Image by: ©Miyu TAKAKI

Lifestyle きっと誰も好きじゃない。

【連載:きっと誰も好きじゃない。】7人目-メルボルンで出会ったミュージシャンの彼

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 死ぬほど人を好きになったり愛したりなんてできないのかもしれない。そんな諦めの気持ちと、それでもやっぱりどこか諦めきれない自分。そこで私は、真の愛を掴むべく出会い系アプリを使ってみようと決意した。「きっと誰も好きじゃない」のかもしれないけれど。時間を共にし、話したことや出来事を、撮ってもらった私自身の写真とあわせて綴る出会い系アプリで知り合った男性とのおはなし。7人目はメルボルンCBDで会った31歳のYさん。

(文・写真:高木美佑

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日曜日@メルボルンCBD 31歳 Yさん

1年以上、出会い系アプリを使っていなかった。
その間に私は英語の勉強のためにワーキングホリデーでオーストラリアに来ていた。

オーストラリアに来てから2週間が経った頃、ルームメイトは皆日本人だったし、新しく決まった職場も日本人が多く、どうやって英語を話す環境を作るか悩んでいた。

そんななか付き合っていた恋人にもフラれ、これは良い機会かもしれないと思い、出会い系アプリを再び使ってみることを決めた。

アプリをインストールしたその日は、とりあえずたくさんの人とメッセージのやりとりをした。

多くのメッセージ相手のなかで、私のプロフィール写真に写っていた古いフィルムカメラについてメッセージをしてきたのが彼だった。

彼も趣味でフィルム写真を撮っているらしい。
その他は「オーストラリアへ来てどのくらい?」だとか「オーストラリアは気に入った?」といった定例文のようなものがほとんどだったし、カメラの機種名まで知っていた彼のメッセージはとても印象に残った。

彼はミュージシャンらしい。

ほんの数通のやり取りの後、「今週末コーヒーを飲みにいかない?」と誘われた。
そして街の中心部にある現代美術館で大きな展示をやっているから、それを見に行くことになった。

アプリを始めたばかりで私も勢いづいていて、軽く承諾した。

見知らぬ土地での知らない男性とのやりとりはただでさえ不安が大きかったけれど、会うのは昼間だったし、写真をやっていてアート好きで、そんな人が襲ったりだとか危ないことはしないだろうと、根拠のない自信があった。

メッセージからも彼の優しさが伝わっていた。

もちろん私の英語は完璧ではないけれど、「わからない事があったらなんでも聞いてね」と言ってくれていた。

会う約束の日、この日でサマータイムが終わった。

この日から日付上、時間が1時間遅くなる。
10時に起きると、時計の針は11時。

日本にはない制度なので混乱し、待ち合わせは13時だったけれど、12時なのか13時なのかどちらの時間で行けばいいのかわからなくなってしまった。

そのことを彼に連絡すると、「携帯電話の時間を信じていいよ。『Daylight Saving Time(サマータイム)』って知ってる?」とメッセージが来て、とても親切だなと思った。

待ち合わせ場所に、5分前に着く。
待ち合わせ時間ちょうどに彼は現れた。
彼の第一印象は、どこか落ち着いた雰囲気のある人。

慣れていない国で、ましてや出会い系アプリで知り合った男性と初めて会うというのに、なぜかあまり緊張はしていなかった。

きっと、知らない人とも街中やお店で話す機会が多い、この土地柄のお陰だろう。
それよりも、私の英語は伝わるか、彼の言っていることが理解できるか、退屈させてしまわないだろうかという不安の方が大きかった。

簡単に自己紹介を済ませたあと、カフェへ向かった。

歩きながら、お互いに質問を投げ合った。

「英語上手だね」と言われ、少しほっとした。
「次は君のおごりね」とおどけながら、彼がコーヒーを買ってくれた。

彼のマネークリップがとても可愛かったのをよく覚えている。

コーヒーを飲みながら、美術館へ向かって歩いた。

彼は、渡る橋や川の名前を教えてくれたりした。

美術館に着いたけれど、館内へコーヒーは持ち込めないので、美術館の前にある広場へ腰掛け、少し話をした。

すると彼が可愛い生成りのナップサックから「ハッピーイースター!」と言いながらウサギの形をしたチョコレートをくれた。

この日はイースターのホリデー期間中で、街中にイースターのシンボルであるウサギや卵のモチーフが溢れていた。

これを私に渡すために持って来てくれていたという嬉しさと、全く予想もしていなかった驚きとが入り混じり、ちゃんと英語でリアクションを取れたのか覚えていない。

そのウサギの首のリボンには小さな鈴がついていて、チョコレートを食べたあとは紐を通してネックレスにした。

コーヒーを飲み終えて、美術館へ入った。
とても広かった。

現代アートのトリエンナーレと、美術館の収蔵品展のようなものをやっていた。
広すぎて見てまわるのにとても時間がかかり、途中でお互い少し疲れているのがわかった。

そして2人とも興味が湧くのが現代アートで、収蔵品展のような古典美術にはあまり関心がないということも、彼の歩くペースや視線などでわかった。

彼もそれに気づき、「モダンアートの方が好き?」と訊かれ、うんと答えると「僕もそうだ」と言った。

展示の中で、キッズ向けのスペースがあり、カラフルな布を壁に貼るという参加型の展示があった。

彼がその布を1枚手に取り、しばらく眺めているのでどうしたのだろうと思っていると、「色盲なんだ」と彼が言った。

完全に色がわからず白黒に見えるという訳ではなく、赤と茶など、似ている色の区別がしづらいらしい。

けれど写真が好きでカラーフィルムを使っている。
それがとても興味深かった。

彼にとってはコンプレックスかもしれないし不便なことだけれど、私とは違う世界が見えているのだということにすごく惹かれた。

閉館時間の5時になり、少し小腹も空いてきたということで、早めのディナーをすることにした。
イースターホリデー中でほとんどのお店が閉まっていたため、彼が調べてくれたイタリア料理店へ向かった。

お互いにパスタをシェアした。
洒落た店内で、料理もとても美味しかった。

会話に困ったとき、スマートフォンはとても便利だ。
お互いのインスタグラムをみたり、Google Mapでおすすめの場所を教えあったりすることができる。

たまに彼が早く喋ったりすると、彼の言っている内容を100%理解できないこともあったし、私の発音が悪く聞き直されることもよくあった。

正直、私も彼も少し疲れ始めていたのかもしれない。

それでも彼は辞書を使ったり、写真を見せてくれたり、もっと簡単な言い方をして伝えようとしてくれた。

食べ終えて、近くの川沿いを歩いた。
なんとなく沈黙が続くようになり、嫌われてしまったかな?と考えていた。
やっぱり私の英語力じゃ駄目だったかな?とも思った。

最後に、「記念に写真を撮って」とカメラを渡した。

彼は「どこで?」と少し驚いている様子だったけれど、1枚撮ってくれた。

私のトラム乗り場まで送ってくれるような感じだったけれど、トラム乗り場は少し遠く申し訳なかったため「ここで大丈夫だよ」と伝え、「またね」と言い合って別れた。

トラムを待っている間、すぐに彼からメッセージがきた。

私のインスタグラムを見てくれたようで、「君の作品すごく好き!今日はなにを撮ったの?」と。

「今日はありがとう、またね」のような社交辞令染みた文じゃないことに安心した。

彼の言っていることをまず言語として理解して、そのあと意味を理解するために頭の中で翻訳する。
その工程を踏まえないとまだ私には外国語を理解できない。

もしかすると、彼の言葉には私のフィルターをかけすぎているかもしれない。
けれど、そんなコミュニケーションも楽しいなと思った。

家に着いたあと、彼のインスタグラムをみた。

そこには彼の作った音楽もポストされていて、とても格好良くて素敵だった。

その曲を何度も繰り返し聴いた。

企画協力:Tomo Kosuga

高木美佑/Miyu TAKAKI
写真家。1991年生まれ、東京都在住。
結婚後に飼いたい犬:ゴールデンレトリバー
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インタビュー記事:若き写真家の肖像 -高木美佑-

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