Image by: ©Miyu TAKAKI

Lifestyle きっと誰も好きじゃない。

【連載:きっと誰も好きじゃない。】6人目-茄子としいたけが嫌いな新宿の彼

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 死ぬほど人を好きになったり愛したりなんてできないのかもしれない。そんな諦めの気持ちと、それでもやっぱりどこか諦めきれない自分。そこで私は、真の愛を掴むべく出会い系アプリを使ってみようと決意した。「きっと誰も好きじゃない」のかもしれないけれど。時間を共にし、話したことや出来事を、撮ってもらった私自身の写真とあわせて綴る出会い系アプリで知り合った男性とのおはなし。6人目は新宿で会った24歳のTさん。

(文・写真:高木美佑

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土曜日@新宿 24歳 Tさん

彼はとても優しい人だ。
彼とのメッセージのやりとりは、会う前の段階で既に半年ほど続いていたような気がする。

その期間に、私は仕事を辞めた。
そのことも彼には伝えていた。

仕事をやめて家にいることが多くなったという話をし、メッセージをまだ返していないままでいたとき、彼から「その後大丈夫ですか?」と連絡があった。

どうやら、家に引きこもって気分が落ち込んでいるんじゃないかと心配し、メッセージをくれたのだ。

実際の私としては、家で気兼ねなくのんびりできていて、仕事をしていた頃よりもむしろ心身ともに健康ではあったのだけれど、そんな心配をされてとても驚いた。

彼は広告制作会社に勤めていると言っていたので、同じような業界ということもあり、察してくれたのだろう。

LINEでやりとりをしようということになり、彼からLINEのIDが記載されたメッセージが届いた。
それは少し特別なものであった。

そのメッセージは通常のものとは異なるスペシャルメッセージで、ほかの人からのメッセージよりも目立ち、受信時間に関係なく必ず受信箱の1通目に表示されるというものだった。
Tinderでいうところのスーパーライクだろう。

恐らくあまりアプリを使用していない私のことを案じてそうしてくれたのだと思う。

彼はとても映画が好きで、最近観た映画で面白かったものをよく教えてくれた。
そのうち、今度一緒に映画を観に行こう、と話していた。

そんな話をしている夜、翌日はたまたまお互い休みだということがわかり、早速明日観に行こうと決まった。

LINEの返事を打ちながら、こういう時にテンポよく日取りが決まる相手と、なかなかタイミングが合わず結局予定が流れてしまう相手との違いとは何なのだろうと考えていた。

仕事や友人との都合と言えばそれまでなのだけれど、占い好きな私はつい運命だとか理屈では説明できないようなものを信じてしまう。

夕方からの回を観るつもりで、上映時間の30分前に待ち合わせをした。

私はその時間ちょうどに到着したけれど、恐らく彼はかなり前に新宿に着いていた。

その証拠に、オンラインで前日にチケットの予約をしていて、そのチェックインをし発券まで済ませてから待ち合わせに来てくれていた。

週末だったし、公開されたばかりで話題になっていた映画だったので、混雑するだろうと見越してくれたのだろう。
そのおかげで時間にも余裕ができ、飲み物を買うこともできたし、予告から観ることもできた。

わたしは普段映画館で映画をみるときは1人で行くことが多い。

上映中だけは映画に集中していようと思っていたけれど、初対面の緊張もあってか、彼が買ったポップコーンに手を伸ばす度にそれが気になってしまった。

とはいえ映画はとても素晴らしかった。

複雑すぎるストーリーでもなくハッピーな話であるし、やたらとラブシーンが多い訳でもなく、初対面の人と観ても気まずくなることもなかった。

この映画にして良かったと思った。

映画館を出たあと、「ご飯でもいきますか?」と言われ、自然な流れで食事に行くことになった。

「何か嫌いなものはありますか?」と訊かれ、なにもないことを伝えると、「じゃあ餃子は?」と訊かれた。

餃子とワインのお店があるらしく、そこへ向かうことにした。
しかし、しばらく歩いてもお店が見つからない。
この辺りだという場所を2往復ほどしたがやはりそれらしきお店は見当たらない。

「お店無くなっちゃったんじゃないですか?」と少しふざけながら訊くと、彼がスマートフォンで調べはじめた。

どうやら、本当に閉店してしまったようだった。

映画のときからとても事前に準備をしてくれていたから、想定外のことが起きた今、行き当たりばったりな展開になったことになんだか少しワクワクした。

とりあえずお店がたくさんありそうな通りへ向かった。

その道中では、私が最近読んだ本の話などをした。法則についての本だ。
世の中のことは大体が8:2の割合なのだとか。

少し歩いた先にあった、和食系の居酒屋へ入った。

「嫌いな食べ物はないんですか?」と訊くと、彼は「茄子としいたけ」だと答えた。

とりあえず飲み物を頼み、一緒にきたお通しが茄子のお浸しだった。

更に、彼がとりあえず頼んでいたサラダにキノコがたくさん入っていた。

ついさっき苦手だと話していたばかりだったので、お互いに笑い合った。

けれど彼は、「こういう感じなら大丈夫」といいながら頑張って食べていた。

人に出されたものは残さないようにと教えられたのか、きっと彼のご両親は素敵な方だろうと思った。

急に彼が「恥ずかしい話なんですけど」、と話しはじめた。
「本当に最低なんですけど」、と前置きをしつつ、彼は転職したという話をした。

どうしてそんな前置きをしたのか、私にはよくわからなかった。
転職したことが恥ずかしいことでも最低なことだとも思わなかったからだ。

しかし、私もよく「たいしたことじゃないけど」、「しょうもない話だけど」、などといった前置きをしてしまうなと思った。

どう感じるかはその人次第なのだから、やたらと卑下するのはあまり良いことでもないな、と言われた相手の気持ちが少しわかった。

途中トイレから帰ってくると、突然彼に「良かったらまた遊んでください」と言われた。

お会計を済ませた訳でも、まだお店を出るような雰囲気でもなかったので、どうして今なのだろう?と思った。(もしこの文章を読まれている方の中に、彼の心情を察することのできた人がいたら是非教えて欲しい。)

料理を食べ終え、グラスの中の分を飲み終えた頃、お会計を済ませた。

お店を出ると、彼はハイチュウをくれた。ブドウ味だった。
久しぶりに食べたハイチュウはとても甘くて美味しかった。

私は、少し酔いを冷ます為にコンビニでコーヒーを買った。


駅へ向かう道中で、「記念に1枚撮ってほしい」とカメラを渡した。

「どうしたらいい?」と訊いている途中で彼はシャッターを押した。

帰り道、「とても楽しかったです」と言ってくれた。

私は最初、映画を見ず知らずの、ましてや出会い系アプリで知り合った男性と観るのはとても不思議な体験だと思っていたけれど、案外いいかもしれないと思った。

映画だけに関わらず何かの感想を述べるとき、知り合い同士だと相手の好みや経験などを考慮して、少しの遠慮だとか気遣いを含めてしまうことがある。

初対面の相手だからといってズケズケとものを言う訳ではないが、変な先入観がなく話をできる機会は貴重かもしれない、と思った。

しかし、そんな彼とも、これから先仲良くなって会う回数を重ねるにつれ、そのような気遣いでお互いの感想や気持ちを言い合えなくなってしまうようになるのだろうか?と思った。

企画協力:Tomo Kosuga

高木美佑/Miyu TAKAKI
写真家。1991年生まれ、東京都在住。
好きな男性の服装:全身無地
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インタビュー記事:若き写真家の肖像 -高木美佑-

きっと誰も好きじゃない。
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