お笑いコンビ「ロッチ」のコカドケンタロウが、ミシン歴約1年ながらも、シャツやスカート、パンツを作るなど本格っぷりを見せている。話を聞こうと伺った自宅には、職業用ミシン、ロックミシン、トルソー、アイロンが完備されており、さながら服飾学生の部屋のようだった。「きっかけは40歳をすぎてからの趣味探しだった」というコカドの、本気だけど商売にはしないピュアで楽しいミシンの話。
ー今日はご自宅にお邪魔しています。
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基本的には自宅のダイニングテーブルで黙々と作業していますね。気づいたら夜だった、なんてこともしょっちゅうです。
ーミシンを始めたのは、2022年の年始から。今までどれくらいのアイテムを作ったか覚えていますか?
数えてへんなー!半分以上プレゼントしちゃって。
ーひとつあたりどれくらいで作り終えるんですか?
ものによりますけど、一番時間がかかったのは今年作ったアロハシャツかな。型紙を起こして、サンプルも作って、サンプルから「ここはもう少しこういう形にしよう」と決めて。それでも3日くらいだったかな。やり始めたらずっと作業しちゃうんですよ。
ヴィンテージアイテムが好きなので、それにならってあえて柄合わせをしないシャツとかも作っていたんですけど、このアロハはポケットの柄合わせがやりたくて作りました。
パンツはもう自分好みの型紙があるからすぐ作れるようになりました。最近はロケで履くパンツもほとんど自分が作ったものです。
ーパターンも独学ですか?
完全に独学です。持っているズボンを分解したりして。だから、僕のパターンの引き方って無茶苦茶だと思うんですよ。最初は、教本とかについている基本的なパターンを引いて、写してから「ここの股下もう少し伸ばしたいな」「ここはシェイプしたいな」と切ったり、貼ったりを繰り返すんです。「やっぱり前の方がよかったな」と思った時のために、一応切ったパーツも保存しておいて継ぎ足せるようにしています。
ー生地はどこで買うんですか?
日暮里の繊維街がほとんどです。大抵は作るものを決めてから生地を探しに行くんですけど、最近はとりあえず日暮里に行くことも増えてきましたね(笑)。
あと、あんまり教えたくないんですけど、下北沢駅の近くに昔からある小さい生地屋さんがあって。奥の方に、1980年代とか1990年代のデッドストックを置いているんです。たまらんですよ。
ー目下、製作中のものはありますか?
すぐにでも取り掛かりたいのは、リメイクのベースボールキャップ。メッシュキャップが好きやねんけど、寒くて。だからここに耳当てを付けたいんです。
ーもしよければ今作業してもらってもいいですよ。
お、本当ですか。このキャップなんですけど……。
これでいけんのかな。ほんまにやってみないとわからへんな。
ー1人の時も色々言いながら作業していますか(笑)?
ボソボソ言うてるかもしれないです。最初の方は、針も折れまくって。「なんでそうなんねん」とかめちゃくちゃ言っていたと思う(笑)。
耳当て付けられました。あとは、このドローコードを付けたいんですよ。これがないと耳にぴったりフィットしなくて寒いから。もうね、20〜30代くらいまでは見た目とかをすごい気にしていたんです。ある種の見栄ですよね。でも40歳になったあたりから、「人間、そこで勝負じゃないだろ」みたいなのをすごい考えるようになったんですよね。
ーミシンを始めてから服の趣味は変わったりしましたか?
趣味は変わらないですけど、あまり購入しなくなったかもしれません。服を買いに行っても、着ることよりも作り方の方が気になっちゃうんです。僕、小さいメジャーを持ち歩いていて。測りながら服屋さんを巡回するんですよ。そんで「うわ、こうなってんねや」とか言いながら、「ここはロックしているのに、ここはロックしていないんですね。なんでですか?」と店員さんに聞いたりしている(笑)。買うとしても、ほんまに縫製が見たくて買うことが増えましたね。
ミシンを始めてから、着なくなった服を解体したりもしました。そこで一番驚いたのはユニクロの縫製の丁寧さです(笑)。
ー元々、洋服が好きだった?
そうですね。19歳の頃に一度、大阪のアメリカ村にあった「ユーティリティ」という古着屋に販売員として就職したんですよ。
高校一年生からお笑いを始めて、「このまま芸人になるんやろうな」と思っていたんですけど、古着屋さんになりたいという夢もあって。1年くらい古着屋さんで働いたんです。やっぱり毎日すごく楽しいのと同時に「古着屋やったら自分はいつでも楽しめんねや」と思って、じゃあお笑いをもっと本気でやろうと。
ーお部屋のインテリアもアンティーク調のものが多いですね。
家具も1950〜1960年代のものが多いですね。やっぱり、古着やヴィンテージアイテムに宿る、味というか新品にはないオーラが好き。でも、高いじゃないですか。お笑いでお金をもらえるようになりたいと思ったのも、ヴィンテージのチャックテイラーやリーバイスのジージャンが欲しいからでした(笑)。
ー使われているミシンは、家庭用ではなく職業用ミシンなんですね。
家庭用ミシンを経ることなく、直で職業用ミシンを買いましたね。ロックミシンは始めて1ヶ月後くらいに「あ、もうこれやるわ。ハマったわ」と思って買いました。
ーミシンを始めたきっかけは「40歳になった年から、お正月に決めた趣味を1年間続けることにした。2022年、たまたまそれがミシンだった」と聞きました。
サーフィンは今でもやっているんですけど、ゴルフ、ギター、べランピングと色々手を出してみたものの熱中はできへんかった。ミシンを選んだきっかけは、いくつかあるんですけど一つ目は代官山に「コードネーム(CODE NAME)」というお店を営んでいる友人が、文化服装学院出身で。遊びに行くと、ミシンを動かしながら話したりすることもあって割と身近だったんです。もう一つは、ロケで陶芸をやらしてもらった時に、すごく楽しくて「何時間でもできるな」と思ったんですけど、気軽さがないことだけがネックで。家でできて、陶芸に近しいものはなんだろうと思って考えついたのがミシンだったんですよね。
ーミシンの何にそこまで魅了されたんでしょうか?
単純なんですけど、まずミシンを買って、家の机に置いた時に「わあ、かっこいい」と心から思えたんですよ。それで「どうやって動くんやろう」と買ってきた残布を30枚くらい意味もなくダダダって縫い始めた時「探し求めていたのはこれや」と思えるくらい気持ちが良かったんです。だから、「ビビビと来た!」としか言いようがない(笑)。でも、趣味のきっかけなんてそれくらいシンプルな方が正しい気すらしますよね。
30枚の残布を意味もなく縫い倒したあと「今すぐ何か作りたい!」と思ったんですけど生地がなくて。でも欲求が抑えられないから無理やり、この小さいバッグを作りました(笑)。
ー教本などは読まずに独学で最初からバッグを作れた?
完全に独学です。家にあるトートバッグひっくり返しながら「ああ、ここはこう縫うんや」「こんな小さい布で何ができんねやろ」と思いながら、縫い始めたらしっかりバッグとしての機能を持ったものが出来上がったんですよ。もう感動しちゃって。布だったものが、バッグになったやん!と(笑)。
僕のミシンライフはここから始まったので、部屋の一番目立つところに飾っています。
今となってはミシンが一番のストレス発散ですからね。考えてみれば、僕に向いている要素がたくさんあったのかもしれないです。なんも考えなくて済むというか、1人で家でできるし、没頭できるから無心になれて頭の中もスッキリするんですよ。
話は少し脱線するかもしれないんですけど、さんまさん(明石家さんま)も昔ミシンにハマったらしくて。デニム用のとっても大きいミシンを買ったんですけど「ずっとやってまう、他のことができへんようになる、これはあかんわ」と辞めたらしいんです。それで「コカド、お前ミシンやるならミシンあげるわ」と言われたんですけど、100キロ近くあるミシンで重すぎて断っちゃいました(笑)。
ー今までで一番作るのが大変だったのはどれですか?
最初に困ったのは、パンツのポケットの縫い付けですね。「ズボン穴、塞いでまうやん」と意味わからへんかった(笑)。本当に困った時以外は、コードネームの友人に助けを求めないようにしているんですけど、流石に聞きました。
あとは、うちの事務所の社長の誕生日プレゼントにあげたバッグ。「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」青山店限定の台形ステアバッグをフェイクレザーでサンプリングしたんですけど、大失敗して。失敗したまま「無理でした!」と言ってあげました(笑)。何が難しかったって、へし折り※ですよ。友人に聞いたら、ミシンの馬力は足りているけど平面に抑えながら縫わないとあかんから、素人が作るならポストベッドミシン(立体ミシン)じゃなきゃ難しいと言われました。YKKのエクセラ(EXCELLA®)という高級ファスナーも買ってチャレンジしたんですけどね。……この専門的な話、誰か面白がります(笑)?
※へし折り:コバを内側に折り返して縫製している仕上がり。
ー(笑)。最近は女性の服も作られているんですね。
下心は一切なく、ギャザーが入ったスカートとか、ウィメンズの洋服の方が作っていて楽しくて。この女性用のトルソーも我が家の坪倉が誕生日にくれたんですよ。
僕のマネージャーは女性なんですけど「ワンピースをスカートにリメイクして」とか「このリボンを使ってポーチを作ってくれ」とか頼まれるんです。お願いされるのは全くいやじゃなくて、むしろ女子のものは極力やりたい。自分でやる機会がないですからね。
ーブランドを立ち上げてみたいと言う気持ちはないんですか?
今のところは無いなあ。商売にしたいわけではなくて、趣味でやりたいんですよね。
ーその心は?
「作らなあかん」と思いたくないから。本当にミシンが好きやから、一生やりたいと思っているんです。嫌いになりたくないのが1番で、商売になったら「売れるものを作らないと」とか、周りの大人に色々言われたりして好きじゃなくなっちゃいそうで。
ーお笑いは、好きだし商売になり得た?
最低限は大丈夫ですけど、やっぱりコントとかは、ほんまに自分たちが面白いと思うことだけやったら商売にならないから。「自分たちがやりたいことの中で広くウケること」を考えながらやらなあかん。お笑いは、それでお仕事をいただけているということが嬉しいから良いんです。でもミシンはそうはなりたくない。ほんまに何も考えないで、人の意見、評価とか考えずに自分が作りたい服を作りたいままにしときたい。
好きなものを仕事にするか否かの論争は昔からありますけど、好きなものを仕事にしている上で「やりたくないな」と思ったらやらないようにしないとな、と。僕の中ではミシンは「売らないけど、作る」が一番今楽しいし、無理がないんですよね。
ー単独ライブでは、抽選でコカドさんのバッグが当たるプレゼント企画を催したりしていますよね。
ファンの人にも、どうにかプレゼントしたいという気持ちはあるんです。だから、友達とか、好きなブランドが「コラボして何かをやろう!」と言うてくれて、楽しそうやったら販売もしてみたい。でもやっぱり、売ることだけに集中はしたくないな(笑)。
ー最後に、作ってみたいものはありますか?
純粋に作り手の意見として、最終的に生地をたくさん使った服を作りたいと言う気持ちがあって。それが「ウェディングドレスかな」と思ったんですけど、前にスタジオで話したら女性ゲストからもお客さんからもドン引きされちゃいました(笑)。あとは、最近刺繍も始めたので、ベトジャンを一から自分で作りたいなあ。
text & edit:Asuka Furukata (FASHIONSNAP)
photographer:Yuzuka Ota(FASHIONSNAP)
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