
PRADA 2025年秋冬/Miu Miu 2025年春夏/VERSACE 2025年秋冬
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イタリア流コングロマリットの台頭が、にわかに現実味を帯び始めている。プラダグループが、4月10日に米・カプリHD傘下の伊ブランド「ヴェルサーチェ(VERSACE)」の全株式を取得する最終合意を締結。取引額は13億7500万ドル(約1994億円)で、プラダグループにとっては2000年代初頭以来の大型M&Aとなる。LVMHを筆頭に、ラグジュアリーコングロマリット群を構成するのはフランスを母体とした企業グループ。寡占状態が続くラグジュアリー業界の勢力図に一石を投じた今回の決定は、どのような影響を及ぼすのか。プラダグループの軌跡を辿る。
コングロマリット化を推進するも失敗に終わった1990年代
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「プラダ(PRADA)」と「ミュウミュウ(Miu Miu)」に集中投資しているイメージのあるプラダグループだが、実は過去にコングロマリットへ挑戦した歴史がある。1993年に創業者の孫娘であるミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)が若年層女性向けセカンドラインとして「ミュウミュウ」をスタートした後、1990年代後半から急速に多ブランド化を推進。1998年の英高級靴ブランド「チャーチ(Church's)」買収を皮切りに、「ジル サンダー(JIL SANDER)」、「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」、LVMHと共同による「フェンディ(FENDI)」株式51%取得、ドライビングシューズブランド「カーシュー(Car Shoe)」買収など、多数のブランドを相次いで傘下に収めた。

「Church's」
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「JIL SANDER」2025年春夏コレクション
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「HELMUT LANG」2024年秋冬コレクション
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しかし、急速な多ブランド化による経営負担増や創業デザイナーとの方向性の衝突、ITバブル崩壊などに端を発する世界経済の減速などにより、その後わずか数年で再びブランドを整理。2001年にはLVMHがフェンディを完全買収し、2006年にはジル サンダーは英投資会社 チェンジ・キャピタル・パートナーズ(CHANGE CAPITAL PARTNERS)に売却(後に2008年にオンワードHDが、2021年にはOTBグループが取得し現在に至る)。ヘルムート ラングも米・リンクセオリーHD(現ファーストリテイリンググループ)に手渡し、チャーチとカーシューのみが残留する結果となった。以来、プラダ・ミュウミュウに2つのブランドを加えた4ブランド体制が20年近く続くことになり、買収には慎重派と考えられていた。
しかし、今回「ヴェルサーチェ」の取得に乗り出したことで業界内に驚きを与えた。グループでの戦略において新しい方針が打ち出されたと考えられているが、背景には「イタリア」と「米国」というキーワードが透けて見える。
米国─挑戦するプラダが見据える市場
1978年にジャンニ・ヴェルサーチェ(Gianni Versace)がミラノで創業した「ヴェルサーチェ」は、1980年代には「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」「ジャンフランコ・フェレ(GIANFRANCO FERRE)」とともに「3G」としてイタリアンラグジュアリーファッションを牽引。1990年からはオートクチュールコレクション「アトリエ・ヴェルサーチェ(Atelier Versace)」を、2000年からは5つ星ラグジュアリーホテル「パラッツォ・ヴェルサーチェ(Palazzo Versace)」を展開するなど、多彩な事業を手掛けてきた。
1997年の同氏の死後は、妹のドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)がクリエイティブディレクターとしてブランドを率いてきたが、ジャンニ時代から現在に至るまで、マドンナからレディー・ガガ、ビヨンセ、デュアリパをはじめとした歴代のセレブリティと親密な関係性を構築することに成功。2018年にマイケル・コースHD(現カプリHD)が同ブランドを買収したことで、米国での基盤がより一層強固になった。

ドナテラ・ヴェルサーチェ
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「ヴェルサーチェ」のこれまでの歩みを辿ってみると、同ブランドにはプラダにとって、ブランドポートフォリオや地理的戦略において相互補完的な役割を期待できることがわかる。知的でモダン、ミニマルなプラダと、Z世代のトレンドを牽引し、若々しく反抗的なフェミニニティを提案するミュウミュウ、グラマラスでゴージャスなテイストのヴェルサーチェは、同じイタリアブランドながら三者三様の特徴をもち、ターゲット層も被りづらい。他方のシューズ部門も、伝統的でクラシックなチャーチと上質でカジュアルなカーシューに対して、よりゴージャスでファッション性の高いヴェルサーチェは、従来とは異なるニーズを補う。

「PRADA」2025年秋冬コレクション
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「Miu Miu」2025年春夏コレクション
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「VERSACE」2025年秋冬コレクション
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プラダグループの2024年通期決算を見ると日本を含めたアジア圏が46%の売上を占める一方、アメリカは17%と弱く、米国市場には成長の余地が残る。一方、カプリHD傘下で北米での存在感を増したヴェルサーチェはアメリカ比率が33%と高く、高級百貨店やアウトレットとのコネクションも有する反面、アジアでの影響力にはまだ伸びしろがある。双方の流通網やサプライチェーンを相互活用することで、両者にとって弱いエリアでのビジネス強化はもちろん、多領域におけるスケールメリットも見込める。
なにより、多ブランド化に失敗した過去と現在とで最も異なるのは、昨今のラグジュアリー不況の中でも好調な売上を維持し続ける、売上・財務体質の安定化だ。2024年通期で、ケリングが売上高前年同期比12%減、LVMHが同1.7%減と競合他社が軒並み苦戦を強いられている中、プラダは同4.2%増、ミュウミュウは同93%増と飛躍的な伸びを見せ、グループ全体の純収益も同17%増と2ケタ増を記録。挑戦できる土台が整ったからこそ、決していつまでも絶好調とは限らないラグジュアリー市場におけるさらなる磐石化を目指すべく、今回一歩踏み出したとも考えられる。
先行者OTBから見えるイタリアの可能性
LVMHのファッション&レザーグッズ部門が売上高約412億ユーロ、ケリングが約172億ユーロと依然として規模の差は大きくあるものの、約54億ユーロのプラダグループにとっては、ヴェルサーチェの9億ユーロ超が加わることは決して小さくはない。では、プラダグループはこの先“第三の巨頭”を目指していくのだろうか。答えはプラダのみぞ知るだが、他グループとは違う選択肢も視野に入る。
「コングロマリット」と言えば、LVMHやケリングという仏勢の巨匠がそびえ立つが、イタリアには良き先行者としてOTBグループが存在する。OTBは、伊ブランドの「ディーゼル(DIESEL)」や「マルニ(MARNI)」をはじめ、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」、旧プラダ傘下の「ジル サンダー」など、ブランド独自の哲学や個性が際立つヨーロッパのデザイナーズブランドを保有。グループの年間売上高は約18億ユーロとプラダよりもさらに小規模だが、以前から“オルタナティブな非主流系ラグジュアリー”を標榜してきた。プラダとは企業としての方向性や価値観が異なる部分もあるが、同じ巨大化路線ではない方向での発展を目指しているイタリア企業という意味で、その成功は大いに参考となる。ブランドの独自性や強みを尊重し補完し合う仕組みで、ブランドを守り発展させていく相互補完の輪を少しずつ拡張していく姿は各ブランドにとっても受け入れやすい持続可能な形に思える。今後は、OTBやプラダのような“オルタナティブなコングロマリット”の在り方が、イタリアの流儀として認知される可能性も大いにあるだろう。

「DIESEL」2025年秋冬コレクション
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「MARNI」2025年秋冬コレクション
Image by: Courtesy of MARNI

「Maison Margiela」2024年春夏コレクション
Image by: Courtesy of Maison Margiela
挑戦するプラダの本気度
ヴェルサーチェは今年3月にクリエイティブディレクターのドナテラの退任が発表され、クリエイション面でも新体制下での再スタートを控える。後任には直近までミュウミュウのデザインディレクターを務めていたダリオ・ヴィターレ(Dario Vitale)が就任したことからも、ミュウミュウに次いでヴェルサーチのステータスを確固たるものにするべくプラダグループの本気度が窺える。プラダグループは同カプリ傘下の英靴ブランド「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」の買収も視野に入れているとも噂されており、今後も矢継ぎ早に次の一手を指す可能性もある。
ここにきて急に動き出したかのように思えるが、プラダが“挑戦する企業”であることは実のところ周知の事実である。1984年に工業用のナイロン素材「ポコノ」をいち早くラグジュアリーに取り入れ普及させ、ミウッチャがプラダだけではカバーしきれない側面を表現すべく「ミュウミュウ」を立ち上げ成功に導いたことなど幾度とない挑戦の歴史がある。雌伏の時を経て新たな挑戦へと動き出した今の姿は、ある意味とても“プラダらしい”とも言えるのかもしれない。
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