フレッシュなファッションに触れていたい一心で立ち上げられた連載「ネクストブランド発掘」。とはいえ世にある幾千万ものブランドを独自調査して発信するのもなんだか一方的な気が（単に骨の折れる作業を避けただけ）。そんなこんなでこの連載では、ショップディレクター／バイヤーなどに協力を仰いで注目ブランドをピックしてもらうことに。今回登場するのは、隠れスポットが多いことでよく知られる奥渋エリア内にショップを構える「ワガママトウキョウ（WAGAMAMA TOKYO）」オーナー中村勇貴。ここでしか得られないモノにとにかくこだわり、あらゆるブランドとの別注アイテムばかりを取り揃えた風変わりなショップで聞く、知っておいて損はナシ、目利きによる推しの話。

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　1章、2章とお届けしてきた、我儘別注を軸にしたネクストブランド発掘は今回がラスト。最終章は、中村が別注企画を手掛ける際に最も多いパターンとして挙げる"衝撃的な出会い"編。これだ、と感じた洋服には手を出さずにいられない中村だが、その中でも「リコール（RequaL≡）」と「ピーターソン ストゥープ（PETERSON STOOP）」は初見から圧倒されたそう。ファッションへのリスペクトを独自に表現するブランドとの遭遇は中村の既視感を打ち破り、次なる原動力へとつながっていく。

　欲しいと感じたものをすぐさまスマートフォンに記録しているという中村のリストは、これまでに数々の別注商品を生み出してきたにも関わらず、増え続ける一方。根っからのファッションアディクトの欲求はこれからも果てることはないだろう。

真剣にふざける偽物の本物｜リコール×ワガママトウキョウのハットとキャップ

Image by: WAGAMAMA TOKYO

　「とてもありがたいことに今ではたくさんのブランドさんから展示会案内のDMをいただきます。ですが僕自身とお店の我儘な性質から、足を運ぶケースは実際そう多くありません。リコールに関しても最初はDMが送られてきたことからはじまり、僕はいつも通りどんなブランドなのか、インスタグラムでチェックしていました」

　「流し見程度でスクロールしていくと投稿の中に『なんだこれ！？』と、ハットの画像が目に止まりました。これは大袈裟ではなく、こんなものが世の中にあるのか、と思うほどの衝撃を受けた瞬間でした。すぐに、後日予定されているリコールの展示会に行こうと決めました。ちなみに展示会場での僕は、並べられたシーズンアイテムはそっちのけで、このアイテムで別注したいです、と初対面のデザイナーさんにスマホでハットの画面を見せながら息巻くという、無茶苦茶だし本当に失礼なやつでした（笑）」

Image by: FASHIONSNAP

　「ハットの次にキャップを作りました。ワッペンはぱっと見、有名企業やブランドのロゴにも見えますが全てフェイクなんです。でもただのパロディではなく、しっかりとオリジナリティを感じることができます。オリジナルの影響力にあやかり、利益のためだけに作られた偽物からはなにも感じませんが、リコールのアイテムからは"偽物の本物"を本気で目指している感覚というか、ものすごい熱量とリスペクトを感じるんです。ひとつひとつ手作業でワッペンが付けられていたり、ものづくりの姿勢としても突き抜けたものがあります」

　「よくお店の接客で『これはなかなか他にないですよ』と耳にすることがあると思いますが、僕は自信を持ってこう言えます。『これは本当に他にないものです』と（笑）。お客様は僕が最初にリコールのハットを見たときと同じように『なにこれ？』と、戸惑いにも似た反応をしてくれます。理解の範囲を超えたものを提案できているのだと、思わず嬉しくなりますね」

誰とも被りたくないあなたへ｜ピーターソンシュープ×ワガママトウキョウのシューズ

Image by: FASHIONSNAP

　「僕は革靴が苦手なため、昔からスニーカーを好んで履いているのですが、一時期、レアなスニーカーを選んでも人と被ってしまうような状況に少しうんざりしていました。服でもスニーカーでも人と被るのが本当に嫌で......。そんなタイミングでピーターソンストゥープの存在を知り、このデザインなら100%人と被らないものが作れる、と感じたのが取り組みのきっかけです」

　「ブランド側で展開しているアイテムも唯一無二さは感じますが、さらにパワーアップさせたシューズを作りたいと思いました。ナイキのスウッシュを左右で反転させた、パンダをイメージしたモデルを作ったり、左足がプーマに対して右足はアディダスにしたモデルを作ったり......これで誰かと被る不安はありません（笑）」

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Image by: FASHIONSNAP

　「社会性やサステナブルという言葉自体に興味はありませんが、ブランドの根底にある廃棄されたスニーカーを手作業で分解して再構築、新しい命を吹き込むアイデアはシンプルに共感できました。洋服でよく聞く"廃棄を再構築するストーリー"も、スニーカーでは聞いたことがなかったので衝撃的でした」

　「ファッションがいつまでも良いと思えるところは、アイデアが面白いところなのだと個人的に感じています。ずっと好きで見続けていれば、そこには既視感も生まれます。また、年齢を重ねるごとにその既視感は壊しづらくもなります。ですが、長い歴史があるわけでも、上質な素材を使っているわけでもないブランドが、アイデア次第で既視感を打ち破ってくれます。その衝撃がたまらないから、僕は中学1年生から今も変わらず、洋服を好きでい続けられているのだと思います」