「ミッドサマー」「ヘレディタリー/継承」を手掛けた鬼才 アリ・アスター監督の最新映画「ボーはおそれている」が、2月16日に公開されます。公開を前に来日した監督に、監督の大ファンである芸人 ゆりやんレトリィバァがインタビュー!新作のインスピレーション源となった日本のホラー映画の存在や、鑑賞後に見たいネタバレの解説まで、アリ・アスター監督についてさらに深く知るための話を聞きました。
目次
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新作「ボーはおそれている」ってどんな映画?
■あらすじ
日常の些細なことで不安になる怖がりな男・ボー(ホアキン・フェニックス)はある日、さっきまで電話していた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。これは現実か?それとも妄想、悪夢なのか?次々に奇妙で予想外の出来事が起こる里帰りの道のりは、いつしかボーと世界を徹底的にのみこむ壮大な物語へと変貌していく。
アリ・アスター
ボーは全てのことに恐怖心を抱く男で、特にどこか遠くの場所に行くことを恐れています。
本編は複数パートに分けられている印象を受けました。各パートがそれぞれ違ったテイストで、不安を煽るような描写によって、私もボーと同じように“何かに恐れてしまう”感覚になりました。普段、脚本を書くときは何にインスパイアされているんですか?
ゆりやんレトリィバァ(以下、ゆりやん)
アリ・アスター
毎回、インスパイアされるものは違うんです。「ミッドサマー」は、「破局、別離(a breakup)」という概念からインスピレーションを受けて作ったけど、「ボーはおそれている」は、実体験から。出かける前に家にデンタルフロスを忘れて取りに戻ったことがあって、その時にハッと考えたんです。「今、もし家の鍵を無くしていたらどうなっていただろう」と。そういう小さな思いつきを書き続けたら、長編映画ができました(笑)。
日常生活からインスパイアされることが多いんですか?
ゆりやん
アリ・アスター
そうですね。あとは、自分のイマジネーションかな。
ちゃんと家の鍵を閉めたか、火を消したか何度も何度もチェックしたり?
ゆりやん
アリ・アスター
強迫概念じゃないけど、「もしこれが起きたらどうなるんだろう」ということは常に考えます。自分の行動がもたらすであろう様々な結果を想像してしまうんです。毎日、自分のイマジネーションに拷問されているから、その想像をもとに脚本を書けば、その脚本を読んだ人のことを拷問することができますよね(笑)。
「ボー」は、日本の映画や歌舞伎から影響されているそうですね。
ゆりやん
アリ・アスター
このあとに紹介する映画からも大きな影響を受けています。映画の他にも、日本の文化は大好き。食べ物や建築、本もね。
今、座っているこのソファも?
ゆりやん
アリ・アスター
はい。日本のソファも、天井も、クッションも好きですよ(笑)。
新作への影響も アリ・アスター監督イチオシのジャパニーズホラー2選
CURE
■CURE
サイコ・サスペンスの名手、黒沢清監督の代表作。被害者の胸に文字が刻まれるという猟奇殺人事件の謎に迫る、ひとりの刑事の姿を描く。
アリ・アスター
「CURE」は、作品を見るまでシリアルキラーの話だと思っていたけど、蓋を開けてみたら「ソシオパスとして生きるとはどういうことなのか」を考えさせられる、心理学的なストーリーでした。若きソシオパスがどのように人々を洗脳して彼らに人を殺させ、自殺に向かわせるか、という話で、次第にそのソシオパス自身も洗脳されていたことに気がつくんです。
この作品のどんなところがお好きなんですか?
ゆりやん
アリ・アスター
この映画は、他の映画には無いトーンとペースを持っています。催眠術のように美しく幽玄で、その雰囲気から離れられなくなる。黒沢清監督はそういう表現が上手で、「カリスマ」など他の映画にも同様の表現がなされているんです。
この映画から受けた影響はありますか?
ゆりやん
アリ・アスター
映画を作る上で雰囲気作りは重視しているんですが、CUREの雰囲気はとてもパワフルなものだったから覚えているし、とても大きな影響を受けたと思います。黒沢監督の作品は「トウキョウソナタ」も「回路」も大好きです。
怪談
■怪談
小林正樹監督が、構想に10年の歳月を掛け、巨費を投じた超大作。カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞。イギリスの文学者、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲原作の有名な怪談を、「黒髪」(原題「和解」)「雪女」「耳無し芳一の話」「茶碗の中」から成る4話構成のオムニバス形式で映画化した作品。
アリ・アスター
「怪談」は、僕が見た中で最も美しい映画の一つ。彼の色使いやセットの組み方は素晴らしく、歌舞伎にもあるような、緻密で彩度の高い色使いは、他の映画ではまず見ることができないと思います。普通ならけばけばしい雰囲気になってしまうものが、計算されているからこそ鮮やかでエキサイティングなものに見えるんです。
イチオシ作品はどちらも日本の映画なんですね。細かい色使いに集中して映画を見たことがなかったので、観てみたくなりました。
ゆりやん
アリ・アスター
日本のホラー映画は大好き。日本は、静寂の使い方に長けている監督が多いですよね。ただの静寂ではなく、ナイフで切り裂くような静けさで、幽玄な音。「怪談」は風が吹く音や音楽など、サウンドデザインが素晴らしかったです。
ご覧になったのはいつ頃ですか?
ゆりやん
アリ・アスター
CUREを見たのは大人になってから。怪談は12歳ぐらいだったかな。子どもの頃から、日本の映画に触れる機会は多かったです。
ゆりやんレトリィバァのレコメンド映画は?
ミザリー
■ミザリー
人気作家の男が、雪道で事故に遭い、元看護士の女に命を救われる。彼女は彼の作品の熱狂的なファンだった。女の言動は次第に狂気を帯び、雪深い地で身動きが取れない状況の中、彼は追い詰められていく。
私のおすすめのホラー映画は「ミザリー」です。まさに、バレンタイン映画なんですよ。
ゆりやん
アリ・アスター
もちろん知っています。「ミザリー」は僕も大好き。
私にはストーカー気質があるので、ミザリーのストーリーにはすごく共感できました。最初に見た時は自分の心臓の音が聞こえるほど怖かったけど、だんだん「やめてー!」とか「こっち来ないでー!」とか言いながら、アトラクションみたいに観られるようになって。
ゆりやん
アリ・アスター
わかります。僕はハンマーで男の足の骨を折るシーンが好き。アニーが、一度家を出た後、道具を持って戻ってくる描写も、サスペンスの雰囲気で最高でした。
ノック、ノック
■ノック、ノック
家族思いの献身的な父親・エヴァン(キアヌ・リーブス)は週末に仕事の都合で一人留守番をすることになる。その夜、ドアをノックする音がし、開けるとそこには雨でずぶ濡れになった二人の美女が立っていた。ジェネシス、ベルと名乗る二人は道に迷ってしまったため助けを求めていた。彼女たちに暖をとるように招き入れるエヴァンだったが、それは破滅の道への第一歩だった。
エヴァンを訪ねてくる女性2人は、初めこそ感じが良いんですが、徐々にエヴァンを誘惑しはじめるんです。エヴァンは最終的に誘惑に乗ってしまって、一夜だけの過ちのつもりが、朝起きたら女2人が豹変している。家庭を壊される恐怖からどう逃げるか、という話です。
ゆりやん
アリアスター
リアルな人間関係の怖さを表現していますよね。
夜は素敵に見えていた人が、朝を迎えて見てみたらなんか違って幻滅する現象の最恐版みたいな(笑)。その人と関わったことで絶望的な状況に陥ってしまう、という状況のスリルがすごくリアルでしたね。
ゆりやん
アリ・アスター
誰にでも起こりうる状況ですよね。
「こんなん、ないやろ!」と思いたいですが、どんどん家庭を壊されていく恐怖は、「自分の身にも起こりうるかもしれない」という恐怖心に襲われました。
ゆりやん
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