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Fashion ポスト・コロナ

【コロナ後:ファッション流通編】コロナショックによる購買行動の変化に対応せよ

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 新型コロナウイルスの収束後、ファッション界はどう変わる――?未だ先が見えない状況だが、奥底にはパラダイムシフトの萌芽も見え始めている。かつてない困難からの気付きや価値観の変化に目を向け、これからのファッションを考える特別寄稿連載「コロナ後」

 3人目は、ファッション流通の専門家として広く活動し、著書「アパレル・サバイバル」などでも知られるディマンドワークス代表の齊藤孝浩氏。コロナショックによる顧客行動の変化を予測し、ファッション流通企業が取り組むべきことを提言する。

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過去ではなく、未来を考える時

 今回のコロナショックは、記憶の中で世界経済と私たちの生活にとって最悪の事態と言ってよいだろう。誰もが健康への不安を感じ、経済的な負担を受ける被害者であり、外出や人と会うことの自粛が求められているため、消費によって経済を回したくても、誰かを応援したくても、思うように動けないというストレスにも直面している、全く想定外の事態である。

 一方で、在宅時間が長くなることによって、この事態を辛抱して見守りながら、オンラインを介して、日頃できなかったスタッフ間の意見交換を行ったり、未来について考えたりする機会に恵まれた方もいるだろう。「明けない夜はない」という通り、人々が理解しあい、収束に向けての適切な社会的行動をとれば、正常に戻る、必ず時間が解決してくれるはずだ。ファッション流通ビジネスに携わるものとして、足下の課題に対応しながら、夜が明けた時にどうなるかを想像して、そのビジョンに向けて動き出すための議論を深める時だ。

 

顧客行動はどのように変わるのか

 まずは、顧客行動はどう変わるか?仮説を立てることを始めよう。

 多くの人が在宅になることによって、家にあるもので済ませられないかと、持ち物を見直したり、整理したりする機会があったことだろう。また、オンラインに時間を費やし、さまざまなサービスの使い勝手を体験した方も少なくないはずだ。

 買い物は今まで以上にオンラインで済ませるようになり、仕事ではオンラインミーティングシステムを使い始めたり、利用機会が増えたりした人が多いだろう。わざわざ外出しなくても済むことを知ったり、今までは対面で行っていたことをオンラインで済ませたり、という行動が増えたことは間違いない。

 オンラインが無駄足や面倒や時間の浪費を解決する、ここまで便利になったのだという事実を、ある意味、強制体験することになった。これらの体験によって、顧客心理の中では、まずはオンラインで済ませられないか?時間の節約ができないか?から考えるようになったはずだ。

 つまり、この事態が収束したとしても、決して、すべてがビフォア・コロナのままの状態に戻ることはなく、やってみたらストレスに感じなかった便利なことはオンラインで済ませようという、行動の選択肢の筆頭にオンライン活用が位置付けられことは間違いない。

 2010年代以降の流通革新は「デジタル」(=スピードと変化対応)抜きに考えられなかったが、2020年のコロナショックにおいても、またもや「デジタル」が顧客のお困りごとを解決した訳だ。収束後は、この間、使い勝手が悪くないと感じたデジタル活用が以前にも増して加速することになりそうだ。

 今回の試練は、過去の働き方、人との付き合い方、買い物の仕方、時間の使い方、健康の維持の仕方、などを問いただして、人々の行動、価値観に大きな影響を与えるに違いない。それは決して、後退ではなく、進化、最適化に向かうととらえるべきだろう。

 

購買行動の変化に対応しよう

 そんな体験をした顧客が変える購買行動の変化に、ファッション流通企業はどう対応するべきか?

 結論を先に言えば、ひとつは、ビフォア・コロナでもその推進が叫ばれていた、オンラインとリアル店舗の両方を活用して顧客のお買い物をお手伝いする=「オムニチャネル化」、あるいは「OMO(Online merges with Offline)化」への革新を全力を挙げて推進、加速することだ。もうひとつは、ただ新商品を提案し、売ることだけを考えるのではなく、顧客の既存のワードローブを思いやりながら、それらを活かすような賢い循環のお手伝いを、念頭におくことだ。

 まずは、オムニチャネル化から話を進めよう。一般的な顧客が望むカスタマージャーニーをあえて言語化すると、以下の通りだろう。

1. 今シーズン、ワードローブに買い足したい商品情報をオンラインで取得する。
2. 気に入れば、どこに行けばその在庫があり、それらを試したり、体験したりできるかがわかる。
3. 場合によっては試着予約や体験予約ができる
4. すぐに欲しいのであれば、そのままオンライン購入できる。
5. 商品を確かめてから購入したい場合は、在庫があることがわかっている、無駄足を踏まなくて済む店舗に安心して出向いて行く。
6. 店舗では探す手間が最小限で、むしろ、オンラインでは得られなかった追加情報を得ることができる。
7. 代替え商品のバリエーションを見ることができたり、併せて着用できるコーディネート商品を考えたりすることに時間を費やすことができる。
8. 購入を決めたら、会計がスムーズ。
9. 持って帰ることも、自宅に送ってもらうこともできる。
10. その場で決断ができなければ、後からオンラインで購入できる。

 これらをどこまで実現するか、どこを優先するかは企業によってそれぞれであってよい。それがブランディングそのものだと思う。

 これからはますます、便利なもの、ストレスの少ないもの、時間を節約してくれるものを優先するようになる。そして、顧客は無駄な時間を節約して創出された時間を、自分の好きなことに使う、健康のために使う、直接会って話したい人と過ごす時間に費やすのだ。それを理解し、手助けしようとする企業、ブランドなのかどうかが選ばれる条件となる時代だ。

 

買い物の手助けこそが在庫の有効活用に

 オンラインを活用して、顧客の需要や要望に対し、機会損失が少なく、顧客のストレスを最小限にする商品の提供に徹すること。その裏返しが、出来るだけ値下げをせずに無駄なく売り切ることにつながることは言うまでもない。

 しかしながら残念なことに、これまでは活用できる情報不足に加えて、それを実現する障害も多く、環境が整っていなかった。そのため、在庫が残ることを覚悟に大量に作り、拠点ごとに多めにばらまくことで、チャンスロスを防いでいた企業が大多数であった、というのが業界の現実だ。

 これからは、店舗、倉庫、ECサイト・・・社内ネットワーク内に存在する在庫をいかに活かすかを考える。まずは、社内で情報を共有することによって、各部署が協力をし合ってお客様の手に届ける、そして売り切るという、まさしくone teamの姿勢が欠かせない。そんな顧客を中心に置いた取り組みこそが、昨今の過剰在庫問題解決の早道だ。

原宿 キャットストリート image by FASHIONSNAP.COM

 

顧客とのコラボレーションを段階的に推進しよう

 オムニチャネル化あるいはOMO化には、多大なシステム投資が必要といった議論がある。

 デジタル投資ファーストで複雑に考えすぎることが、日本のファッション流通のオムニチャネル化の壁になっているような気がしてならない。難しく考えず、まずは顧客のために「客注」(顧客が望む商品を在庫がある場所からお取り寄せを行うこと)が店舗やECの販売スタッフにとっても、顧客にもストレスなく行える環境整備から始めることから推奨したい。

 筆者はオムニチャネル化の本質は、オンラインを活用した「客注」であり、そこに顧客を巻き込むコラボレーションだと思っている。

 ところが、スムーズな「客注」の実現には、様々なハードルがある。商品管理が徹底されているか?在庫データは確かで、わかりやすいか?ほぼリアルタイムに在庫把握ができるか?商品確保のルールがフェアでスムーズか?店舗作業を軽減することが配慮されているか?評価制度でもめ事は起こらないか?商業施設からの出庫はスムーズか?商品を届けるために協力し合う社内の人間関係になっているか?などである。

 これらが整っていなければ、正直言って、膨大なシステム投資をしても無駄に終わる可能性が高いし、在庫のスムーズな移動を妨げる"ブラックボックス"が残ると、無駄な在庫を抱えざるを得ない温床にもつながるものだ。

 まずは焦らず、社内における正しい在庫情報の開示と顧客ファーストの「客注」業務がスムーズに行えるようにする。その後、自信をもってオンライン上で顧客に在庫情報開示をすればよいのではないか。そうすれば、顧客も自ら、オンラインで自分の都合に合わせて在庫の在処(ありか)を探し始め、受け取り場所を考えるだろう。

 これが、顧客のためのデジタルシフト、オムニチャネル時代の在庫運用、顧客とのコラボレーションの意味するところである。

 ふたつ目は、今こそ、顧客の持続可能なクローゼットのワードローブの循環のお手伝いにかかわる時だ。ファストファッションの功罪もあり、顧客のクローゼットはすでに服であふれている。

 外出自粛、長い在宅時間、手持ち服で過ごす毎日の中で、そんな現実にあらためて気づいた顧客も少なくないだろう。 企業側としては、外出自粛で買い物が出来なかったストレスの反動によって、収束後の爆買いを期待したい気持ちはわかるが、実際にそれは限定的だろう。むしろ、先行きの不安とともに、消費はシビアになると考えるべきだ。

 これからは、業界の新しいトレンドアイテムを次々に店頭に並べることを競うのは時代遅れになるだろう。むしろ、顧客があらためて気づいた、今後も大切に着回したいと思うクローゼットの中の手持ち服を活かしながら、そこにどんなトレンドアイテムを買い足すべきかの提案をする、という顧客起点の発想に転嫁すべきではないか?そんな顧客のクローゼットに優しい提案をする姿勢でいれば、着回し服の買い替えのチャンスにもご指名を受けるだろう。

 更に、自社で販売した商品を中心に、着なくなった服を手放すこともお手伝いしたいところだ。引き取った服は可能であれば、ブランドならではの補修や後加工やリメイクを施して、新しい価値を吹き込んで再販することもよいだろう。

 サステナブルがキーワードになっている昨今、環境に優しい素材を使った新商品の提案もよいかも知れない。しかし、新商品をクローゼットに押し込む前に、まずは、顧客のワードローブの持続可能(=サステナブル)な循環や出口対策に関与するのも、顧客と長いお付き合いをする覚悟があるのであれば、必要ではなかろうか。

 これは企業規模にかかわらず、どんなブランドでも始められるサステナブルな取り組みのひとつだと思う。

 

改革の手を止めてはいけない

 繰り返すが、今の事態が収束しても、決して元通りに戻ることはない。むしろ、顧客の期待はますます先に行き、価値観も変わる。そして、それにいち早く気づき、実現する先行企業の登場によって、その期待は今後もアップデートされ続けるに違いない。

 言うまでもなく、選ぶのは顧客側、企業やブランドは選別される側。したがって、この事態の間も、提供する側の企業は改革の手を止めてはいけない。今こそ、いつかやろうと先送りしていたことを、顧客目線で整理、議論し、優先順位を決めて、いち早く前へ進めるための準備をする時だ。

齊藤孝浩
ファッション専門店の在庫最適化コンサルタント。ディマンドワークス代表。http://dwks.jp/
総合商社でアパレル生産、欧州ブランド日本法人で輸入卸、アパレル専門店で小売販売、商品管理からチェーンストア経営を経験。各社在職中に在庫過多に苦労した実体験をもとにアパレル・靴・服飾雑貨を販売するファッション専門店の在庫最適化のノウハウを体系化して2004年に独立。
多くの新興・成長中ファッションチェーンの在庫最適化と人財育成を支援する傍ら、国内外のファッション流通を取り巻く環境をわかりやすく解説する専門家としても活動中。
IFIビジネススクール講師として大学講座のファッションビジネス論にも登壇する。著書に「ユニクロ対ZARA」、「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)がある。1965年東京生まれ。

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