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バッグの次に見つけた表現 榎本紀子はなぜジュエリーブランド「ガルブ」を立ち上げたのか

聞き手&文菅原まい

榎本紀子デザイナー

Image by: galbe

榎本紀子デザイナー

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榎本紀子デザイナー

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 デザイナー榎本紀子が、2025年10月に立ち上げたジュエリーブランド「ガルブ(galbe)」。フランス語で「曲線」を意味するブランド名の通り、榎本は機能や用途から解放された純粋な造形としてのジュエリーを通して、長年向き合い続けてきた“曲線”というテーマをさらに突き詰めようとしている。なぜ今、ジュエリーだったのか。ブランドの根底に流れる造形への探究心と、新作「mignon alphabet collection」に込めた想いについて話を聞いた。

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追い求めたのはさらに自由な曲線のかたち

──2020年から手掛けているバッグブランド「ノリ エノモト(nori enomoto)」とは切り離し、新たにジュエリーブランドを立ち上げた理由を教えてください。

 ノリ エノモトでのバッグ作りでは、物を入れて運ぶという機能が前提にあり、その中で曲線美と実用性をどう共存させるかに焦点を当ててきました。その化学反応のようなものづくりに面白さを感じる一方で、いつしか機能を伴わない純粋な「形」そのものに向き合いたいと思うようになったんです。

 さらに小さなスケールで曲線美を追求できる表現を考えたとき、行き着いたのがジュエリーでした。曲線だけにこだわったものづくりをするなら、それはバッグブランドのカテゴリー拡張ではなく、別の思想を持つブランドとして立ち上げるべきではないかと。そこで「実験的な膨らみと美しい曲線の追求」を掲げたブランド「ガルブ」をスタートしました。

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──そもそも強い「曲線」への関心はどのように生まれたのでしょうか。

 原点は服作りを学んでいた文化服装学院での学生時代にあります。学校では、制作中に曲がってしまったまち針をそのまま捨てるのではなく、針供養のための回収箱に集める決まりがあったんです。私は提出用のまち針をガムテープに貼ってミシンにベタッと貼り付けていたのですが、その曲がった針の集合体が不思議と美しく見えて。本来であれば役目を終えた道具であり、捨てられるはずだったものの中に偶然生まれる曲線。その美しさとの出会いが、今の自分の造形感覚の出発点になっています。

──ガルブはローンチまでに約2年の準備期間があったそうですね。

 そうなんです。私はもともと服作りを学んできたので、ジュエリーの専門知識があったわけではありません。素材ごとの性質や耐久性、長く身につけてもらうための構造など、一から学びながら形にしていきました。自分が作りたい曲線を成立させるために、どの素材が適しているのかを探る時間が必要だったんです。

──バッグからジュエリーへ。キャンパスのサイズが大きく変わることで、制作にも違いはありましたか?

 バッグではミリ単位で調整していたものが、ジュエリーになると0.2ミリ単位の世界になったのが一番大きな変化です。ほとんどの人には気付かれないような差ですが、そのわずかな違いが造形の印象を大きく左右するんです。0.2ミリ削るか、0.2ミリ足すか。その違いを延々と検証しながら形を作り上げていく作業は、正直かなり狂気的だと思います(笑)。でも、そうやって細部を突き詰めていけるところに、ジュエリー作りの面白さを感じています。

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ファインジュエリーの世界への扉を若い世代に開きたい

──ローンチから半年ほどが経ちました。ガルブとノリ エノモトでは、顧客層に違いはありますか?

 少し違いますね。ノリ エノモトは年齢層が幅広い一方、ガルブは現在30歳前後のお客様が中心になっています。

 また、ガルブのポップアップには「ノリ エノモトを知っていたから来た」という方だけではなく、ジュエリーそのものに興味を持って来店される方も多いんです。最近は「デザイナーが榎本紀子さんなんですね」と後から知ってくださるケースも増えていて、ブランドとして少しずつ独立した広がり方をしているのを感じています。

──実際に顧客と接する中で、どのような反響を感じていますか。

 印象的なのは、「ジュエリーは自分とは少し遠い存在だと思っていた」という声を多くいただくことです。アクセサリーには親しみがあっても、ファインジュエリーとなると少しハードルが高く感じられるのかもしれません。だからこそガルブでは、ジュエリーを特別な日のためだけのものではなく、日常の中で楽しめるものとして提案したいと考えています。実際にポップアップでは、「初めてファインジュエリーを購入した」という方や、「ガルブのアイテムをつけるためにピアスを開けた」という方もいらっしゃいます。そうした声を聞くたびに、ジュエリーとの新しい出会いのきっかけになれていることを嬉しく感じます。

 ただ同時に、もっと多くの方に素材そのものの面白さも知っていただけたらと思っています。例えばスターリングシルバーは経年変化によって表情が変わりますが、磨けば再び輝きを取り戻します。さらに金やプラチナを組み合わせることで、新たな魅力も生まれる。そうした素材との関係性を楽しみながら、自分なりの付き合い方を見つけてもらえたら嬉しいです。

──素材との関係性を楽しんでほしいという思いは、異なる素材を組み合わせたデザインにも表れていますね。

 そうですね。バッグでは色の組み合わせを考えることが好きだったのですが、ジュエリーを学ぶ中で、それと似た面白さを素材の組み合わせにも感じるようになりました。中でも気に入っているのが、シルバーと18金の組み合わせ。それぞれ単体でも十分に魅力的ですが、あえて一つのアイテムの中で共存させることで、お互いの色や質感が引き立つんです。シルバーが好きな方にも自然にゴールドを取り入れていただけますし、その逆もあります。素材同士の対話のような感覚があって、とても惹かれている表現の一つで、複数のコレクション内で展開しています。中でも、指輪の造形をピアスへと落とし込んだ「bague collection」の「complète solitaire pierce」(4万4000円)は特に人気が高く、ガルブらしい曲線美と素材の魅力を感じていただけるアイテムだと思います。

complète solitaire pierce

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──ガルブのジュエリーは、人生の節目や特別な記念日を彩る品として購入される方多いと伺っています。

 もちろん日常的なお買い物として選んでいただくこともありますが、実際にお客様とお話ししていると、想像していた以上に人生の節目と結びついていることが多いんです。大学の卒業や就職、転職、誕生日、ボーナスが出たタイミング。誰かに贈るだけでなく、自分自身に贈るために選んでくださる方もたくさんいます。

 ジュエリーは価格だけを見ると決して気軽な買い物ではありませんが、その分購入した日の気持ちや、そのときの自分の状況まで一緒に記憶してくれる存在でもあると思っています。数年後に見返したとき、「あのとき転職したんだよな」とか、「卒業祝いに選んだものだったな」と思い出せる。そういう時間の積み重ねとともに育っていくものだからこそ、流行として消費されるものではなく、その人の人生に長く寄り添うデザインをこれからも生み出していきたいです。

“自分だけ"が意味を知る文字をリングに

──6月4日に発売したアルファベットモチーフの新作リングコレクション「mignon alphabet collection」について教えてください。

 第1弾となる今回は、「A、B、C、E、G、H、I、J、K、L、M、N、O、R、S、U、V、Y」の計18文字を発表しました。26文字すべてのデザイン構想はありますが、アルファベットごとに造形として成立させる難しさが異なるため、まずは納得できた文字からリリースしています。

 アルファベットモチーフのジュエリー自体は世の中にたくさんあります。ただ、その多くは文字そのものを見せるためのデザインだと思うんです。一方で私が作りたかったのは、「自分だけが意味を知っている文字」。例えばイニシャルでもいいですし、大切な言葉でもいい。身につけている本人には意味があるけれど、他人から見たら抽象的な造形に見える。その曖昧さを表現することにこだわりました。

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 私はもともとパタンナーを目指して服作りを学んでいたので、平面を立体として捉える感覚が自然と身についているんです。なので今回もアルファベットも単なる文字としてではなく、「指に通したときにどんな造形になるか」という視点から考えていきました。文字をそのままジュエリーに置き換えるのではなく、一度立体として再構築し、身につけたときに美しく見える形へと翻訳しています。

──翻訳する過程でのこだわりを教えてください。

 重ね着けしたときに単調にならず、造形同士が会話するような状態をつくりたかったので、母音の「O」や「I」には膨らみや凹凸を加えました。子音の文字は、「E」のように文字の形をかなり残しているものから、「J」のようによく見ると文字が浮かび上がってくるようなデザインのものまで、幅広く揃えています。

 リングのデザインに落とし込む作業で苦戦したのは、「L」や「V」のような直線的な文字。太さや長さ、重心の位置を細かく調整することで、文字としての認識と造形としての美しさの両方を成立させていきました。こうした微調整の積み重ねや、身につけたときの見え方を考えながら形を整えていく感覚は、バッグや服作りをしていた頃から変わらない部分かもしれません。

榎本デザイナーのおすすめの組み合わせ「LOVE」

Image by: FASHIONSNAP

「e」リング

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──新作は価格帯が1万7600〜5万8300円と、今までのコレクションと比べ価格が抑えられています。

 初めてサンプルを公開したときに、年齢や性別を問わず、多くの方が興味を示してくださったんです。ご自分のイニシャルや好きな言葉を考えながらお客様同士で会話をしている様子を見て、このシリーズは単なるイニシャルジュエリーではなく、その人らしさを表現するためのツールになり得ると感じました。

 ただ、そのときに「もちろん複数個組み合わせたいけれど、そうなると価格が気になりますね」という声もいただいて。例えば「LOVE」を作るなら4つ必要ですし、もっと長い言葉ならさらに増えます。一点だけを身につけるのではなく、自分の好きな言葉やイニシャルを自由に組み合わせながら遊んでほしいので、価格が理由で選択肢を狭めてしまうのは違うと思ったんです。だからこそ今回は、複数本を組み合わせる楽しさを前提に、手に取りやすい価格設計にこだわりました。

──最後に、今後の展望について教えてください。

 まずは、ブランドが考えていることを国内外で継続的に発信していきたいです。私にとってジュエリーは装飾品というだけではなく、その人の記憶や節目に寄り添う存在です。今後は結婚指輪のような人生の節目に関わるアイテムにも挑戦していきたいですし、展示会やポップアップを通して、ブランドの思想そのものを伝える場も増やしていきたいと思っています。

 また、いつかはガルブの世界観をより深く体験していただける空間も作れたらと考えています。ポップアップを開催するときも、単に商品を並べるのではなく、ブランドの考え方や空気感まで含めて伝えることを大切にしているので、そうした軸をぶらさずに表現できる場所があれば挑戦してみたいです。形の美しさを追求することと、その先で誰かの記憶に残るものを作ること。ガルブはこれからも、その両方を大切にしながら続けていきたいです。

榎本紀子デザイナー

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最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

菅原まい

Mai Sugawara

2002年、東京都生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒業後、2025年に新卒でレコオーランドに入社。中学生の頃から編集者を志し、大学生時代は複数の編集部でインターンとして経験を積む。特技は空手。趣味は世界中の美味しそうなお店をGoogleマップに保存すること。圧倒的猫派で、狸サイズの茶トラと茶白を飼っている。

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