Fashion インタビュー・対談

クルド人兄妹による謎多きブランド「ナマチェコ」とは

 イラク・クルド地域出身の20代の兄妹が手掛ける新鋭ブランド「ナマチェコ(NAMACHEKO)」。デビューシーズンとなった2017-18年秋冬コレクションはパリの有名ショップ「The Borken Arm」が独占で買い付け、今秋からは「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」にスペースをオープンさせるなど、ブランド立ち上げから2年経たずしてファッション業界において存在感を示している。日本でも馴染みのある「生チョコ」を連想させる不思議な語感のブランド名に加えて、ブランドの公式インスタグラムはなぜか非公開設定。謎に満ちたブランドについて、来日したデザイナーのディラン・ルーに聞いた。

【ナマチェコ】
イラクのクルド地域で生まれ、幼少期にスウェーデンに移住したバックグラウンドを持つディラン・ルー(Dilan Lurr)&レザン・ルー(Lezan Lurr)兄妹によって2017年に設立。初期の「ラフ・シモンズ」や「クリスヴァンアッシュ」のサポートをしていたベルギーの工場「Gysemans Clothing Group」のオーナーの目にとまり、サポートを受ける。日本ではドーバー ストリート マーケット ギンザ、インターナショナルギャラリービームス、トゥモローランド、ユナイテッドアローズ、伊勢丹新宿店、アデライデなど国内約20店舗、全世界約50店舗で取り扱いがある。

ブランドを支える妹との強い絆

ー 子どもの頃からファッションデザイナーを目指していたのでしょうか?

 全く。子どもの頃から15年間くらいサッカーをしていたので、ずっとサッカー選手になりたいと思っていました。ロナウドやメッシに憧れていて。父が「将来はエンジニアか医者か弁護士になれ」というような考えの人で、スウェーデンの大学では僕も妹もファッションとは関係のないシヴィル・エンジニアリング(土木工学)を勉強しました。

ー どのようにしてファッションの世界に?

 大学ではエンジニアリングの傍ら、ドキュメンタリースタイルの写真も勉強していて、在学中に自分の故郷でもあるクルド地域で撮影した写真集を制作したんです。その撮影のために作った洋服を、パリのショップ「The Broken Arm」が目にして2017-18年秋冬コレクションとして買い付けてくれて。意気込んで始めたというよりは、自然な形でブランドとして始まった形です。当時僕はまだ学生で、写真への情熱から始まったパーソナルなプロジェクトを買ってくれたので驚きましたね。

ー 「The Broken Arm」といえば今パリで注目を集めているショップですよね。

 ファッションウィーク期間中にパリのショールームに5日間だけピースを置いていたのですが、唯一買い付けてくれたのが「The Broken Arm」のバイヤーだったんです。次のシーズンも作った方がいいよとアドバイスをくれて、その後もファッションウィーク期間中にショップのウィンドウを手掛けるチャンスをくれたり、パリでのPR・コミュニケーション面で手助けしてくれたりと、今でも繋がりは強いですね。

「ナマチェコ」2018-19年秋冬コレクションのルックブックより

ー 妹・レザンと仕事の棲み分けは?

 彼女はコミュニケーションやセールス、生産などブランドのビジネスの部分を主に担当しています。僕はデザインにフォーカスすることができるし、クリエイティブ面においては完全なる自由を与えてくれるのですごく良い環境ですね。僕の妹でもあり、僕のボスでもある(笑)。

ー 家族とプロフェッショナルに働くのは時に大変では?

 簡単ではない部分ももちろんあります。僕と妹は大学時代の4年間、一緒に住んでいたこともあって、仲が良い友達のような存在です。彼女は僕よりもタフで厳しい。なのでブランド運営においては適役だと思っています。それに、兄妹なので完全に信頼できる関係ですし、無条件の愛情がある。その繋がりの強さはブランドをやって行く上でプラスになっていると思います。

ー 「ナマチェコ」というユニークなブランド名の由来は?

 音の響きが好きなだけで、特に意味はないんです。ネットで調べたときにヒットしないような名前が良くて。まずは僕が「ナマチョコ」という名前を考えついたんですが、妹が「『ナマチェコ』の方が響きがエレガントじゃない?」と提案してくれたんです。そのタイミングで「ナマチョコ(生チョコ)」が日本語ではお菓子を意味する言葉だと知って「ナマチェコ」に決めました。

故郷クルドから受けた影響

2019年春夏コレクション

ー インスピレーションはどこから?

 日々体験する様々なことですが、特に多いのはアレックス・ウェブなどのドキュメンタリー写真ですかね。2019年春夏コレクションは、生まれてから9歳まで過ごしたクルド地域での少年時代をテーマにしました。ハッピーな記憶が多いので、2019年春夏コレクションでは明るいカラーをたくさん使いました。

ー クルド地域で過ごした幼少期はどのようなものでしたか?

 父がジュエラーでお店をやっていたので、小さい頃、毎日のようにお店にいたんです。神保町に本屋さんがたくさんあるみたいに、父のお店もジュエリーショップが集結したエリアにあって、従兄弟の家もジュエリーショップをやっているような環境だったんです。みんなスーツを着てお店に立っていた姿が印象的で、それがテーラリングに興味は持つきっかけにもなったと思います。

2018-19年秋冬コレクション ルックブックより

ー ブランドを立ち上げた当時、お父さんの反応は?

 全然喜んでくれなかったですね。「お願いだからこんなことはやめて、勉強に集中してくれ」と言われました。今は良く思ってくれているようですが、ファッションで頑張っているからというよりも、妹と一緒に働いている事に関して喜んでくれているように感じます(笑)。

ー 「ナマチェコ」でお父さんにジュエリーを作ってもらうことは?

 実は2018-19年秋冬コレクションでは父によるジュエリーも展開しています。NYでハンドメイドで制作したボタンを一部コレクションのアイテムに使用しているんですが、同じものを父の作ったチェーンに通してジュエリーピースにもしたんです。電話越しに「君たちは無計画だ」「2週間で何十ピースも用意するなんて無理だ」と散々言われましたよ(笑)。

"日曜限定オープン"インスタの謎

「ナマチェコ」2018-19年秋冬コレクションのルックブックより

以前はブランドの公式インスタグラムを日曜日の13時〜17時限定で一般公開、それ以外は非公開設定にしていましたよね。店舗の営業時間のようです。

 "営業時間"みたいなイメージは確かにありました。ベルギーに5時間限定で日曜日だけ営業するビアバーがあって、そのお店からアイデアを得たんです。サワービールが人気で、世界で2番目に美味しいビアバーと言われているんですよ。SNSは中毒性もあるし、投稿に対するプレッシャーを感じたりするのも嫌だったので、公開する時間帯をあらかじめ決めておくのが心地良いかなと思ったんです。

ー いつのまにか常に公開状態になりましたよね。非公開設定をやめた理由は?

 友人から「(非公開設定にしているのは)周りからスノビッシュと思われない?」と言われたのがきっかけです。もし「自分がイケてないからフォロー申請しても拒否されるかもしれない」と考える人がいたら嫌だなぁと思って。それと、僕がまだ中高生で服を買うお小遣いを貰えなかった頃の気持ちを思い出したというか…。「ナマチェコの服はまだ買えないけれど、インスタをフォローすることはできる」という若い子がいて、それによってブランドを身近に感じてくれるのであればと思いオープンにしました。非公開のインスタは僕にとってSNSとの良い距離感ではあったんですけどね。

"ファッションへの理解が深い"日本での人気

ドーバー ストリート マーケット ギンザに今秋オープンしたスペース/画像: FASHIONSNAP.COM

ー 2018-19年秋冬シーズンは「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」にスペースがオープン。日本での人気は他国に比べても高いように感じますか?

 圧倒的に高いですね。全世界50店舗ほどの取り扱い店舗のうち、約20店が日本なんです。日本を訪れると、ファッションに対する理解が深い国だなと感じます。ファッションという文化が日本人にとっては新しいものではなくて、今お店を訪れる方たちはもう第二・第三世代なんですよね。「有名人が着ていたから」などの単純な理由でファッションに興味を持つのではなく、親など上の世代から文化として受け継いでいるように感じます。そのためナマチェコが日本で支持を得ているのはとても嬉しいことなんです。

ー 2017年のブランド立ち上げから急成長を遂げていますね。ブランドが拡大していくことに抵抗はなかったですか?

 10代の頃からファッションを好きだったこともあり、気持ち的な部分では特に問題はなかったのですが、実際にコレクションを製作する面で困難はたくさんありました。いまだにコレクションに満足したことはありませんし。縫い目の仕上がりが気に入らなかったり、素材も可能な限り良いものを使うようにしていますが十分に感じなかったり、ショーに満足しなかったり。何かしらいつも「もっと頑張らなきゃ」と感じます。

2018-19年秋冬コレクションでは、ディラン氏が一番好きな色だというグリーンを多用。

ー ハードワーキングですね。

 このストリートウェア全盛期の時代において、僕が作るものはスタイルにしても価格にしても、最もアプローチしやすいものだとは思っていません。僕自身もTシャツを好んで着ていますし、みんなそうですよね。でも「ナマチェコ」をストリートのマーケットに持って行くつもりはなくて。かっこいいTシャツが欲しいなら「シュプリーム」に行けばいい。他のブランドがやって成功した方程式を、ナマチェコにあてはめる必要はないと思っています。競争が多い業界ですが、僕はサッカー選手に憧れていたくらいなのでもともと競争心が強いんですよ。みんなより上手くなりたい。そのためには、周りとは違うことをやる必要があると思っています。会社も僕が学生時代にバイトして貯めたお金で始めていて金銭面でのサポートがあるわけではないので、頑張らないといけないですね。

ー 今の目標は?

 2018-19年秋冬シーズンは全ピース合わせて800点しか販売していないんですが、まだまだこれくらいの小さい規模でやっていきたいと思っています。次のステップとしてはウィメンズウェアの立ち上げですかね。メンズウェアっぽいウィメンズとかではなく、メンズとは全く異なるものにしたいです。できれば2019年秋冬シーズンには立ち上げられたら嬉しいですね。

■ナマチェコ:公式サイト

(聞き手:谷 桃子)

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