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ファッション業界の硬直的な構図は転変するか、LVMHが表明 国内産地の表示で何が変わる?

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ファッション業界の硬直的な構図は転変するか、LVMHが表明 国内産地の表示で何が変わる?

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 今年5月、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのベルナール・アルノー会長兼CEOが来日し、松野博一官房長官を表敬訪問した。会談では、岸田政権における新しい資本主義が重要視する「人的資本投資」を通じ、ファッション、アート分野における連携策が提案された。仮に実現すると、国内産地のビジネスが飛躍的に広がる可能性もある。

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 連携策のポイントは3つだ。LVMHが日本の生地、服地を使用する際、タグなどの商品説明欄に具体的な産地名を記載する。さらに高品質な生地を提供する日本企業(産地)との連携を発展させ、中小企業や職人の成功に貢献すること。最後に、日本の若手アーティストや工芸家との協業を推進することを推奨している。いずれもLVMH側から提案されたもので、松野官房長官は国内産地が有する高い技術力の発信、ビジネスの拡大に期待感を示した。

「公然の秘密」でいいのか?

 尾州や播州、桐生、三備地区など国内産地の生地は従来も、欧州のラグジュアリーブランドで使用されてきた。一方で、ブランド単位で守秘義務が発生するケースや、間に介在する商社やコンバーターが情報公開を拒む場合もある。ブランド側としては、他社に「オリジナル生地や高品質な服地の出元を知られたくない」というマインドが働く。こうした硬直的な構図は数十年変わっていなかった。

 しかし、ジャーナリストやファッション関係者の間では「公然の秘密」として、国内産地の生地供給が語られてきた。某ダウンジャケットの表地や最高峰ブロードシャツの生地、高級ジーンズにおけるデニム生地の供給など、挙げればきりがない。仮に企業名の記載が実現すると、産地企業は「欧州のラグジュアリーブランドが認めた素晴らしい生地」として、営業トークを展開することができる。

 ある産地企業の経営トップは「ラグジュアリーブランドとの取引では量が期待できない。営業を掛けることで、中国や北米の大型ブランドと契約したい」と話す。元々、ラグジュアリーブランドとの取引は量が少なく、特にシャツ地やデニム生地はその規模が小さい。欧州ではバッグや革製品、シューズ類を主力とするブランドが多く、アパレル製品でビジネス規模を拡大させているラグジュアリーブランドは少数派だ。

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ブランド化への道程

 参考事例として、英リントン社と伊リモンタ社を挙げたい。前者は「シャネル(CHANEL)」にファンシーツイードを供給している老舗企業で、シャネルを軸に世界中のブランド、アパレル企業と取引を行っている。さらに手芸好きの消費者もリントンの糸を購入しているかも知れない。ここからは推測になるが、シャネルは糸と柄などを別注し、独自のツイード素材を求めているのだろう。品質や発色、耐久性なども勘案し、シャネル向けのツイードが出来上がる。有力メゾンへの供給からリントンのブランド化が進み、ビジネスが拡大。現在は小ロット生産にも対応し、男女兼用のジェンダーレスな服地を開発するなど進化を続けている。

 伊リモンタ社も同様で、高品質なナイロン生地は「プラダ(PRADA)」の採用から広がり、現在では多くのブランドがこのナイロン生地を使用。リモンタでは、プラダ用のナイロンを供給しながら、他ブランド用に汎用性の高い生地を製造していると考えられる。もちろんビジネス規模も大きくなっており、欧州や米国ブランドのバックパック、トートバッグなどを見るとリモンタ社製の表記がある。

ファッションデザイナーの役割も

 国内産地による海外販路開拓は長年の課題でもあった。大量生産を得意とする廉価な海外勢に押され、約30年前から規模を縮小させてきた。市場で戦うならば、高品質な生地でシェアを奪いたいところだろう。有力な産地企業はパリの素材見本市「プルミエール・ヴィジョン」やイタリアの「ミラノ・ウニカ」に出展している。近年は海外販路の開拓に注力しているが、規模を大きく拡大しているとは言い難い。その弱点は営業力と世界に広げる知見、資金力がないこと、外部人材の登用が少なく、プロデュース力が乏しいなど多岐にわたる。行政の資金的な支援を受けても、短期で撤退する姿を実際に何度も見てきた。

 LVMHの姿勢に期待が高まるものの、ある産地企業の貿易担当者は「我々は基本的に受け身でビジネスをしてきた。注文を待つのではなく、自分で仕事を取りにいけるのか、そこが不安だ」と話す。ビジネスモデルを改める必要もあり、産地企業のマインド自体が変わることも求められる。仮にLVMHが産地や企業名を表記しても、自ら動かないとビジネスには繋がらない。攻めの姿勢が必要だ。

 既に、高品質な生地は、国内のデザイナーズブランドが数多く使用している。品質は折り紙付きだ。ファッションブランド「アキラナカ(AKIRANAKA)」の中章デザイナーは「国内には素晴らしい生地がたくさんある。しかし、眠っている伝統的な技術や製作手法がある。ここを呼び覚ますことも必要だ」とした。「アンリアレイジ(ANREALAGE)」の森永邦彦デザイナーも「デザイナーが間に入ることで、既存の技術に光を当てることができる」と話す。こうしたファッションデザイナーは国内産地の生地を使い、海外の販路を開拓している。デザイナーのファインダーを通し、国内産地の強みに焦点を当てることも必要と考えられる。

繊維ニュース 記者

市川重人

日本繊維新聞の記者時代、大手アパレル企業や東京コレクションなどを担当。その後に移ったWWDジャパンにおいても、東京のコレクション・ウィーク全般を取材する。退職後はアジアの新興都市に赴き、ファッションにおける東京の優位性が崩れつつあることに(勝手に)危機感を持つ。2014年から約4年間、アッシュ・ペー・フランスで「roomservice」を担当。2018年6月から「繊維ニュース」でファッション全般、EC分野を取材。スタバのコーヒーと記事の内容は基本ブラックです。

(企画・編集 古堅明日香)

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