Image by: ©Miyu TAKAKI

Lifestyle きっと誰も好きじゃない。

【連載:きっと誰も好きじゃない。】2人目-芸術家になりたかった渋谷の彼

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 死ぬほど人を好きになったり愛したりなんてできないのかもしれない。そんな諦めの気持ちと、それでもやっぱりどこか諦めきれない自分。そこで私は、真の愛を掴むべく出会い系アプリを使ってみようと決意した。「きっと誰も好きじゃない」のかもしれないけれど。時間を共にし、話したことや出来事を、撮ってもらった私自身の写真とあわせて綴る出会い系アプリで知り合った男性とのおはなし。2人目は渋谷で会った39歳Pさん。

(文・写真:高木美佑

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火曜日@渋谷 39歳 Pさん


最初のメッセージから会うまでに、結構な数のやりとりをした。


出会い系アプリのプロフィールに顔写真は載っていなかったけど、
落ち着いた文面なので、大人なのだろうと思っていた。

お互い質問をし合う、というよりは向こうが近況報告のようなメッセージを送ってくる、というような感じ。

彼のプロフィールの職業欄はデザイナーと書いてあり、
忙しい人のようで、ちょっとした空き時間にメッセージを送ってきていた。

アプリでのメッセージから、LINEでやりとりをするようになってからもそれは変わらなかった。
SNSでつぶやくように、「仕事終わった〜」とか、「疲れた〜」とか。

LINEでのプロフィール画像は彼のものと思われる顔写真で、
デザイナーというだけあってお洒落な雰囲気のある人。

私もすぐにメッセージを返すようなタイプの人間でもないので、
お互い一息ついた時に声を掛け合うような関係になっていた。

仕事の納品が終わるとよくひとりで飲みに行っているようだった。
そのうち、タイミングが合えば飲みにいこう、と話していた。


初めてメッセージのやりとりをしてから1ヶ月以上たった夜。
その日は予想外に予定が急遽なくなってしまい、仕方がないからおとなしく家へ帰ろうとしていた。

そんなときに彼から「ひとりで飲んでいる」という旨のLINEがきた。
私はこれから帰ると伝えると、「そっちまで行くので一杯飲もう」と彼から誘われた。

時間は既に22時をまわっていたが、終電では絶対に帰ると約束をし、彼が来るのを駅で待った。

なんとなく、彼は危ない人ではないだろうと感じていた。
これまでのやりとりの中で、彼は「芸術家になりたかった」という話をしていた。
私はその話にすごく興味があり、直接話を聞いてみたかったのだ。


彼はニコニコしながら待ち合わせ場所へ現れた。
忙しすぎて遊ぶ暇もないような、仕事一筋のおとなしい人かと思っていたけど、
実際に会ってみると明るい人だった。

それはもしかしたら、私と会う前に彼が既にホッピーを2杯飲んできていたせいかもしれないけど。


駅からすぐ近くの焼き鳥屋へ向かった。(彼がひとりで飲んでいた1軒目も焼き鳥屋だったそう。)

店へ向かう道中で今の仕事を訊かれ、「もう辞めてしまって今はニート」だというと、
「僕もそんなようなものだ」「お互い堅気じゃないね」と笑っていた。

そのお店は24時間営業だったので、うっかり終電を無くしてしまわぬように気をつけようと身構えた。


お互いに、ビールを飲んだ。
平日にも関わらず店内は繁盛しており、とても騒がしかったので、彼の話を聞くために必死に耳を傾けた。

枝豆がきて、彼は枝豆の粒を取り皿にすべて出し、それをお箸でつまんで食べた。

再び仕事の話。
「仕事をやめて、語学留学に行く予定だけどその後はどうするのかはっきり決まっていない」と言うと、「アーティストになりたいんでしょ?」と聞かれた。

その問いに、私はなんて答えたのか忘れてしまった。

彼は彫刻家になりたかったらしい。
絵も描いていて、社会人1年目では世界的に有名な建築家のアトリエで働いていたけど、クビになってしまったと話した。

アイドルオタクだと言っていた。
ライブハウスへもよく行くらしい。
そこには毎回ライブを観に来ているコアなファンというのが必ずいて、その人たちは得体が知れないと言っていたけど、きっと向こうも彼のことを同じように思っているのだろう。


結婚だとか、恋人だとかの話になった。
彼氏はいるのかと聞かれ、いないと答えた。いたら留学へなんて行けない、仕事も辞めたし、失うものが何もないから行けるのだと言った。

本当は、大切なものも失いたくないものも沢山ある。

彼はバツイチで、子どももいるらしい。
最初「コブもいる」と言われ、それが何の事を指しているのかわからなかった。

けれど一人暮らしでもなく、叔父の家に居候をしていると話していたので、なにかしら事情があるのだろうとは思っていた。
叔父の家に住むようになり、自分だけの帰る場所が無くなってしまったように思うと言っていた。


おしゃべりな人だった。
店内がうるさくてよく聞こえない事も多かったけど、ニコニコ笑いながらずっと話をしていた。


24時前頃、お互いのジョッキのお酒が無くなったタイミングで、そろそろ出ようということになった。

お会計を済ませ、駅までの道のりで、「記念に1枚写真を撮って!」と彼にカメラを渡した。
そういうメディア系の仕事をしているせいなのか、特になんの疑問も抱かずにカメラを受け取り、楽しそうに1枚撮ってくれた。

写真を撮ったあと、彼は「ヒロミックス(HIROMIX)みたいになれるかなー?」とふざけていた。

彼はだいぶ酔っぱらっていたと思う。
私も少し酔っぱらっていたのだなーと、できあがった写真をみて思った。

彼と別れてしばらくすると、「電車を乗り過ごしてしまった」とメールが来た。


企画協力:Tomo Kosuga

高木美佑/Miyu TAKAKI
写真家。1991年生まれ、東京都在住。
好きな男性の仕草:重いものを持っているとき
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インタビュー記事:若き写真家の肖像 -高木美佑-

きっと誰も好きじゃない。
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