ADVERTISING

ミュウミュウ 2026年春夏 「働くこと」をまとう知性と尊厳のファッション

ミュウミュウ 2026年春夏 「働くこと」をまとう知性と尊厳のファッション

 ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)が「ミュウミュウ(Miu Miu)」2026年春夏コレクションで提示したのは、華やかさや消費社会とは対極にある労働と女性の尊厳をめぐる問いだった。テーマは「AT WORK(働くということ)」。それは単に作業着(ワークウェア)の美学を取り入れることではなく、労働という人間の宿命的な営みに宿る美しさをファッションの文脈に持ち込み、昇華したものだった。

ADVERTISING

関連記事

MIU MIU

2026 SPRING SUMMERファッションショー

 ショーの舞台となったのはパリのイエナ宮。多柱式の広間は、日常の家庭的風景へと変貌を遂げた。会場には赤い床に青や緑のフォルミカテーブルが整然と並び、工場などの透明の仕切りを思わせる黄色のカーテンが、会場全体を黄身がかったフィルターの色調に変えた。工場や学校、家事の場を思わせる空間には、衛生的で閉鎖的なムードが漂いながらも、どこか神聖さが宿っている。ショーが始まり、労働の場が崇高な美の空間へと転換する瞬間、観客は「働くとは何か」という根源的な問いに引き込まれていった。

 ランウェイの幕開けを飾ったのは「関心領域」や「落下の解剖学」といった話題作に出演したドイツ人俳優ザンドラ・ヒュラー(Sandra Huller)。手をポケットに入れ、淡々と歩く姿は勇ましくも見える。今季、ミウッチャ・プラダが中心に据えたのは、家庭や工場、医療や介護の現場で、名もなき人々が身につけてきたエプロン。彼女はそれを単なる防護服でもノスタルジックな象徴でもなく、「働く人間の尊厳」を示すユニフォームとして再解釈した。


 エプロンは胸元から腰までを覆うタイプ、クロスストラップで背面で結ぶタイプ、ラップタイプなどさまざまなデザインで登場。作業用ドリル生地やレザー、キャンバス、コットンポプリンなどの実用的な素材をベースに、繊細な刺繍やレース、フリルを重ねることで、強さと優しさという相反する要素を共存させた。エプロンのほかに、ポケットが多く取り付けられたユーティリティウェア、ブルゾン、ワークパンツ、工具用ベルトを思わせるアクセサリーは、働くための機能服でありながら新たなエレガンスと強さを感じさせる。

 ショーには、俳優のミラ・ジョヴォヴィッチ(Milla Jovovich)や福島リラ、日本出身でエレクトロニックミュージックの先駆者 フュー(Phew)など、多彩な背景を持つ人物が登場した。彼女らの存在は、労働というテーマを単なる職業的なものに留めず、創造や表現という広義の“働く”という概念を拡張する役割を果たした。

 また、アメリカの報道写真家ドロシア・ラング(Dorothea Lange)や、社会主義体制下のドイツで女性の生を記録したヘルガ・パリ(Helga Paris)といったドキュメンタリー写真家へのオマージュも込められている。彼女たちが写した現実の重みと誇りに満ちた女性たちのまなざしは、このコレクションの姿勢と深く共鳴している。

 ラグジュアリーブランドが労働着をモチーフにすることは、挑発的でありながら賛否を生む危うさも孕む。なぜなら、ファッションそのものが多くの労働者の手によって成り立つ産業だからだ。ミウッチャ・プラダはその矛盾に正面から向き合い、恐れずに提示してみせた。

 彼女が示したのは、ファッションが現実を無視せずに美を語りうるという信念である。豪華さがもてはやされるランウェイの中で、あえて「日常」を選び、その中に潜む尊厳と美を掘り起こす。彼女は幻想的な華やかさではなく、リアルな生活の手触りを宿した衣服で「働くこととは何か、美しく生きるとはどういうことか」ということを問いかけている。その答えを探す時間こそ、ミュウミュウが現代社会に提示する“知性の贅沢”なのかもしれない。

最終更新日:

ADVERTISING

RELATED ARTICLE

関連記事

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント