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Fashion ポスト・コロナ

【コロナ後:システムと消費編】ファッション消費のキボウはどこに?

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 新型コロナウイルスの収束後、ファッション界はどう変わる――?未だ先が見えない状況だが、奥底にはパラダイムシフトの萌芽も見え始めている。かつてない困難からの気付きや価値観の変化に目を向け、これからのファッションを考える特別寄稿連載「コロナ後」。

 8人目は、ifs未来研究所所長の川島蓉子氏。ファッション消費の未来を考え、希望の光を探す。

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 ここ数年の社会を取り巻く状況を振り返ってみると、地球環境との共生や企業の透明性、働き方改革など、さまざまな変化を求めてきたのだとわかります。ファッション業界も例外ではありません。既存のシステムに対する疑問が突きつけられていたのです。そこに新型コロナ問題が起きて現象化した――そんな風に感じています。

 本稿では、過去のネガティブ要素を拾うのではなく、これからに向かう視点について考えてみました。"自分事"としての私の意見ですから、はっきりした裏づけはありません。が、ささやかでも個の思いが大事と考えてのこと。読んでくださった方にとって、何らかのヒントになれば幸いです。

 

システムそのものが転換する

 これからは、既存のシステムを根底から覆す、まさに「ファッションシステムの大転換」が進むのだと思います。

 まずはデジタル化へのシフト。大手アパレルが百貨店の売り場を半減してECに舵を切る、百貨店やファッションビル、モールがECを強化するといったニュースが続いていますが、いずれも兆しはあったことばかり。それを半強制的に実行せざるを得なくなったのが実体ではないでしょうか。

 「アパレルは着てみないと」「接客はやはり大切」といったリアルありきの見方もあるようですが、「なぜそのリアルが必要なのか」「リアルにどれだけの価値があるのか」を受け手である消費者は見極めています。欲しい人が、欲しい時に、欲しいものを手に入れる。"リアル"ありきの"デジタル"ではなく、"デジタル"ありきの"リアル"になっていく――ファッション業界のさまざまな分野において、高スキルで独自性のある"リアル"は求められるけれど、中から低スキルで均質な領域は"デジタルとオートメーション"が担っていくのではないでしょうか。"リアル"における本質的な価値は何なのか、"リアル"だからできること、自社だけができることを洗い出し、明快に伝えることが求められていくのです。

 

半年ごとのファッションサイクルへの疑問

 ファッション業界ではトレンド情報の発信から店頭に商品が並ぶまでを、半年1サイクルで回していくシステムが根づいています。これは第二次世界大戦後に生まれたもので、市場が成熟する途上において、とても有効に働いてきました。

 ただ、セールが早まる、週単位で店頭が変わる、廃棄率が増えるなど、規模とスピードの追究が過剰だったのも事実。デザイナーの中には、真に価値あるクリエイションを生み出すには、半年という枠組みが息苦しいという人もいますし、使い手である消費者は、半年限りで着倒すという考えで服を購入しているわけではありません。誰のため、何のための半年サイクルかが問われているのです。

 このサイクルでの最大利益を得るために、生産拠点を海外へ広げ、大量消費を促し続けるモデルには無理があるのです。ただこれ、大量生産をすべて否定するわけでもありません。たとえば「日常使いに役立つ機能ある服をリーズナブルに提供する」など、意味があって理解されれば、受け容れられると思うのです。

 つまり、適正で最適な経済を回していくサーキュラーエコノミーが求められる時代にあって、それぞれの企業にとっての"適正で最適"というサイクルを見究める必要があるのではないでしょうか。業界全体として半年1サイクルを続けていくありようが見直されていくと思います。

 

多くの価値軸が尊重し合いながら成立していく

 これからに向けて考えられる方向は"多様なサイクルが共存する"こと。半年を1サイクルとするのが決まり事ではなく、あるブランドは長く、あるブランドは短くと、サイクルそのものが分化していく。つまり、"定番的に変わらないブランド"と"変化していくブランド"とが。あるいは"大量生産によって機能や価格の合理価値を訴えるブランド"と"少量生産でクリエイションや造作を価値づけしたブランド"とが――さまざまなサイクルが共存していくのは、消費者にとっても嬉しいことを意味しています。

 一方、店の存在も変わっていくと思います。デジタルが主流になるのは間違いありませんが、リアルがすべてなくなるわけではありません。ブランドの価値観や作り手に賛同するファンがコミュニティを作るにあたり、リアルな場はやはり必要と思うのです。そして優先順位は、リアル→デジタルではなく、デジタル→リアルになるのでは。まずはデジタルで関係を作った上で、リアルでコミュニティを作ると言っていいくらい、質が問われていくとのだと思います。

 そしてリアル店舗は、全国にわたるチェーンオペレーションとはまったく異なる業態に――たとえば、多くのブランドが軒を連ねる通りや、ポップアップショップが集合したマルシェのような場、ブランドの世界観を五感で体験できる場、あるいは"真の目利き"でセレクト能力のある販売の人と会話できる場など、言葉だけのコンセプトではなく、実態としてのコンセプトを明快にすることが必要です。

 2年ほど前のこと、「みらいファッションラボ」という場を設け、これからのことを語り合ったことがあります。その際、「業界が閉鎖的」「なかなか変わろうとしない」という声を数多く耳にしました。オープンでフラットな業界になっていって欲しいと私は思いますし、他業界と混じったり、業界で面白いことをしている人を取り上げ、ささやかながらエールを送る活動を、これからドシドシ行っていこうと考えています。

 多様化といいながら、合理効率化と利益追求を一元的に進めてきた業界や企業のありようが、違う地平に向かおうとしている。そこにキボウがあると思うからです。

川島蓉子
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』などがある。
1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

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