新型コロナウイルスの収束後、ファッション界はどう変わる――?未だ先が見えない状況だが、奥底にはパラダイムシフトの萌芽も見え始めている。かつてない困難からの気付きや価値観の変化に目を向け、これからのファッションを考える特別寄稿連載「コロナ後」。
9人目は、ファッションに関する書籍や連載、BS番組のレギュラー出演、商品プロデュースなど幅広く活躍するMB氏。アパレル業界に潜む問題点に着目する。
・ブランド編:大転換の時期 先代のビジネスモデルを引き継がない - 太田伸之
・トレードショー編:合同展が軒並み中止...今こそ正すべきファッションサイクル - 久保雅裕
・ファッション流通編:コロナショックによる購買行動の変化に対応せよ - 齊藤孝浩
・ファッションとパンデミック - 終わらない世界を生きるために - 小石祐介
・ファッションテック編:デジタル転換のすすめ - 注目したい3つのテクノロジー - 林信行
・アパレル小売編:「ソーシャルグッド」を新しい指針に - 7つのキーワード - 松下久美
・デザイナー編:変容する社会と価値観 ファッションデザイナーの在り方 - Akira Naka
・システムと消費編:ファッション消費のキボウはどこに? - 川島蓉子
・アパレル業界編:炙り出された問題点「現在のシステムが正しいなんて到底思えない」 - MB
・中国編:急速に回復する中国マーケット「追い風を利用しない手はない」- 幸田康利

ファッションブロガー・プロデューサー・YouTuberのMBです。コロナショックで大変な最中、外出自粛によりアパレルは多大なる影響を受けています。今回はコロナショックにより表出したアパレル業界の問題と影響、そしてコロナ後のファッション市場について語ります。
過剰供給問題
「今回の危機は、業界の現状をリセットしてスローダウンする貴重な機会」(ジョルジオ・アルマーニ)。
卓越したクリエイターでもあり優れたビジネスマンでもあるジョルジオ・アルマーニは、我々が思っているよりもはるかに冷静にこの情勢を観察していました。兼ねてからファッション業界には「供給過剰問題」がありましたが、それが今回の危機によってさらに表出した形に。
統計データでは日本国内で販売されている衣料品の実に半分ほどが売れ残り、何らかの形で処分されていることが分かっています。街を歩けば同じような服が同じような陳列で並び同じように販売され、そしてセール時期になれば没個性の服は見事に売れ残りどこも叩き売りをし出す始末。POSシステムをはじめとした生産体制の最適化により個性を失った服たちはモールにあふれんばかり。それらを販売するスタッフでさえ「供給過剰である」ことに気がついています。
人々も今回の一件で気付いているはず、「服なんてそんなに必要ない」と。外出自粛が言い渡され家で過ごす時間が増え、流されるままに買っていた商習慣を再考する機会ができました。
コロナ後の世界では流されるまま消費を繰り返すのではなく、「本当に必要なものを考える」習慣が生まれるでしょう。
何しろこの1ヶ月ほど1枚も服を買わなくても不便がなかったのだから。消費者は今後、購入に対して「本当に必要なのか?」と、より慎重な態度を取るようになるはずです。すると価値のあるものだけが生き残り、今までの没個性で粗製濫造の勢いは衰えていくはず。
下請けいじめ問題
大手セレクトショップが取引先に対して商品仕入れのキャンセルを要求するという一件が問題になりました。セレクトショップのオリジナル品は、主に下請けであるOEM業者に製造委託されます。コロナの影響で需要が落ちて在庫を積んでいるショップ側は、発注したものを一方的に「やっぱりいらない」とキャンセルしたわけ。じゃあ作った商品はどうなるの?廃棄される?製造原価は誰が被ることになるの?追求と監視が活発になる中、キャンセル問題を起こしたショップらは説明責任もしくは信用失墜を負うことにもなるでしょう。
実はこれ今回だけの話じゃない。数の大小こそあれど日常的に起こっていたこと。というのも私のオリジナルアイテムなどでは「大手セレクトショップがキャンセルした生地在庫」を格安で仕入れて作ったこともあるから。何度かOEM業者から「ショップ側からキャンセルされたものを引き取ってくれないか?」と相談を受けたこともあります。
下請法という法律もありますし、取引先が「契約違反だ」と突っぱねれば良いものの、次回からの発注がなくなることを恐れて強く言い出せない所も多いのです。これは今回の件だけではなく、業界に深い根を張った問題のように感じています。
しかし、コロナ禍の情勢によってこうした業界の悪しき習慣が炙り出されました。SNSという、ある意味「監視ツール」の役目を果たすシステムが浸透しているからこそ、今後はいわゆる「下請けいじめ」が減るかもしれません。
※MB氏は発注キャンセル問題に関して、OEM業者から一部在庫を引き取り、特別セールなどを準備中。(5月14日現在)
ファッションの本質的価値
コロナ問題により多くの人が「一旦立ち止まる」ことをしたのは大きいと思います。私自身も「対面打ち合わせよりZOOM会議の方が楽じゃん」としみじみ感じましたし、旧態依然としたアパレル業界でもほとんどの会社が「ZOOM会議」を導入しています。コロナが明けた後もこの流れは消えないでしょう。リモートワークが多くなり、人と会う機会が減り、仕事着の必要が少なくなり・・・アパレルやファッションに対する認識も以前とは違うものとなるはずです。
供給過剰・キャンセル問題など各種問題が炙り出されていますが、ファッションの本質的価値について多くの人が冷静に見るようになることは、業界にとってもメリットとなるはず。本当に必要なもの、価値のあるものだけが残るわけですから。
長らく業界にいる私としては、コロナ問題が現在の問題から脱する機会となり「本当に必要なものを必要な分だけ作る」アパレルに生まれ変わればと思っています。作ったものが半分も売れ残り廃棄するような現在のシステムが、正しいなんて到底思えませんから・・・。

ファッションバイヤー/ファッションアドバイザー/ファッションブロガー/作家
アパレル店舗のスタッフから、店長、マネージメント、バイヤー、コンサルティング、EC運営など多岐にわたる経験を持つ。現在は自身の運営する会社の代表としてプロバイヤーや企業コンサルタントなどの傍ら、ブログ「最も早くオシャレになる方法KnowerMag」を運営。発行する有料メルマガは個人配信者としては日本一の規模を誇る堀江貴文(ホリエモン)氏を超えて1位をマーク(配信メディアまぐまぐにて)。関連書籍含む累計刷数は100万部を突破。「最速でおしゃれに見せる方法」(扶桑社)はamazon最高3位をマーク、過去10年最も売れたメンズファッション書籍として認知されている。監修するファッションHOWTO漫画「服を着るならこんなふうに」(KADOKAWA)は2018年現在累計70万部突破。連載は週刊誌「週刊SPA!」を始め多数。KnowerMag:http://www.neqwsnet-japan.info/
・ブランド編:大転換の時期 先代のビジネスモデルを引き継がない - 太田伸之
・トレードショー編:合同展が軒並み中止...今こそ正すべきファッションサイクル - 久保雅裕
・ファッション流通編:コロナショックによる購買行動の変化に対応せよ - 齊藤孝浩
・ファッションとパンデミック - 終わらない世界を生きるために - 小石祐介
・ファッションテック編:デジタル転換のすすめ - 注目したい3つのテクノロジー - 林信行
・アパレル小売編:「ソーシャルグッド」を新しい指針に - 7つのキーワード - 松下久美
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・システムと消費編:ファッション消費のキボウはどこに? - 川島蓉子
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