Image by: ©Miyu TAKAKI

Lifestyle きっと誰も好きじゃない。

【連載:きっと誰も好きじゃない。】3人目-かわいい絵文字を使う渋谷の彼

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 死ぬほど人を好きになったり愛したりなんてできないのかもしれない。そんな諦めの気持ちと、それでもやっぱりどこか諦めきれない自分。そこで私は、真の愛を掴むべく出会い系アプリを使ってみようと決意した。「きっと誰も好きじゃない」のかもしれないけれど。時間を共にし、話したことや出来事を、撮ってもらった私自身の写真とあわせて綴る出会い系アプリで知り合った男性とのおはなし。3人目は渋谷で会った26歳のMさん。

(文・写真:高木美佑

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火曜日@渋谷 26歳 Mさん


最初にメッセージを送ったのはどっちだっただろう?

アプリでのやりとりの履歴は消えてしまっていて、
私か彼か、どっちが先にメッセージを送ったのか忘れてしまった。

たしか、やりとりを始めたのは夏の終わり頃だった。
彼はよく、かわいい顔文字を使った。

たわいもないメールを交わしているうちに、ご飯に行くことになった。

日程を決めようと話し合うたび、
「○日の夜から朝にかけては空いてる?」とオール前提で誘ってきたため、
お酒を飲んでそのままラブホテルにお泊まりするつもりでいるのかなーと、私は不信感を抱いていた。


一度、会う約束をしたけれど、
突然わたしの身内に不幸があり、当日の朝にドタキャンをしたことがあった。

行けなくなってしまった旨を伝えると、
「仕方がないよ、また今度にしよう」と優しい言葉をかけてくれたので、
きっと根は悪い人ではないのだろうなと思った。

今思えばそれで怒ってくる人の方がおかしいとは思うけれど、
突然のことにショックを受けて弱っていた私にはとても優しい人のように思えた。

それからしばらく経ち、落ち着いた頃、またご飯へ行こうという話になった。

彼はしぶとくオール前提で誘ってきたけれど、
終電で実家へ帰らなければならないと伝え、制約を設けたうえで会うことにした。

会ってみると、彼はとても普通で、チャラチャラしているようにはとても見えなかった。

どこのお店に行くかは決めておらず、ブラブラと駅周辺を歩いた。
そのことに私は少しほっとした。
綿密に計画を立てられていると、なにか危険な策略があるのではと勘ぐってしまうからだ。

彼はお肉が好きだと言っていたので、道中にあった鉄板焼き屋さんに入った。

その2日前にタイ旅行から帰ってきたばかりの私は、お土産にタイの煙草を持っていた。
彼は席に着いてもテーブルの上に煙草を出さなかったけれど、「煙草は吸う?」と訊くと、「吸う!」と答えた。

どうやら私が煙草嫌いだったらと気を遣い、煙草はカバンに隠して様子を伺っていたらしい。
問題ないことを伝えると、さっそく煙草に火をつけ始めた。

タイの煙草は彼の口には合わないようだった。

彼は看護士をしていて、麻酔を専門的に扱う科に勤めているらしい。

「看護士は小さい頃からの夢だったの?」と訊くと、首を横に振った。
彼曰く、特にやりたいことはなかったけれど、資格が欲しく、安定した職である看護士になったとのこと。

やりたいことがない人、というのは私の仕事柄まわりにあまりいないが、
彼は雰囲気こそ若者っぽいノリだけど、しっかりした人なんだなと思った。

私が「仕事を辞めたから、これからどうしようかな」という話をすると、「看護士になれば?」と言ってきた。

「難しくないの?大変そうじゃない?」と訊くと、
「全然難しくないよ、今からでも全然なれるって!」と答えてくれた。

楽観的な返事だったけれど、
今から未経験のことを始めても大丈夫なのだと、彼の軽いノリに少し勇気づけられた。

趣味の話。
人から趣味を訊かれると、"食べ歩き"と答えるらしい。
そうすれば誰の趣味もバカにすることはないし、とても無難なうえ、決して嘘をついている訳でもない。だからベストな回答なのだと。

好きな映画を訊かれたら、とりあえず有名どころをひとつ答え、
そこから相手のオススメを聞いたり、そのあらすじを聞いたりして会話を広げると。
その会話術は、話題が漫画でも音楽でも応用できるとも言っていた。

煙草を吸う吸わないの話のときもそうだったけれど、彼はとても控えめだ。
決して大人しかったり、暗いわけではない。

相手の様子を伺い、当たり障りのない対応をする。
空気が読める優しい人だとも言えるけれど、芯がない八方美人とも言える。

少し、私に似てるなと気づいたとたん、なんだか自分を見ているようで複雑な気持ちになった。

「お手洗いに行ってくるね」と言って、私は席を外した。
そして戻ってくると、彼からこう言われた。

「さっき、"お手洗い"って言ったよね?素敵だね」

あまりに咄嗟のことで、言われたことがなにを意味しているのか分からなかった。
彼にとって、食事の場で"トイレ"でなく、"お手洗い"と表現したことが上品に聞こえたのだそうだ。

そんなこと、初めて言われた。

マナーを気にする人なのだと思った。
そういえば大きく笑うとき、彼は口元を手で隠していた。

次第に冗談を言い合うようになり、少しずつ、彼も打ち解けてくれているのが分かった。

もう一度私が"お手洗い"に行っているあいだに、彼はお会計を済ませていた。

「私も払うよ!」と大体のお金を渡したけど、
「本当にびっくりするぐらい安かったから大丈夫」と言って、受け取ってくれなかった。

お店を出て帰り道、信号待ちをしている間に「1枚写真を撮って!」と彼にカメラを渡した。

使い捨てカメラを手にした彼は「なんだか懐かしいなー」と言いながら撮ってくれた。

彼はもう、次に会う日程の話をし始めていて、
写真をお願いしたことについては特に不思議がる様子はなかった。

私が乗る電車の改札まで送ってくれて、「また来月に会おう」「予定がわかったら連絡するね」と別れた。

次の日、お礼のメールを送った。

けれど彼からの返信メールはまだ未開封のままだ。

企画協力:Tomo Kosuga

高木美佑/Miyu TAKAKI
写真家。1991年生まれ、東京都在住。
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インタビュー記事:若き写真家の肖像 -高木美佑-

きっと誰も好きじゃない。
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