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Lifestyleきっと誰も好きじゃない。

【連載:きっと誰も好きじゃない。】10人目-修士号をとるために勉強をしている真面目な彼

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 死ぬほど人を好きになったり愛したりなんてできないのかもしれない。そんな諦めの気持ちと、それでもやっぱりどこか諦めきれない自分。そこで私は、真の愛を掴むべく出会い系アプリを使ってみようと決意した。「きっと誰も好きじゃない」のかもしれないけれど。時間を共にし、話したことや出来事を、撮ってもらった私自身の写真とあわせて綴る出会い系アプリで知り合った男性とのおはなし。10人目はオーストラリア ビクトリア国立美術館で会った25歳のMさん。

(文・写真:高木美佑

木曜日@ビクトリア国立美術館 25歳 Mさん


私の出会い系アプリへの熱量は落ち着きはじめていた。

オーストラリアでの生活にも慣れ始め、学校や仕事も決まり少し忙しくなってきていたし、あまりしっかりと返事を返すこともなくなってきていた。

彼が最初にメッセージを送って来てくれたけれど、私が返事を送ったのはそれから2週間後。

「返事が遅れてごめんね、しばらくこのアプリを使っていなくて」というと、「もしLINEの方をよく使うなら、そっちでやり取りをしようか」と提案してくれて、LINEでやりとりをするようになった。

オーストラリアでのメッセージアプリの主流はWhatsAppなので、日本人ばかりが使っているLINEをインストールしていることが珍しいなと思った。

それにLINE上での彼のプロフィール画像は葛飾北斎の富嶽三十六景。
どうやら去年オーストラリアで葛飾北斎の展示が行われていたらしく、彼はその展示をすごく気に入り、特にお気に入りの1枚が富嶽三十六景だったらしい。

日本へも2度旅行で遊びに行ったことがあるらしい。

日本語を勉強しているとまではいかなくとも、日本に対して少なくともマイナスイメージを抱いていないということがわかり、少し安心した。

「どうしてオーストラリアの中でもメルボルンに来たの?」と訊かれた。
---「良い美術館や音楽が多いって聞いたからだよ」
---「あの大きな国立美術館には行ったことある?」
---「あるよ。次の展示が楽しみ!」
---「僕も!もし一緒に行く人が決まってないなら一緒に観に行こう」と、すぐに今度会うことが決まった。

前回の人と会ってから、2ヶ月ぶりに出会い系アプリを通じて人と会う。

約束の日の前日、彼から連絡がきた。

集合時間の確認と、そしてアプリ上では偽名を使っていたからと彼の本当の名前を教えてくれた。

会ってから伝えてもいいぐらいなのに、事前にちゃんと教えてくれるなんて真面目な人だなと思った。

写真でみた彼はブロンドの短髪で、鼻筋がしゅっとして顔の彫りも深く、モデルのような顔立ち。

その上彼は恐らく日本語が全くわからないので、私はとても緊張していた。

今までに会った人たちは、少しの日本語はわかるような人たちばかりだったからだ。

思わず「そんなに英語が得意じゃないけど大丈夫かな?退屈させてしまわないか心配」とメッセージを送った。
「大丈夫だよ、約束する。楽しいはず!」と言ってくれた。

待ち合わせ当日、待ち合わせ時間の1時間前に彼から連絡がきた。
「早めに着くからチケット先に買っておこうか?」と。

よくオーストラリアの人はのんびりしていて時間にルーズだという話をよく聞くけれど、全然そんな事はないなと思った。

むしろ私の方が5分遅れて到着してしまった。

「着いた!」と連絡すると、モニュメントの近くにいるよと言われ、辺りを見渡すと彼がいた。

私が少し小走りで向かうと彼も私に気づき、手を振った。

実際に会うまで本当にプロフィール写真が彼本人のものなのか、正直なところ一抹の不安があったけれど、写真そのままの彼がいた。

軽く挨拶を交わし、なぜか私は握手をしてしまった。

ハグならまだ理解できるけれど、どうして握手をしたのか自分でもよくわからない。

咄嗟にでた私なりのコミュニケーションだった。
恐らく緊張していたのだと思う。

チケット代を渡し、展示室へ向かった。

展示を見始めてすぐ、失敗した、と思った。
初対面の人と会い、特に深くを話さないまま美術館に行くのは思っていたよりもずっと難しいことだった。

動物園などと違って大きな声で話す訳にもいかないし、1枚1枚を一緒にみるというよりかは私も彼も展示は自分のペースで各々見ていた。

キャプションはもちろん英語なので、私は読むのに時間がかかる。

特に何も話さず、お互いのことをあまり何も知らないまま、時間だけが過ぎていった。

けれど、次のブースの展示へ移動する時にはいつも彼が出口で待っていてくれた。

展示を見終わり、閉館まであともう少し時間があったので、無料だった常設展もみることにした。

歩きながら少し、質問を投げかける。
彼はいまバーテンダーの仕事をしながら、修士号をとるために勉強をしているらしい。

彼の英語を話すスピードは私にとって少し早く、彼の話すことすべてを理解できている自信はあまりなかった。

逆に私のたどたどしい英語を彼がちゃんと理解出来ていたのかもわからない。

美術館をでて、街を歩いた。

「どこに向かっているの?」と訊くと、「わからない。こっちの方が駅かな?」と言われ、彼はもう帰りたいのかな?と思った。

歩いている間も特に彼が話しかけてくることもなかったし、あまり目も合わせてくれないような気さえして、ああつまらない思いをさせてしまったのかなと思い、どうしたらいいかわからなくなってしまった。

そう考えだすとますます話しかけづらくなってしまう。

沈黙が続くなか、とりあえず彼の後ろを歩いた。

「私のトラム乗り場はこっちだから」と言って、このまま解散した方がいいのではと何回も思ったけれど、それを言う勇気さえも出なかった。

たぶん私は少し泣きそうな顔をしていたと思う。

「何か食べたい?」と訊かれた。
慌てて「なんでもいいよ!」と言ったら彼が少し困った顔をしていたのを覚えている。

もしかしたら私にそう見えただけなのかもしれないけれど。

ショッピングセンターのようなビルの前を通りがかり、「そこで何か買おうか」と彼が言った。

嫌々ながら付き合ってくれているのかなとも思いつつ、もう少し一緒に時間を過ごしてくれるんだなと思った。

夕方になり少し肌寒かったので、あたたかいコーヒーを買い、ちょっとした広場に座った。

ようやく落ち着いて話すタイミングができたのに、妙に話しづらくなってしまった。

少しの沈黙のあと、「ごめんね、あんまり初対面の人と話すのが得意じゃなくて」と言うと、「僕もそうなんだ」と彼が言った。

彼は斜め上の方を見つめながら、それから少し、仕事のことやオーストラリアについて、あとは彼が日本へ遊びに来た時の話をしてくれた。

お互いコーヒーを飲み終え、「そろそろ帰ろうか」と言い外へ出ることにした。

外はすっかり暗くなり、夜景が綺麗だったので、「最後にここで写真を1枚撮ってほしい」とお願いをしてカメラを手渡した。

彼は快く「いいよ!」と言ってシャッターを押した。

駅の方へ向かい、私は「駅の隣にあるスーパーへ寄っていくね」、と言った。

本当は特にスーパーに用事などなかったけれど、とりあえず何か別の方向へ行く言い訳を作ってしまった。

別れ際に「今日はありがとう」と言い、今度は握手ではなく軽いハグをした。

外は小雨が降りはじめた。

解散したあと、「今日はいい1日だったよ!気をつけて帰ってね」と彼からメッセージが届いた。

お礼の返事を送ると、「またなにか見たい展示があったら教えてね」と言われて、また会ってくれる気持ちがあったのだと驚いた。

もしかしたら彼も、私と同じように考えていたのかもしれない。
私が楽しくなさそうに見えて、話しかけづらく思わせていたのかもしれない、とすごく反省をした。

私は兵庫県の出身だけれど、1歳の時に東京へ引っ越した。

その後も父の仕事の都合で転勤をすることが多かったため、地元がどこかと訊かれるとどこを答えたらいいのかわからない。

関西の人はどうこう、のようなイメージを当てはめられても、当時の記憶なんてある訳もないし、関西弁も話せなければ関西人だというアイデンティティを持っているつもりもない。

かといって生粋の東京育ち、という訳でもない。

そのためか、出身地や国で乱暴にその人のイメージを決めつけることにとても苦手意識がある。

その土地へ行ったこともなくちゃんと話してもいないのであれば、偏った先入観は持ちたくない。

自分はせめてそういう事をしないように気を付けようと思っていたにも関わらず、知らず知らずのうちに同じことをしてしまっていた。

前にメッセージのやりとりをしていた時、彼がいま大学の課題で論文を書いていると言って、書きかけの論文が写っているパソコンの画面の写真を送って来たことがあった。

画面びっしりに文字が詰まっていてとても難しそうだった。

期日前から彼はしっかりと課題に手をつけていた。

バーテンダーの仕事をしていると聞くとすごく華やかに思われるけれど、趣味は読書とゴルフだと言っていたし、もうバーやナイトクラブにも行かないと言っていた。

オーストラリア人はお喋りでフレンドリーで時間にルーズ、と私が勝手に彼へイメージを頭の中で押し付けてしまっていたのだ。

今度彼に会う時には今日よりも自分のことを話して、今日よりも彼の話を聞いてみたいと思った。

企画協力:Tomo Kosuga

高木美佑/Miyu TAKAKI
写真家。1991年生まれ、東京都在住。
ドライブデートで聴きたい曲:ユーミン
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インタビュー記事:若き写真家の肖像 -高木美佑-

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