぶときは「今だけでなく将来的にもしっかりと取り組みができるか」というポイントも重視しています。「誰々が着ているから」「SNSでバズっているから」というだけの理由で取引を始めることはしません。

 有難いことにお客さまや業界の方からの「ミッドウエストで取り扱うブランドなら」といった信用もあります。その中で安易にブランドを始めて売れなかったから切る、という選択をするのはこれまで50年かけて積み上げてきたものを崩してしまうことにつながります。何事も壊すのは一瞬ですから。

久保:でもね、ちゃんと売り上げを立てているからこれできるんですよ。今、周りを見渡してみるとホールセール(卸売)ボロボロですから。50年間セレクトショップの業態で結果を出し続けているというのは、本当に凄いことだと思います。

大澤:この間久しぶりにロンドン行ったんですけど、僕らと同じくらい歴史ある有名セレクトショップが、もうほとんど残っていない状態でした。売ってくれるセレクトショップがないから、若いデザイナーが全然育たないんです。昔はロンドンコレクションに沢山面白いブランドがあったけど、今はかなり少なくなっている。売る場所がなかったら、表現する人もなくなりますよね。若い人達が「ここで扱ってもらいたいんだ!」って心から思えるような、憧れのショップの存在が不可欠だと、改めて感じました。

久保:デザイナーにとっては、本当に切実な問題だと思います。セレクトショップへの卸がきちんと成立しないと、僕らは次のコレクションを作るためのお金が回らない。自分たちだけで売るという手段をとるには、相当な資本力とノウハウがいりますしね。それがないから、特に若いデザイナーは大変な思いをしているんだと思います。

木島:久保さんも言っていましたけど、長く続いているセレクトショップは本当にすごい。ブレない軸や信念を感じます。

三原:明治神宮がようやく100年だからね。移ろいの激しいファッションのサイクルの中でその半分というのは気が遠くなる。この間にいくつのブランドやショップが生まれては消えていったか分かりませんから。僕は約30年間お付き合いさせてもらってますけど、勝手に同じ時間を過ごしてきた仲間意識みたいなものを感じています。

「ダサい人」がいなくてつまらない

⎯⎯皆さんが駆け出しだった頃と比べて、ファッションシーンで変わったことは?

三原:僕らがデビューしたての頃は、ファッションがもっとアンダーグラウンドな世界で、ある種のカウンターカルチャーだったんです。例えば、某ラグジュアリーブランドはまだ最高級のかばん屋さんで、今のような総合的なファッションブランドではなかった。絶対的なモードと、それへのアンチテーゼが常にバチバチ対峙しているような緊張感があって、すごく健康的だったんです。

 でも今は、SNSで「これが今のファッションだ」という画一的な空気感が蔓延してしまって、みんなが見ている世界が同じになってしまっているような気がする。ある意味、「デジタルの奴隷」になっているなと強く感じています。昔は白黒コピーをハサミで切って、糊で貼り付けてコラージュを作ったりしていたから、たまに予期せぬ変なものができたりして、それがかえってクリエイティブだった。でも今は誰でも同じツールで、同じようなものが作れてしまう。だから僕は、あえて粘土で靴の型を作ったりして、わざとデジタルから距離をとっているんです。

木島:SNSで消費される期間があまりにも短すぎるんですよね。「これいいな」と思ったときには、もう情報が広がりすぎていて、すぐにお腹いっぱいになってしまう。あと、昔は本当にファッションが好きな人と、そうでない人の差がくっきりとあったんですが、今は「ある程度お洒落な人」ばかりになってしまっています。平均値が上がっている喜ばしい側面もあるのかもしれませんが、「ダサい人」って実は意外と僕らにアイデアをくれて、面白かったんですよ。常識では考えられない変な合わせ方とかね。みんなが無難になりすぎて、つまらなくなっていると思います。

大澤:本当にそうですね。ダサい人がいたほうが、ファッションは面白い。ダサいとお洒落は紙一重みたいなところもありますから。そういう意味で、ミッドウエストでセレクトするときは「分かりにくいものをピックする」ということを心掛けています。「どこどこのお店がこれくらい買ってくれました」とか言われると、逆に買わない(笑)。「売れていないのはどれ?」とよく聞きます。誰もやっていないことをしたいという気持ちは、昔からずっと変わらずにあります。

三原:端的に言うと、尖った人が生まれなくなっていますよね。「ストリートファッション」と呼ばれる概念だって、今でこそ大衆まで降りてきているけど、元々は数人の熱狂的な尖った人たちが作っていたスタイルですから。今後ファッションでこういう大きなムーブメントが起こるのか、正直分からないです。

 あとは、バズを狙うブランドが増えたように感じます。例えば近所にプリン屋さんができたとして、試しに行ってみたらすごく美味しかった。その次に行ったら売り切れのメニューがあった。また次行ったら今度は行列ができていた——これがブランドが育っていく健康的なプロセスだと思うんです。でも、みんないきなり「買えない状態」になることを求めてしまう。これがバズりです。バズると一度は爆発的に売れますが、しっかりとした段階を踏んだ顧客が少ないから、少しでも下火になると離れるのはあっという間です。

久保:今は消費者が偶然の出会いみたいなものを求めてないんですよね。昔はセレクトショップに行って、思いもよらないものを買ってもうた〜みたいなこともあったけど、今は話題になっている目当ての物をインターネットで検索して買うだけのパターンが多いんじゃないですか。

大澤:知識豊富な店員さんと会話を楽しみながら買うというのがショッピングの全てで、その体験自体に価値があった。でも今は、わざわざセレクトショップで買う意味が薄れてきてしまっている。だからこそ、他店の右に倣えではなく、信念を持ってセレクトや接客などでその店の独自性を打ち出していくことが、ファッションの文化を守っていくことに繋がるんだと思います。

⎯⎯ちなみに、ご自身が駆け出しだった時代に戻れるとしたら戻りたいですか?

久保:戻りたくない。あんな売れてない時には戻りたくないです(笑)。

三原:50:50かな。昔に戻って、職人さんを未来に繋いでいく活動をもう一度しっかりやりたい気持ちもあります。ブランド立ち上げ時に自分の工場を作って年配の職人さんを雇って、一緒に靴を作っていくという事業が大失敗したことがあって。今ならもっと上手くやれるような気がするけど、今はその職人さんがいなくなってしまっているから。これについての悔しい思いはずっと持っています。

木島:今は本当に職人さんがいないね。なりたいと思う人もほとんどいない。若い人が自分の手で物を作ることに対して憧れを持てなくなってしまっている現状については、デザイナーである自分たちの責任もあるかもしれません。

リック・オウエンスが使用済パンツを出品、50周年記念オークション開催

⎯⎯今回ミッドウエストの50周年を記念して、お三方を含む大勢のデザイナーがそれぞれ一点物の特注アイテムを製作。オンラインオークションで販売します。

木島:今回僕は、オートクチュールの帽子製作の過程を、一つのハットの中で表現しました。剥き出しになっている白い部分は帽子の「型」を作るための和紙でできた素材で、黒い部分ではこの素材にカシミヤを重ねています。本来はこの黒い部分が100%になると完成で、白い部分はまだ途中の状態。未完成の余白をあえて残すことで、ミッドウエストがこれからも続いていくようにという思いを込めました。和紙部分はコーティングで補強してあり、長い間楽しんでいただけるアイテムに仕上がったと思います。

三原:木島さんの言葉で聞くと、更に心に響くよね。

久保:いきなりハードル上がったなあ。

三原:木島さんのハットに比べると下品で申し訳ないんだけど(笑)。僕はメゾン ミハラヤスヒロで定番的に出している「ブレイキー(BLAKEY)」というモデルを基に製作しました。ミッドソール部分に「No Matter Never Mind, No Mind Never Matter(気にしなければ問題ないけど、問題なければ気にもならない)」というブランドのスローガン的な格言や、「Nothing is Good or Evil(物事に良いも悪いもない)」というシェイクスピアの言葉などを僕が手書きしています。

 あと、実はこのシューレースの部分にはUSBメモリがついていて、僕が作った4曲のデータが入っています。元々10代の頃にシーケンスを使って音楽を作っていたんですが、エイフェックス・ツイン(Aphex Twin)やケン・イシイ(Ken Ishii)といった天才が出てきたことで敵わないと思って辞めていたんです。最近また再開しました。周りの人がみんな歳を重ねて落ち着いてきてしまっているから、「これはいかん。このまま老人ホームに行って死んでしまうくらいならみんなをテクノで殺そう」と思って、「テクノor老人ホーム」といったコンセプトで細々とやっています。

久保:やっぱこの人変わってますよね。言うてることめちゃくちゃですもん。

木島:(笑)。

三原:周囲の人には、50〜60歳を過ぎても更に激しい人生を送ってほしいから、僕が煽っていくしかないなと思ってね。久保くんには僕がDJやっている横でたこ焼きを焼いてほしいな。

久保:なんでやねん。

 これ最後、自分なの嫌ですね。錚々たる方々が参加しているということで、自分も中途半端なもの作りはできないなと思って、イタリアで作ってもらった生地に手作業で総刺繍したオープンカラーシャツとショーツのセットアップを作りました。他のデザイナーが見て「アホちゃうか」と面白がってくれたら最高です。

木島:これはすごい。本気の手仕事ですね。

久保:そういえば、リック・オウエンス(Rick Owens)は使用済みアンダーウェアを出品するらしいですね。

大澤:本人今めちゃめちゃ忙しいらしく、こういったオファーは基本的に断っている状況らしいんですが、20年以上ご一緒していることもあり特別に参加してくれることになりました。そのパンツは、リックとミッドウエストの絆の象徴ですね。

三原:最初は正直「パンツかよ」と思いましたが、この話を聞くとコンセプチュアルアートのように思えてくるね(笑)。

大澤:木島さん、三原さん、久保さん、リックをはじめ、いろいろなデザイナーさんが50周年を記念して素晴らしいアイテムを贈ってくれました。長くやっていて良かったなと心から思いましたね。

三原:50周年記念イベントでは、ぜひ久保くんにたこ焼きを焼いてもらいましょう。

久保:もうええわ(笑)。

FASHIONSNAP 編集記者

村田太一

Taichi Murata

群馬県出身。男子校時代の恩師の影響で大学では教員免許を取得するも、ファッション業界への憧れを捨てきれず上京。2021年にレコオーランドに入社。主にビジネスとメンズファッションの領域で記事執筆を担当する。幼少期、地元の少年野球チームで柄にもなくキャプテンを任せられた経歴を持ち、今もプロ野球やWBCを現地観戦するほどの野球ファン。実家が伊香保温泉の近くという縁から、温泉巡りが趣味。

最終更新日:

■MIDWEST 50周年記念アイテム展示イベントスケジュール
名古屋:2026年6月9日(火)〜14日(日)
大阪:2026年6月19日(金)〜24日(水)
東京:2026年7月4日(土)〜8日(水)

■50周年記念アイテム オンラインオークション
会期:2026年6月9日(火)12:00~7月8日(水)20:00
会場:MIDWEST ONLINE STORE

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