NaNo Art 2023aw
IMAGE by: FASHIONSNAP
市場には模倣品が溢れかえり、服の良し悪しを判断する消費者は時に倫理的な判断を求められる。世に溢れる似たようなデザインの中から、周りの目を気にしつつ、気に入った理由を探しながらものを購入する瞬間もあるかもしれない。
法の下の平等の理念を象徴する正義の女神ユースティティアの目隠しは、彼女が裁く相手の顔を見ないことを表し、立場や貧富の差を問わず万人を等しく法で審判することを象徴しているとされる。服の価値を観客に委ねた「ナノアット(NaNo Art)」の2023年秋冬コレクションでは、素材や価格、ましてやデザイナーの知名度などではなく、自分の審美眼と感覚で服と向き合うよう問われている気がした。
「ナノアット(NaNo Art)」
ディレクター後藤凪とデザイナー田中睦人によるブランド。田中は「ミントデザインズ(mintdesigns)」でのインターンなどを経て、2019年に台東デザイナーズビレッジに入居し、ブランドを立ち上げた。今回、デザビレを卒業したタイミングの2023年秋冬コレクションで、初のフィジカルショー形式でのコレクション発表を実施。ブランド名の意味は「小さな美術館」。アイテムひとつひとつの芸術性を突き詰めながらも、ファッションを芸術品と工業製品の間に位置するものと捉え、工業製品としての生産のしやすさや合理性も意識して制作を行っている。
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ディレクター後藤凪とデザイナー田中睦人によるナノアットは、初のフィジカルショー形式で発表した2023年秋冬コレクションのテーマに「洋服の価値は何に依拠するものなのか(what is value)」という根源的な問いを掲げた。これは、害獣として駆除された傷だらけで買い手のつかない鹿の革に魅力を感じたことから、物事の価値は相対的であり、美醜も価格も表裏一体、受け手の判断によって決まると理解したことに由来する。ショーでは、「価値」の判断を観客に委ねるため、裁判所の柵を模した飾りで囲まれたステージにモデルが登場した。
最高裁判所にも置かれているローマ神話の正義の女神ユースティティアから着想し、法服をイメージした服をスタイリングしたルックからスタートしたショーは、同じパターンを用いながら異なる素材やディテールを採用した対となったルックが順に登場。モデルは順番に客席の前で立ち止まり、素材をシルクとポリエステルの2種で仕立てたジャケットや、シームのパイピングの有無しか差のないパンツなど、小さく差異がついたアイテムを、審判を仰ぐように観客に見せていく。デザインや素材の違いに善悪や貴賤はなく、何を選び何を良しとするかは消費者に委ねられるという振り切れた自由さがあった。
2体のルックを見比べるかたちでショーを見ていると、難しい評価以前に単純に自分は2体のうちどちらが好きかを無意識に選んでいることに気がついた。田中の語る「私たちにとって洋服を作るということは、ディテールをひとつひとつ積み重ねていくこと」という言葉に象徴されるように、遠目には気が付かないようなディテールを持つ似通ったデザインのアイテムが多数登場した今回のコレクションは、情報や商品の溢れる世界で日々取捨選択の責任を迫られる消費者へ、好きだと思った服に素直に向き合っていけば良いのだと伝えているようだ。
個人的に気になったのはモデルのヘアスタイル。ぴったりと撫で付けられたモデルの髪には伸ばし忘れてしまった白いワックスのようなものが大きく施され、厳格な雰囲気の漂う中進行するショーに、ささやかな茶目っ気を添えていた。後藤は「厳格なテーマの奥に少年らしさや意外性を忍ばせたい」と語る。これも芸術性と工業的なアプローチの両面を持つナノアットらしさのように感じさせた。
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