2019年に東京都現代美術館で開催された「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 展
2019年に東京都現代美術館で開催された「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 展
Image by: Kumi Matsushita

Fashion ポスト・コロナ

【コロナ後:アパレル小売編】「ソーシャルグッド」を新しい指針に - 7つのキーワード

2019年に東京都現代美術館で開催された「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 展
2019年に東京都現代美術館で開催された「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 展
Image by: Kumi Matsushita

 新型コロナウイルスの収束後、ファッション界はどう変わる――?未だ先が見えない状況だが、奥底にはパラダイムシフトの萌芽も見え始めている。かつてない困難からの気付きや価値観の変化に目を向け、これからのファッションを考える特別寄稿連載「コロナ後」

 6人目は、ファッションビジネスジャーナリストの松下久美氏。国内外のアパレル小売の現状と共に、アフターコロナの消費者ニーズと商売のヒントになるキーワードについて、「ソーシャルグッド」を筆頭に7つの項目で提示する。

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 ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。

 「枕草子」「徒然草」と並ぶ三大随筆、「方丈記」(鴨長明)の冒頭の一節だ。「川の流れは絶えることなく続いているが、流れている水はもとの同じ水ではない」という意味で、時は流れ去り、同じ日は二度と戻ってこないという無常観を表している。

 新型コロナウイルスの世界的なパンデミック(大流行)により、人々の生活や価値観は一変した。アフターコロナになっても、私たちはもう二度とビフォーコロナの世界には戻れないのだ。まずは、厳しい現実を見ておきたい。

人気(ひとけ)のない銀座の交差点が活気にあふれる日が待ち遠しい。

 アパレル・小売りの多くは中小企業だ。中小企業向け事業保険のエヌエヌ生命保険が3月末に行った経営者向けのアンケートでは、「コロナがいつまでに収束すれば経営的に乗り切れるか」との質問に対して、7.1%が3月末、20.3%が4月末、16.6%が5月末、そして、15.5%が6月末と回答。つまり、中小企業の44%が5月末まで、6割が6月末までしか持たないと判断しているというわけだ。大倒産・大再編時代の到来と言えるだろう。

 しかも、経営戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーが4月に発表した「新型コロナウイルス アパレル・化粧品市場に与える影響と採るべきアクション」では、6月に終息し、夏は一時的に消費が活性化する「シナリオA」、8月に終息し、秋は一時的に消費が活発となる「シナリオB」、10月に一旦終息するも、消費は年末まで冷え込みそのまま不況となる「シナリオC」の3つを想定している。5月末で終息するというシナリオすらない。

 そして、2020年の日本のアパレル市場規模予測については、2018年の9兆2240億円の実績に対して、6月終息のシナリオAの予想で7兆8000億円~8兆3000億円。落ち込み額は9240億円減~1兆4240億円減(対前年比で10~15%減)。8月終息のシナリオBでは6兆1000億円~6兆5000億円を予想。落ち込み額は2兆7240億円減~3兆1240億円減(同19~24%減)。最悪のシナリオCの場合には、4兆8000億円~5兆1000億円となり、4兆1240億円減~4兆4240億円減と45%前後落ち込むと試算する(同29~34%減)。記録的な暖冬で不振だった2019年に比べて、さらに最小で10%減、最大で34%ほど低下すると見込んでいるのだ。

※ローランド・ベルガー - 4月22日「新型コロナウイルス アパレル・化粧品市場に与える影響と採るべきアクション」 https://rolandberger.tokyo/news/1924/

 世界に目を移しても、事態は深刻だ。国際繊維製造者連盟(ITMF)が会員企業向けに3月28日~4月6日に行った「繊維産業へのコロナ・パンデミック影響」調査(回答700社)では、生産・納品を延期・キャンセルされた契約が31%に上るといい、2020年の売上高は前年比28%減と試算する。

 アメリカでは2016年以降、小売業の衰退を"小売りの黙示録(Retail Apocalypse)"と表現してきたが、まだまだページは続きそうだ。調査会社の「Coresight Research」によると、2017~2019年の3年間で2万1700店舗が閉店。廃墟のような商業施設「デスモール」(死のモール、の意味)なども登場し、五番街からもブランドストアが消えていった。そこにコロナが輪をかけた。傘下に「バーグドルフ・グッドマン」を持つニーマンマーカスも経営破綻寸前の状態で、「百貨店業態は終わった」とささやかれる。スイス最大銀行のUBSは、25年度までにアメリカで10万店以上が閉店すると予想。うち、アパレルとアクセサリーの閉店数は2万4000店舗に上ると試算する。

 

「その服を作ること、売ること、買うことで、社会が良い方向に向かいますか?」

 消費が回復し、経済が本当の意味で浮揚するには、少なくとも3~5年かかるといわれている。アフターコロナに向けて、「回復力、復元力、弾力性、再起性、しなやかな強さ」などの意味を有する「レジリエンス」を発揮することが重要だ。そして、水がよどまずに絶えず流れることで新鮮さを保っているように、ビフォーコロナの時代に戻るのではなく、理想の姿、ありたい姿にシフトチェンジするきっかけとして、アフターコロナに向けた戦略を練ることが重要だ。

 オムニチャネル化やその先のOMO(オンラインとオフラインの統合)、リアル店舗での顧客体験の向上やオペレーションの効率化、つながりを深めるためのマーケティング&コミュニケーションなども非常に重要だ。だが、それは他の筆者に譲り、ここではアフターコロナの消費者ニーズや商売のキーワードについて、大きく7つの項目で考えてみたい。

 

 その筆頭が「ソーシャルグッド」だ。ここ数年、気候変動や海洋汚染、ダイバーシティ&インクルージョンなどの課題を解決するために、サステナビリティに取り組む重要性が叫ばれてきた。

 そんな中で発生した新型コロナは、地球による警告、あるいは、浄化作用ではないかとさえ感じられる。そして、人からうつらない、人にうつさないための外出自粛や自己隔離策、ソーシャルディスタンスなど含めて、地球人としての連帯責任や、世界とのつながりを強く感じた出来事でもあった。

 世界的コンサルティングファームのカーニーは、パンデミックにより環境への関心が高まっていると指摘。「購入時に環境(への影響)を考慮に入れる」という消費者は、2019年に71%だったものが、今年3月6日の調査では78%、4月10日には83%へと、12ポイントも向上しているとレポートしている。

 サステナビリティは、ともすれば環境対応だけが喧伝されがちだが、つまりは、社会が良い方向に向かうためのものであり、「ソーシャルグッド」、イコール、サステナビリティといえる。ウィズコロナ時代の「ソーシャルディスタンス」の次、アフターコロナでは、「ソーシャルグッド」を行動規範や購買指針に掲げるのが理にかなっている気がする。

2019年11月~今年2月に東京都現代美術館で開催された「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 展。モノ作りやお客さまへの想いが未来に続き、未来を創ることにつながると感じさせられた。

 2つ目が、「エモーショナル」であることだ。成熟化社会において、「服は不要不急の商材だ」。けれども、ファッションは人々の生活を彩り、気持ちを豊かにする重要な役割を担っている。とくに、ウィズコロナからアフターコロナへの移行期である「コロナ開け」期には、これまでの不安や抑圧が一気に解放され、プチフィーバー、プチバブルが起こる。そのときに、どんな服を提供するのか。買い物ができる幸せをどう享受してもらうのか。それを買うべき理由をどう伝えるのか。ここは感情に訴えかけることが賢明で、後のファッション業界を盛り上げるためにも重要な役割を果たすことになる。

 3つ目が「エフォートレス」と「シーンレス」だ。ウィズコロナ時代の自粛生活で、人々はラクチンな服でいることの快適さを体で覚えてしまった。もう窮屈な重い服は着たくない。リモートワークも定着しそうだ。すると、肌触りがよくてストレッチ性のある服のニーズがぐっと高まる。オンでもオフでも着られるような、エフォートレスでシーンレスな服のニーズがさらに高まるだろう。抗菌や消臭などの機能性も大きな要素になりそうだ。サイズ展開も、これまでよりもワンサイズ上げる、あるいは、ゴムをうまく使ったり、肩や腕周りへのテンションのかかり方をゆったりさせたり、より立体的にさせる必要もありそうだ。

 4つ目が、「シーズンレス」だ。気候変動による温暖化傾向の中で、「気候や気温にされない商品構成や販売計画」は、近年のアパレル・小売りの重要課題になっている。年中着られるような羽織りものやスウェットなどの中軽衣料を強化するブランドも増えている。とくにウィズコロナで販売機会を逸した今春物の処分は越えなければならない大きなハードルだ。ECやアウトレットでの消化に加え、オフプライスストアへの販売による早期換金も一つの手だ。一方、秋に春物を販売するためには、つなぎとなる色目やスタイリング商材などをうまく投入する技も求められる。

 5つ目が「タイムレス」だ。サステナビリティの意識の高まりや、ミニマリストの影響などからも、レス・イズ・モア(Less is More)の考え方はますます浸透するだろう。ゴミになる短命な服はもういらない。過剰生産・過剰消費をやめ、長く着られる服が求められる中で、時代を超えた普遍性やほどよい時代性を兼ね備えた服のニーズが高まりそうだ。

 6つ目が「ローカライズ」「個店経営」だ。日本発のグローバルチェーンとして知られる「ユニクロ」や「無印良品」も、チェーンストアのスケールメリットや効率などの恩恵は受けつつも、立地やニーズなどによって地域密着型の個店経営を行うことを大方針として打ち出している。「ユニクロ」ではローカライズ、「無印良品」では土着化と呼んでいる。現場の裁量を最大化し、スタッフのアイデアやのロイヤリティ、人的魅力で店をより輝かせていく手法だ。ウィズコロナで外出自粛が続いたり、サステナビリティを進めると、必然的に地元での買い物やつながりが深まってくる。リモートワークの広がりで、郊外や地方に移住する人の増加も見込まれている。食品でいうところの地産地消にも近いが、ファッションについても、ローカル消費が進みそうだ。

地域密着型の公園という提案で4月13日にオープンした「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」。屋外に遊具や休憩スペースなどを設け、館内にも地産地消・サステナビリティを取り入れている。

 7つ目が、「セルフケア」「セルフヒーリング」「ウエルネス」だ。長い自粛期間やアイソレーション、先行き不安なウィズコロナ、さらには、景気が低迷して所得も減少しそうなアフターコロナにおいて、人が自らを癒やすのを助けるものだ。お守り的な服やグッズ、メディテーションをする際の香り、ストレッチやジムで着用するアスレジャー的なウエアなど、心身ともに健やかになるためのサポートグッズや、心理的・精神的なつながりを持ったブランドや店になることが今まで以上に求められることになる。

 

 驚くような感染力や恐怖心、心細さ、人の命の儚さなどを痛感することになったコロナだが、一方で、自らのありたい姿、あるべき姿を顕在化する好機を与えてくれたともいえる(その代償は大きすぎるが)。徹底的に顧客や生活者の生活に寄り添う商材やサービスを提供するのか。あるいは、自らのクリエイションを最大限に発揮したエゴイスティックな服で魅了するのか。とことん美しさを追求するのか。とことん最先端を目指すのか。いずれにしろ、自社・自ブランドがサステナブル(持続可能)に、選ばれるブランド・応援される企業になるために、「覚悟」と「志」と「行動力」と「スピード力」を持つことがより重要な時代になることは間違いない。

松下久美
ファッションビジネスジャーナリスト。kumicom代表。
「日本繊維新聞」の流通記者を経て、ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディターを歴任。日本未上陸を含めたファストファッションからラグジュアリーブランド、独自の進化を遂げるセレクトショップ、ガールズ系ブランド、大手百貨店や商業施設など、フラットな目線で経営やビジネスモデル、マーケティング、人材活用術などを取材し、ニュースや特集などを通じて時代の潮流を切り取ってきた。過去にはTGC(東京ガールズコレクション)のテレビ番組で解説を担当したことも。2017年に独立。執筆活動に加えてセミナーのモデレーターなども務める。サステナビリティの情報発信はライフワークに。著書に『ユニクロ進化論』(ビジネス社)。

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