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ポストトランプ時代の多様化する社会とファッションのダイバーシティのゆくえ

クラインシュタイン アートワーク

Illustration by KLEINSTEIN

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ポストトランプ時代の多様化する社会とファッションのダイバーシティのゆくえ

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ESG、SDGsによって進む業界再編

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 「デジタル化とグローバル化」の流れをテーマとする業界再編は今後も続くと考えられるが、いまこれに新しいテーマが加わる可能性がある。それは、ここ2-3年でホットなトピックとなったサステナビリティ、ESG(Environment Society Governance / 環境・社会・ガバナンス)、SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)というテーマだ。

 2021年1月20日、4年続いたトランプ政権が終焉し、バイデン政権が誕生する。上下院ではESGに熱心な民主党が過半数を抑えたため、今年は環境政策について急速にルール作りが進められ、関連産業への投資が更に進む年になるだろう。世界の中で圧倒的な経済力と政治力、西側への影響力のある米国の動きは要注目である。

 サステナビリティ、ESG、SDGsといったキーワードは環境保護や、意識の高い企業倫理の問題と見なされ、冷ややかに見られることも多い。そして、環境政策の話題になると日本国内のみならず世界各地で、脱消費、脱成長といった極端な反資本主義の論調になりがちだが、これはあまりにもナイーブな見方だと思う。

 "Don’t tell me what you think, tell me what you have in your portfolio.(何を考えているのか話さなくていいから、あなたが投資している金融商品の一覧を見せてくれ)"というのは、元ヘッジファンドのトレーダーであり、かつてリーマン・ショックを予見したことで話題になった、作家のナシム・ニコラス・タレブの言葉だ。社会に新しいストーリーが生まれる時、その言葉の背後で大きな資本の流れが起きるのが資本主義社会である (注8)。

 いま新たに起きているこの産業の動きは、反資本主義といったテーマではなく、むしろ既存の産業に揺さぶりをかけ業界内部でパワーバランスを変えようとする資本主義の新しいストーリーとして作られているのだ。

 厳格化されたルールが生まれれば、数多くの既存のブランドや企業は新しいルールへの対応を迫られ、対応できない企業はスクリーニングされていくことになるだろう。特に新興国は対応に苦心することが予測される。ブランド価値があったとしても、ブランドやメーカー、そして工場はESGへの未対応を理由にアンダーバリューされることとなり、いち早くESG対策を行った大企業から見れば、格好の買収ターゲットになるかもしれない。

 パンデミックによってダメージの影響が本格化するのは2021年だと言われている。デジタル化の遅れと、グローバル展開のスピードがM&A成立のキーワードとなったように、「サステナビリティ、ESG、SDGs」というキーワードは、中小の企業やブランドを包囲する新しい業界再編のテーマになる可能性が高い。

 サステナビリティに関するルールの枠組みは欧米政府と各国の大企業を中心に策定が進んでいるが (注9)、厳格化したルールを利用して成長を遂げる、新しいスタートアップやクリエーションの誕生もあるかもしれない。それらの多くも企業CSRの側面などから積極的な買収対象になるだろう (注10)。

注8) タレブの著書、『身銭を切れ』(ダイヤモンド社, 2019)は今後を見ていく上で参考になる良書。

注9) Fashion Revolutionを参照すると、現在どのような団体が存在しているかを俯瞰できる。https://www.fashionrevolution.org/key-organisations

注10) London College of Fashionのケリングによる寄付講座、"Fashion and Sustainability: Understanding Luxury Fashion in a Changing World" はメインストリームのファッションが、いまどういう考え方を推しているのか俯瞰する上で面白いオンライン講座だ。https://www.futurelearn.com/courses/fashion-and-sustainability

クラインシュタイン イメージ

Photography by KLEINSTEIN

社会のダイバーシティとクリエイションのダイバーシティ

 サステナビリティと同様、ダイバーシティ(多様性)というトピックもトランプ政権時代、世界中の政治権力者たちによって脇に置かれてきたものだ。このキーワードは権力の中心から放置された結果、逆説的な形で反権力のシンボルへと変貌し、リベラルな大衆の中で「ダイバーシティ」は以前よりも更に強く支持されるものとなった。

 カウンターカルチャーをクリエイションの源泉とするファッションは、この社会の流れにいち早く反応した。ファッションの流れは西ヨーロッパや米国の文化ではなく、これまであまり強く注目されてこなかった東欧諸国やアジアのユースカルチャーをメインストリームに汲み上げ、そこから多様なクリエイションが生みだされた。また、ファッション業界でも企業広告をはじめ、あらゆるトピックがたびたびダイバーシティに反するということで炎上するシーンを見かけるようになったのがここ数年だ。現在では大企業は炎上リスクを避け、ポリティカル・コレクトネスに配慮した動きを見せている。

 この流れは今後、米国のリベラル政権へのパワーシフトが起きる過程で変貌していく可能性はある。ダイバーシティという言葉が反権力の意味合いを失い、むしろ政治権力と密接に結びつく本流のテーマとなることで、ダイバーシティは社会に対する「アティチュード(態度)」から、社会の「ルール(制度)」に遷移していくことが予測される。反権力のアティチュードさえあれば、上辺だけの施策であっても大衆に見過ごされていた現状は、今後は厳しく注視されることになり、多くの企業にとって慎重な動きが要求されることになるかもしれない。

 今後のファッションの流れ、そのクリエイションはどうなるのだろうか。社会に新たなルールや慣習が生まれるに伴い、ラグジュアリーを含め、メインストリームのファッション表現は当たり障りのない無難なものとなるかもしれない。クリエイションでは、新興国のマーケットの消費者をダイレクトに狙った直線的な表現が更に増えることも考えられる。しかしインディペンデントなクリエイターやスタートアップにとっては、この風潮が大きなきっかけにもなるのではないだろうか。

 なぜなら人は本能的に、メインストリームとは異なるモノやカルチャーを求めているからである。ファッションは社会の主流のステータスへの羨望や、流行へ追いつく欲求を満たすためだけに作られているのではない。他の誰でもなく自分自身でありたい、オリジナルでありたいという人間の本能も反映しているのだ。巨大な企業による業界の中央集権化が進み、ビジネスの動きが画一化されていく過程の中で、社会や業界の慣習をハックする、大きな組織にはできない、裏をかくような動きを行うことができるのは小さな組織の特権だ。まさに、「上に政策あれば、下に対策あり」の時代が今なのである。

■ENGLISH版:KLEINSTEIN公式サイト - POST-TRUMP SOCIETY AND THE FUTURE OF DIVERSITY IN FASHION

文・小石祐介
株式会社クラインシュタイン代表。東京大学工学部卒業後、コム デ ギャルソンを経て、現在はパートナーの小石ミキとともにクラインシュタインとして、国境を超えた対話からジェンダーレスなユニフォームプロダクトを発信する「BIÉDE(ビエダ)」(biede.jp)のプロデュースとマネジメント、スロバキア発のスニーカーブランド「NOVESTA」(novesta.jp)のクリエイティヴディレクションをはじめ、国内外のブランドのプロデュースやコンサルティングなどを行っている。また、現代アートとファッションをつなぐプロジェクトやキュレーション、アーティストとしての創作、評論・執筆活動を行っている。 

kleinstein.com​ @yusukekoishi (Instagram) @yuurat(twitter)

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