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シモーネ・ヴェロッティ(Simone Bellotti)が「ジル サンダー(JIL SANDER)」に加入後初めてのショー会場に選んだのは、創業デザイナーが40年前にショーを開催したのと同じミラノの本社だった。この場所で最後のショーが行われたのは8年前に遡るという。
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厳格さと軽やかさの融合
バックステージのムードボードにはたった6枚の写真が貼られていた。その中には甲冑の写真やリチャード・プリンスによる車のボンネットの作品、横からの裸体の写真、スクラップブックのように冊子が重ねられた写真などが含まれていた。これらのヒントは2026年春夏コレクションの中に明確に見てとれた。

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シャツやテーラリングに折り目やギャザーといった垂直的なラインを加えることによって生み出されるクリーンかつ厳格なシルエット。対照的にそのシルエットを作り出す素材は極めて薄手で軽やかなのが特徴的だ。つまんだり、ウエストを絞ったりすることでくしゃりとした表情や立体構築的なシルエットやボリュームを生み出し、硬質なものと軽やかなものが不思議と共存している。




ミニマリズムのパイオニアだけではなく、先端素材を使う革新的なアプローチでも知られていたジル・サンダー。当時もよく用いられたテクノポリエステルがふわりとなびいてテンポのいいリズムを生み出し、薄手のレザーで仕立てられたコートはまるでシャツのような軽やかさで身体に沿う。縫い目はさらに細かく処理され、職人による繊細なクラフトマンシップを感じさせる上質な仕立て。


前任ディレクターの装飾性や視覚的にエモーショナルな世界観は踏襲されていないが、ムードボードの冊子の写真を連想させるような600枚のシルクを重ねた断面が波打った表情を見せるドレスは、コレクションの中で最も甘美なルックとなった。


アクセサリーでは、トゥー部分に少し角張りがデザインされた構築的なデザインのドレスシューズや、ラバーソールで履き心地を追求したレザーシューズ、バッグは卵のような丸みを帯びたシルエットの「ピボット」が新作として登場した。








見せる・隠すのセンシュアリティ
透ける素材のレイヤリングや腰骨や胸元に大胆に入ったカットアウトは「見せる」と同時に「隠す」という表裏一体の絶妙なバランスが探られ、ヴェロッティが考えるジル サンダー的なセンシュアリティーを示している。ショー翌日の展示会に安堵の表情で現れたヴェロッティは、「身体と肌をセレブレートしたかったんです。ジルはとても洗練された方法で女性らしさやセクシーさを表現していました。それを自分にできるベストの形で伝えようと試みました」と話す。



根底にあるジル サンダーの原点
透明な花柄のドレス以外柄物はなく、色はいずれもモノカラーと色合わせで構成。カラーブロッキングに見えるニットはレイヤードで表現され、ニュートラルカラーを基調に、レッドやネイビー、ピスタチオ、コバルトブルーの色が差し込まれた。前任ディレクター時のオーバーサイズシルエットからは一転、タイトめな肩幅のジャケットをはじめ、襟ぐりの小さなコート、3ボタンジャケット、ウエストを絞ったバナナシェイプのコート、ストレッチの効いたレギンスもジル・サンダーやラフ・シモンズ時代の記憶を呼び起こす要素でもあり、ブランドロゴのフォント1mm微量に細くなりよりオリジナルのものに近づけたという。




2026年春夏シーズンは多数のブランドが新体制を迎えているが、多くの注目と重圧がかかるなかのデビューコレクションに向けて彼らはブランドの歴史やコードを紐解き、熱心に研究することにまず着手する。ヴェロッティも同様、シックで削ぎ落とされたミニマリズムを追求し、ブランドの礎を築いた創業デザイナーが確立した原点に回帰したのは明白で、「創業以来、私を含め皆から愛されたジル サンダーというブランドに敬意を表しました」と話すように、これからのジル サンダーの方向性を一つ一つのルックに込め、明確な形で示したコレクションとなった。
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