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ベルベルジン×セント マイケル 「ヴィンテージライク」なものをヴィンテージのプロが作るという感覚について鼎談

Image by: Masahiro Muramatsu

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ベルベルジン×セント マイケル 「ヴィンテージライク」なものをヴィンテージのプロが作るという感覚について鼎談

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 愛好家かつ研究家としてヴィンテージデニムアドバイザーの顔も持つ藤原裕がディレクターを務める、日本屈指のヴィンテージショップ「ベルベルジン(BerBerJin)」。本物のヴィンテージと見間違うほどのクオリティーを追及する、細川雄太とカリ・デヴィット(Cali DeWitt)のブランド「セント マイケル(©️SAINT Mxxxxxx)」。土俵は違えどヴィンテージに精通する両者の邂逅は半ば必然であり、2023年の初コラボ以来継続的にアイテムを発表し、本物思考の目の肥えた服好きたちを唸らせてきた。

 そんな2つのベクトルからシーンを牽引する顔役たちが、最新作として1920年代のデニムジャケットをサンプリングしたアイテムを発売。これを記念し、新作に込めた想いやこだわりなどの完成までの一部始終はもちろん、そもそもの出会いのきっかけから、過去のコラボの振り返り、昨今のヴィンテージシーンの盛り上がりまで、3人にインタビューを敢行。「満点で作れたことは一度もない」ーーこの発言の真意とは?(文:Riku Ogawa)

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まずは、「ベルベルジン」と「セント マイケル」の出会いからお伺いできればと思います。

細川雄太(以下、細川):以前から藤原さんとお仕事がしたかったので、2020年に共通の知人を介して「藤原さんの豊富なヴィンテージの知識をお貸しください」と、僕からコンタクトを取ったのが最初ですね。

藤原裕(以下、藤原):細川さんのお名前自体は、以前から存じ上げていました。それから連絡をいただいたタイミングで、「セント マイケル」のデビューシーズンの展示会があるということで伺ったのですが、加工ではあるけれどもヴィンテージの表現が抜群で、古着の世界で働く自分でも着たいと思わされたんですよ。そして、初めてお会いしたその場でコラボの話が動き出しましたね。

細川:話を具体的に進める中で、藤原さんからいくつかアイテムの提案があり、その中のひとつで、藤原さんと親交の深いHIDEさん(*アーティスト、グリーンボーイズ(旧 グリーン)のリーダー)のヴィンテージのTシャツコレクションを使用する形でファーストコラボが決まったんです。

藤原:今、僕が着ているTシャツが、まさにそのTシャツですね。

このコラボTシャツが発表された際(*2023年)、デニムを使用したアイテムではなかったことが驚きでした。

細川:藤原さんが「ニューマニュアル」でデニムを手掛けられているのもあって、僕からは提案しづらかったんです(笑)。それに、「セント マイケル」が古着をヴィンテージ加工で再現する際、ただの模範にならないように生地や糸を一から作り、シルエットや身幅も僕ら仕様に変更しているのですが、デニムだとそれがより複雑なので「まずは作れるものから」と、Tシャツからスタートした背景もあります。それでも製品化には時間がかかり、パンデミックまで重なってしまったので発売までに2年も要したんです。

その後、“セカンドタイプ”のデニムジャケットが発表されましたね。

細川:最初は、やっぱり“ファーストタイプ”が良いと思っていたんですけど、「ニューマニュアル」でやられていたので“セカンドタイプ”を提案しました(笑)。

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藤原:細川さんから「デニムジャケットを作りたいです」と連絡が来た時、僕はたまたま岡山にいたのですが、それを話したら飛んで来てくれて(笑)。その日のうちに2時間くらい話し込んだ結果、僕が普段から愛用している“セカンドタイプ”をベースにすることになったんです。コラボでは、25年ほど古着業界にいる中で6枚しか出会ったことがない52サイズ以上のデニムジャケットをメインにサンプリングしているので、背面は“Tバック”(*背面の身幅が1枚の生地では足りず、2枚の生地で縫製したビッグサイズならではの仕様)のディテールを採用し、「ニューマニュアル」チームが生産を担当したので、僕の名前を冠したオリジナル生地“YT65”を使っています。

細川:ベースとなったビッグサイズのデニムジャケットに、さらに別のデニムジャケットのダメージをコラージュのように落とし込みながら、ドロップショルダーや寸胴の身頃など「セント マイケル」らしいパターンで仕上げた感じですね。

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では、今回の新作は待望の“ファーストタイプ”なんですね。

細川:そうです。でも、普通の“ファーストタイプ”ではない、“No. 2デニム”と呼ばれるものなんですよ。

藤原:ひとつポケットが特徴の“ファーストタイプ”は、形自体は1800年代から存在していました。しかし1900年代に入ると安価なデニムが多く流通するようになります。“No.2デニム”とは、オンスと染めの濃度を落とすことで値段を下げた廉価版の“ファーストタイプ”のこと。第2次世界大戦中の1943年頃まで生産されていたのですが、廉価版ということもあって粗雑に着用されたり、頻繁に買い替えられたりしたので、現存数が限りなく少ないんですよ。

細川:“No. 2デニム”にした理由は、藤原さんが監修したアーカイヴブック「LEVI’S(R) VINTAGE DENIM JACKETS TYPE I/TYPE II/TYPE III」で見つけて気になり、お話を聞いているうちに惹かれて作りたくなったんです。

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藤原:ベースとなったのは、“No. 2デニム”の中でも1920年代のもので、パッと見だと“大戦モデル”(*1940年代に生産された“ファースト”)だけど、胸ポケットがかなり下の位置でフラップもなく、“小ボタン”仕様なんですよ。この“小ボタン”は、1800年代のディテールで、ボタンが今のようなサイズになったのは1930年代から。僕も“小ボタン”仕様はこれまで10枚ほどしか見たことがなく、こういったディテールが細川さんの目にも新鮮に映り、惹かれたんだと思います。

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細川:製作にあたり、アーカイヴブックを原寸大まで拡大コピーしたんですけど、よく見ると当時はすぐに買い替えられるワークウェアだから、今なら5mmで縫える縫い代が2cmだったり、ステッチもガタガタだったり、とにかく作りが雑なんですよ。多分、パートのおばちゃんみたいな人が適当に縫っていたんでしょうね(笑)。でも、その2cmの縫い代から絶妙なアタリ(*古着特有の線上の色落ち)が出ていたり、“下手くそ感”こそが全体的なオーラを放っている原因なんですけど、“下手くそ”を再現することって一番大変で(笑)。

藤原:工場の方も、今の技術であれば綺麗に縫製することは容易いので、「雑に縫ってください」という依頼には困ったと思います。縫製工場泣かせですよね(笑)。でも、このような細部のこだわりが、アイテムとしてのインパクトになるんですよ。

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全体的に黄味がかかっているのは、どういった加工なんでしょうか?

細川:参考にした“No. 2デニム”が、オイル仕事の関係者が着ていたのか、全体的にオイルの汚れが付いていたんです。それを表現したくて、実際にオイルを付けたり、金具を錆び付かせたりしていますね。

藤原:細川さんには、サンプル元が本当にワークウェアとして着られていたからこそ現れた、滅多に出ない“雷ジワ”やハチノス(*ハチノス状の色落ち)までも再現してもらいました。“雷ジワ”とは、斜めに入っているシワやアタリのことで、ジャストサイズで着ていたら出てこないものです。おそらく、体の大きかった人、もしくは寒い地方で下にセーターなどを重ね着していた人が、ピタピタに着ていたからこそ出たんでしょうね。それに、昔はフロントプリーツのしつけ糸を切れば広げて着ることができたんですけど、元の持ち主は切らずにそのまま着ていたようで、そこもオマージュしています。

改めて、製作を振り返っていかがですか?

細川:これまでも含めて、満点で作れたことって一度もなくて。というか、ヴィンテージをサンプリングしている時点で、ヴィンテージが100点満点なんですよ。だから、今後も満点を取れることはない。そう言い切れるくらい、歴史を加工で表現することは難しいんです。でも、満点を目指す感覚でやり切りました。

藤原:こだわるところを妥協せず、自分の中では納得のいく商品というか、作品ですね。

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カリ・デウィット(以下、カリ):今回のコラボは、いつも僕が担当しているグラフィックを必要とするアイテムではなかったので全ての過程が学びでした。自分の人生において大切にしてるのは、常に学び続けること。2人のマスターと一緒に仕事ができたことは幸運であり、感謝しています。

もし、グラフィックをのせる必要があった場合のアイデアはありましたか?

カリ:もちろん!ただ、モノにするには少し時間がかかりそうですし、2人のマスターによる完成品だから、 私は双方から了承を得られない限り手を加えることはしません。

次作以降の構想はあるんでしょうか?

藤原:来シーズンは、カバーオールをリリース予定ですが、それ以上はまだ言えないですね(笑)。

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ここからは、付随して古着およびヴィンテージシーンについてお伺いさせてください。昨今、同シーンの気運が高まっているように感じますが、渦中にいる皆様から見ていかがでしょうか?

藤原:ヴィンテージブームが生まれた1990年代中期から盛り上がりの波があり、今が3回目のサイクルの最高潮だと思っています。飲食店の跡地を活用した古着屋が、原宿や下北沢、高円寺だけでなく日本各地で増えているように、全国的に見ても過去最高の盛り上がりなんじゃないでしょうか。

その理由をどう考察しますか?

藤原:昔であれば、自分で雑誌を読んで古着屋を回り勉強する必要があったのが、今ではスマートフォンさえあればSNSやインターネットで簡単に学べるようになりましたよね。これに対してネガティブな意見もありますが、確実に若い世代の広がりに繋がっています。それに、YouTuberの方々のおかげもあって古着に対しての抵抗が本当にないように感じますよ。

シーンの盛り上がりとあわせて、バンドTシャツなどが高騰していますよね。

細川:シンプルに数が少なくなり希少性が高まっていることは当然、トラヴィス・スコット(Travis Scott)らが着用していることも理由の一つだと思います。僕が十代の頃、数千円だったバンTが数十万円になっていたりするのは、びっくりしますけどね。

最後に、今回のコラボジャケットは、皆さんが100年前のアイテムに惹かれたことで誕生しました。同様に、2120年代に生きる人々が現代のアイテムに心を奪われることはあると思いますか?

細川:セレクトショップではあまりないのですが、古着屋だと“オーラのある洋服”が勝手に目に入ってくること、ありませんか?これって、セレクトショップの現行品にオーラがないのではなくて、歴史がないからだと思うんですよ。人間と一緒で歴史こそが古着の魅力で、100年経てばオーラをまとう現行品もあるはず。個人的には、そういった洋服を目指してモノづくりをしていますね。まぁ、100年後はタイツのような洋服が当たり前になっているかもしれないですが(笑)。

藤原:細川さんがおっしゃったことに僕も納得したので、何も喋ることはありません(笑)。100年後、今回のアイテムがヴィンテージになっているといいですね。

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エディター&ライター

Riku Ogawa

WWDとHYPEBEAST出身でプレミアリーグのアーセナルを応援する、食道楽のエディター&ライター。お仕事のご連絡は各種SNSのDMまで。

◾️©SAINT Mxxxxxx × BerBerJin DENIM JACKET_FIRST
発売日:2024年4月6日(土)
価格:税込10万5600円
発売店舗:©SAINT Mxxxxxx 正規取扱店舗

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