中国経済の減速などの影響から、数多くのラグジュアリーブランドが苦境に陥っている。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンやケリング(Kering)などのラグジュアリーグループは軒並み売上を落とし、今年5月にはバーバリーグループが全世界の従業員数の約2割に相当する人員削減を発表した。
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そんななか、2018年にエルメネジルド ゼニア グループ入りした「トム ブラウン(THOM BROWNE)」は、2021年12月にニューヨーク証券取引所に上場し、世界40ヶ国に300を超える卸先を大手百貨店や専門ブティックに持つほか、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、東京、香港などの世界の主要都市に、117の直営店、旗艦店、ショップ・イン・ショップを展開。2024年通期では売上が前年比17.2%減の3億1500万ユーロ(約512億8893万円)と苦戦したものの、直近の2025年第1四半期は前年比4%増を記録し、復調の兆しを見せている。
今回、トム ブラウン銀座旗艦店のオープンに合わせて来日したロドリゴ・バザン(Rodrigo Bazan)CEOにインタビューを敢行。ブランドの成長の要因や日本における銀座店の位置付け、そしてデザイナーのトム・ブラウン(Thom Browne)とのビジネス上での関係性などについて話を聞いた。
ビジネスの真の成功は「顧客との関係性の構築」
トム ブラウンの近年の成長を語る上でバザン氏が最も重要な要素として挙げたのが、DTC(Direct to Consumer=顧客直結)戦略への転換である。「この2、3年、我々はビジネスモデルの再構築に注力してきました。ホールセールの割合を減らし、ビジネスの中心をDTCにシフトしています。直近の成功の要因は、この挑戦に拠るところが大きいでしょう」。

ロドリゴ・バザン トム ブラウンCEO
Image by: FASHIONSNAP
この戦略は、単なる販売チャネルの変更という表面的なものではない。ブランドと顧客との関係性をより深く、直接的なものへと進化させる試みだ。バザン氏は、「キーとなるマーケットでも成功を収めています。日本はそのひとつで、非常に堅実なビジネスができています」と手応えを口にする。マイアミのパームビーチやロサンゼルスのメルローズプレイスといった新規店舗での成功は目覚ましく、ニューヨークのハドソンストリートや東京の青山などの既存の旗艦店も引き続き好調を維持しているという。



トム ブラウン 銀座
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「我々にとってのビジネスにおける真の成功は、顧客とリアルタイムな繋がりを構築すること」と、バザン氏は強調。ランウェイショーで発表される作品、メイド・トゥ・メジャーやメイド・トゥ・オーダーといったパーソナルなサービス、そしてシーズンごとのコレクション、現在ブランドにとって重要なアイテムとなったアイウェアに至るまで、あらゆる接点において顧客との結びつきを強化することが、トム ブラウンの成長を支える核となっていると説明する。とりわけ、コレクションにおけるクリエイションを顧客に丁寧に説明することに注力しており、その結果としてウィメンズのテーラリングアイテムやシャツが好評を博しているそうだ。

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ゼニア グループ入りが生んだ相乗効果
冒頭でも触れたように、2018年にトム ブラウンは「ゼニア(ZEGNA)」や「トム・フォード(TOM FORD)」を擁するゼニア グループの傘下となった。このことは、ブランドにどのような影響を与えたのだろうか。バザン氏は、「ファミリー経営のグループであり、長期的なヴィジョンを持っているゼニア グループの一員となったことで、ブランドは長期的な視点を持ち続けることができています」と語る。



トム ブラウン 銀座
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さらに、ゼニア グループとの連携は、テーラリングやメイド・トゥ・メジャーの分野で特に大きな相乗効果を生んでいるという。「我々のテーラリングやメイド・トゥ・メジャーの大部分は、業界最高レベルのゼニアの技術力と共にあります。素材に関してもトップクラスの品質のものを使えるようになっているので、トム ブラウンが長年大事にしてきていたクラフトマンシップやクオリティに対するこだわりが、より高いレベルで実現できるようになっています」と、トム ブラウンとゼニア グループのシナジーを強調する。ゼニアは、1910年に当時18歳だったエルメネジルド・ゼニア(Ermenegildo Zegna)が、北イタリア・ピエモンテ州のトリヴェロという村に毛織物工場を設立したところから始まった。「品質が第一」を理念とし、名だたるテーラーが揃うイタリア国内だけでなく、世界中の高級テーラーが用いてきたゼニアの最高品質の素材や製造技術を活用できることは、トム ブラウンの製品クオリティをさらに高める上で大きな意味を持っているようだ。

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デザイナーの個性をビジネスに繋げるために必要なのは「賢明なコミュニケーション」
2001年にニューヨークの予約制ショップで5着のスーツを扱うことからスタートしたトム・ブラウンは、2006年にCFDA メンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤー賞を、2008年にGQ デザイナー・オブ・ザ・イヤー賞を受賞。シグネチャーカラーであるグレーの短丈のジャケットとくるぶし丈のパンツ、そしてトリコロールカラーのグログランテープなど、ブランドが提案した新たなスタイルは世界のファッションに多大な影響を与えた。その後、ファッションのトレンドは目まぐるしく変わり続け、毎年新たなデザインやシルエットが登場しているが、トム ブラウンは頑なとも思えるくらい、独自の世界観を貫き続けている。際立ったブランドアイデンティティは熱心なファンを生み出す反面、時代に即して好みが分かれやすいこともあるだろう。トム ブラウンのビジネスを9年間リードしてきたバザン氏は、クリエイションとビジネスをどのように両立させているのだろうか。







トム ブラウン 銀座
Image by: FASHIONSNAP
「私を含め、デザイン部門以外の全てのチームメンバーに必要なのは、ブランドが創造するあらゆるものと顧客をどのように繋げるかを理解することです。ビジネスパートナーとして、チームメンバーとして、ランウェイショーやイベント、コレクションで発表されたショーピースからグレースーツなどの定番商品にいたるまで、デザインチームが創造するものを深く理解することができれば、それを軸とした適切なビジネスを構築することができます。そのためには、賢明なコミュニケーションが欠かせません。トムが何に幸せを感じ、何を素晴らしいと感じるかを理解し、彼がもたらす驚異的なクリエイティビティを受け止め、それを優れた、長期的な顧客との繋がりへと導く必要があります。結局のところ、私たちがこれまで行ってきた全ては、顧客と長く続く信頼関係を築くことなのです。ブランドに興味を持ってくれたお客様との関係性をいかに強固にしていくかを考え続けることが、成功に繋がるのです」。

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バザン氏はこう続ける。「新規顧客の獲得ももちろん重要ですが、既存のクライアントに対して新たな提案をすることも、また大切です。今のブランドとしての成功は、他にはないサービスや経験を提供し、私たちの世界観を伝え続けることができているからだと考えています」。
今回オープンする銀座店では、大理石などの建材をはじめ、ソファやテーブル、チェアなどもトム本人がこだわって選んだヴィンテージのデザイナーズアイテムを取り揃えており、今回のインタビューが行われた地下1階のVIPスペースにあるソファは、もともとトムの自宅で使っていたものを、張り地だけを新しくして設置している。

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ブランドのクオリティと美しさを明確に示すことが不可欠
トム ブラウンは、路面店の他に百貨店などにも店舗を展開している。これらの店舗と、旗艦店との関係性、あるいは違いはどこにあるのだろうか。バザン氏は、「日本の小売のエコシステムは、地球上で最もモダンで洗練されています。また、百貨店のクオリティの高さは世界でも類を見ません」と日本の小売環境を高く評価し、店舗の形態や場所に関わらず重要なのは「ブランドを表現する」という共通の目標を持つことだという。それを支えるのが、販売員の存在だ。バザン氏は、「この業界では“タレント=人材”がすべてです」と断言する。「トム ブラウンは独自性の高いブランドで、個性的なストーリーを持っています。そのため、興味深く洗練された優秀な人材を自然と引き寄せることができます」と、ブランドのクリエイティビティが人材獲得に大きく寄与していると胸を張る。


トム ブラウン 銀座
Image by: FASHIONSNAP
近年、スーツを着る機会が世界的に減少していると言われる。スーツスタイルをブランドの象徴のひとつとするトム ブラウンは、この傾向をどのように捉え、どのような戦略を考えているのだろうか。
バザン氏が重視するのは、ブランドの核を維持しながら、時代や顧客の変化に合わせて表現方法を進化させていくことだ。「私たちが特に力を入れているのは“イメージメイキング”です。我々は、スポーツのように経験として培われる美意識や理解、創造性のことを“Sporting sensibility=スポーツ的感性”と呼んでいるのですが、その感性を持つことで、ブランドのモダンさや遊び心、快適さを兼ね備えた商品などの幅広さを理解し、一人ひとりの顧客に落とし込んでいくことができると考えています。ブランドの核となる部分さえ正しく伝われば、顧客の興味はスーツ以外のアイテムにも自然と波及します。テーラードジャケットからニット、フットウェア、レザーグッズ、アイウェアまで、選択肢は豊富です。だからこそ、まずはブランドのクオリティと美しさを明確に示すことが不可欠なのです」。
クリエイティビティとビジネス、伝統と革新、そして何よりも顧客との深い絆。これらが複雑に絡み合いながら、トム ブラウンは独自の価値を創造し続けている。それを支えているのは、デザインチームとビジネスチームの継続的な対話だ。クリエイティブの意図が正しく理解され、店舗体験やサービスへ丁寧に落とし込まれることで、顧客との接点が整えられている。銀座店は、その連携体制が機能しているかを確認できる最新の場と言えるだろう。

トム ブラウン 銀座
Image by: FASHIONSNAP
THOM BROWNE GINZA
所在地:東京都中央区銀座6-7-2
営業時間:11:00〜20:00
1980年神戸市生まれ。関西学院大学社会学部、エスモードインターナショナルパリ校卒。ファッション企画会社、ファッション系ITベンチャーを経て、フリーランスとして活動した後、FASHIONSNAPに参加。ファッションを歴史、文化、経済、世界情勢などの視点から分析し、知的好奇心を刺激する記事を執筆することが目標。3児の父。
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