Image by: FASHIONSNAP
ブランドデビューから9年。「セヴシグ(SEVESKIG)」が、「Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 A/W」通称「RakutenFWT」に初参加する。国内生産にこだわったレザーを中心としたコレクションが評価され、2018年に「Tokyo 新人デザイナーファッション大賞」プロ部門で入賞。近年のサステナビリティの高まりに合わせ、多くのブランドが「エコレザー」や「フェイクレザー」に切り替える中、セヴシグはあくまでも「リアルレザー」での製作にこだわる。「本質がどこにあるのかを考えて欲しい」と話すデザイナー長野剛識が説く「本当のサステナブル」とは?
ーまずはセヴシグというブランド名の由来を教えてください。
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「Seven Seas Kings Leather」の略です。親父が七王建築設計事務所という建築会社を経営していて、七つの海の王様が登場する本に由来しているらしいんです。僕は親父の会社を継ぐことは絶対にないと思っていたので「名前だけ頂戴」と言ってブランド名にしました(笑)。
ーアメカジを感じさせるアイテムが多い中、どちらかと言えば西洋を彷彿とさせる「シーリングスタンプ」がブランドロゴになっている謎が解けました。
そうですよね(笑)。ブランドのテーマカラーはトリコロールなんですが、それもブランド名の「海」から連想して決めました。
ーセヴシグは、ロサンゼルスや台湾など海外にも卸先があります。海外の反応は日本とは異なりますか?
海外って昔の日本みたいで、「面白いものがあれば入荷してみたい」という一緒にブランドを育てる雰囲気がまだあるんですよね。インスタグラムで写真を投稿すると海外の人から反応があったりもします。
ーブランドがデビューしてから9年目でRakutenFWT初参加。
去年の5月に前社を抜けてから初のAWなので、それが参加を決めた理由の一つです。僕だけでブランドを運営して行くにあたって、新しく自分の会社を立ち上げました。今まで出来なかったことを色々やってみようとしている最中で、もちろん1人でのモノ作りは大変ですが、自由度も上がりました。それでこの機会に一度、今の「セヴシグ」を色んな人に見てもらいたいなと思ったんです。だからそもそも「RakutenFWTに参加したい」とか「ランウェイをやりたい」とかが動機ではないんですよね。RakutenFWTは日本で1番大きいコレクションの場だと思うので、単純により多くの人に伝えられるのではと考えたんです。
ー2021年秋冬コレクションのコンセプトは?
「元の時代に戻りたい、普通に誰かと会えていたあの頃に戻りたい」という想いを込めました。デザインの観点でも、元々好きだったアメカジの色を、前シーズンより強く打ち出しています。
ーRakutenFWTで発表した映像に、コレクションコンセプトはどう反映されましたか?
「前の時代に戻りたい」と「都会から出たい」という2つの側面が色濃く出せたと思います。都会的なデザインが施されたアイテムを着たモデルたちが、おもちゃの箱の中に入って大自然の中に行くんですけど、最後のシーンでは都会に戻ってきます。「何事も、最後は結局戻ってこなくちゃいけない」ということを暗示できればなと。ちょっと今の時代にハマり過ぎている気もするんですが、ストーリー性のあるモノに仕上がったと思っています。
ー特に思い入れのあるアイテムは?
「リーバイス(Levi's®)」が、1940年代くらいに出した「ロングホーン」のウールシャツをイメージしたカットジャカードですかね。毎シーズン出しているアイテムなんですが、「天然繊維をなるべく使っていこう」と思い、今回初めてウール100%で製作しました。
ー天然繊維にこだわった訳は?
「日本で作られているものが何故良いのか」を伝えたかったからです。日本で作られているモノの良さって、誰が作っているのかを知ることができる点だと思うんですよね。ポリエステルとかだと原料が何処で、誰の手によって作られたのかを知ることはとても難しい。でもウールだと、何処で紡績され、染色されたのかが辿りやすいですからね。
ーリフレクター素材がデザインのアクセントになっていますね。
「世の中が明るくなるように」という想いを込めてリフレクターを使用したんですが、大変でしたね(笑)。そもそもロングホーンの生地のシャリ感を表現するのにも苦労したんですが、いざ織り始めたらリフレクター糸が弱くてすぐ切れちゃって「そもそも生地にならないのでは?」という焦りは正直ありました。それから試行錯誤を重ね出来上がったモノは、リフレクター糸に芯糸を入れて強度を高めることができました。構想から3ヶ月くらいかかりましたね。
ー2021年春夏コレクションのアイテムにも蓄光糸を取り入れたアイテムが数多くありましたが、理由は?
僕が男だからだと思います。男というか、「男の子」の方がしっくり来ますが、少しギミックがあったり、一見普通に見えるけど何かを加えたら変化するようなものが好きなんです。僕はバイクも好きなんですけど、バイクもおもちゃのように扱っているんですよね。はっきり言葉にするのは恥ずかしいですが、本当に中身が16歳の頃から何も変わってないんですよ(笑)。16歳の頃から変わらずにアニメも、おもちゃも大好き。その少年心みたいなものは、製作にも大きく影響していると思います。
ーパロディや既存作品へのオマージュアイテムも多いですよね。
そうですね。普通に作っても「面白くないな」といつも思っちゃうんですよ。今シーズンでいうとシルク100%で製作したトップスに、映画「羊たちの沈黙」を彷彿とさせるグラフィックを後ろ身頃にプリントしました。絹は蛾の幼虫である蚕の繭から糸が紡がれていることから、蛾のグラフィックが印象的な「羊たちの沈黙」のポスターからイメージしたんです。
僕は21歳で業界に入った頃、元々はグラフィックデザイナーとして活動していたんです。グラフィックというのは受け取る人へメッセージを伝えやすいですよね。例えばこのアイテムだと「これはシルクで作られていますよ」ということはアイテム写真1枚ではなかなか伝わりませんが、グラフィックがあることで伝わる人もいる。僕は、色々な人に様々なことを伝えたくて服を作っているので、必然的にオマージュやパロディアイテムが多くなりますね。受け取り手が服を着ることで、今度は発信者になってくれたらいいな、といつも考えています。
ーブランド初のショップ「7.S.K.L Lab」が渋谷区神宮前にオープンします。
ずっと作りたかったんです。なので1人になったこのタイミングで、元々事務所として使用していた場所を改築してショップとしてオープンします。
ーショップを作りたかった理由は?
スペシャルオーダーを受け付ける際に、汚い事務所にお客さんを招くのが嫌で(笑)。決して安くは無いモノで且つ、一生着れるジャケットを買うかもしれない時に、「僕だったらこの事務所で買いたく無いな」と思ったんですよね。あとは純粋に人が集まれる場を作りたかった。なのでお店というよりは「アトリエ」や「ギャラリー」という名前の方がしっくりきます。会期は未定ですが、イラストレーターの古塔つみさんの個展をはじめ、写真家のTREELENCさんや、刺繍アーティストのKOICHIRO TAKAGIさん、タイダイアーティストのYUKIDYEとのコラボレーションイベントを開催予定です。
ースペシャルオーダーでは何を選べるんですか?
牛、鹿、熊などから、色や柔らかさ、厚みなども、全てお客さんに選んでもらって製作します。お客さんが持ち込んだTシャツや、生地を裏地に使うことも可能です。スペシャルオーダーに限らずですが、入荷した革は「フルベジタブル」という有害物質を使用しない方法で鞣されていています。
ーアトリエにはレザーが張られた机や椅子も置いてあります。
家具もショップで販売する予定です。今、目の前にある机も「コマ(KOMA)」という家具屋さんとコラボして作りました。木を全て手で削り出しているため、木の肌触りがとても気持ちいいんですよ。うちは革の端材がどうしても出てくるので、こういう使い方ならいいかなと思ったんですよね。
ーセヴシグといえばレザー。リアルレザーは今のサステナブルの考え方と逆行しているようにも感じます。
僕はむしろ逆だと思うんですよね。ポリエステルや塩化ビニールを作る時に、どれだけの熱量と公害物質が出ているのかはあまりフィーチャーされません。どちらかと言えば「染色の時に水をいっぱい使うから」「除水施設が足りないから」といったことが注目を集めていますが、そもそも水の管理が出来ていない場所ではレザーは作れないんですよね。しかも、レザーは塩化ビニールとは違って使い続けることが出来ます。例えレザージャケットが破れたとしても、僕のところに持ってきてもらえればバッグにリメイクすることも出来る。そっちの方がよっぽどエシカルだし、サステナブルだなと思うんですよね。
ーセヴシグで使用されているレザーは全て国内生産です。
個体の生息地も解体も全て国内で「仕方なく狩られてしまった」害獣を使用しています。うちは鹿や熊などのジビエを使っているんですが、意外と知られていない事実としてジビエの皮は山に捨てられることが多いんです。鹿や猪は重すぎて山から下ろすのがとても大変なんですよね。だから、猟師さんは仕留めたあと、足や尻尾だけを役場に持っていってお金をもらうんですよ。お肉も猟師さんが食べる分だけしか持って帰らないので、他のモノは全て山に置いて帰ってきてしまう。それって命の無駄遣いだなと。
ーリアルレザーの使用にこだわり続ける理由は?
元々僕の祖父が猟師だったんです。小さい頃から解体しているところも見ていたし、鹿も猪も食べていたし、うりぼうも飼っていました(笑)。うりぼうは「ごんた」と言う名前をつけて可愛がっていたんですけど、どんどん大きくなってしまって。ある日、自作の檻を破って逃げちゃったんですよ。祖父は猟友会に所属していたので撃たなければならず。狩られたごんたを家族みんなで食べましたよ。
ー強烈な原体験ですね。
肉を売って商売している人も、僕らのような人間のために革を売って商売している人もいるんですけど、とても少ない人数です。鹿は年間40万頭狩られているそうなんですが、その中で食肉や革にしている人たちは多分10〜20%くらいなんじゃないかな。その他は全部廃棄です。その10%の中でも、肉を商売にしている人たちは皮を廃棄しなくてはならない。当然、廃棄にお金もかかるし、それこそ二酸化炭素も出ます。
日本人の悪いところって、メディアにすごい振り回されるところだと思うんです。著名人が「エシカルだ」「サステナブルだ」と言い出すとみんなそっちの方向に向いてしまう。でも、そこで見落とされるものって結構多いんじゃないかなと。それで、今回はサブタイトルに「What do you really know?」とつけました。もうずっと思っていることですが、本質がどこにあるのかを考えて欲しいなと思うんです。レザージャケットや毛皮を着ているから「動物を殺している」という短絡的な考え方ではなく、それがどのような過程や背景で作られたのかを考えて欲しい。それが今、RakutenFWTという場を借りて伝えたい「本当のこと」かもしれません。
(聞き手:古堅明日香)
■7.S.K.L Lab
住所:東京都渋谷区神宮前2-33-5パークノヴァ神宮前1F
営業時間:12:00〜20:00
定休日:日曜日 ※土曜日は不定休
公式サイト/公式インスタグラム
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