ジャン=ポール・ゴルチエ
Video by: FASHIONSNAP

Fashionインタビュー・対談

【インタビュー】ジャン=ポール・ゴルチエに迫る――歴史に名を刻む"アヴァンギャルドの旗手"の原点と今

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ヴィンテージに抱く、少し複雑な気持ち

M:ゴルチエさんは音楽やミュージカル、映画の世界でも、積極的に衣装を提供してこられました。とくに1990年のマドンナのコルセットは有名です。

J:私はエンターテインメントの世界がもともと好きなので、アーティストとのセッションを楽しんできました。子供の頃、いつも家で留守番をしていて、暇なのでテレビを眺めていたんです。ある日、フォリー・ヴェルジュールのキャバレーで女性が踊っているのを見て、その美しさと妖艶さに心を打たれました。そのことをずっと覚えていて、数十年後にマドンナのコルセットに昇華したのです。

 リュック・ベッソン監督の映画「フィフス・エレメント」の衣装も楽しい仕事でしたし、カイリー・ミノーグやボーイ・ジョージの衣装も手掛けました。

K:日本だとBOOWYの衣装も手がけていましたね。ゴルチエさんの80〜90年代のコレクションは、ヴィンテージ市場で高値で取引されています。このことについてどう思いますか?

J:その質問に答える前に、自分の服よりもっと古いヴィンテージの話をしてもよろしいでしょうか?

K:はい、もちろんです。

J:先ほどお話ししたように、私の原点は古着です。自分の発想でリメイクしたコレクションがルーツにあるのです。古着に新たな価値を付加するのは、地球環境的な視点でもとてもいいことだと思います。

 古着のカルチャーというのはすでに70年代からあって、少し前のサンローランが高値で取引されていたりしました。80年代前半のロンドンやパリでは、50年代のテディボーイやロカビリーのグループが存在して、彼らは家や車まで50'sにこだわっていましたね。そうした波が今、戻ってきているのを感じます。

 ただ現役のデザイナーとしては、現代の服が売れなくなってしまうのは困るので、新しいものにも目を向けてほしいですね(笑)。ご質問の自分の過去の作品がヴィンテージになってきていることについてですが、少し複雑な気持ちになります。ロンドンのカムデンタウンで、80年代の私の服がヴィンテージとして売られているのを見た時、「自分はもうヴィンテージなんだ......」と思ったりもしましたから。私は現役で最新のコレクションを発表しているので、過去の作品を評価されるのは嬉しいけれど、過去の人みたいに思われるのは嫌ですね。

K:たぶんみんな、古いのに新しいということに驚愕しているんだと思います。ヴィンテージといえば、マルタン・マルジェラはそうした過去を解体再構築して、90年代モードの旗手となりました。先日、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクさんにインタビューした時に、84年にマルジェラはゴルチエさんのアシスタントになったから「アントワープ・シックス」のメンバーに入らなかった。もし、彼がベルギーに留まっていたら「アントワープ・セブン」になっていたと思う、と仰っていました。

J:そうですか。デザイナーとして来年50周年を迎えますが、数多のデザイナーを輩出してきたなかで、もっとも優秀だったのはマルタン・マルジェラです。彼は私と同じものを作らず、全く逆のものを作ったんです。有名デザイナーのアシスタントを経験すると、師匠と同じ作風になりがちですが、彼は違いました。当時のファッションデザイナーはTVスターのように扱われていましたが、彼は匿名性を貫き、解体再構築の手法は多くのデザイナーに影響を与えましたから。

 若いデザイナーに言いたいのは、自分らしさを確立してほしいということ。様々なものを見て影響されるのは大切ですが、それをどう自分流に表現するかが大事です。私もピエール・カルダンやイブ・サンローラン、ケンゾーに感化されましたが、自分の個性は永遠に持ち続けています。

ファッションも変わるべき時が来ている

M:4月の「シュプリーム(Supreme)」とのコラボは少し意外でした。

J:今、世界的に若い世代を惹きつけているブランドで、クオリティも優れています。ドロップという販売の手法も面白いですよね。ほとんどが数時間で完売してしまうので、無駄がなく優れたビジネスモデルだと言えます。コラボレーションできて非常に満足しています。

M:現在のファッション業界について、どのような思いを抱かれていますか?

J:あまりにも世の中に服が溢れていますよね。大企業が大量生産していて、世の中のニーズ以上のものを作っている現状があります。今ではプレやリゾートが加わり、年4回の発表が当たり前になっていますが、消費者にとっては選択肢がありすぎて、何を選んでいいのか混乱しているのではないでしょうか。例えるならば、10人が入れるスペースに300人くらいが犇めいているようなイメージです。

 これからのファッション業界は、需要にあった生産調整が必要です。ユニクロは大きい会社ですが、需要にあったクオリティの高いものを作っていると思いますね。地球環境との共生は、今後のファッション業界が必ず解決しなければならない課題です。在庫焼却なんてもっての外で、売れないなら生産量を減らせばいいんです。無農薬の野菜を食べるとか、環境に優れた田舎に移り住むとか、今は世界的にライフスタイルが本物志向になりつつあります。ファッションも変わるべき時が来ているのです。

M:非常に共感します。クリエーションとサステナブルの最適なバランスを探るのは、これからのファッションデザイナーに与えられた使命だと思います。

J:もうひとつ、ファッションショーの見方について、提言させてください。スマートフォンが普及して以来、人々は記憶より記録に残すことに夢中になっているように見えます。私もiPhoneを愛用していて、記録する手段として毎日のようにシャッターを押していますが、記録より記憶を優先すべき場所や物事があります。ファッションショーはその最たるステージです。

 インスタグラムに載せるベストショットを撮ろうとするあまり、ショーでのみ味わえる感動をおざなりにしている人を見かけますね。私は私のコレクションの全体を見てほしいのです。撮影した写真を見直しても、感動は記録されません。ぜひ、五感全体で私のコレクションを感じてください。

M:私も反省しなければらないジャーナリストの一人かもしれません。最後にゴルチエさんにとって、ファッションとはどういうものでしょうか?

J:ファッションは自分と他人とのコミュニケーションツールです。服というものは、着る人を化けさせることができます。自分を強く見せようとか、憧れの人に近づいてみようとか、自分で演出することができるのです。なので難しく考えずに、楽しんでもらうことが一番です。服を着ること、装うことを思いっきり楽しんでください。

(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)

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