好調の企業やブランドの重要人物に焦点を当てる新企画「キーマンに聞く」。ビジネスの最前線を肌で感じるキーマンは今何を考え、どう動いているのか? 第1回はゴルフウェアブランド「パーリーゲイツ(PEARLY GATES)」のディレクター兼チーフデザイナーの酒井昭征氏。2020年度は第2、第3四半期に予算比110%超えを達成するなど、いま勢いに乗るパーリーゲイツの実力とは?
■パーリーゲイツ
1989年春にメンズ事業部のスタッフが設立。「もっと気軽にもっと楽しくゴルフをしよう」というコンセプトのもと、トラッドをベースにポップでカラフルなゴルフウェアを提案している。現在日本国内に直営店62店舗を展開するほか、卸やECなどで販売。
公式サイト
売上100億円、顧客の7割超はリピーター
―パーリーゲイツは今年32周年を迎えます。
僕は2009年にチームに加入し、2016年からディレクター兼チーフデザイナーとして活動しています。改めてブランドを振り返ると歴史を感じますね。
―現在の顧客のボリュームゾーンは?
男性が30代後半〜60代、女性が30代〜50代中盤です。ゴルフウェア市場の中では高価格帯に位置するので、経営者などの富裕層の方がメインになっています。ただ僕としてはセグメントしているつもりはなく、ゴルフやパーリーゲイツが発信するものを好きでいてくれるすべてのお客様に向けてコレクションを作っています。
―年間来店回数が2回以上のリピーター率は47%、3回以上の顧客は26%と高い水準です。
ここまでリピートしていただけるのは、僕が知る限りではゴルフウェアとしてもアパレルブランドとしても珍しいと思います。販売力もそうですが、素材選びやパターン、デザインなど、ゴルフを快適にするための服づくりの企画力や、様々な取り組みもリピーター増加に貢献できているのではないでしょうか。
―パーリーゲイツといえば、シーズンごとに面白い企画をしているのが印象的で、多くの著名人が愛用しているのをよく見かけます。
過去にはメルセデスベンツさんとの取り組みでラッピングカーを企画したり、赤塚不二夫先生の漫画「もーれつア太郎」に登場するキャラクターのニャロメとのコラボレーションでオリジナルの漫画を描いていただいたり、ロッテ製菓さんとは「クールミントガム」とのコラボレーションをしたこともあります。30周年の時は全国の主要都市に広告を展開し、表参道駅では地下鉄広告をジャックしました。パーリーゲイツを愛用してくださっている木梨憲武さんやバナナマンの設楽統さんにも登場していただき、とても思い出深いものとなりました。
―日本のゴルフウェア市場(アクセサリーを含む)はおおよそ1230億円といわれています。
そう考えるとパーリーゲイツは約10%のシェアを獲得しているところですね。売上高もそうですが、プロパーの在庫消化率もとても高く、真剣に作ったものを定価で買っていただけるのは素直にありがたいなと思いますね。
―一番の人気商品は?
エッジの効いた柄物や凝ったデザインのものと、それとは対照的に着回しがきくデザインの定番商品シリーズが好評です。ブランドカラーのネイビーとホワイトを中心に5色ほどカラーバリエーションを毎月用意しています。
―同じ定番シリーズですが、一見すると気が付きませんね。
考え抜かれた定番型のパターンに細かいデザインやポイントを入れ、素材を毎月変えて出しているので、じつは定番商品ではないように見えるつくりの定番商品です(笑)。色違いで購入される方もいます。完売はしょっちゅうで、争奪戦になることもある消化率の高い商品です。
―毎月異なるデザインを考える作業は骨が折れそうです。
死ぬほど大変です(笑)。定番商品は、ポロシャツやパンツだけではなくアウターやバッグもやっていますから。展開する商品は1シーズンで他のアイテムも合わせると700型くらい出しているのかな。正直、尖った服を作る方が楽です。でもご好評をいただいている商品ですし、ブランドの売上を支えてくれている主力商品でもあるので今後も引き続き真摯に向き合って取り組んでいきます。
―日常着としても着られそうなデザインもたくさんありますが、ゴルフウェアもフィッシングやキャンプなどのアウトドアウェアと同様にストリートシーンに浸透していく可能性はありそうですか?
たまたまストリートやタウン着として支持されるようなことがあったらありがたいですけど、パーリーゲイツとしてはあくまでもゴルフを楽しむための服を作っています。スポーツとライフスタイルを融合させたアパレルのライン「PGG」の展開もあるので。
コロナ禍でも売上好調 理由は販売員とカタログ
―コロナ禍ではゴルフを始める人が増えました。パーリーゲイツでも顧客数が伸びましたか?
そうですね。特に若いビギナーがとても増えました。「ゴルフをするのならまずはパーリーゲイツを見てみよう」と興味を持ってくださる方が多いので、一般認知度がとても効いたと思っています。
―販売チャネルではECの売上が伸びています。
オンラインの売上は2年前と比較して290%伸びました。それでも店頭売上が根強いですね。特に路面店。入場制限をかける状態が何度もありました。
―百貨店よりも路面店に来店客が集中しているんですね。
密を避ける意味で、路面店に来られる方が増えました。それとスタッフとのコミュニケーションを楽しみに来店される方も多いです。以前、一日店長としてお店に立たせてもらったことがあるんですが、僕の話なんかよりお目当ての販売員に会いたいという方が多くて(笑)。このブランドは販売員の方々に支えられているとつくづく感じました。
―カタログに力を入れてるとお聞きしました。
シーズン毎に年4回発行しているカタログは僕にとって特別なもので、構成から言葉・写真選びまでこだわっています。言い過ぎかもしれないですけど、全てを出し切るくらいの熱量で作成しています。撮影は長年レスリー・キーさんにお願いしているのですが、とてもクオリティの高い写真を出してくれるので、このカタログを見て予約注文されるお客様がとても多く、予約完売してしまって店頭に出ない商品もあります。
「こんなのパーリーゲイツじゃない」という自信
―ディレクターに就任して5年が経ちましたが、今思うことは?
ようやく自分らしいクリエイションができるようになったと感じるようになりました。そのクリエイションがお客様からご支持をいただき、売上にも結びついているのは純粋に嬉しく思いますね。一方で、このまま勢い任せでいいのかとも感じていて。
コロナ以降、多くのブランドが苦境に喘いでいて、アパレルを去っていく方も増えたと感じました。中途半端なブランドは淘汰される中で、パーリーゲイツも「必要とされるブランド」として選ばれ続けなければならない。僕だけではなくブランドに携わるすべての人が「ブランドのあり方」に対する考えをしっかり持たなくては、いま好調でもすぐにそれが終わってしまうと痛感してます。
―「ブランドのあり方」とは?
クリエイションを追求することはもちろんですが、ブランドが存在している以上、これからも活動していくには今の時代、今の環境に色々な意味での敏感な意識を持つことが自然だと思います。
―具体的にいま取り組んでいることはありますか?
サステナブルな素材は少しずつ取り入れ始めていますが、いま流通しているものは肌触りやストレッチ性にまだ課題があるので完全にシフトするのは正直難しいのが現状です。ゴルフは登山と同じレベルの機能を必要としながら、摩擦の音一つで精神状態へ響く繊細なスポーツなので、プレーヤーの方がなるべく快適にプレーに集中できる洋服を届けたい。それに、サステナブルな商品を2〜3型出す程度では駄目だと思うんですよ。
―ブランドとしての姿勢を示すなら、一貫して取り入れるべきだと。
そうです。例えば、少し話は逸れますがゴルフはポケットに手を入れる事が多いので、クリーンな意識が当たり前になった世の中に対応して、今シーズンはポケットの袋布に洗濯しても抗菌効果が続く「クリーンポケット」をほぼすべてのボトムスに採用しました。少しだけやるのではなく、やるならブランド全てでやる、という姿勢で取り組んでいます。
―ショッパーは環境配慮型素材に全面的に切り替える予定です。
環境配慮型素材を採用すると環境保全団体への支援にもつながるプログラムで、木を植える活動にも参加できるんです。森林伐採と言われるゴルフのブランドが木を植える。めちゃくちゃ良い取り組みだと思いませんか? これがゴルフ業界のスタンダードになってくれればいいなと思います。
―この逆境がブランドのあり方を大きく変えるきっかけにもなった?
これまでよりさらにブランドの事をしっかり振り返る機会を作ることができたと思います。それにより、今までとは全く違う考え方から生まれたシーズンテーマ「エッセンシャル」を見出すことが出来ました。
―「エッセンシャル」をシーズンテーマに掲げた最新コレクションではシンプルなデザインを打ち出しています。
今まではカラフルでポップな柄が多かったんですが、無地でロゴも小さく配置しています。ブランドとしてもデザインが大きく変化したコレクションなので「こんなのパーリーゲイツじゃない」と思われる可能性もありますが、触った質感やより細部までデザインを入れているのでトレンド関係なくゴルフ以外のシーンでも着やすい商品だという自信はありますし、長く着てもらうことそのものが今、必要とされていると考えています。
―今シーズンはムービーも制作しました。
コロナ禍で全ての人が感じたことをずっと心に残してもらいたくて、「これから」をテーマに映像を作りました。ミュージシャンの坂本美雨さんやプロゴルファーの原英莉花選手に出演していただき、映像制作は湘南乃風の若旦那こと新羅慎二さん、音楽は大沢伸一さんにお願いしました。
―着想源は?
1990年代後半に放送されたドラマ「彼女たちの時代」のオープニング映像です。若者たちが色んな社会の壁にぶち当たり、風が吹き荒れる崖に立って踏ん張る姿と表情がとても印象的で今でも覚えていて。
※彼女たちの時代:1999年にフジテレビで放送。自分の存在理由が揺らいでいる時代に26歳の女性たちが仕事に恋に人生に悩み、葛藤する姿を描いた青春ストーリー。深津絵里や椎名桔平、水野美紀、中山忍らが出演した。
語り:新羅慎二
音楽:大沢伸一
出演者:坂本美雨(ミュージシャン)、藤舎貴生(横笛奏者)、高木利幸(花火師)、ゆうたろう(俳優・モデル)、原英莉花(プロゴルファー)
―ムービーの出演者は職業も年代もバラバラですね。
「これから」をどう捉えるかは、人によって様々だと思うんですよ。それを年齢や性別関係なくいろんな職業の方に語っていただくことが視聴者への問いかけにつながりますし、何より出演者本人の純粋な思いから生まれたメッセージには力がありますから。視聴者の方が共感し、少しでも何かを感じて前を向いていけるきっかけになれたら嬉しいです。
―ゴルフが好きな人だけに向けているわけではない?
ゴルフという垣根を取っ払い、ひとつのブランドとしてこの時代のこの今、思っていることを表現しました。感想が「そっかー」でも良いし、何ならうちの商品を買ってもらわなくてもいい。映像を見た人が何か受け取ってくれて、そして人の気持ちに触れることができたのならば、ブランドとしての存在意義があるんじゃないかと思っています。
―ムービーに込めた思いの強さを感じます。
予算がほぼ無い中で、2度目の緊急事態宣言が出されるかもしれないという時期に撮影を進めていたので、つらかったこともありました。でも新羅さんも出演者の皆さんも歩み寄って協力してくれて。感情を表現する内容という事もあり、台本もない中で撮影当日に出演者から導き出した言葉を表現していく過程がものすごいリアルでした。本音で話しているからこそ、それぞれの想いを肌で感じる事ができ、すごく刺激的で特別な内容となりました。僕がディレクターに就任して何本もムービーを制作する機会がありましたが、今までの中で一番純粋な気持ちがこもったムービーになったと思います。
目指すは「ゴルフアパレル業界のルイ・ヴィトン」
―パーリーゲイツが今後もブランドとして発展していく上で、何が大切だと考えますか?
「長く愛され続ける」ことを考えることですね。手本にしているのは「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」です。
―「目指せゴルフアパレル業界のルイ・ヴィトン」をブランドのテーマにも掲げていますね。
さきほどムービーについて「商品を買ってもらわなくても」と言いましたが、ルイ・ヴィトンにも共通する部分があると思うんです。ルイ・ヴィトンの商品を買ったことがなくても「良いブランド」ということは皆さん知っていますよね。それが何百年も続いている。パーリーゲイツもブランドとしての厚みを増していきながら次の世代にもつなげていけるよう、強い責任感を持って頑張っていきたいです。とはいえ「愛され続ける」ってめちゃくちゃ大変なことなんですけどね。恋愛と一緒で。
―恋愛のように「ときめかせる」ことも必要ですね。
そうなんですよ。ルイ・ヴィトンもダミエやモノグラムが定番ですが、(メンズ アーティスティック・ディレクターの)ヴァージル・アブローは今の時代を象徴するストリートを表現しながら、強い信念と自由な発想でクリエイションをしていますよね。ときめいてもらうためには、時代に合ったやり方で新しいことに取り組むことも大事だと思います。
―今後のパーリーゲイツの未来像は?
やはり愛され続けること、必要な存在と思ってもらえるブランドになり続けることです。これまでの32年という長い歴史を経たパーリーゲイツですが、そのひとつの時代に僕が携わらせてもらっているので、次の世代に繋げていけるようにしないといけないという責任を実感してます。今の世の中、ブランドではないブランドばかりですが。僕がデザイナーである以上、お客様だけではなくファッション業界を目指す若い人たちにとっても、ときめいて憧れるようなブランドにしていかなくてはいけませんよね。気になってしかたなくつい検索してしまうようなブランド、そういうのを目指します。忘れさせませんよ、パーリーゲイツとPGGを(笑)。
(聞き手:伊藤真帆)
■PEARLY GATES 2021 SPRING 「これから」:特設ページ
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