Fashion ポスト・コロナ

【コロナ後:中国編】急速に回復する中国マーケット「追い風を利用しない手はない」

 新型コロナウイルスの収束後、ファッション界はどう変わる――?未だ先が見えない状況だが、奥底にはパラダイムシフトの萌芽も見え始めている。かつてない困難からの気付きや価値観の変化に目を向け、これからのファッションを考える特別寄稿連載「コロナ後」

 10人目は、日本ブランドを扱う上海のショールーム「シントーキョー(Xin Tokyo)」を運営するなど現地事情に詳しいオープンクローズ代表の幸田康利氏。これからの中国におけるファッションマーケットを見通す。

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急速に復活する中国

 日本で緊急事態宣言が発令された4月上旬、日常が一足先に戻りつつある上海でショールーム「Xin Tokyo(シントーキョー)」を開催した。中国のセレクトショップのバイヤーに対して、日本のデザイナーズ 15ブランドの秋冬商品の先行受注を行った。

 当時の上海は、感染拡大中の日本からの渡航を厳しく制限しており、日本からはデザイナーも運営スタッフも上海には行くことは叶わなかった。特別便で送りこまれた商品とデジタルの営業資料をもとに、現地スタッフが中国人バイヤーの対応にあたった。これまでの6年間で計11回の開催を通して、まったく初めての事態であった。

Xin Tokyoの商談の様子。バイヤーもスタッフもマスクを着用して対話するので表情が伝わりづらい。

 結果としては、常連バイヤー全員が中国全土から来訪し、受注額は前年同期比の8割ほど。正直ここまで復調しているとは予測していなかった。中国では地域ごとに温度差が残るものの、商業の中心地の上海を起点に、新型コロナは過去のものになりつつあるようだ。

 中国では、春物商品の販売期間がまるまる潰れたため、在庫をそのまま秋商線に投入する予定の店が多い。ショールームでは冬物を中心とした商いになったため、さすがに去年と比べると取引額は減ってしまった。しかし、納品済みの春夏商品の追加注文も続いており、リバウンド・リベンジ買いの勢いを感じた。

 

中国マーケットのこれから

 私の経験は小さな事例に過ぎないかもしれない。しかし、中国で営業再開したエルメスやルイ・ヴィトンも非常に好調に推移している。このようなグローバル企業は、米中貿易戦争を経てもなお強い消費力を持つ中国でのリバウンドを捉えるだけではなく、このリバウンドの経験を手本として各国に活かすつもりのようだ。

 日系企業の例では、バロックジャパンリミテッドが4月13日時点でほぼ全ての店舗が再開し、急速な勢いで売上が回復しているという。また、上海の日系セレクトショップ STUDIOUS では下記の通り売上が回復中で、今年度は6店舗を中国に新規出店予定とのことだ。

 

株式会社TOKYO BASEの決算説明資料(4月30日発表)より

 中国では、すでに観光地に人が戻り、ディズニーランドも5月11日に再開した。リバウンドとは、元に戻ろうとする勢いであり追い風である。追い風に乗れば、最小の努力で最大の効果が得やすい。トレンドに乗ることが得意なファッションの人たちは、この大きな追い風を利用しない手はないだろう。

 生き残るのが最優先であるのは確かだが、半年後なのか 1年後なのか、チャンスにいつでも飛び乗れる心の準備をしておきたい。もちろん「アパレル・雑貨」「顧客セグメント」「卸・小売」「オンライン・オフライン」「インバウンド・アウトバウンド」それぞれの領域でこの追い風の様子は異なるはずだ。それは乱気流かもしれない。よく目を開けておこう。

 

景色はどこまで変わったのか?

 この4月の上海ショールームでは、動画も含めた「デジタル営業」をできる限り試した。しかし、新しい手法が効果的だったのかどうかはわからない。苦労も多く費用対効果は悪かったとさえ思える。今まで通りのリアルな展示会ですべて済ませられれば、出展側の準備作業が少なく、バイヤーにとっても短時間で多くの商品を見ることができる。人や物が集まり交錯することが可能なら、展示会とは一番楽で効率が良い仕組みであったと再認識した。多くの人にとって、今まで通りの方法は変えずにリバウンドを期待したいと考えるのが本音だ。

 しかし、もう情勢は変わってしまった。いち早く中止が決まった上海ファッション・ウィークでは、多くの新しい「デジタルファッション表現」が生まれている。

※参考:ZOZO FASHION TECH NEWS【特集・コラム】ファッションウィークとオンラインの付き合い方(倉田 佳子)

 他の有力なショールームも、ライブ中継やオンラインオーダーを始めている。自分たちだけは変わらず今まで通り...そんな考えではバイヤーや消費者の認知から外れ、忘れ去られてしまう。

各トレードショーも、オンラインオーダープラットフォームを構築している。

 外部の変化や不確実性が高まった今、自分の中の不安定で変動しやすい要因を減らし、よりコントロールしやすいビジネスに調整する必要がありそうだ。私は海外(中国)でのビジネスに特化し、関連しそうな見直し例を挙げてみる。

  • 渡航制限については予測不可能。インバウンド重視であれば「手法」を見直す。これは、海外客を切り捨てるということではない。
  • 在庫リスクが比較的少ない、卸型やD2C型に業態を寄せる。国内においてはダイレクトな販売へ移行しつつも、卸先との役割分担を見直す。また、上海展は、パリ展よりも取引量が見込めるようになってきており、日本国内のビジネスも阻害しないため、一考に値する。
  • デジタルへの移行。オンラインでの存在感を高めることは上記 2点の解決策でもある。ECで売上を伸ばすというよりは、記憶に残るための方策を重視するところから始めよう。

これからの中国進出

 海外進出とは、現地に店舗やショールームを開くこと。長らくそのように考えていた。しかし、現地に場所を持つ意味は一気に小さくなってしまった。オンラインの時間が増え、人々のリテラシーも高まってきている。情報は簡単に国を超え、人がつながる。ソーシャルメディアでは、すでに国内・海外という垣根も溶けている。海外通販がスムーズになり、商品だって簡単に海外発送できる。デジタル化が海外進出のカギになるのは明らかだ。

 しかし、ファッション表現にとって、デジタルはとても不利な領域だ。デジタル化した瞬間からファッションの魂が抜け落ちていくことも。。。たとえば、ファッションショーの熱量をデジタル配信でどれだけ伝えることができるだろうか。

 私はファッションが好きだ。1997年のネット黎明期に上場アパレル企業の「ホームページ」制作を始めて以来 20年、ファッションをデジタル化することを生業にしてきた。知識や経験について自負があるからこそ、なおさらデジタルでのファッション表現には絶望に近い限界を感じざるを得ない。

 それでも、忘れられないためにはやらなければならない。ファッションショー同様、デジタル施策の費用対効果については誰も明確な答え出せないだろう。それでもデザイナーは取り組む必要がある。物理的に難易度が増す商品生産に加え、仕事の領域が広がる。とても大変な時代だ。

Xin Tokyo ショールームのオンラインセミナーでは、5000人以上の視聴者を集めた。

 もしも、あなたがすでにインバウンドおよびアウトバウンドで海外のお客様に一定の売上を上げている場合。最低限の情報整備で、顧客と関係をキープすることはできるだろう。しかし、これから国を超えて新しいお客様をつかもうとする場合は非常に困難だ。ソーシャルメディアはあなたに興味を持ってもらうキッカケにはなる。問題は遠く離れた人に、どのように商品の魅力を体感してもらうか。

 「誰に、何を、どのように伝えるか?」国内・海外ともにもう一度デザインし直す必要がある。特に中国市場に対しては下記の点に注意が必要だ。

  • 高度に成熟しはじめている中国のブランドがライバルになる。言語・商習慣といったビハインドをどのように埋めるのか?
  • グレート・ファイアウォールをどのように越えるのか?インスタグラムなどは、中国の規制で閲覧しづらい状況は続く。自社の発信チャネルも対応すべき言語やマナーも格段に増える。
  • 代金回収や物流。社内の運用体制や、その時々の国際状況にあわせた仕組みのアップデートが必要だ。

 

出会いが人生をつくる

 上海ショールームに来た中国人バイヤーが言ったそうだ。

「デザイナーにまた会いたいわ。言葉は通じないかもしれないけれど、デザイナーのスタイルや考え方を、もっと理解したい。」

 すでに世界は多様な時代に突入している。「パラダイムシフト」や「新しい生活様式」は、誰かに一様に押し付けられるものではない。一人ひとりの心の中にさざ波のように必然として起こるはずだ。自分とまわりの大切な人たちにとって何が心地よいのか、静かに耳を澄ましてみよう。不安に囲まれても、あなたの中からファッションの存在が消えないのであれば、その光を信じていいと思う。

 たしかに課題は多い。とはいえ、自動翻訳やライブチャットといったツールが充実しているし、アイデア次第で国境を超えられる。億劫に感じる心のバリアを取り去れば、今日からデジタルネイティブだ。境界の先には、あなたのクリエイションに共感する人が必ずいる。

幸田康利
2012年クールジャパン事業(香港・ファッション)の企画制作を皮切りに、中国市場に注力。2015年から上海ファッションウィークにショールームとして参加。中国100社に向けて、日本の30ブランドの営業代行を行う。

JETROや香港貿易発展局などのプロジェクトで、インディペンデントなファッションデザイナーの海外支援を数多く行う。 慶應義塾大学卒、NTTデータでのシステムエンジニアを経て、2001年に友人たちと有限会社オープンクローズを創業し、現在同社の代表。日本生まれ・日本育ちだが、台湾の血が八分の七で残りが日本人。
有限会社オープンクローズ:https://open-clothes.org/

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